竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑬ 熱砂に少女の影はちらつく

【隠岐基地・運動場/射撃訓練場】

照りつける日差しは、金属製の屋根を焦がすが如く降り注ぎ。コンクリートには2つの人影の跡が焼き付く。

 

白髪少女こと俺は地面に座り、

トリノ大尉の魔法講座が始まる。

 

どこからか用意された黒板に、

様々な法則や数値が書き込まれていく。

 

「魔法に必要なのは“最初と最後だ”」

「要はかっこでくくっときゃ、どんなモンでも発動はする」

 

チョークで【(←風→)】と書き込まれる。

 

「こんな感じになッ」

 

ドンっと手を当てると、

 

黒板からはそよ風が起こる。

 

数秒後、チョークの文字は消え、魔法も止まる。

 

「簡単だな」

「簡略化したからな」

 

曰く、正確に書くほど魔法の精度、威力は向上するらしい。

 

まあ感想の方は、なるほど分からんって感じだ。

 

(分からないなら、やることは1つ)

 

「質もーん」

「なんだ」

 

「カッコを円にしない理由は」

「魔法が暴発するそうだ」

 

「何に対しての正確性なの」

「国際魔法文字原理」

 

「上と下に矢印がないのは」

「安定性がなくなるから、と習った」

 

他にも思いつく事を投げてみるが、

 

最終的には分野じゃないからな、と一蹴されてしまった。

 

「まあ、こんな感じに、

魔法について学ぶことは結構あるんだが、

レコ、お前には魔力がねぇから大半はすっ飛ばす」

 

蹴とばされる黒板。

ガンガガンガンと音を立て、

無残にも射撃場の隅に転がる。

 

「用意した意味とは」

「一応の説明ってやつだ」

「説明できてた、のか?」

「細かいことは学者にでも聞きやがれ」

 

気づけば黒板は消えており、

 

代わりに【魔法補助装置】が用意されている。

 

トリノ大尉の大鳥から外されたモノである。

 

「いいか、レコが、俺の魔力を使って障壁を張れ」

「いや、だから、そもそも魔力がない」

 

何度言わせるつもりだ。

 

そろそろ自分で言うのも悲しくなってきた頃だぞ。

 

「それに関しては大丈夫だ」

「本当に大丈夫か?」

「安心しろ、医者のおお墨付きだ」

 

おっさんは赤十字の書かれた袋を取り出す。

 

「世には、他人に魔力を流すための変換機というものがある」

「変換機? なにに使うんだ?」

「魔力不足による被害を防ぐためだ」

 

魔力欠乏症。

 

多くの魔力を持つ人間がかかりやすい症状である。一般的な体内の魔力濃度は20%。これが魔法の酷使、乱用等で魔力濃度が5%以下に下がると死に至る危険性がある。

 

風魔法と魔法障壁を同時使用する飛行士は、その魔力消費から魔力欠乏症になりやすい。

 

「で、コレが魔力変換機管」

 

見せられたのは直径1cmのゴムチューブ。

内部は透明で空洞になっており、

両端に突起物が付いている。

 

「じゃあ、さっそくやってみるぞ」

「えっ、いきなりかよ」

 

口に咥えようとするのを咎められ、手で突起物を握らされる。

 

トリノ大尉も突起物を握る。

 

「で、どうすんだよ」

「しばらく待ってろ」

 

胡散臭い目で、

しばらく待つと、

管の内部に変化が起こる。

 

「お、おお.....」

 

輝く、

キラキラが、

おっさんの方から、

        、俺の手にたどり着く。

 

「ッ体に温水流し込まれたみたいだ」

「秀逸なたとえだな」

「しかも、絶妙に生ぬるいヤツ」

 

魔力の感覚としては、体を別の生き物がニョロニョロ這っているとでもいうべきか、

 

気持ち悪いとはいかないが、変な気分ではある。

 

「じゃあ、防壁をはれ」

「そんな簡単にできるもんなのか」

「補助装置を触って、【防】と唱えろ」

 

よく見れば──装置には【(←防→)】と書かれた凹凸が一つ。

 

文字を消さないように、おそるおそる、触れ、

 

噛みしめるように、一言一言、だいじに呟く。

 

「【防】」

 

極彩色の輝き、

輝きは周りを包み、

見えない何かを作りだす。

 

体にまとわりつくのは安心感。

俺が一歩動くたびに、

地面はわずかに揺らいでいく。

 

「よし、障壁が貼れたな」

 

おっさんの言葉は、耳には届かない。

 

そわそわと、足を動かし、

 

わなわなと、手は震える。

 

「これが、俺の初めての魔法......」

 

感動感激感謝。

この体になって早数年。

魔法とは縁のない生活と思っていたが、

 

(実際に使ってみるとヤバいな)

 

うっきうきで手を動かす少女。

 

そして、後方に指示を飛ばすおっさん。

 

(あれ、後ろに誰かいたっけ?)

 

気づけば後ろから、高く静かな声が返ってくる。

 

「準備はできています」

 

振り向けば、女性。

 

向けられるは、機関砲。

 

しかもただの機関砲ではない。

あれは──リヴォルバーカノン。

毎分1,200発の化物と聞いた事が......

 

「よし──撃て」

 

「う、て?」

 

傾げた首とともに、

 

防壁は刹那で吹き飛んだ。

 

◇◆◇

 

銃声が止む。

 

「ツウ、結果は」

「分析結果、被弾数10、被弾まで0.2秒です」

 

「ダメダメだな」

 

「トリノ隊長、少女は」

「ほっとけば起きる」

 

足元に転がるは眼グルグルした少女。

 

肝心なところは守ったので問題はないハズだ。

 

「よし、次」

「いや、次じゃねぇだろッ」

 

急に飛びあがって、胸倉をつかんでくるとは。

 

(思った以上に頑丈だな)

 

「フンッ!!」

「うおッ、急に投げんなッ」

 

くるりと一回転して着地する少女。

 

(そして、運動神経は常人以上......か)

 

「近寄んな、汚れる」

「くう~ッ、誰のせいだとッ」

「防げなかった自分のせいだろ」

 

「ぐっ、そういわれるとそう思ってしまう」

 

グーを握る白髪少女。

 

腹部には、

ピンク色が飛び散っており、

白いシャツに満開の桜が咲いたようである。

 

(いや、よく考えれば機関砲撃ち込んでくる方が悪いだろ)

 

なにかを納得したように俺を指差す。

 

「少女虐待イジメの現場だッ」

「訓練の一環だ」

「そんな訓練があってたまるかッ」

「まあ俺が考えたヤツだが」

「でしょうなァッ!!」

 

少女のジタバタ足は抵抗の意志だろうか。

 

(仕方ない、発破ぐらいはかけてやるか)

 

ふうっと息をはき、真面目な顔で呟く

 

()()()()()()()

 

足は止まる。

 

「レコ、俺たちに残された時間は少ない。これが──最短で最大限の訓練だ」

「本当、か?」

()()ではある」

「なら......せめて、ヒントだけでもよこせ」

 

少女はもう一度、機関砲の前に。

 

「防壁の形はイメージに左右される。

お前が丸いと思えば、それは丸い。

防壁という言葉に囚われすぎるな」

 

言葉を聞いた少女は、

 

腕を組み、仁王立ちで、無理やり笑う。

 

(いい顔するじゃねぇか)

 

「タスク② は10秒間防壁を張りつづけろ、だ」

 

雨あられの銃弾が飛ぶ。

 

「9被弾 0.5秒」

「次」

 

「8被弾 0.6秒」

「次」

 

「7 被弾 0.5秒」

「次」

 

「9被弾 0.4秒」

「次」

 

.........

......

...

 

目の前には屋根。

 

差しこむ日差しが視界の邪魔をして、

足は気づけば水たまりになっていた汗で滑って、

 

おっさんの声が脳に響く。

 

「どうした、もうバテたか?」

 

「ばかが──シャワー浴びて、もう一回だッ」

 

ペイント塗れの少女は、よれよれとシャワー室の方に向かっていく。

 

◇◆◇

 

「隊長いいんです、か」

「どうした」

 

「これ20mmです、けど」

 

機関砲に、

装填された弾は20mm。

通常使われる弾の1.5倍だ。

 

「構わん、俺の時は大砲だった」

「いや、それと比べるのはアレです、けど」

 

大砲にペイント弾なんてものはないからな。

 

吹き飛ばされれば骨折覚悟の上の訓練だった。

 

「それに、あの姿なら──」

 

昔、自分たちの部下にしたことを思い出す。

 

同じくペイント塗れの部下たち。

 

「若造どもにはぴったりだろう」

 

おっさんは一人、少女の影を懐かしむ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日こそは投稿をサボる精神でごー。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

誤字報告があったので作者が喜びました。
本当にありがとうございます。
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