竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・運動場/射撃訓練場】
照りつける日差しは、金属製の屋根を焦がすが如く降り注ぎ。コンクリートには2つの人影の跡が焼き付く。
白髪少女こと俺は地面に座り、
トリノ大尉の魔法講座が始まる。
どこからか用意された黒板に、
様々な法則や数値が書き込まれていく。
「魔法に必要なのは“最初と最後だ”」
「要はかっこでくくっときゃ、どんなモンでも発動はする」
チョークで【(←風→)】と書き込まれる。
「こんな感じになッ」
ドンっと手を当てると、
黒板からはそよ風が起こる。
数秒後、チョークの文字は消え、魔法も止まる。
「簡単だな」
「簡略化したからな」
曰く、正確に書くほど魔法の精度、威力は向上するらしい。
まあ感想の方は、なるほど分からんって感じだ。
(分からないなら、やることは1つ)
「質もーん」
「なんだ」
「カッコを円にしない理由は」
「魔法が暴発するそうだ」
「何に対しての正確性なの」
「国際魔法文字原理」
「上と下に矢印がないのは」
「安定性がなくなるから、と習った」
他にも思いつく事を投げてみるが、
最終的には分野じゃないからな、と一蹴されてしまった。
「まあ、こんな感じに、
魔法について学ぶことは結構あるんだが、
レコ、お前には魔力がねぇから大半はすっ飛ばす」
蹴とばされる黒板。
ガンガガンガンと音を立て、
無残にも射撃場の隅に転がる。
「用意した意味とは」
「一応の説明ってやつだ」
「説明できてた、のか?」
「細かいことは学者にでも聞きやがれ」
気づけば黒板は消えており、
代わりに【魔法補助装置】が用意されている。
トリノ大尉の大鳥から外されたモノである。
「いいか、レコが、俺の魔力を使って障壁を張れ」
「いや、だから、そもそも魔力がない」
何度言わせるつもりだ。
そろそろ自分で言うのも悲しくなってきた頃だぞ。
「それに関しては大丈夫だ」
「本当に大丈夫か?」
「安心しろ、医者のおお墨付きだ」
おっさんは赤十字の書かれた袋を取り出す。
「世には、他人に魔力を流すための変換機というものがある」
「変換機? なにに使うんだ?」
「魔力不足による被害を防ぐためだ」
魔力欠乏症。
多くの魔力を持つ人間がかかりやすい症状である。一般的な体内の魔力濃度は20%。これが魔法の酷使、乱用等で魔力濃度が5%以下に下がると死に至る危険性がある。
風魔法と魔法障壁を同時使用する飛行士は、その魔力消費から魔力欠乏症になりやすい。
「で、コレが魔力変換機管」
見せられたのは直径1cmのゴムチューブ。
内部は透明で空洞になっており、
両端に突起物が付いている。
「じゃあ、さっそくやってみるぞ」
「えっ、いきなりかよ」
口に咥えようとするのを咎められ、手で突起物を握らされる。
トリノ大尉も突起物を握る。
「で、どうすんだよ」
「しばらく待ってろ」
胡散臭い目で、
しばらく待つと、
管の内部に変化が起こる。
「お、おお.....」
輝く、
キラキラが、
おっさんの方から、
、俺の手にたどり着く。
「ッ体に温水流し込まれたみたいだ」
「秀逸なたとえだな」
「しかも、絶妙に生ぬるいヤツ」
魔力の感覚としては、体を別の生き物がニョロニョロ這っているとでもいうべきか、
気持ち悪いとはいかないが、変な気分ではある。
「じゃあ、防壁をはれ」
「そんな簡単にできるもんなのか」
「補助装置を触って、【防】と唱えろ」
よく見れば──装置には【(←防→)】と書かれた凹凸が一つ。
文字を消さないように、おそるおそる、触れ、
噛みしめるように、一言一言、だいじに呟く。
「【防】」
極彩色の輝き、
輝きは周りを包み、
見えない何かを作りだす。
体にまとわりつくのは安心感。
俺が一歩動くたびに、
地面はわずかに揺らいでいく。
「よし、障壁が貼れたな」
おっさんの言葉は、耳には届かない。
そわそわと、足を動かし、
わなわなと、手は震える。
「これが、俺の初めての魔法......」
感動感激感謝。
この体になって早数年。
魔法とは縁のない生活と思っていたが、
(実際に使ってみるとヤバいな)
うっきうきで手を動かす少女。
そして、後方に指示を飛ばすおっさん。
(あれ、後ろに誰かいたっけ?)
気づけば後ろから、高く静かな声が返ってくる。
「準備はできています」
振り向けば、女性。
向けられるは、機関砲。
しかもただの機関砲ではない。
あれは──リヴォルバーカノン。
毎分1,200発の化物と聞いた事が......
「よし──撃て」
「う、て?」
傾げた首とともに、
防壁は刹那で吹き飛んだ。
◇◆◇
銃声が止む。
「ツウ、結果は」
「分析結果、被弾数10、被弾まで0.2秒です」
「ダメダメだな」
「トリノ隊長、少女は」
「ほっとけば起きる」
足元に転がるは眼グルグルした少女。
肝心なところは守ったので問題はないハズだ。
「よし、次」
「いや、次じゃねぇだろッ」
急に飛びあがって、胸倉をつかんでくるとは。
(思った以上に頑丈だな)
「フンッ!!」
「うおッ、急に投げんなッ」
くるりと一回転して着地する少女。
(そして、運動神経は常人以上......か)
「近寄んな、汚れる」
「くう~ッ、誰のせいだとッ」
「防げなかった自分のせいだろ」
「ぐっ、そういわれるとそう思ってしまう」
グーを握る白髪少女。
腹部には、
ピンク色が飛び散っており、
白いシャツに満開の桜が咲いたようである。
(いや、よく考えれば機関砲撃ち込んでくる方が悪いだろ)
なにかを納得したように俺を指差す。
「少女虐待イジメの現場だッ」
「訓練の一環だ」
「そんな訓練があってたまるかッ」
「まあ俺が考えたヤツだが」
「でしょうなァッ!!」
少女のジタバタ足は抵抗の意志だろうか。
(仕方ない、発破ぐらいはかけてやるか)
ふうっと息をはき、真面目な顔で呟く
「
足は止まる。
「レコ、俺たちに残された時間は少ない。これが──最短で最大限の訓練だ」
「本当、か?」
「
「なら......せめて、ヒントだけでもよこせ」
少女はもう一度、機関砲の前に。
「防壁の形はイメージに左右される。
お前が丸いと思えば、それは丸い。
防壁という言葉に囚われすぎるな」
言葉を聞いた少女は、
腕を組み、仁王立ちで、無理やり笑う。
(いい顔するじゃねぇか)
「タスク② は10秒間防壁を張りつづけろ、だ」
雨あられの銃弾が飛ぶ。
「9被弾 0.5秒」
「次」
「8被弾 0.6秒」
「次」
「7 被弾 0.5秒」
「次」
「9被弾 0.4秒」
「次」
.........
......
...
目の前には屋根。
差しこむ日差しが視界の邪魔をして、
足は気づけば水たまりになっていた汗で滑って、
おっさんの声が脳に響く。
「どうした、もうバテたか?」
「ばかが──シャワー浴びて、もう一回だッ」
ペイント塗れの少女は、よれよれとシャワー室の方に向かっていく。
◇◆◇
「隊長いいんです、か」
「どうした」
「これ20mmです、けど」
機関砲に、
装填された弾は20mm。
通常使われる弾の1.5倍だ。
「構わん、俺の時は大砲だった」
「いや、それと比べるのはアレです、けど」
大砲にペイント弾なんてものはないからな。
吹き飛ばされれば骨折覚悟の上の訓練だった。
「それに、あの姿なら──」
昔、自分たちの部下にしたことを思い出す。
同じくペイント塗れの部下たち。
「若造どもにはぴったりだろう」
おっさんは一人、少女の影を懐かしむ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日こそは投稿をサボる精神でごー。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
誤字報告があったので作者が喜びました。
本当にありがとうございます。