竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・北廊下】
簡素な窓枠は海風で揺れ、振動は錆びた骨組みにまで伝播する。骨組みに取り付けられた照明は振動とともにチカチカと明かりが変化する。
そんな廊下を歩くは白髪少女。
つまるところ、いつもの俺である
結局、一日たっても上手くはいかず、
“機関砲を防ぐ”という問題は迷宮入りである。
(どうしたもんかねェ)
仕方なく、基地内をぶらぶらと歩くのであった。
「嬢ちゃん、浮かない顔してどうした?」
「いや、えっと」
話しかけてきたのはパーマ少尉。
もじゃもじゃ頭は今日も元気だが、基地の女性には昨日もふられている。
(正直、接点はないんだが)
話しかけられるのは以外であった。
「いや、大したことじゃねーんだけど」
「そんな顔をしてか」
「そんなにひどい顔だったか?」
「ああ、年頃の少女とは思えねえ顔だ」
どうやら本気で心配してくれているらしい。
(なら、考えるより、動くべし、か)
残された時間は少なくという言葉が、よぎる。
求めるは最短で最大値を
という訳で、理由をかくかくシカジカと話す。
◇◆◇
「えーと、機関砲から耐えれる方法かぁ」
反応は呆れであった。
流石、おっさんお手製訓練。
若手のパーマ少尉では知らないか。
「あー、あの訓練だろ」
「いや、知ってるのかよ」
「磔にされて銃撃ち込まれるヤツ」
「いや、そこまで酷くはないが」
話を聞く限り、初心者が経験する関門の一つでもあるそうな。
なお実際の飛行士の訓練では、補助器具などは一切なく、己の腕前だけで防壁を張る必要がある。
「ちなみに、どうやって防いだんだ?」
「いや、おれは────防げなかった」
魔法障壁の運用は、個人の才に影響される。
無能と呼ばれる者もいれば、逆に天才と呼ばれる者もいる。
魔法というモノは、才能に支配されすぎなのだ。
(俺が使用できんのも、おっさんの尽力と装置があってのモンだしな)
思いにふけること、約2秒。
目前、
気づけば、
傷だらけの手。
パーマ少尉の手が差し出される。
「
「デート場所が食堂なら、幾らでも」
「昼飯ぐらいなら安いもんだ」
ニヤリニヤリ、
と足並みそろえ、
少女とパーマは廊下を歩く。
◇◆◇
【隠岐基地・食堂/食事場】
飲み物とお菓子を片手に、会話は進む。
「自分は昔、演者に成りたくてさ」
「演者ってあの劇をしたりする人か」
「そうそう、よく知ってんな、嬢ちゃん」
この世界に演者はいるが、テレビも携帯もない世界、劇を見ること自体が稀である。
都会では開催されていると聞くが、生まれてこのかた、劇をみたこともない。
「なんで、成らなかったんだ?」
「簡単だ、成れなかったんだよ」
「えっと、才能的な話か?」
「いや、それ以外の問題だ」
パーマ少尉はもじゃもじゃ頭をしんなりとさせる。
「嬢ちゃん、人は生きているだけでお金がかかるんだ」
「食費とかか」
「まあそれは最後だな」
「税金、医療費、保険料とにかく何でもお金がかかる」
そんなことは知っている。
前世でどれだけ税金に苦しめられてきたか。
「なのによ、そんなことを知らない俺はさ」
「意気揚々と都会に出て、
やっとの思いで入った劇団を、
2か月でやめる羽目になっちまった」
「2か月だぜ、
俺はそこに入るために10年も夢見たってのによ、
劇団に入るために“それ”だけしか考えてなかったら、俺の人生は“それ以外”に殺されちまった」
よくある話だ。
夢を追い掛けて、夢に殺される。
だから人間はどこかで妥協しないといけないのだ。
「金は借りなかったのか」
「俺みたいなやつに貸すやつは、ロクデナシさ」
真っ当な職を持たぬものにお金を貸してくれるのは、よっぽどの善人か、闇金のどちらかです。
そして基本は後者。
「で、軍に入ったのか」
「なし崩しにってやつだ」
「他にも仕事はあっただろ」
「まさか、親にぶち込まれたに決まってるだろ」
そう言う、パーマ少尉は襟元を見せる。
「まっ、ある意味適職だったわけだがな」
階級章は少尉。
一兵卒上がりの中でもエリート中のエリートであり、彼の能力の高さがうかがえる。
「まあ、自慢を聞きにきたわけじゃないけどな」
「えっと、悪い、方法を聞きに来たんだっけ」
話はようやく本筋に戻る。
「で、結局、どうやって訓練をパスしたんだ?」
一番知りたいのはそこだ。
「意外と簡単だぜ──防がなければいい」
「はっ?」
何言ってんだコイツ、みたいな目で見たのは許してほしい。
だが被弾して、どうやって訓練をパスするのだ。
「被弾してもずっと笑うんだ。
体にガチガチに固定具を入れて、
何発撃たれてもケロッとした顔でな」
──そしたら幾ら教官でもビビったさ。
「痛くないのか」
「めちゃくちゃ痛かった」
骨が軋んで、肌が腫れてんのが分かんだ。
「だが同時に、顔に出したら負けだとも思った」
何気なく話すパーマ少尉。
「そんで銃声が止んだら、
教官に一言いってやった、
女のビンタの方が響いた、ってな」
だが、その眼には確かな信念を感じた。
「......スゲェな」
「凄くはないさ。他の奴らなんか余裕でクリアしてたしな」
別に訓練がどうこうの話ではない
俺が感動したのは、なんとしても演じ切ろうとする信念の方だ。
俺が甘い考えだった
なに楽に耐えれるとか期待してんだ。
先人達は血反吐を飲んで耐えてんだぜ。
なら俺も腹を括るべきだな
「もう帰るのか?」
「これ以上聞いてても参考にならなさそうだし」
「せっかく、オチまである話なんだが」
「なら、オチぐらいは聞いてくか」
席に座りなおす。
よく見ると周囲も聞き耳をたてている。
「た、大した話じゃないぞ」
「振っておいてそれは卑怯だろ」
眼が泳ぐパーマ少尉。
「追加で100発撃たれて、マジで死にかけたってオチだ」
えぇ、と視線を向ける。
(何ともいえねェオチだな)
どうせなら死にかけた後、
看護師を口説いたとか、
爆発したとか......
いや、それは無茶振りか。
「まあ元気に退院できたならいいんじゃないのか」
「いや、普通に歩いて帰ったぞ」
「うん?」
何を言ってんだこの男は。
(死にかけた後に歩いて帰った?)
「冗談だよな」
「レディとデートがあるんでと煽って帰ったが」
「やっぱり.....エース級の連中ってイカれてんだなぁって」
(死に体よりもデートを優先するのか)
いや、外に出る許可がいる軍でデートというのは詭弁に近い。
つまり、この男は見栄の為だけに徒歩で帰ったのである。
(どういう信念持ってたらそうなるんだよ......)
思わず頬がひきつる。
「そりゃぁ......訓練パスできるわ」
感想はそれ以上でなかった。
余談だが、
午後からの訓練で、魔法障壁を切って銃弾を受け止め、おっさんにクソ怒られる事となる。
痛みを堪えてニヤリと笑って見たが、
趣旨が違うと一蹴されるのであった。
骨折り損のくたびれ儲け、という話だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日明日こそは投稿をサボる精神でごー。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。