竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・北廊下】
上の大半を雲が覆い、風窓は灰色のみを取り込む。天井を支える梁は色を失い、付けられた照明のみが足元を照らす。床には暗と明が僅かに交じり合う。
映す影は2つ。
パーマと白髪少女。
つまりパーマ少尉と俺である。
「嬢ちゃん、そう膨れるなって」
「だって、クソ痛かったのに成果なしだしー」
お腹にはぷっくりとした青痣。
訓練弾で、魔法があるとはいえ、傷は一瞬では治らない。
医務室の先生のあきれ顔が頭にうかぶ。
(結局、また暗礁か)
感覚は分かる、
だが、
試行回数の少なさか、
俺の才能のなさというのか、
防壁はいまだに1秒も保たない。
「いやー、まー、うーん」
「なんだその言いにくそうな顔は」
パーマ少尉はもじゃもじゃし、
周囲にはぐるぐるを浮かべて、
スゴーく微妙な顔でこちらを見る。
「俺より魔法にくわしい奴を一人知っている」
パーマ少尉の口から出たのは衝撃の一言。
「なんとそいつは、隠岐基地にいて、精密な防壁を貼れ、エース級でもある 」
それは凄い人物だ。
と、思いつつも、
教えてくれなかった理由が気にかかる。
「だがッ!」
「だが?」
「その人物はッ!!」
「その人物は?」
「細目少尉だ」
「腹黒野郎かぁ」
脳裏によぎるは高笑いする細目。
翼納庫で文句をつけてきた人間であり、
現状、俺たちの飛べない理由、その③でもある。
◇◆◇
【隠岐基地・寮舎1F】
ノックするはドア。
木製ドアはコンコンと良い音を立てる。
「すまん、今開けるさ───ッ」
「おいッ、閉めんなッ」
秒速のドア閉め。
足を入れる隙もない。
「まだ要件すら言ってないだろッ」
「お子様はお引き取りください、や」
「丁寧に言っても無駄だぞッ」
どんどんどん、とドアを叩くが無反応。
どうやら居留守を貫き通す様子。
ならば、だ。
「いいのかァ、バラされたくない秘密言うぞッ」
「生憎、そんなモンはありませーん」
「言ったな」
すうううっ、と吸い込んで、
肺に空気を充填、
120%まで満たしたら
言葉を喉に詰め込んで、
いざ、
「細目少尉ッ、●秘写真集お届けに参りましたッ!!」
「いや、ちょい待てェ──」
秒でドアが開く。
(だが第2矢はすでに、だ)
「しかも、水着の特集とは──」
「ちょぉっと、こっちに来ようかッ」
口を塞がれ、
腕をぶんぶんするが、
部屋にドナドナされるのであった。
◇◆◇
【隠岐基地・寮舎1F/細目部屋】
「先に聞こう、なぜ知ってるんや」
「販売元が知り合いだから」
一部の隊員に人気な【激写、●秘写真集】
売っているのはのはオル爺である。
「で、方法を話せと?」
「話がはえーな」
「まあ、あんだけ噂になればや」
狭い基地で有名な隠岐基地。
お陰で隊員同士は、他人というより、近所という言葉が適切だ。
そんな基地で、毎日ペイント塗れの少女が噂にならないはずもなく。
「なら話──って、これは?」
投げられた物体は、“茶色い球”。
「粘土や」
叩くとコンコンという硬い音。
音からして、粘土というのは無理がある。
「石にしかみえーぞ」
「ゴーレム用の粘土やから、当然や」
ゴーレム。
石、粘土でできた2m弱の巨人を指す。
この世界では一般的に工事用の重機として使われていたが、魔力を使いすぎる事、数日で崩壊することから、現在では廃れた技術と聞く。
「ボール投げでもしろと」
「アホか、そいつを練るんや」
「この石みたいな粘土を練る?」
ガンガン叩いてみるが、傷1つつかない。
(鈍器でも使えって話か?)
「あのなぁ」
ひょいと粘土を取られ──
「コイツはな、魔法で捏ねる粘土や」
極彩色と共に、形が変わる。
球体、立方体、円錐───・・・
「子供でも練れるモンでな。
操作の初歩、初歩、初歩ぐらいや。
話はそいつをねれるようになってからやで」
細目少尉は堂々と言い切る。
「いや、俺は、」
返される粘土は、球体。
後ろにはデカデカと、“こんなことも出来んのか?”と書いてあった。
「けッ」
「どうしたんやぁ?」
目の前には、
ニヤニヤとした細目。
全身から、煽りおーら、が吹き出している。
「明日には立派なゴーレムでも作ってやるよッ」
ドアを蹴飛ばして、
俺は自室に向かうのであった。
◇◆◇
少女が出て行ったドアは空きっぱなしだ。
「あいかわらず元気な子やな──ありゃ」
ドアが閉まらない。
よく見ると軍靴が挟まっている。
「まあ待てよ、細目」
「なんやねん、パーマ」
「なんか言う事あるんじゃねえか」
「交代の時間は大丈夫なんでしょうか、少尉殿か」
現在の時間は19:00。
本来なら基地警備交代の準備の時間だ。
(服にしわが寄っとるな)
大方、会話を盗み聞き、
とすれば、ワイの事を教えたのはこいつで、
教えたはいいが、不安になっててな感じやな。
「嬢ちゃんを馬鹿にするのも大概にしろ」
「なにがや」
「魔力0じゃ練れるはずがないだろ」
粘土に含まれる魔力は微量だ。
ゆえに、自分の魔力を混ぜて、粘土を練る。
(逆を考えれば)
魔力がない少女が練ることは“不可能”だ。
「でも、頑張れば“ミリ”ぐらいは動くかもしれへんで」
「ふざけてんのかッ」
「ふざけてあらへんが」
「じゃあ何がしてんだッ」
なんで少女の努力を妨害するのか、か?
そんなもん、一択や。
「訓練が駄目なら、あの子も飛べんやろ?」
民間人を守るのも兵士の役目やで、パーマくん。
◇◆◇
「全く、いつまでガミガミいうねん」
数分にわたる舌戦の末、話を煙に巻くことに成功。
「今日は部屋片付けつもりやったけどなあ」
部屋には、、
衣服が散乱しており、
机の引き出しは、空きっぱなしである。
(あー、粘土取り出したんやった)
閉める引き出しには、一枚の写真。
一枚の写真に写るは、同期の連中。
前のカリフォルニアに居た連中だ。
(懐かしい連中だ......)
「おい細目ェ、今日も失敗したんだって」
「お前の魔力量じゃ防壁だって大変だし」
「士官様がわざわざやる事でもないだろ」
自分は士官学校の出自。
この少尉は足場なだけの階級。
軍を指揮するものが、空を飛ぶ必要はない
(んなことは分かっとるんや......)
頬を、汗が、したたっていく。
「暑い......なぁ」
温度は36度。
周囲は不毛の土地。
落ちた汗から蒸発していく。
そんな基地の空は───青い。
「おてんとさんは、今日も元気やなぁ」
空にかかるは、4本の飛行機雲。
大空に描くには、自由すぎる雲だ。
「こんな暑い中ようやるわ」
でも、ワイは──そんな空を飛んでみたかったんや。
今日もポケットに入っている粘土は硬い。
◇◆◇
【隠岐基地・寮舎1F/細目部屋】
今日も少女の服はべとべと。
(部屋汚さんといてほしいんやけど)
ワイの部屋を綺麗にする労力も無限やないんやで。
「で、なにしにきたんや」
「これ全然動かなくてさ」
当然や、あんさんの魔力で動くはずがあらへん。
(努力が足りんとでも言って追い返すか──)
「だから
「今......なんゆうた」
「いや、粘土の一部だけ動かしただけだけど」
「いや、ど、どうやて」
「全体の魔力だけを集めて、こう───」
緑色がほんのり、
粘土の先端に集まっていき、
ポコっと、膨らみ、広がり、かたちを成す。
「お、おう」
(自分が如何にトンチキな事しとるか、理解しとんか......)
魔力だけを動かすってなぁ。
考えたとしてもできへんやろ。
だってイメージが固定されとる。
普通、魔力粘土=魔力で動かすモン、やろ。
なのに、0.8(魔力+粘土)+0.2魔力粘土、とか、
前提として魔力が一切含まれてない粘土をイメージせんとあかん。
そんで魔力というのも認識したうえで、
魔力粘土の存在も受け入れんとあかん。
(頭が3つあってもギリギリやな)
「(パーマも、トリノさんも、何を見とんや)」
斜上の思考。
まるで魔法がない世界で暮らしてた如くの考え。
それこそが、この少女のイチバン恐ろしい武器や。
(そんで、コレに気づいとるのはワイだけ、か)
ごクリ、つばを飲み込む。
悪魔的な発想。
一般人を守る、飛ばせない、
そんな自分の正義を踏み躙る発想。
この少女を育てたい。
この子が見る“空”を見てみたい。
そんな好奇心が、正義を犯していく。
「......嬢ちゃん、魔石袋、翼納庫からとってき」
「あれ魔力持ってるから、俺に使用権は」
「ワイの名前を貸したるわ」
全く、ワイは何を言ってるんや。
「えっ」
「気が変わらんうちに、はよせいッ」
(人の事、笑えへんくなってもうたわ)
ドタドタドタっと少女は鳴らし、
木製ドアを蹴っとばして、
急いで外に走っていく。
「あれー? 細目くーん」
「なんや、パーマ」
「いやー、随分ご乱心ですなアー」
気持ち悪いぐらいに笑顔のパーマ少尉だ。
別に粘土遊びを教えるぐらいエエやろ
でもー、軍人なのに遊ぶんですカー
......子供に夢を与えんのも大人の仕事や
おい、背中バシバシ叩くな。
心臓に響くやろ、ボケがッ。
(全く、余計な仕事増やしてもうたわ)
窓からは陽光が差し込む。
今日の空は晴れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
3連休なのにネタが溜まらない症候群です。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
ちなみに感想をもらったので喜びました。