竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑮ 粘土に思いは固まる

【隠岐基地・北廊下】

 

上の大半を雲が覆い、風窓は灰色のみを取り込む。天井を支える梁は色を失い、付けられた照明のみが足元を照らす。床には暗と明が僅かに交じり合う。

 

映す影は2つ。

パーマと白髪少女。

つまりパーマ少尉と俺である。

 

「嬢ちゃん、そう膨れるなって」

「だって、クソ痛かったのに成果なしだしー」

 

お腹にはぷっくりとした青痣。

 

訓練弾で、魔法があるとはいえ、傷は一瞬では治らない。

 

医務室の先生のあきれ顔が頭にうかぶ。

 

(結局、また暗礁か)

 

感覚は分かる、

だが、

試行回数の少なさか、

俺の才能のなさというのか、

 

防壁はいまだに1秒も保たない。

 

「いやー、まー、うーん」

「なんだその言いにくそうな顔は」

 

パーマ少尉はもじゃもじゃし、

周囲にはぐるぐるを浮かべて、

スゴーく微妙な顔でこちらを見る。

 

「俺より魔法にくわしい奴を一人知っている」

 

パーマ少尉の口から出たのは衝撃の一言。

 

「なんとそいつは、隠岐基地にいて、精密な防壁を貼れ、エース級でもある 」

 

それは凄い人物だ。

 

と、思いつつも、

 

教えてくれなかった理由が気にかかる。

 

「だがッ!」

「だが?」

 

「その人物はッ!!」

「その人物は?」

 

「細目少尉だ」

「腹黒野郎かぁ」

 

脳裏によぎるは高笑いする細目。

 

翼納庫で文句をつけてきた人間であり、

 

現状、俺たちの飛べない理由、その③でもある。

 

◇◆◇

【隠岐基地・寮舎1F】

 

ノックするはドア。

 

木製ドアはコンコンと良い音を立てる。

 

「すまん、今開けるさ───ッ」

「おいッ、閉めんなッ」

 

秒速のドア閉め。

 

足を入れる隙もない。

 

「まだ要件すら言ってないだろッ」

「お子様はお引き取りください、や」

「丁寧に言っても無駄だぞッ」

 

どんどんどん、とドアを叩くが無反応。

 

どうやら居留守を貫き通す様子。

 

ならば、だ。

 

「いいのかァ、バラされたくない秘密言うぞッ」

「生憎、そんなモンはありませーん」

「言ったな」

 

すうううっ、と吸い込んで、

 

肺に空気を充填、

120%まで満たしたら

言葉を喉に詰め込んで、

 

いざ、

 

「細目少尉ッ、●秘写真集お届けに参りましたッ!!」

「いや、ちょい待てェ──」

 

秒でドアが開く。

 

(だが第2矢はすでに、だ)

 

「しかも、水着の特集とは──」

「ちょぉっと、こっちに来ようかッ」

 

口を塞がれ、

腕をぶんぶんするが、

部屋にドナドナされるのであった。

 

◇◆◇

【隠岐基地・寮舎1F/細目部屋】

 

「先に聞こう、なぜ知ってるんや」

「販売元が知り合いだから」

 

一部の隊員に人気な【激写、●秘写真集】

 

売っているのはのはオル爺である。

 

「で、方法を話せと?」

「話がはえーな」

「まあ、あんだけ噂になればや」

 

狭い基地で有名な隠岐基地。

 

お陰で隊員同士は、他人というより、近所という言葉が適切だ。

 

そんな基地で、毎日ペイント塗れの少女が噂にならないはずもなく。

 

「なら話──って、これは?」

 

投げられた物体は、“茶色い球”。

 

「粘土や」

 

叩くとコンコンという硬い音。

 

音からして、粘土というのは無理がある。

 

「石にしかみえーぞ」

「ゴーレム用の粘土やから、当然や」

 

ゴーレム。

 

石、粘土でできた2m弱の巨人を指す。

 

この世界では一般的に工事用の重機として使われていたが、魔力を使いすぎる事、数日で崩壊することから、現在では廃れた技術と聞く。

 

「ボール投げでもしろと」

「アホか、そいつを練るんや」

「この石みたいな粘土を練る?」

 

ガンガン叩いてみるが、傷1つつかない。

 

(鈍器でも使えって話か?)

 

「あのなぁ」

 

ひょいと粘土を取られ──

 

「コイツはな、魔法で捏ねる粘土や」

 

極彩色と共に、形が変わる。

 

球体、立方体、円錐───・・・

 

「子供でも練れるモンでな。

操作の初歩、初歩、初歩ぐらいや。

話はそいつをねれるようになってからやで」

 

細目少尉は堂々と言い切る。

 

「いや、俺は、」

 

返される粘土は、球体。

 

後ろにはデカデカと、“こんなことも出来んのか?”と書いてあった。

 

「けッ」

「どうしたんやぁ?」

 

目の前には、

 

ニヤニヤとした細目。

 

全身から、煽りおーら、が吹き出している。

 

「明日には立派なゴーレムでも作ってやるよッ」

 

ドアを蹴飛ばして、

俺は自室に向かうのであった。

 

◇◆◇

 

少女が出て行ったドアは空きっぱなしだ。

 

「あいかわらず元気な子やな──ありゃ」

 

ドアが閉まらない。

 

よく見ると軍靴が挟まっている。

 

「まあ待てよ、細目」

「なんやねん、パーマ」

「なんか言う事あるんじゃねえか」

「交代の時間は大丈夫なんでしょうか、少尉殿か」

 

現在の時間は19:00。

本来なら基地警備交代の準備の時間だ。

 

(服にしわが寄っとるな)

 

大方、会話を盗み聞き、

 

とすれば、ワイの事を教えたのはこいつで、

 

教えたはいいが、不安になっててな感じやな。

 

「嬢ちゃんを馬鹿にするのも大概にしろ」

「なにがや」

「魔力0じゃ練れるはずがないだろ」

 

粘土に含まれる魔力は微量だ。

 

ゆえに、自分の魔力を混ぜて、粘土を練る。

 

(逆を考えれば)

 

魔力がない少女が練ることは“不可能”だ。

 

「でも、頑張れば“ミリ”ぐらいは動くかもしれへんで」

「ふざけてんのかッ」

「ふざけてあらへんが」

「じゃあ何がしてんだッ」

 

なんで少女の努力を妨害するのか、か?

 

そんなもん、一択や。

 

「訓練が駄目なら、あの子も飛べんやろ?」

 

民間人を守るのも兵士の役目やで、パーマくん。

 

◇◆◇

 

「全く、いつまでガミガミいうねん」

 

数分にわたる舌戦の末、話を煙に巻くことに成功。

 

「今日は部屋片付けつもりやったけどなあ」

 

部屋には、、

衣服が散乱しており、

机の引き出しは、空きっぱなしである。

 

(あー、粘土取り出したんやった)

 

閉める引き出しには、一枚の写真。

 

一枚の写真に写るは、同期の連中。

 

前のカリフォルニアに居た連中だ。

 

(懐かしい連中だ......)

 

「おい細目ェ、今日も失敗したんだって」

「お前の魔力量じゃ防壁だって大変だし」

「士官様がわざわざやる事でもないだろ」

 

自分は士官学校の出自。

 

この少尉は足場なだけの階級。

 

軍を指揮するものが、空を飛ぶ必要はない

 

(んなことは分かっとるんや......)

 

頬を、汗が、したたっていく。

 

「暑い......なぁ」

 

温度は36度。

周囲は不毛の土地。

落ちた汗から蒸発していく。

 

そんな基地の空は───青い。

 

「おてんとさんは、今日も元気やなぁ」

 

空にかかるは、4本の飛行機雲。

 

大空に描くには、自由すぎる雲だ。

 

「こんな暑い中ようやるわ」

 

でも、ワイは──そんな空を飛んでみたかったんや。

 

今日もポケットに入っている粘土は硬い。

 

◇◆◇

【隠岐基地・寮舎1F/細目部屋】

 

今日も少女の服はべとべと。

 

(部屋汚さんといてほしいんやけど)

 

ワイの部屋を綺麗にする労力も無限やないんやで。

 

「で、なにしにきたんや」

「これ全然動かなくてさ」

 

当然や、あんさんの魔力で動くはずがあらへん。

 

(努力が足りんとでも言って追い返すか──)

 

「だから()()()()()()()()()んだけど」

「今......なんゆうた」

 

「いや、粘土の一部だけ動かしただけだけど」

「いや、ど、どうやて」

 

「全体の魔力だけを集めて、こう───」

 

緑色がほんのり、

粘土の先端に集まっていき、

 

ポコっと、膨らみ、広がり、かたちを成す。

 

「お、おう」

 

(自分が如何にトンチキな事しとるか、理解しとんか......)

 

魔力だけを動かすってなぁ。

考えたとしてもできへんやろ。

だってイメージが固定されとる。

 

普通、魔力粘土=魔力で動かすモン、やろ。

なのに、0.8(魔力+粘土)+0.2魔力粘土、とか、

 

前提として魔力が一切含まれてない粘土をイメージせんとあかん。

 

そんで魔力というのも認識したうえで、

 

魔力粘土の存在も受け入れんとあかん。

 

(頭が3つあってもギリギリやな)

 

「(パーマも、トリノさんも、何を見とんや)」

 

斜上の思考。

まるで魔法がない世界で暮らしてた如くの考え。

それこそが、この少女のイチバン恐ろしい武器や。

 

(そんで、コレに気づいとるのはワイだけ、か)

 

ごクリ、つばを飲み込む。

 

悪魔的な発想。

一般人を守る、飛ばせない、

そんな自分の正義を踏み躙る発想。

 

この少女を育てたい。

この子が見る“空”を見てみたい。

 

そんな好奇心が、正義を犯していく。

 

「......嬢ちゃん、魔石袋、翼納庫からとってき」

「あれ魔力持ってるから、俺に使用権は」

「ワイの名前を貸したるわ」

 

全く、ワイは何を言ってるんや。

 

「えっ」

「気が変わらんうちに、はよせいッ」

 

(人の事、笑えへんくなってもうたわ)

 

ドタドタドタっと少女は鳴らし、

木製ドアを蹴っとばして、

急いで外に走っていく。

 

「あれー? 細目くーん」

「なんや、パーマ」

「いやー、随分ご乱心ですなアー」

 

気持ち悪いぐらいに笑顔のパーマ少尉だ。

 

別に粘土遊びを教えるぐらいエエやろ

でもー、軍人なのに遊ぶんですカー

 

......子供に夢を与えんのも大人の仕事や

 

おい、背中バシバシ叩くな。

心臓に響くやろ、ボケがッ。

 

(全く、余計な仕事増やしてもうたわ)

 

窓からは陽光が差し込む。

今日の空は晴れていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
3連休なのにネタが溜まらない症候群です。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

ちなみに感想をもらったので喜びました。
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