竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

16 / 44
記録⑯ 飛び方は様々

【隠岐基地・運動場/射撃訓練場】

 

数本の鉄柱が支える屋根だけの射撃場、

 

鉄柱の影は刻々と時間をつめて、朝よりも偏った位置に存在していた。ひび割れが目立つコンクリートには、草木だけではなく、少女の影も装飾として加わる。

 

ばたっという音と共に、

少女の影には凹凸が追加される。

白髪は濡れているのかキラリと輝く。

 

「防壁破壊まで4秒、着弾8です」

「まあまあか」

 

結果を聞いたトリノ大尉は昨日と変わらない。

 

「───ッ」

 

今日も防壁は持たなかった。

 

防壁を知った、

根性を教えられた、

形の変え方を習った、

 

(それでも10秒防壁がもたねェ)

 

原因は簡単───練度不足。

 

円形では防壁が薄く。

円錐では一部が厚くなりすぎる。

 

そして薄いところを抜かれ、形を保てなくなった防壁は崩壊する。

 

(なら、立方体にしたらと思ったが)

 

形は自体は残ったが、今度は防壁面が最短でブチ抜かれた。

 

無様にも、薄くなりすぎた面は、弾の威力減衰すらできなかった。

 

「ままならねぇなぁ」

 

大の字に広がる。

 

服が汚れるとかは今更だ。

 

コンクリートの冷さが気持ちがいい。

 

「今日の訓練は止めるか」

「どうしてだよ」

 

終わるには、かなり早い時間帯だ。

 

太陽だって沈んではいない。

 

「俺はまだ元気だぞ」

「レコ、おめーは元気かもしれんが」

 

「────お前の心は疲れてんだよ」

 

休んでこい、と言われ、

俺は一人取り残されるのであった。

 

◇◆◇

【隠岐基地 翼納庫】

 

「と言われても」

 

暇、である。

 

基本、清掃しかしていない身。

訓練があると思って空けた午後。

無ければ、いつもの暇すぎる休日だ。

 

「でも、何もしないってのは違うよな」

 

大鳥しかいない翼納庫で一人ぼやく。

 

否、

 

暇そうなのは一人ではなかったようだ。

 

「掃除か、レコ助」

「あれ? オル爺」

 

今日もアロハ帽子サングラスな、

 

フォンキー太っちょ爺である。

 

(昼に合うとは珍しい)

 

この時間帯、いつもならお気に入りの場所で、気持ちよく昼寝をしている時間なはず。

 

「たまには、空を飛びたくなってな」

「へー、意外だな」

 

大鳥に飛ぶ準備がされていく。

 

「丁度、大万寺山のあたりに良い風が吹いとる」

「あーいいなぁ、俺も連れて行ってくれよ」

「構わんぞ」

 

足止めを外し、

魔法補助装置をつけ、

操縦席のチェックを済ます。

 

飛ぶ準備は万端というところだ。

 

「あれ、でもオル爺飛べたのか?」

 

大鳥で飛ぶのに資格はいる。

 

軍の飛行士であればいらないが、爺の肩書は大鳥整備士だったはずだ。

 

ゆえに、この基地にきてオル爺が飛んでいる姿を見たことはない。

 

「まさかはっはは」

「流石にだよな」

 

「ほら行くぞ」

「ほらって、出口は向こう側.......」

 

オル爺が向かうのは裏口だ。

 

「いつから飛んでいくと言った」

「じゃあどうやって行くんだよ」

「そこに足があるじゃろ」

 

基地から大万寺山まで20km。

 

「もちろん、歩きにきまっとるじゃろはっははは」

 

徒歩での時間は5時間強だ。

 

翼納庫には愉快なジジイの笑い声が響く。

 

◇◆◇

【隠岐・大万寺山/中腹】

 

「暑じィ」

「もうバテたか、レコ助」

 

気温は30度。

 

木陰はあっても、

休息はあらず。

 

額をしたたる汗はあっても、

喉をしたたる水はない。

 

「あーあ、飲みもんぐらい持ってくりゃよかった」

 

目の前を赤色の筒、が通り過ぎる。

 

手に持つとずっしり、

 

水筒だ。

 

「ワシのだがな、飲んでおけ」

「おっ、流石ぁ」

 

蓋をあけるとぷしゅっといい音。

 

中には黄金の液体、

乾いた喉には関係なし、

うむを言わさず口につけ──

 

「って、酒じゃねーかッ」

 

ぷしゅっの時点で疑問をもつべきだった。

 

「本格的ジンジャーエールだ、間違えるなレコ助」

「どっちにしろ変わんねーよ、うぐ」

 

喉越しはいいが、

含んだ口が大惨事。

 

苦味と炭酸が口の中で暴れまわる。

 

「口が、いだい」

「無理に飲む飲んじゃねえぞ」

「でも、飲むもんこれしかないし」

 

喉は渇いた。

 

だが、飲めば飲むほど口が痛くなる。

 

天国と地獄みたいな時間を乗り越えて、ようやく飲み切る。

 

(いや飲み切る必要はなかったな)

 

少し体温が高くなって、気持ちが良いのは気のせいだ。

 

「げぷっ」

「いい音立ててんなはっはっは」

「うるしぇえ、げぷっ」

 

結局、動き始めるまでげっぷは止まらなかった。

 

そんなこんなで、山登りは続く。

 

◇◆◇

【隠岐・大万寺山/山頂】

 

「ついたぞ」

 

「────ッ」

 

目下、島々の枠から溢れるは、

 

どこまでもつづく海の蒼、

どこまでも拡がる空の青。

 

蒼と青は地平にて、まざり合い、ほどけ合い、白く染まるのであった。

 

「綺麗だろ、くっちゃくっちゃ」

 

おまけにガムを鳴らす爺を添えて、だ。

 

「いや、こんな時ぐらいさ」

「ガムは集中力を高めるんだ、知らんのか」

「いや、知ってるけど」

 

今、噛むものではないだろ。

 

折角の青い世界に混ざる異物。

 

くっちゃくっちゃ

 

(右耳から聞こえる音が、うっとおしすぎる......)

 

「そういうのは飛行中とかにだな───」

 

どすっどすっ、

 

「あのオル爺?」

 

ぴょ〜ん、どすっ、

 

「ほら飛んでるだろ」

 

右を見れば、ジャンプする爺がいた。

 

お腹を揺らして、

無駄に汗水かいて、

数cmしか浮いていない。

 

「あ、あほくせー」

「ふっ、ふう、疲れたはっはは」

「そんな事やってるからだろ」

 

気づけば設置されているオル爺自慢の、折り畳みチェア。

 

椅子が軋むような音をたて、爺は呑気にガムを噛む。

 

「全く、呑気なもんで」

 

仕方なく、俺も横に座るとする。

 

草と土のしんみりとした感触が、ズボンを撫でる。

 

(あー、いい天気なこって)

 

そうして、数時間、いや数分か、そんぐらい経った頃。

 

「いいかー、レコ助」

「なんだー」

 

思いだしたかのように話す、オル爺。

 

俺は少し眠さ半分だ。

 

「空を飛ぶ方法なんて無限にある」

「いや、無限にはねーだろ」

「甘い、レコ助が思いつかないだけだ」

 

横には“俺には思いつく”みたいな爺の顔。

 

ガムは煽るかのように膨らんでいく。

 

「若さは武器だ」

 

「若い奴は脳がからっぽで飛べる」

 

「だが、老いた兵士には経験という名のドブ水が、脳にこれでもかってぐらい入ってくる」

 

ガムはどんどん膨らむ。

 

「見本は見本にすぎん」

「じゃあどうしろってんだ」

 

見本がなきゃ、俺は何も出来んぞ。

 

空も飛べんし、

防壁も張れない、

本当にただの少女になる。

 

「すべてを活かせ、

見るモノ、知るモノ、感じるモノ、

それら全部をひっくるめて血肉にしろ」

 

「経験の差で負けんのは当たり前だ。

だがお前が見たもんは、お前だけのモンだ。

技量で勝とうとするな、発想でねじ伏せろ

 

「判るか、レコす「パァンッ」」

 

膨らましていたガムが破裂する。

 

髭にもピンクのガムがべっちょりと。

 

自慢の白髭は見るも無残なすがたである。

 

「......最後ぐらい締まんねーか」

「ジジイにはコレぐらいがお似合いだはっはは」

 

横には呑気に笑う爺。

 

さっきまでの力強さは見る影もない。

 

(まっ、言いたいことはだいたい分かった)

 

釣られて少女も笑うのであった。

 

◇◆◇

【隠岐基地・運動場/射撃訓練場】

 

次の日

 

「で、できたのがコレって訳か」

「あうっ.......」

 

涙目で仁王立ちする少女。

 

「結果は?」

 

「貫通まで0.02秒、被弾数は20、防壁は───」

 

少女はペイント塗れであり、

 

全身に汚れていない場所はない。

 

だが、少女の周りには透明な揺らぎ。

 

()()()()()()

 

「合格だ」

 

長い訓練に終止符が打たれた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
最近の若者はキラキラしてると思います。
明日はサボる精神でごー。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。