竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑰ 賽の用意の仕方

[司令官]

定例報告だ。

 

[Briefing]────────

現在、この海域にアメリア海軍が向かっていると境軍港から入電があった。

向かっているのは第七艦隊。空母レーガンを中核とする艦隊だ。

これらと合流した後、諸君らには新たな命令が下されることになる。

 

それまで待機せよ。

─────────────

 

【隠岐基地・翼納庫 [11:45]】

 

向かい合うは、

おっさんと白髪少女。

つまり、トリノ大尉と俺だ。

 

「いいか、喧嘩ってのはやり方が大事だ」

 

座っているおっさんは、

 

「①、責任は相手に」

 

───親指を立てる。

 

 

【隠岐基地・翼納庫 [10:30]】

 

「えっと、コレを」

 

俺は折られた紙を差し出す。

 

向かいあうのは、細目少尉だ。

 

「なんや」

「いや大したもんじゃ....ない」

「この読みにくい文字やなぁ、誰が書いたんや」

 

紙には悪筆すらかわいく見える文字。

 

一文字ずつ見なければ意味は分からないだろう。

 

「えーとや、決闘を、申し込──ッ」

 

(気付いた、か)

 

急いで口を閉じるが、もう遅い。

 

俺の後ろに出てくるは、トリノ大尉。

 

「ならば、その決闘受けるぜ」

 

手にはしっかり蓄音機を持っている。

 

「いや、い、今のは」

『決闘を、申し込』

「言質はあるが」

 

細目少尉の頬はひきつる。

 

これが第一の計画。

 

【理由の偽造】である。

 

もし素直に読んでくれなかったとき、後ろにいたおっさんはいったいどんな方法で、少尉の口を割らせたのか。

 

(どうせ碌でもない方法なんだろうなぁ)

 

 

「②、巻き込みはスマートに」

 

───人差し指を立てる。

 

 

「空での()()は呼び出しもんやで」

「安心しろ、“偶然”二人分の飛行許可がある」

「アンタと嬢ちゃんのやろ」

「別に誰とは書いてない」

 

紙には12:00からの飛行計画。

 

内容は2人での上空訓練。火器の使用許可もついている。

 

「落ちたらどう責任取るつもりや」

「落ちたら、ただの訓練飛行中の事故だ」

「そんなん認められるかッ」

「認めさすのが俺の力だ」

 

現場の大尉にそんな権力は無い。

 

たが、そう思わせてしまうのがこのおっさんの凄さだ。

 

「付き合って──」

 

肩に手。細目少尉を掴む、トリノ大尉。

 

絶対に逃がさないという意思を感じる。

 

「まあ、落ち着けよォ、細目ェ」

 

細目少尉はイヤな顔をする。

 

計画の第二段階は、

 

【退路を塞ぐ】というものだ。

 

飛行計画は勿論、俺とトリノ大尉で出されており、上手いこと手の影で隠されている。

 

(スマートさの欠片もねえな、コレ)

 

 

「③、騒ぎを大きくして、逃がすな」

 

───中指が立てられる。

 

沈黙する翼納庫に、爺の声が響く。

 

老年の癖に、良く響く声だ。

 

「飛行士共の決闘が始まるゾー」

 

偶然いた爺は、

 

自慢の白髭を上下に動かし、

ぽっちゃりとしたお腹を揺らして、

さらっと廊下へのドアを全開にしている。

 

「爺さん、なに言ってんや」

「トリノと細目の一騎打ちダー」

 

爺の口は止まらない。

 

壊れたラジオの如く、

決闘ダー、決闘ダー、決闘ダー、

と大きな声で叫び続ける。

 

「ちっ、サクラかいな」

「まさか、偶然だ」

 

声は呼び水となり、

 

周囲には人が集まってくる。

 

「おいおい、決闘だってよ」

「よせよ、隊長どもにどやられるぞ」

「馬鹿、その“隊長ども”がやってんだよッ」

 

気づけば、隊員たちに囲まれていた。

 

「逃げ場はなしかいな」

「別に逃げてもいいんだぜ」

 

───名前に腰抜けってつくだけだ。

 

挑発、おっさんは鼻で笑う。

 

返し、細目少尉は、

 

「本当の腰抜けはどっちやさかい」

 

指を立てる。

 

「──上等や、潰したる」

 

大鳥に装備が付けられていく。

 

これにて計画の三段階目、

 

【決闘の成立】が終了である。

 

(正直、勝っても負けても細目少尉が被害を被るんだよなぁ)

 

勝った場合は、大尉の暴挙を黙認することになる。

 

負けた場合でも、訓練中に割り込んできたとかで、おっさんは上に報告するつもりだろう。

 

なんせ飛行計画は俺とおっさんのなのだ。

 

(誰だよ、こんな悪い事考える奴は.....)

 

脳裏の太っちょな爺がよぎる。

 

◇◆◇

【隠岐基地・翼納庫 [11:00]】

 

2人が機器のチェックしているときでも、

 

周囲のガヤはうるさく鳴り続ける。

 

(おっさんへの不満はよっぽどだな)

 

日頃のトリノ大尉の態度はすこぶる悪い。

 

これは本人の病気のことを隠すためというのもあるのだが、その結果がコレである。

 

「2人乗りの癖に粋がってんじゃねーよ」

「身の程をわきまえろってんだ」

「細目少尉に5$」

「俺は10$だ」

 

掲げられるは無数のドル札。

 

そして回収する太っちょな爺。

 

「さあ、ハったハった」

 

掲げたドル札を片っ端から両手に乗せていく。

 

「なにしてんだよ、オル爺」

「賭けにきまっとるじゃろ」

 

右手は僅か、

 

左手は大量のお札であふれている。

 

「トリノ坊のオッズは10倍だぞ」

「あのなぁ、オル爺」

「トリノ坊は嫌われすぎじゃな」

 

否、嫌われているだけではない。

 

2人乗りで楽に勝てるほど空は甘くないのだ。

 

(前回の空戦がいい例だ)

 

おっさんは、エースにも関わらず、爆撃装備の大鳥を落とすのに数分以上かかったのだ。

 

その意味に気づかない隊員達ではない。

 

だからこそ、皆、おっさんではなく細目少尉に賭けているのだろう。

 

「今月の手持ちは残ってたっけ───」

「俺も賭けさして貰うか」

 

“大量のお札”を乗せる。

 

“右手”に全てのお札をだ。

 

「全部で50$」

「そいつはぁ、大尉にってことでいいのか、パーマ坊」

 

馬鹿な事をやったのは、パーマ少尉。

 

「いや、スカイ・レコード嬢に50$だ」

 

周囲が唖然と騒然に包まれるなか、

 

パーマ少尉は俺に、ウィンクする。

 

(意味合いは頑張ってこいっていうあたりか?)

 

ならば、俺は笑みを返す。

 

「ちょっと燃えてきたかも」

 

少女の方にもエンジンがかかる。

 

◇◆◇

【隠岐基地・翼納庫 [12:00]】

 

手が閉じられる。

 

「レコ、準備はいいか?」

 

おっさんはゆっくりと立ち上がる。

 

「いいも何も、とっくに準備万端だ」

 

朝飯も食った、歯も磨いた、トイレにも行った。

 

(効果あるかは知らんが、竜のお守りも持ったしな)

 

まあ後は神様にでも中指を立てとけば完璧だろう。

 

「なら、さっさと飛んで夕飯だ」

「いや、気が早くねーか」

 

トリノ大尉はゴーグルをおろす。

 

「いいか、オヤツを食う感覚で飛べ」

「相手はエース級だぞ」

「問題はない」

 

「──俺達が駆けるのは戦争だ。

この程度じゃ止まってられん」

 

翼納庫のシャッターが開き、

外から光が漏れ出してくる。

 

気温は26℃、風は北寄りにやや、飛ぶには絶好の日だ。

 

大空での決闘が始まる。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
口から文字がドロドロ出せるようになりたいです。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
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