竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑱ 刹那、見切りあって

【隠岐基地・滑走路】

 

アスファルト上には無数の切傷と鳥類の羽が残り、朝掃除したばかりの整備員達を絶望させていた。辺りの蜃気楼は暑さでゆがみ、ジリジリとした熱が待機する俺たちを歓迎する。

 

『こちら隠岐タワー、聞こえるか』

「こちらトリノ、なんだ」

『飛行計画は大尉と獣医となっているが』

「そりゃあ間違って伝わったかもしれねぇな」

 

後ろに待機するのは、細目少尉の大鳥。

 

飛行計画に疑問を持つのも当然だ。

 

『上に確認する。待機せよ』

「こちらトリノ、離陸許可を求む」

『許可はで.....まて獣医はレコード嬢か?』

「そうだが」

 

『......飛行計画の内容は』

「訓練中に事故が起こる予定だ」

『未然には防げないのか』

「防ぐと飛べなくなるんでな」

 

『.....お嬢が落ちたら、この件は上に報告させてもらう』

「判断、感謝する」

 

『トリノ機、幸運を祈る(Good luck!)幸運を祈る』

 

大鳥が羽ばたく。

 

向かうは、隠岐の島・上空。

 

万能時計の高度は上昇、

 

──1000m、

──2000m、

──3000mの世界へ。

 

◇◆◇

 

決闘の勝敗は、どちらかの“魔力障壁が割れる”まで。

 

大鳥と飛行士を傷つけない為。

互いの銃に装填されているのは、訓練弾。

倉庫に山のように残っており皆呆れていた。

 

(全口径用意されてんのはやり過ぎだろ......)

 

思考は半々、周囲は──

 

白髪がくすぶる頬を、銃弾がなぞる。

 

前は空白、

後ろに黒点、

横の細雲はあざ笑う。

 

「おっさん、ケツッ」

「わかってらッ」

 

軌道は曲がる、が、

 

背中の大鳥はぴったりと、

 

先より輪郭をハッキリさせる。

 

(細目少尉、逃がす気が無しかよッ)

 

「いつまで逃げるんや」

「うるせェ」

 

魔力振動による音の伝播が起こる。

 

従来では伝わるはずのない位置での声が聞こえる現象。

一般的には怪奇現象扱いだが、空の戦闘ではよくある事象だ。

 

「それで逃げとるつもりかいな」

「うっとおしい奴め」

 

速度を上げるが、

背中にピタりと、

燕の大鳥は離れる様子はない。

 

(まじかよ、おっさんがここまで苦戦すんのか......)

 

一方的なチェイスが展開されていく。

 

◇◆◇

 

大鳥の種類によって、性能は変わる。

 

大鷲が一般的だとすれば、燕は加速と速度に優れているという具合。

 

「マジで、どうすんだッ」

「大鷲じゃ、燕のケツは無理だッ」

 

上に逃げれば先に上昇限界を迎え、下に逃げれば一生ケツを撃たれる。

 

「なんとか、出来ねえのッ」

「出来んッ、それに俺たちは2人乗りだ」

 

俺が乗っているせいで、

大鷲が優っている点も台無し、

 

結果、全てが劣っている大鳥のできあがりだ。

 

(俺たちが冷や汗かいて飛んでるってのに)

 

後ろの細目少尉はまだ余裕って顔だ。

 

「逃げまわっとるだけで勝てるんかい」

「ならケツの一つでもよこしやがれッ」

「生憎、あんさんには弾しかあげれんわ」

 

五月雨ごとき銃弾、

 

躱すためにも、

 

大鳥を左右に大きくゆらす。

 

「ちい、当たっとるやろ、なんで割れへん」

「悪いが、特注なんでなァッ」

「そんなモンあってたまるかいな」

 

右に、

 

『7.7mmなんて使うからだ、バーカッ

「弾のせいなわけあるかッ」

 

左に、

 

「ちっ、照準器でもズレとんかいな」

「今度はきちんと整備でもするんだなッ」

 

それでも、俺たちは前を飛び続ける。

 

『妙な感触や』

 

いつもなら2、3機は落とす弾、撃ち込んどるのに──」

 

「いったい、何を仕込んどるんや、あの大鳥は」

 

燕の追撃は止まない。

 

◇◆◇

 

空を飛ぶ、

空は9、雲は1

気持ち的には快晴だ。

 

大鳥も、おっさんも、俺も、ピンク色に染まっており。

 

大鳥は羽が抜け、俺たちには青あざが目立つ。

 

(限界というか、結構キツい)

 

「レコ、障壁はあと何分持つ」

「わからんッ」

「奴の口ぶりから、種はまだ割れてはないようだが」

 

銃弾、再び。

 

接触した障壁は瞬光、

銃弾を包み込むように凹み、

障壁は伸びる、ゴムのように伸びる。

 

そして限界まで伸びた障壁は破け、くっつく。

 

銃弾の熱と魔力が、破れを再びつなぎ合わせるのだ。

 

(これが試行錯誤の末の、自動修繕魔力障壁)

 

「ぐっ、いてぇ」

 

だが、破けるということは弾は貫通しているという事。

 

いくら7.7mmとはいえ、

いくら威力が落ちているとはいえ、

 

(痛いものは、痛いッ)

 

すでに額のゴーグルにはひびが入り、帽子も裂けている。

 

「埒が明かねえな」

「どうすんだよ」

 

正面には入道雲。

 

青の空に鎮座する、バカでかい雲だ。

 

「丁度いい────レコ、アレ仕掛けるぞ」

 

「仕掛ける場所は?」

「雲向こうの交差ポイントだ」

 

おっさんは速度を落とし、右に。

 

雲を切るように、回る。

 

『魔力を抑えた、やと』

「どうした? ついてこんのか」

『アホかいな』

 

細目少尉は、左に。

 

「馬鹿め、旋回半径を稼ぐのは読めてんだよ」

「で、どうすんだよ、おっさん」

 

このまま回れば距離を稼いだ、

 

細目少尉が後ろをとる

 

「このまま、回る」

「正気かッ」

 

数秒後、

左右で雲を回りきり、

2機の大鳥は再び、激突す。

 

◇◆◇

 

右には、トリノさんと少女。

 

「後ろを取ってくれんと言わんばかりやな」

 

旋回半径は稼いだ。

 

このままいけば、後ろは取れるだろう。

 

(そう“このまま”いけばやな)

 

「だからこそ、このタイミングで──仕掛けてくるハズや」

 

(トリノさんの十八番は捻りこみ)

 

旋回半径の超ショートカット技。

 

魔力を溜めて、風魔法を暴発に近い形で使い、無理やり軌道を変える技術。

 

(だが、その技には欠点がある)

 

繊細な感覚が要求される魔法を暴発させるのだ、当然、飛行士もそれなりのリスクを負う。

 

例えば、使用後に数秒操作不能になる、とか。

 

(回避行動が出来ん大鳥はただの的や)

 

右、

視界の端、

大鳥は迫る。

 

「その技の一番の利点は奇襲性や」

 

本来の予想を大きく外れた動き。

 

それこそが捻りこみの一番の武器。

 

「中身が見えたトリックなんぞ、面白くないで」

 

大鳥は()()()()に急制動をかける。

 

鋭角に、

内側を抉り、

背中を食い荒らすべく。

 

「捻りこみ、見切ったり」

 

銃口はすでに置いている。

 

後は引き金を引くだけ、

 

照準器が捉えるは──

 

 

 

()()

 

「──いない、やと」

 

「甘えよ、馬鹿」

 

声が聞こえるのは、正面。

 

向けられるは、銃口

 

「馬鹿な、あそこからの移動は──」

 

捻りこみを使った飛行士は、満足に魔法すら使えないハズ。

 

否、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──嬢ちゃんに風魔法を撃たせたんかッ」

 

2段階の捻りこみ、

 

必殺の20mmが放たれる。

 

◇◆◇

 

勝負は一瞬だった。

 

「俺らの勝ちだな」

『なんやそのアホ口径』

「実際威力はあっただろ」

 

試作品段階の20mm機関砲。

 

貫通力、威力は7.7mmの比ではない。

 

『一発で防壁ぶち抜くとか、どういう武器やねん』

「その分代償ありきの武器だ」

 

一番の難点は、弾数の少なさ。

 

7.7mmが100発以上積めるに対して、20mmはわずか20発しか積めない。

 

故に、射撃時には“必殺の間合い”が要求される。

 

「だが使い勝手は──」

 

『ザ─ザ──こちら隠岐タワー。トリノ機へ』

 

万能時計が鳴る。

 

「こちらトリノ。隠岐タワーどうぞ」

『現在、航空部隊による奇襲攻撃を受けていると、第七艦隊から連絡があった』

 

「緊急か」

『緊急だ。急行し、艦船の脱出を支援せよ』

「了解。急ぎ任務に移る」

 

大鳥は旋回する。

 

「聞こえたな、細目」

「もちろんや」

 

声を聞き、

 

おっさんはニヤリと笑う。

 

「後半戦は撃墜数だな」

「なら早いとこ武器変えましょうや」

 

「俺はこの武器でも十分だが」

「敵に落書きしても落とせへんでしょ」

「馬鹿、バットの様にふって落とすんだよ」

 

笑い声が響く。

 

(いやさっきまでの嫌悪感はどこだよ)

 

一人かやの外の自分に、冷たい風が吹く。

 

大鳥は空を飛ぶ。

 

目指すは隠岐基地。

 

そして補給を終え、再び飛び立つのであった。

 

 

[Message]────────

隠岐基地からの増援もあり、第七艦隊は敵線の突破に成功。

 

艦隊自体は少なからざる損害を受けたものの、最悪の事態は避けることができた。

 

諸君らの支援に感謝する。

─────────────




ここまで読んでいただきありがとうございます。
気づいたらスマホ片手に寝落ちしていました。
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