竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・滑走路】
アスファルト上には無数の切傷と鳥類の羽が残り、朝掃除したばかりの整備員達を絶望させていた。辺りの蜃気楼は暑さでゆがみ、ジリジリとした熱が待機する俺たちを歓迎する。
『こちら隠岐タワー、聞こえるか』
「こちらトリノ、なんだ」
『飛行計画は大尉と獣医となっているが』
「そりゃあ間違って伝わったかもしれねぇな」
後ろに待機するのは、細目少尉の大鳥。
飛行計画に疑問を持つのも当然だ。
『上に確認する。待機せよ』
「こちらトリノ、離陸許可を求む」
『許可はで.....まて獣医はレコード嬢か?』
「そうだが」
『......飛行計画の内容は』
「訓練中に事故が起こる予定だ」
『未然には防げないのか』
「防ぐと飛べなくなるんでな」
『.....お嬢が落ちたら、この件は上に報告させてもらう』
「判断、感謝する」
『トリノ機、
大鳥が羽ばたく。
向かうは、隠岐の島・上空。
万能時計の高度は上昇、
──1000m、
──2000m、
──3000mの世界へ。
◇◆◇
決闘の勝敗は、どちらかの“魔力障壁が割れる”まで。
大鳥と飛行士を傷つけない為。
互いの銃に装填されているのは、訓練弾。
倉庫に山のように残っており皆呆れていた。
(全口径用意されてんのはやり過ぎだろ......)
思考は半々、周囲は──
白髪がくすぶる頬を、銃弾がなぞる。
前は空白、
後ろに黒点、
横の細雲はあざ笑う。
「おっさん、ケツッ」
「わかってらッ」
軌道は曲がる、が、
背中の大鳥はぴったりと、
先より輪郭をハッキリさせる。
(細目少尉、逃がす気が無しかよッ)
「いつまで逃げるんや」
「うるせェ」
魔力振動による音の伝播が起こる。
従来では伝わるはずのない位置での声が聞こえる現象。
一般的には怪奇現象扱いだが、空の戦闘ではよくある事象だ。
「それで逃げとるつもりかいな」
「うっとおしい奴め」
速度を上げるが、
背中にピタりと、
燕の大鳥は離れる様子はない。
(まじかよ、おっさんがここまで苦戦すんのか......)
一方的なチェイスが展開されていく。
◇◆◇
大鳥の種類によって、性能は変わる。
大鷲が一般的だとすれば、燕は加速と速度に優れているという具合。
「マジで、どうすんだッ」
「大鷲じゃ、燕のケツは無理だッ」
上に逃げれば先に上昇限界を迎え、下に逃げれば一生ケツを撃たれる。
「なんとか、出来ねえのッ」
「出来んッ、それに俺たちは2人乗りだ」
俺が乗っているせいで、
大鷲が優っている点も台無し、
結果、全てが劣っている大鳥のできあがりだ。
(俺たちが冷や汗かいて飛んでるってのに)
後ろの細目少尉はまだ余裕って顔だ。
「逃げまわっとるだけで勝てるんかい」
「ならケツの一つでもよこしやがれッ」
「生憎、あんさんには弾しかあげれんわ」
五月雨ごとき銃弾、
躱すためにも、
大鳥を左右に大きくゆらす。
「ちい、当たっとるやろ、なんで割れへん」
「悪いが、特注なんでなァッ」
「そんなモンあってたまるかいな」
右に、
『7.7mmなんて使うからだ、バーカッ
「弾のせいなわけあるかッ」
左に、
「ちっ、照準器でもズレとんかいな」
「今度はきちんと整備でもするんだなッ」
それでも、俺たちは前を飛び続ける。
『妙な感触や』
いつもなら2、3機は落とす弾、撃ち込んどるのに──」
「いったい、何を仕込んどるんや、あの大鳥は」
燕の追撃は止まない。
◇◆◇
空を飛ぶ、
空は9、雲は1
気持ち的には快晴だ。
大鳥も、おっさんも、俺も、ピンク色に染まっており。
大鳥は羽が抜け、俺たちには青あざが目立つ。
(限界というか、結構キツい)
「レコ、障壁はあと何分持つ」
「わからんッ」
「奴の口ぶりから、種はまだ割れてはないようだが」
銃弾、再び。
接触した障壁は瞬光、
銃弾を包み込むように凹み、
障壁は伸びる、ゴムのように伸びる。
そして限界まで伸びた障壁は破け、くっつく。
銃弾の熱と魔力が、破れを再びつなぎ合わせるのだ。
(これが試行錯誤の末の、自動修繕魔力障壁)
「ぐっ、いてぇ」
だが、破けるということは弾は貫通しているという事。
いくら7.7mmとはいえ、
いくら威力が落ちているとはいえ、
(痛いものは、痛いッ)
すでに額のゴーグルにはひびが入り、帽子も裂けている。
「埒が明かねえな」
「どうすんだよ」
正面には入道雲。
青の空に鎮座する、バカでかい雲だ。
「丁度いい────レコ、アレ仕掛けるぞ」
「仕掛ける場所は?」
「雲向こうの交差ポイントだ」
おっさんは速度を落とし、右に。
雲を切るように、回る。
『魔力を抑えた、やと』
「どうした? ついてこんのか」
『アホかいな』
細目少尉は、左に。
「馬鹿め、旋回半径を稼ぐのは読めてんだよ」
「で、どうすんだよ、おっさん」
このまま回れば距離を稼いだ、
細目少尉が後ろをとる
「このまま、回る」
「正気かッ」
数秒後、
左右で雲を回りきり、
2機の大鳥は再び、激突す。
◇◆◇
右には、トリノさんと少女。
「後ろを取ってくれんと言わんばかりやな」
旋回半径は稼いだ。
このままいけば、後ろは取れるだろう。
(そう“このまま”いけばやな)
「だからこそ、このタイミングで──仕掛けてくるハズや」
(トリノさんの十八番は捻りこみ)
旋回半径の超ショートカット技。
魔力を溜めて、風魔法を暴発に近い形で使い、無理やり軌道を変える技術。
(だが、その技には欠点がある)
繊細な感覚が要求される魔法を暴発させるのだ、当然、飛行士もそれなりのリスクを負う。
例えば、使用後に数秒操作不能になる、とか。
(回避行動が出来ん大鳥はただの的や)
右、
視界の端、
大鳥は迫る。
「その技の一番の利点は奇襲性や」
本来の予想を大きく外れた動き。
それこそが捻りこみの一番の武器。
「中身が見えたトリックなんぞ、面白くないで」
大鳥は
鋭角に、
内側を抉り、
背中を食い荒らすべく。
「捻りこみ、見切ったり」
銃口はすでに置いている。
後は引き金を引くだけ、
照準器が捉えるは──
「──いない、やと」
「甘えよ、馬鹿」
声が聞こえるのは、正面。
向けられるは、銃口
「馬鹿な、あそこからの移動は──」
捻りこみを使った飛行士は、満足に魔法すら使えないハズ。
否、
「──嬢ちゃんに風魔法を撃たせたんかッ」
2段階の捻りこみ、
必殺の20mmが放たれる。
◇◆◇
勝負は一瞬だった。
「俺らの勝ちだな」
『なんやそのアホ口径』
「実際威力はあっただろ」
試作品段階の20mm機関砲。
貫通力、威力は7.7mmの比ではない。
『一発で防壁ぶち抜くとか、どういう武器やねん』
「その分代償ありきの武器だ」
一番の難点は、弾数の少なさ。
7.7mmが100発以上積めるに対して、20mmはわずか20発しか積めない。
故に、射撃時には“必殺の間合い”が要求される。
「だが使い勝手は──」
『ザ─ザ──こちら隠岐タワー。トリノ機へ』
万能時計が鳴る。
「こちらトリノ。隠岐タワーどうぞ」
『現在、航空部隊による奇襲攻撃を受けていると、第七艦隊から連絡があった』
「緊急か」
『緊急だ。急行し、艦船の脱出を支援せよ』
「了解。急ぎ任務に移る」
大鳥は旋回する。
「聞こえたな、細目」
「もちろんや」
声を聞き、
おっさんはニヤリと笑う。
「後半戦は撃墜数だな」
「なら早いとこ武器変えましょうや」
「俺はこの武器でも十分だが」
「敵に落書きしても落とせへんでしょ」
「馬鹿、バットの様にふって落とすんだよ」
笑い声が響く。
(いやさっきまでの嫌悪感はどこだよ)
一人かやの外の自分に、冷たい風が吹く。
大鳥は空を飛ぶ。
目指すは隠岐基地。
そして補給を終え、再び飛び立つのであった。
[Message]────────
隠岐基地からの増援もあり、第七艦隊は敵線の突破に成功。
艦隊自体は少なからざる損害を受けたものの、最悪の事態は避けることができた。
諸君らの支援に感謝する。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
気づいたらスマホ片手に寝落ちしていました。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。