竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・翼納庫 [11:59]】
『ひゃっはー』
『今日も流星のごとく、ラジオをあなたに』
『ワンミニッツのお時間だーァ!!』
『いやー最近は平和そのもの』
『艦隊も来たし、もう勝ったも当然じゃない』
『戦争情報とか誰も求めてなさそーな感じ』
『というわけで、観光情報ッ』
『松江では美術館では竜翼の化石展覧会』
『出雲ではそばの早食い大会なんてやってるぞー』
『ちな、食費代を浮かすために挑んだら見事出禁にされました』
『なんでや、朝昼晩で食っただけじゃん』
『ファッキューお店、サンキュー飯代』
『今度は変装して食いに行ってやる』
『赤字になっても知らないぞー』
『えっ、そんな情報もいらない?』
『てか、残り時間がもうない!』
『まだ、喋り足りないけど!!』
『今回のMCはシル──「ブツッ」』
「いや、ほぼ感想やんけッ」
細目少尉の一人ツッコむのであった。
◇◆◇
【隠岐基地・翼納庫 [12:15]】
シャッターは開放され、隙間から夏風は侵入するが、内部の熱量におし返される。熱量と昼時によって、内部で動く影は少ない。
だがそれでも大鳥を調整する人はいる。
汗をぬぐいながら、確認作業を行う、細目少尉。
「精が出るな、坊主」
「あんたは......妙なじーさんか」
オールド=ヒューマンと名乗った爺は、
大きな荷物をどんと置いて、
横にどっしりと座る。
(チェックの邪魔せえへんなら、まあええわ)
そう思い作業を......
プシュっといい音をならす爺。
「ここ飲食厳禁やで」
「今は昼時だぜはっはっは」
豪快に瓶をくわえる爺。
ぽっちゃりとしたお腹は揺れ、
シュワシュワといい音が聞こえる。
「坊主、酒は好きか」
「酒って、じいさんのはコーラやろ」
音で誤魔化して無駄や。
1m離れていても強烈なコーラの香りがする。
「コイツは甘い酒だ」
「酒好きに聞かれたらシバかれるで」
「古来より酒は心を堕落させる」
「コーラは体を堕落させるけどな」
「酒で死んだやつをよく知ってるか」
「不健康で死んだやつも知っとるが」
「だがこの酒はそんな事が一切ないッ」
「そりゃコーラやからな」
「これ......飲むか?」
「この流れで渡すんかいッ」
差し出されたのは茶色い瓶。
金属のキャップはすでに開けられている。
「アンタのやろ」
「飲み過ぎると死ぬと聞いた」
アホくさ、と思いつつも、
ゴクリとつばを飲み込む。
温度は28℃。
翼納庫は、密閉空間と金属屋根のおかげで温度は上がりやすく、蒸し暑い。
つまるところ、喉が渇くのだ。
(まあ、善意ならもらっとくかいな)
瓶を受けとり、口をつける。
「意外とおいしいコーラやな」
「お気に入りの味だ」
「ああ、思った以上にまろやかや」
口当たりがよく、刺激と、苦みが。
(いや、この味)
「そりゃそうだ。そいつは───酒だからな」
瓶が落ちる。
指先は痙攣し、
左腕はふるえ、
呼吸は苦しくなる。
「安心しろ、度数は軽い」
「っ......なんの、つもり、や」
「いや、確かめただけだ」
ゼイゼイ
ハアハア、
と浅い呼吸をして、体を落ち着かせる。
「飛行士に酒飲ますとか、どんな神経しとんねん......」
「焦る要因は別じゃろ」
爺は大きな荷物に手をかける。
「オロチは酒に酔って死んだ。
以降奴らにとってそれは弱点となった
目線は、ワイが手で隠している部分。
「胸のそれがずいぶん痛そうだな」
(お見通しってわけかいな)
「......なんのことや」
「ずっと匂っていた」
「......呆けてるんかいな」
「だが信じきる確証がなかった」
老人の目は本気だ。
「そいつは──竜の匂いだ」
◇◆◇
服の下を見せる。
胸には拳大の装置が一つ。
爺は当てが外れたような顔をする。
「
「そうや」
人工的な心臓を埋め込み、それを心収縮させることで代用とする医療機器。
「魔石ボックスはどうした。すぐに止まるぞ」
「んな事、わかっとるやろ」
機器には、ドス黒い石が一つ。
「魔石の代わりに、竜の欠片か」
「正確には竜の血肉や」
竜は魔力の塊でもある。
その量は人や大鳥では比にならず、竜の骨を見つけた者は一生魔力には困らないと言われるほどだ。
「とんだ心臓だな」
「ワイのお気に入りの心臓やで」
「それは禁忌に踏みこんだ力だぞ」
竜は人間に知識を与えたが、竜自身は人間には関わらなかった。
だが、人間はどうか。
ただ知識を与えられて満足していたか。
否、
人間が竜を研究しないわけがない。
「古来から、そんなヤツどもは天罰を食らって来たハズだが」
「だが現実、ワイの心臓は存在するやろ」
「どこも変わらんという事か」
先人達が残したデータ、それを手がかりに研究は進んできた。
「賢い生き方とはいえんな」
「飛ぶにはコレしかなくてや」
「代償に命を削っているんだぞ」
「でも──飛べんよりマシやろ」
老人は言葉を返すことはできなかった。
◇◆◇
【隠岐基地・翼納庫 [12:15]】
オル爺と細目少尉を探していれば、
不思議な事に2人とも同じ場所にいた。
(なんか雰囲気悪いけど、まあいっか)
「おーい、オル爺」
「......何じゃ、レコ助」
正直、探す手間が省けたという話。
俺は意気揚々と首にかけたカメラを見せる。
「写真撮ろうぜ」
「いきなりどうした」
「今日はそういう気分ってやつだ」
本当に思いつきなので、誰にもアポを取ってはいない。
ただ思うままに、基地の人間に声をかけた。
「ほら、細目少尉も」
「今日はパスな気分や」
「なら、オル爺は」
「わしは写真が嫌いでな」
「ええ、せっかく他の人にも声かけたのに」
おっさんとパーマと知り合いの数人にである。
結果的に、皆、渋々ながらも頷いてはくれた。
「集合写真か......レコ助、急になぜ」
(何故と言われましても、大層な理由じゃなくて)
「いや最近、飛んでみて思うんだけど──」
空は綺麗で、
透きとおるほど青いんだけど、
その青さに“俺たち”は含まれていない気がしてさ。
「明日、誰かがいなくなっても不思議じゃないなぁって」
「「.......」」
沈黙する2人。
(さすがに不謹慎だったか)
ごめんっと喋る前に──
「いいだろう、レコ助」
「しゃーないな、嬢ちゃん」
2人は笑顔で回答してくれるのであった。
翼納庫前の一枚の写真。
隠岐基地のメンバーが映った思い出。
忘れ事が多い自分には、写真はいいモノだ。
本はゆっくりと次ページに捲られる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
寝落ち投稿は作者のたしなみとなっています。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
誤字脱字報告があったので、おどります。
感想ももらったので、舞い踊ります。
えっ、喜びの表現方法が違う?
ブレイクダンスはちょっと無理です。