竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑳ 少女とテンプラ(小話)

【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:50]】

 

「天ぷらが食べたい」

 

少女の一言は飯時の喧騒にのまれていく。

 

向かいあって座るは白髪少女とぽっちゃり爺。

 

つまり、俺とオル爺だ。

 

少女は弁当を空にして、

爺は飲み物とツマミ片手に話す。

 

「次回の輸送まで無理だな」

 

隠岐基地の搬入は海運が9割を占める。

 

欲しい物資があったとしても、最速で届くのは次の輸送日である。

 

「分かってるけど、天ぷらが食べたい」

「無茶言うな、レコ助」

 

大人しくこれでも食ってろ、と

 

差し出されるは、付け合せの漬物。

 

「キュウリだ」

「いや、全然違うんだが」

 

必要なのはサクサク感。

間違ってもシャキシャキ感ではない。

 

まあ勿体ないので貰っておこう。

 

(うまっ)

 

絶妙な塩加減と歯ごたえが食を進ませる。

思わずご飯は欲しくなるクオリティだ。

だが天ぷらではない。

 

「レンコンはどうだ」

「ちょっと惜しい」

 

それが揚げてあれば完璧だけど、

今日はただのレンコンに用は無い。

 

でも勿体ないので貰っておこう。

 

(いい歯ごたえだ)

 

酢と唐辛子の加減が実にいい。

ピリッとした辛味が野菜の味を引き立たせる。

だが天ぷらではない。

 

「最後にコーラは?」

「ついに食べ物ですらなくなった」

 

コーラは飲み物である。

これが食べ物に見えるなら、眼科に行ったほうが賢明だろう。

 

もちろん勿体ないので貰っておく。

 

(喉にくる刺激が素晴らしい)

 

辛いモノを食べた後には甘いモノ。

古事記にもそう書かれている。

まあ天ぷらではないけど。

 

げぷっと小気味いい音をたて、お腹をさする。

 

「お腹いっぱいか?」

「お腹いっぱいだ」

 

「これ以上食べれるか?」

「これ以上は無理かなぁ」

 

「なら満足したか?」

「うん、満.....はっ、危ない!」

 

結局、天ぷらが食べれてないじゃないか。

 

キュウリもレンコンもコーラも美味しかったけど、俺はまだ肝心な物が食べれてない。

 

(危うく、オル爺の策略に乗せられるところだった)

 

前回もそんな感じであしらわれたが、今回は違う。

 

硬い意思と少女ながらのワガママぷりともって、要求を通さしてもらう。

 

「いや、天ぷらが食べれるまでここを動かん」

「まったく、あきれた意思じゃな」

「男には通さねばならぬ意思があるのだってことだ」

 

意思の大小ではない。

貫こうとする意思の有無が大事なのだ。

 

(だから、決して恥ずかしい話ではないッ)

 

そう、恥ずかしくはない、

だが、精神年齢おじさんがやることでもない。

 

「いいかレコ助、結局は油分あるかどうかじゃ」

「簡潔に言えばそうだけど」

「なら業務用油を飲めば変わらん」

「それはもうヤバい奴じゃん」

 

胃の中に入れば同じ理論だとしても、油を飲むのはいかがなものか。

しかも業務用油、血流がドロドロになりやすい、あの油だ。

危ないなんて俺にも分かる。

 

(オル爺、そんなことも分からなくなったか)

 

老人のボケとは恐ろしい。

ここは一つ、俺がハッキリ言っておかないと。

 

「せめてオリーブオイルにしないと、体に悪いだろッ」

 

コレステロール値が高くなったらどうするんだ。

 

「馬鹿、そもそも油は飲み物じゃねえ」

「うぐっ......おっさん何すんだよ」

 

叩かれた頭がジンジンする。

 

目を見開くとそこにはトリノ大尉がいた。

 

「全く、ぎゃーぎゃー騒いでどうする」

「騒いで天ぷらが食べれるなら安いだろ」

「周囲の視線のほうが高くつきそうだがな」

 

えっ、と思い周囲をみれば、

 

じっと見つめる隊員、多数。

 

左、視線をそらすパーマ、

  ニヤニヤ顔の細目は、右。

 

今は、昼飯時、

ただでさえ狭い基地。

そんな中で騒ぐ少女が目立たないワケがない。

 

ふう、と深呼吸、

 

ゆっくりと椅子をひく。

 

動きは一貫して滑らかで、決して急がず、まるで重力と調和するかのように自然に。

そう淑女のごとく。

 

いかなる時でも、優雅さは忘れてはいけない。

 

優雅ささえあれば──

 

「(なんでッ! 止めてくれなかった、おっさんッ!!)」

 

トリノ大尉に泣きついても許される......はず。

 

「(いや、止めただろ)」

「(もっと物理的に止めやがれッ)」

「(20mmを耐える少女を物理的に止めるのは無理だ)」

 

なんだこのおっさんは。

諦めるな。もっと頑張ってくれ。

 

その頑張りで、少女を社会的辱めから救えるかもしれなかったんだぞ。

 

「いや今更じゃろ、ゲロっとるし」

「オル爺、それまだ秘密情報ッ」

「アレ、そうじゃったけ」

「そうだよッ」

 

こんな人混みでバラされた話を止めることはできず、人を伝って、情報は広がる。

 

後日、俺の称号にゲロ助が追加されるのであった。

 

◇◆◇

【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:55]】

 

話題は戻る。

 

「レコ助、そもそもなぜ天ぷらを?」

「天ぷらが食いたいからだ」

「理由になっとらん......」

 

オル爺はあきれた顔である。

 

「てか、そこまで天ぷら好きでもないじゃろ」

「ぐっ、実は──」

 

 思い出すは翼納庫での盗み聞き。

 

 整備員達の楽しそうな会話である。

 

『天プラ(天使美少女プラモ)の話は聞いたか』

 

 (へー、今日は天ぷらの話か)

 

『ああ、今月の雑誌に載っていたやつか』

『かなり上手いって話だろ』

 

 (そんなに旨い天ぷらなのか)

 

『今回の大きさ知ってるか』

『いつもの15cmじゃないのか』

『おいおい限定版は1m越えだぜ』

 

 (1mの天ぷらッ? どうやって食うんだよ)

 

『でも、それだけじゃ』

『知らんのか? 今回の衣は着脱式だ』

『『衣が! 着脱式!!』』

 

 (衣をとってどうすんだよ。健康志向か?)

 

『しかも全部』

『『全部、脱げるのか!』』

 

 (衣がなくなった天ぷらに意味はないだろ)

 

『でも高いんだよなぁ』

『定価で10万だろ』

 

『いいのか、中身はぷるぷるでモチモチだぞ』

『『ぷるぷるでモチモチッ!』』

『もちろん、上も下も両方、だ』

『上も下もォッ!!』

 

『クソッ、欲しくなったぜ』

『安心しろ俺もだ』

 

(なんか、俺も天ぷらが欲しくなってきたな)

 

 ──以上回想、終了。

 

「いや、それは天ぷらの話じゃないじゃろ」

「俺もそんな気がしてきたけど」

 

思い返してみたら違和感しかない会話である。

 

だが、問題はそこではない。

 

過程はどうあれ、天ぷらを食いたい気分になったのだ。

 

それがこそが問題だ。

 

「あー分かった分かった天ぷらが味わえればいいんだろ」

 

あきれたトリノ大尉が助け船を出す。

 

「ちょっとこっち見ろ、レコ」

 

◇◆◇

【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:59]】

 

「で、結局どうしたんや」

「見ての通りだ」

 

目線の先には、白髪少女。

 

「え、エビ天だぁ、おいしい~」

「こっちはナスの天ぷらだぁ~」

「全部、天ぷらだ~えへへっへ」

 

「なんかキマってへんか」

「安心しろキマってる」

 

少女の頭には【(←誤→)】と書かれた札。

 

目は虚ろ、口からはヨダレが垂れている。

 

「闇魔法で、食材が天ぷらに感じるように洗脳した」

「法的にアウトやろ」

「身内の範囲ならセーフだ」

 

身内だろうと、許可なき闇魔法は禁じられている。

 

「効果いつまで続くんです?」

「一週間ぐらいだな」

「結構続きますな」

「レコの野郎、無駄に魔法を弾いてな」

「そんでこの様ですか」

 

帽子と服を変えれば、立派なキョンシーに見えそうである。

 

雑談途中だが、昼の休憩が終わりに近づき、一人一人と去っていく。

 

静かになった食事場で、少女一人食べるのであった。。

 

◇◆◇

【隠岐基地・翼納庫 [10:00]】

 

次の日

 

「オル爺、オル爺ッ」

「今日はなんじゃ」

 

「生野菜が食いたい」

「食えばいいじゃろ」

 

「いや──何食っても天ぷらの味がする」

 

少女の受難は今日も続く。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
俺は今日バニーの小説を書きたかったんだ(懺悔)
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
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