竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:50]】
「天ぷらが食べたい」
少女の一言は飯時の喧騒にのまれていく。
向かいあって座るは白髪少女とぽっちゃり爺。
つまり、俺とオル爺だ。
少女は弁当を空にして、
爺は飲み物とツマミ片手に話す。
「次回の輸送まで無理だな」
隠岐基地の搬入は海運が9割を占める。
欲しい物資があったとしても、最速で届くのは次の輸送日である。
「分かってるけど、天ぷらが食べたい」
「無茶言うな、レコ助」
大人しくこれでも食ってろ、と
差し出されるは、付け合せの漬物。
「キュウリだ」
「いや、全然違うんだが」
必要なのはサクサク感。
間違ってもシャキシャキ感ではない。
まあ勿体ないので貰っておこう。
(うまっ)
絶妙な塩加減と歯ごたえが食を進ませる。
思わずご飯は欲しくなるクオリティだ。
だが天ぷらではない。
「レンコンはどうだ」
「ちょっと惜しい」
それが揚げてあれば完璧だけど、
今日はただのレンコンに用は無い。
でも勿体ないので貰っておこう。
(いい歯ごたえだ)
酢と唐辛子の加減が実にいい。
ピリッとした辛味が野菜の味を引き立たせる。
だが天ぷらではない。
「最後にコーラは?」
「ついに食べ物ですらなくなった」
コーラは飲み物である。
これが食べ物に見えるなら、眼科に行ったほうが賢明だろう。
もちろん勿体ないので貰っておく。
(喉にくる刺激が素晴らしい)
辛いモノを食べた後には甘いモノ。
古事記にもそう書かれている。
まあ天ぷらではないけど。
げぷっと小気味いい音をたて、お腹をさする。
「お腹いっぱいか?」
「お腹いっぱいだ」
「これ以上食べれるか?」
「これ以上は無理かなぁ」
「なら満足したか?」
「うん、満.....はっ、危ない!」
結局、天ぷらが食べれてないじゃないか。
キュウリもレンコンもコーラも美味しかったけど、俺はまだ肝心な物が食べれてない。
(危うく、オル爺の策略に乗せられるところだった)
前回もそんな感じであしらわれたが、今回は違う。
硬い意思と少女ながらのワガママぷりともって、要求を通さしてもらう。
「いや、天ぷらが食べれるまでここを動かん」
「まったく、あきれた意思じゃな」
「男には通さねばならぬ意思があるのだってことだ」
意思の大小ではない。
貫こうとする意思の有無が大事なのだ。
(だから、決して恥ずかしい話ではないッ)
そう、恥ずかしくはない、
だが、精神年齢おじさんがやることでもない。
「いいかレコ助、結局は油分あるかどうかじゃ」
「簡潔に言えばそうだけど」
「なら業務用油を飲めば変わらん」
「それはもうヤバい奴じゃん」
胃の中に入れば同じ理論だとしても、油を飲むのはいかがなものか。
しかも業務用油、血流がドロドロになりやすい、あの油だ。
危ないなんて俺にも分かる。
(オル爺、そんなことも分からなくなったか)
老人のボケとは恐ろしい。
ここは一つ、俺がハッキリ言っておかないと。
「せめてオリーブオイルにしないと、体に悪いだろッ」
コレステロール値が高くなったらどうするんだ。
「馬鹿、そもそも油は飲み物じゃねえ」
「うぐっ......おっさん何すんだよ」
叩かれた頭がジンジンする。
目を見開くとそこにはトリノ大尉がいた。
「全く、ぎゃーぎゃー騒いでどうする」
「騒いで天ぷらが食べれるなら安いだろ」
「周囲の視線のほうが高くつきそうだがな」
えっ、と思い周囲をみれば、
じっと見つめる隊員、多数。
左、視線をそらすパーマ、
ニヤニヤ顔の細目は、右。
今は、昼飯時、
ただでさえ狭い基地。
そんな中で騒ぐ少女が目立たないワケがない。
ふう、と深呼吸、
ゆっくりと椅子をひく。
動きは一貫して滑らかで、決して急がず、まるで重力と調和するかのように自然に。
そう淑女のごとく。
いかなる時でも、優雅さは忘れてはいけない。
優雅ささえあれば──
「(なんでッ! 止めてくれなかった、おっさんッ!!)」
トリノ大尉に泣きついても許される......はず。
「(いや、止めただろ)」
「(もっと物理的に止めやがれッ)」
「(20mmを耐える少女を物理的に止めるのは無理だ)」
なんだこのおっさんは。
諦めるな。もっと頑張ってくれ。
その頑張りで、少女を社会的辱めから救えるかもしれなかったんだぞ。
「いや今更じゃろ、ゲロっとるし」
「オル爺、それまだ秘密情報ッ」
「アレ、そうじゃったけ」
「そうだよッ」
こんな人混みでバラされた話を止めることはできず、人を伝って、情報は広がる。
後日、俺の称号にゲロ助が追加されるのであった。
◇◆◇
【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:55]】
話題は戻る。
「レコ助、そもそもなぜ天ぷらを?」
「天ぷらが食いたいからだ」
「理由になっとらん......」
オル爺はあきれた顔である。
「てか、そこまで天ぷら好きでもないじゃろ」
「ぐっ、実は──」
思い出すは翼納庫での盗み聞き。
整備員達の楽しそうな会話である。
『天プラ(天使美少女プラモ)の話は聞いたか』
(へー、今日は天ぷらの話か)
『ああ、今月の雑誌に載っていたやつか』
『かなり上手いって話だろ』
(そんなに旨い天ぷらなのか)
『今回の大きさ知ってるか』
『いつもの15cmじゃないのか』
『おいおい限定版は1m越えだぜ』
(1mの天ぷらッ? どうやって食うんだよ)
『でも、それだけじゃ』
『知らんのか? 今回の衣は着脱式だ』
『『衣が! 着脱式!!』』
(衣をとってどうすんだよ。健康志向か?)
『しかも全部』
『『全部、脱げるのか!』』
(衣がなくなった天ぷらに意味はないだろ)
『でも高いんだよなぁ』
『定価で10万だろ』
『いいのか、中身はぷるぷるでモチモチだぞ』
『『ぷるぷるでモチモチッ!』』
『もちろん、上も下も両方、だ』
『上も下もォッ!!』
『クソッ、欲しくなったぜ』
『安心しろ俺もだ』
(なんか、俺も天ぷらが欲しくなってきたな)
──以上回想、終了。
「いや、それは天ぷらの話じゃないじゃろ」
「俺もそんな気がしてきたけど」
思い返してみたら違和感しかない会話である。
だが、問題はそこではない。
過程はどうあれ、天ぷらを食いたい気分になったのだ。
それがこそが問題だ。
「あー分かった分かった天ぷらが味わえればいいんだろ」
あきれたトリノ大尉が助け船を出す。
「ちょっとこっち見ろ、レコ」
◇◆◇
【隠岐基地・食堂/食事場所 [12:59]】
「で、結局どうしたんや」
「見ての通りだ」
目線の先には、白髪少女。
「え、エビ天だぁ、おいしい~」
「こっちはナスの天ぷらだぁ~」
「全部、天ぷらだ~えへへっへ」
「なんかキマってへんか」
「安心しろキマってる」
少女の頭には【(←誤→)】と書かれた札。
目は虚ろ、口からはヨダレが垂れている。
「闇魔法で、食材が天ぷらに感じるように洗脳した」
「法的にアウトやろ」
「身内の範囲ならセーフだ」
身内だろうと、許可なき闇魔法は禁じられている。
「効果いつまで続くんです?」
「一週間ぐらいだな」
「結構続きますな」
「レコの野郎、無駄に魔法を弾いてな」
「そんでこの様ですか」
帽子と服を変えれば、立派なキョンシーに見えそうである。
雑談途中だが、昼の休憩が終わりに近づき、一人一人と去っていく。
静かになった食事場で、少女一人食べるのであった。。
◇◆◇
【隠岐基地・翼納庫 [10:00]】
次の日
「オル爺、オル爺ッ」
「今日はなんじゃ」
「生野菜が食いたい」
「食えばいいじゃろ」
「いや──何食っても天ぷらの味がする」
少女の受難は今日も続く。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
俺は今日バニーの小説を書きたかったんだ(懺悔)
誤字脱字報告があると作者が喜びます。