竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
[司令官]
諸君、いよいよだ。いよいよソブエトの連中を叩きのめせる。
作戦の目的を伝える。 それは、ソブエト本土侵攻である。
[Briefing]────────
ソブエト連邦、ウーラジアストック港への大規模上陸作戦を開始する。本作戦は以後『凄位ジョウリク作戦』と呼称する。 なお、本作戦の指揮は第七艦隊が執るモノとする。
多数のアメリア軍上陸部隊が、揚陸艇で海岸へ向かう。上陸後、中隊は合流し、最終目標である港の制圧を目指す。
君たちには近隣海域を警備し、制空権の保持を遂行せよ。
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【隠岐基地・翼納庫[10:00]】
ピリついた空気。
上陸作戦の本筋ではない任務。
その事実はこの空で戦ってきた隊員達を刺激した。
その空気は翼納庫も同じだ。
「結局、ハエたたきかよ」
「モグラたたきに空軍は不要なんだろ」
「作戦に邪魔ってハッキリ言えばいいのによッ」
「おい馬鹿っ」
空気はいよいよ最悪に近づく。
もはや爆発寸前、後は誰が起爆させるか、それとも──導火線ごと引抜くか、だ。
「なら俺が全部落としてくるから、お前らは基地で待ってろ」
ぬっと両肩を掴むトリノ大尉。
おっさんは、殺伐とした中でもいつも通りであった。
「なッ」
「いやっ、あの」
「聞こえなかったか? 雑魚どもは基地に引っ込んでろ、だ」
頬が引きつる隊員2人。
「い、いいたいだけ言いやがってッ」
「た、大尉だって、ホントは思ってるんでしょ」
「知るか、俺に戦術眼はねえし、
上の考えてる事なんて分かるわけねえだろ。
分かるのは空で一番撃墜した奴が凄いぐらいだ」
にやっと頬をあげるおっさん。
とても悪い笑顔である。
「悔しければ口じゃなく、空で魅せるんだな」
「は、はい、もちろんっ」
「言われなくてもそうしてやるよッ」
去って行く2人。
若いな、と呟くおっさん。
きっと彼らは、この後急いで準備をするのだろう。そう、誰よりも先に空を駆けるために。
(んっ、足音?)
「まーた、恨まれてますやん」
「なんだ聞いてたのか、細目」
2人去れば、1人来る。
その人物は、にこにこ顔の細目少尉である。
「まあ、あの作戦には不満もでますわな」
「命令通りに動くのが軍人の役目だ」
「そう言っても、大方海軍の見栄にでしょ」
「ああ、空軍にはいい迷惑だ」
「内陸戦が多くなりそうだから、先に手柄が欲しい、全く海軍らしい考えですやん」
海軍に比べると歴史の浅い空軍。
その差は摩擦となって、命令にも影響を及ぼす事がある。
「お前は手柄が欲しくはないのか」
「ワイは空が飛べれば十分で。トリノさんもでしょ」
「いや俺は......ああ、そうだな」
トリノ大尉は自分の手袋を見る。
赤茶色に染まった飛行士用の手袋。
(洗えばいいのに、と思うのは失礼か)
「レコ......いつまでそこにいる」
「えって、いや、出るタイミングを失ってて」
大鳥の裏からゆっくりと出てくる。
(気づいてたんなら先に声をかけてくれよ)
バレた気まずさか、手を頭にあて、エヘヘと笑ってしまう。
「(そして、この空気)」
おっさんの言葉で軽くなったとはいえ、未だに殺伐とはしている。
そんな状況に、笑顔を貼り付けた少女。
見る者によってはお気楽に見え、
見るものによっては不快に思える。
(場違い感がハンパない)
見え方は人それぞれ。
例えば、おっさんにとっては──
「......飛ぶぞ」
戦う理由になったように。
少女はうんっ、と返事をするのであった。
◇◆◇
【ニホン海・上空/高度3000ft】
二個分隊、4機の大鳥は飛ぶ。
先頭におっさん、
後続に3機が続く形だ。
(雲はそこそこ、暢気な空だな)
黒点が視界にちらつく。
「おっさんっ」
抱きつき、耳元で叫ぶ。
「何が見える?」
「赤い布、大鳥の群れっ」
赤い布はソブエト連邦の証。
赤い布、青い空。
(目を凝らせば、わかりやすくて有り難い)
「尻尾の長さは?」
「大鷲より長い、かもっ」
「なら......燕の群れか」
燕は偵察用の大鳥に分類され──ガクンッ
急に、揺れる。
「ビビらすなよっ」
「味方に指示を飛ばすためだ、許せ」
「ならせめてだ──「ほら、もう一度だ」」
また体は揺れる。
大鳥の羽も、上下に揺れる。
(頭がぐわんぐわんする)
「通信とかでいいだろっ」
「魔力が濃すぎて無理だ」
バンクと呼ばれる行動。
一般的には味方機との識別のために使われる行動だが、簡易的な味方機への指示や警告として使われることもある。
「さて、ニュアンスはだいたい伝わったか」
「本当にか?」
「伝わらなきゃ、そこまでだ」
大鳥は首をあげ、空に昇っていく。
「上方と後方から攻めるぞ」
燕狩りの時間がはじまる。
◇◆◇
【ニホン海・上空】
ふっと身体が軽くなる。
万能時計の高度は──4000ft。
すでに敵の高度は追い越した。
「レコ、敵は?」
「高度3600辺り、斜め下、大きさ5」
「十分だ」
おっさんは伏せ、
俺は背をつかみ、
大鳥は翼をたたむ。
抵抗を出来るだけ減らす動き。
先ほどまで鼻先をかすめていた風はどこかに、
鼻腔はジャケットの匂いに包まれる。
「準備はいいか?」
「もちろんだッ」
高度は下降する。
──4000 ft──
──4ppp ft──
──3999 ft──
「よく、掴まってろッ」
──3800 ft──
「分かってらぁッ」
──3700 ft──
「敵も流石に気づくかッ」
──3600 ft──
敵の機銃が.....
「だが、遅ェッ」
12.7mmが、
燕を撃ち抜く。
「どうなったッ」
「手応えはあった」
空を見上げると、燕から白煙の尾がみえる。
「とりあえず、一機だな」
「本当に大丈夫なのか?」
「紙装甲な燕だ。どのみち満足には飛べんはずだ」
燕の魔力防壁は薄い。
速さを得るために、魔力を貯める場所である翼も小さく鋭くなっていった結果だ。障壁を厚くしようとすると、飛ぶための風魔法が弱くなるため、一般的には紙装甲の燕と言われている。
「もう一回いくぞ」
翼先が細雲を描く。
流れる細雲は、急上昇の証。
下から切り上げるように、燕を追撃する。
「安心しろ、後方撃ちの銃なぞ当たらん」
大鳥を左右にゆらし、
また一機と燕を喰っていく。
「あ、あっけねぇ」
「これが普通だ」
白煙が残る空で、俺たちは飛ぶ。
「ドッグファイトなんて基本はやらん。
空の戦いは、9割、先に見つけたモン有利だ。
先に見つけて上から機銃を撃ち込む、それで勝ちだ」
おっさんの言葉を区切られ、
握りしめる手袋からギリギリと音が鳴る。
「だが......だが1割、それでもぶっ殺してくる奴らがいる」
「撃墜数が云々じゃねえ。
どんな不利でも状況を逆転させる連中。
そいつらがこの空では──エースと呼ばれる」
死肉にたかる虫の様に、
大鳥達は手負いの燕に襲いかかる。
「まあ、今日は運が悪かったな」
落ちた燕からまた一人とパラシュートが開く。
「空のエースが俺だけのようだ」
後にのこるは青白い空のみ、だ。
◇◆◇
【隠岐基地・翼納庫[15:00]】
隠岐基地には、他の大鳥はいなかった。
「こんなにあっさりと帰っていいのか」
「いいに決まってるだろ」
「弾薬、魔力、装備、何が欠けても戦えねえんだ」
「そうだけど......」
まだ空で戦っている隊員もいる。
そんな中、自分たちだけ空を眺めていていいものなのか。
(複雑な気持ちだ......)
「帰るのも仕事の一つ、と覚えておけ」
「うん、わかった」
「それにだ、補給したらすぐ戻る」
「うぐっ、わかった」
頭に乗せられる手は結構重い。
持ち上げようとしてもなかなか離れない。
(俺の頭は小さいんだぞっ)
つい、うぐぐぐ、と唸ってしまう。
「ちょっとは気をつかえッ」
「はいはい、悪かった悪かった」
話している間に、整備員が近寄ってくる。
「大尉、補給はどの程度?」
「簡易的でいい。すぐに──「どうしました?」」
おっさんは俺を見る。
「いや、補助装置に違和感があった」
「全分解となると、さすがに」
「外部からのスキャンで構わん」
「それなら3時間程度で終わります」
すまない、と言い残すと、
おっさんは大鳥から降りる。
「おいレコ、飯行くぞ」
「えっ、すぐ飛ぶんじゃないのか」
「馬鹿が、お前が欠けても飛べんだろ」
そう言っておっさんは、俺を持ち上げるのであった。
その後、上手に箸が持てなくて、おっさんに食べさして貰った事は別の話。
(まさか、この程度の事で筋肉痛になるとは......)
意外と人間気づかないモノである。
[Message]────────
激戦の末、上陸部隊は目標の港を完全に制圧した。
ソブエト領内における今後の作戦展開にあたって、この港を第一の拠点とすることが決定された。
防御陣地の構築が終了次第、最終目標を首都「東モスカー」に向け、地上軍が進軍を開始する。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
色々いじってたら半日過ぎた事を懺悔します。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。