竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

21 / 44
記録㉑ おっさんと少女と距離

[司令官]

諸君、いよいよだ。いよいよソブエトの連中を叩きのめせる。

作戦の目的を伝える。 それは、ソブエト本土侵攻である。

 

[Briefing]────────

ソブエト連邦、ウーラジアストック港への大規模上陸作戦を開始する。本作戦は以後『凄位ジョウリク作戦』と呼称する。 なお、本作戦の指揮は第七艦隊が執るモノとする。

 

多数のアメリア軍上陸部隊が、揚陸艇で海岸へ向かう。上陸後、中隊は合流し、最終目標である港の制圧を目指す。

 

君たちには近隣海域を警備し、制空権の保持を遂行せよ。

─────────────

 

【隠岐基地・翼納庫[10:00]】

 

ピリついた空気。

 

上陸作戦の本筋ではない任務。

 

その事実はこの空で戦ってきた隊員達を刺激した。

 

その空気は翼納庫も同じだ。

 

「結局、ハエたたきかよ」

「モグラたたきに空軍は不要なんだろ」

「作戦に邪魔ってハッキリ言えばいいのによッ」

「おい馬鹿っ」

 

空気はいよいよ最悪に近づく。

 

もはや爆発寸前、後は誰が起爆させるか、それとも──導火線ごと引抜くか、だ。

 

「なら俺が全部落としてくるから、お前らは基地で待ってろ」

 

ぬっと両肩を掴むトリノ大尉。

 

おっさんは、殺伐とした中でもいつも通りであった。

 

「なッ」

「いやっ、あの」

「聞こえなかったか? 雑魚どもは基地に引っ込んでろ、だ」

 

頬が引きつる隊員2人。

 

「い、いいたいだけ言いやがってッ」

「た、大尉だって、ホントは思ってるんでしょ」

 

「知るか、俺に戦術眼はねえし、

上の考えてる事なんて分かるわけねえだろ。

分かるのは空で一番撃墜した奴が凄いぐらいだ」

 

にやっと頬をあげるおっさん。

 

とても悪い笑顔である。

 

「悔しければ口じゃなく、空で魅せるんだな」

 

「は、はい、もちろんっ」

「言われなくてもそうしてやるよッ」

 

去って行く2人。

 

若いな、と呟くおっさん。

 

きっと彼らは、この後急いで準備をするのだろう。そう、誰よりも先に空を駆けるために。

 

(んっ、足音?)

 

「まーた、恨まれてますやん」

「なんだ聞いてたのか、細目」

 

2人去れば、1人来る。

 

その人物は、にこにこ顔の細目少尉である。

 

「まあ、あの作戦には不満もでますわな」

「命令通りに動くのが軍人の役目だ」

 

「そう言っても、大方海軍の見栄にでしょ」

「ああ、空軍にはいい迷惑だ」

「内陸戦が多くなりそうだから、先に手柄が欲しい、全く海軍らしい考えですやん」

 

海軍に比べると歴史の浅い空軍。

 

その差は摩擦となって、命令にも影響を及ぼす事がある。

 

「お前は手柄が欲しくはないのか」

「ワイは空が飛べれば十分で。トリノさんもでしょ」

「いや俺は......ああ、そうだな」

 

トリノ大尉は自分の手袋を見る。

 

赤茶色に染まった飛行士用の手袋。

 

(洗えばいいのに、と思うのは失礼か)

 

「レコ......いつまでそこにいる」

「えって、いや、出るタイミングを失ってて」

 

大鳥の裏からゆっくりと出てくる。

 

(気づいてたんなら先に声をかけてくれよ)

 

バレた気まずさか、手を頭にあて、エヘヘと笑ってしまう。

 

「(そして、この空気)」

 

おっさんの言葉で軽くなったとはいえ、未だに殺伐とはしている。

 

そんな状況に、笑顔を貼り付けた少女。

 

見る者によってはお気楽に見え、

見るものによっては不快に思える。

 

(場違い感がハンパない)

 

見え方は人それぞれ。

 

例えば、おっさんにとっては──

 

「......飛ぶぞ」

 

戦う理由になったように。

 

少女はうんっ、と返事をするのであった。

 

◇◆◇

【ニホン海・上空/高度3000ft】

 

二個分隊、4機の大鳥は飛ぶ。

 

先頭におっさん、

後続に3機が続く形だ。

 

(雲はそこそこ、暢気な空だな)

 

黒点が視界にちらつく。

 

「おっさんっ」

 

抱きつき、耳元で叫ぶ。

 

「何が見える?」

「赤い布、大鳥の群れっ」

 

赤い布はソブエト連邦の証。

 

赤い布、青い空。

 

(目を凝らせば、わかりやすくて有り難い)

 

「尻尾の長さは?」

「大鷲より長い、かもっ」

「なら......燕の群れか」

 

燕は偵察用の大鳥に分類され──ガクンッ

 

急に、揺れる。

 

「ビビらすなよっ」

「味方に指示を飛ばすためだ、許せ」

「ならせめてだ──「ほら、もう一度だ」」

 

また体は揺れる。

 

大鳥の羽も、上下に揺れる。

 

(頭がぐわんぐわんする)

 

「通信とかでいいだろっ」

「魔力が濃すぎて無理だ」

 

バンクと呼ばれる行動。

 

一般的には味方機との識別のために使われる行動だが、簡易的な味方機への指示や警告として使われることもある。

 

「さて、ニュアンスはだいたい伝わったか」

「本当にか?」

「伝わらなきゃ、そこまでだ」

 

大鳥は首をあげ、空に昇っていく。

 

「上方と後方から攻めるぞ」

 

燕狩りの時間がはじまる。

 

◇◆◇

【ニホン海・上空】

 

ふっと身体が軽くなる。

 

万能時計の高度は──4000ft。

 

すでに敵の高度は追い越した。

 

「レコ、敵は?」

「高度3600辺り、斜め下、大きさ5」

「十分だ」

 

おっさんは伏せ、

俺は背をつかみ、

大鳥は翼をたたむ。

 

抵抗を出来るだけ減らす動き。

 

先ほどまで鼻先をかすめていた風はどこかに、

鼻腔はジャケットの匂いに包まれる。

 

「準備はいいか?」

「もちろんだッ」

 

高度は下降する。

 

──4000 ft── 

──4ppp ft──

──3999 ft──

 

「よく、掴まってろッ」

 

──3800 ft──

 

「分かってらぁッ」

 

──3700 ft──

 

「敵も流石に気づくかッ」

 

──3600 ft──

 

敵の機銃が.....

 

「だが、遅ェッ」

 

12.7mmが、

 

燕を撃ち抜く。

 

「どうなったッ」

「手応えはあった」

 

空を見上げると、燕から白煙の尾がみえる。

 

「とりあえず、一機だな」

「本当に大丈夫なのか?」

「紙装甲な燕だ。どのみち満足には飛べんはずだ」

 

燕の魔力防壁は薄い。

 

速さを得るために、魔力を貯める場所である翼も小さく鋭くなっていった結果だ。障壁を厚くしようとすると、飛ぶための風魔法が弱くなるため、一般的には紙装甲の燕と言われている。

 

「もう一回いくぞ」

 

翼先が細雲を描く。

 

流れる細雲は、急上昇の証。

 

下から切り上げるように、燕を追撃する。

 

「安心しろ、後方撃ちの銃なぞ当たらん」

 

大鳥を左右にゆらし、

 

また一機と燕を喰っていく。

 

「あ、あっけねぇ」

「これが普通だ」

 

白煙が残る空で、俺たちは飛ぶ。

 

「ドッグファイトなんて基本はやらん。

空の戦いは、9割、先に見つけたモン有利だ。

先に見つけて上から機銃を撃ち込む、それで勝ちだ」

 

おっさんの言葉を区切られ、

 

握りしめる手袋からギリギリと音が鳴る。

  

「だが......だが1割、それでもぶっ殺してくる奴らがいる」

 

「撃墜数が云々じゃねえ。

どんな不利でも状況を逆転させる連中。

そいつらがこの空では──エースと呼ばれる」

 

死肉にたかる虫の様に、

大鳥達は手負いの燕に襲いかかる。

 

「まあ、今日は運が悪かったな」

 

落ちた燕からまた一人とパラシュートが開く。

 

「空のエースが俺だけのようだ」

 

後にのこるは青白い空のみ、だ。

 

◇◆◇

 

【隠岐基地・翼納庫[15:00]】

 

隠岐基地には、他の大鳥はいなかった。

 

「こんなにあっさりと帰っていいのか」

「いいに決まってるだろ」

 

「弾薬、魔力、装備、何が欠けても戦えねえんだ」

「そうだけど......」

 

まだ空で戦っている隊員もいる。

 

そんな中、自分たちだけ空を眺めていていいものなのか。

 

(複雑な気持ちだ......)

 

「帰るのも仕事の一つ、と覚えておけ」

「うん、わかった」

「それにだ、補給したらすぐ戻る」

「うぐっ、わかった」

 

頭に乗せられる手は結構重い。

 

持ち上げようとしてもなかなか離れない。

 

(俺の頭は小さいんだぞっ)

 

つい、うぐぐぐ、と唸ってしまう。

 

「ちょっとは気をつかえッ」

「はいはい、悪かった悪かった」

 

話している間に、整備員が近寄ってくる。

 

「大尉、補給はどの程度?」

「簡易的でいい。すぐに──「どうしました?」」

 

おっさんは俺を見る。

 

「いや、補助装置に違和感があった」

 

「全分解となると、さすがに」

「外部からのスキャンで構わん」

「それなら3時間程度で終わります」

 

すまない、と言い残すと、

おっさんは大鳥から降りる。

 

「おいレコ、飯行くぞ」

「えっ、すぐ飛ぶんじゃないのか」

 

「馬鹿が、お前が欠けても飛べんだろ」

 

そう言っておっさんは、俺を持ち上げるのであった。

 

その後、上手に箸が持てなくて、おっさんに食べさして貰った事は別の話。

 

(まさか、この程度の事で筋肉痛になるとは......)

 

意外と人間気づかないモノである。

 

[Message]────────

激戦の末、上陸部隊は目標の港を完全に制圧した。

ソブエト領内における今後の作戦展開にあたって、この港を第一の拠点とすることが決定された。

防御陣地の構築が終了次第、最終目標を首都「東モスカー」に向け、地上軍が進軍を開始する。

 

─────────────




ここまで読んでいただきありがとうございます。
色々いじってたら半日過ぎた事を懺悔します。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。