竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ウーラジアストック港・仮設資材置き場[11:59]】
積み荷という荷物が港には積載され、港の半分が荷物置き場と化している。乱雑に積まれた荷物を縫いいるように、人々は行動する。
軍人、少女、老人、
性別も年齢も、職業もバラバラな連中がこの港には集まっている。
そんな中──女性が一人。
「やっほー」
「三度の飯より、放送が好きだ」
「刹那に生きるラジオMC、爆誕だァッ」
ブラウンな茶髪なショート。
ノースリーブの緑色のトップス、
右肩の腕章には「記者」と書かれている。
「えっ、なんでこんなところにいるのかって?」
「そりゃあれよ」
「お金のためよ」
「権力には逆らえなかったのォ!」
「あーのクソ安ラジオ会社だけでいきていけるかっつーの!!」
女性は握り拳をつくる。
「で、テキトーなバイト探してたら」
「戦地に行ってから記事書いてこいだってッ」
「一週間? ふざけんじゃないわよ、クソバイト」
握り拳は両手に増える。
「いいわよ、特大スクープ見つけて、帰ったらあいつらぎゃふんといわせてやるんだから」
ガンッ。木箱に足をかけ、
仁王立ちを決める。
「これが下剋上を決める女、シル──「ドカンッ」」
爆発。足下の木箱は四散する。
吹き飛んだ木片には『魔石につき危険』の文。
「おーい、なんか爆発したぞ」
「周囲で火事は起きてたりするか?」
「いや、起きてはいないが」
「なら気にすんな。搬入作業を続けろ」
黒煙を纏う地面から、
突き出すは、
右手。
「くくく、この程度の逆境で、私が止められるァ......「荷物通ります」──ぐはっ」
右手は、ぐきっと倒れるのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・仮設翼納庫 [13:00]】
空いたスペースに案内された俺達は、魔法を止め、ようやく一息つくことができた。
(あー、頭いてー)
帽子を取ると、あふれる白髪。
ジャケットは、ぶかぶかな少女。
つまるところ、俺である。
「つかれたーァ゛」
「なんて声出してんだ」
「疲れてんのは、疲れてんだ、おっさんっ」
今日の任務は、ソブエト軍の輸送物資の破壊。
任務終了後、補給もかねて俺達はウーラジアストックに着陸した。
「だって5時間も飛んでたんだぜ」
「休みながら飛べば問題ない」
「無茶をいうなし」
「用は慣れだ」
「基地に戻るまで時間がある。
それまで休んでおけ。
俺は野暮用を済ましてくる」
じゃあな、と言い切ると、
おっさんは去っていった。
「簡単に言ってくれるぜ」
休憩用テントに進む足取りは重い。
(ちょっと寝たほうがいいかもなあ)
進むたびに靴が黒くなるほど、石造りの路面は煤だらけだ。
「えっと、ここの角を──」
「むむっ、そこのガール、ネタの匂いがするッ」
「ネ、ネタの匂い?」
そんな気分だったからだろうか、
路地を曲がった途端、奇妙な女性にからまれる。
「ふふふ、我がラジオ魂が叫んでいるッ」
腰に手をあて、高笑いする女性。
(見るからにヤバい奴だな)
「取り敢えず憲兵呼ぶか」
「ええい、待てッ、早まるなッ」
ガシッっと掴まれる右手首。
「これだから最近のベイベーは」
「ガールとベイベーのどっちだよ」
分かりにくいので、どっちかに統一しろ。
「貴様ッ、さては私を疑っているなッ」
「ヤバい奴だとは思ってるよ」
疑うとかの次元は過ぎている。
すでに本能的に危機を感じるレベルだ。
「っ、ならば、この腕章が目に入らぬかァ」
腕章には【記者】の2文字。
「えっと、記者?」
「そう、私こそがこの戦地を取材にきたバイトウーマン」
「シル──ぐはっ」
「あっ、ちょっと通ります」
急に表れる荷物運び。
移動経路には運悪く、女性記者。
荷物に轢かてた女性は、きれいに弾き飛ぶのであった。
「おーい、大丈夫か」
「だ、大丈夫、じゃない......」
目の前には倒れた女性が残るのみ。
目はぐるぐると回っていた。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・救急テント [13:30]】
機材の巨体によって内部は狭くなっており、ベットは斜めに整然と並べられている。周囲には生臭さとアルコールの匂いが滞留し、患者が大半を占めている。
「あー、助かったわ、名も知らぬ少女よ」
「いや、そんなに感謝されるような事はしてないけど──」
と、言い切る前に、
飛び起きる女性。
「だがァ、それでも取材さしてもらう」
「お、おう」
「少女よ、この高貴な私の“マネー”な踏み台となるのだ」
着地一回転、
荷物からノートとペンを取り出して、
女性は俺に食い入るように、俺を見る。
「とりあえず名を聞こう、少女よ」
「スカイ・レコード」
「職業、年齢、階級はッ」
「清掃員、12歳、民間人」
「へえ、階級は民間人なのね......って民間人ッ」
「そんな驚くことか?」
「なーんで、民間人がこんなところにいるのよ」
周囲を見る。
右には唸っている軍人さん
左にはもっと唸っている軍人さん。
ちなみに外からは定期的に爆発音が聞こえる。
間違っても民間人が居ていい場所ではない。
(そういえば.....獣医を名乗れって言われてたんだっけな)
「えっと、清掃員兼獣医の民間人だ」
ジッ。目を見つめられる。
「怪しいわね」
「いや、あ、怪しくはないが」
「戦地に幼い少女がいると思う?」
(正直、むっちゃ怪しいと思います)
「もしかしてスパイってことも」
「いや、全く違うが」
ビシッ。人差し指が指される。
「いや、言っている。
私のラジオ魂が言っている。
貴方はとっても怪しいとッ!!」
キュピーン。ドヤ顔で俺を見る。
「そんな決めポーズされても、何も出ないぞ」
「この荒ぶる大鷲のポーズの意味が分かるまい」
女性は腕を大きく上げたまま、近づいてくる。
具体的に互いの距離は30cm 。
もはや軽いホラーである。
「少女、お前はすでに蛇ににらまれたカエルにすぎんの「ギュウルルルルぅ」──いや、コレはあの」
急に赤面する女性。
その様子は“意外”というほど可愛らしい。
(コレがギャップ萌え、か)
もっと夢のあるギャップ萌えをしたかった。
「と、とりあえずご飯とか、どうだ?」
「もちろんいただきますッ」
俺の安直な話題そらしに、
女性は食い入るように頷くのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・食事用場所[14:00]】
怪しい女性記者は、シル──さんと名乗った。
(普通に話すと、普通に常識人だな)
おかしくなるのはテンションが上がったときだけらしい。
「へー、そんな理由で記者やってんのか」
「そーよ、そーよ」
モグモグもぐもぐ。食べる2人。
少女こと俺は頬にソースをつけ、
女性──シルさんもいい食べっぷりである。
「他にも、多数の仕事を掛け持ちしててね」
「他の仕事って?」
「本作りとか、土木建築とか、獣の討伐とか」
「幅広すぎんか」
しかし恐ろしいほどバラバラだ。
(何考えてそんなことやってんだか)
「そんなに働いてどうすんだ?」
「むっ、どうする、ときたか」
宙で回したスプーンを、シルさんは俺にまっすぐ向ける。
「少女よ、世界を動かすものはなんだと思う」
急な質問だな。
(人間ってのはベタすぎるし、社会ってのは哲学すぎる)
「情報とか?」
「悪くはない答えだが、違うッ」
「正解は金だ!
金が世界を動かすのだ!!
だからこそ私は大金持ちになるッ!!!!」
「で、そのために働いてると」
「否、このスーパーウーマンはそんな事はしないっ」
スプーンを逆にくわえ、腕を組む、シルさん。
破れた緑の服は、謎の風によってたなびく。
「様々な職に就くには仮の姿──」
「正体は、いい男を引っ掛けようとする悪女だッ」
「......堂々と名乗ることか、ソレ」
少なくとも悪女は自らを悪女と名乗らない。
「金持ちを捕まえて、金持ちになる。
コレこそが私が見出した、
人生を楽に生きる方法ってやつよ」
「でも、現状がハードモードじゃん」
「それは必要経費だから、セーフッ」
あーだ、こーだ、言いながら話し続ける2人。
結局、トリノ大尉がやってくるまで話しは続くのであった。
休憩なのに、休憩できていなせいで、おっさんに怒られたのは別の話だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この記者自己紹介だけで一話もっていきやがりました。バケもんです。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。