竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
[Briefing]────────
ウーラジアストックを中心としていたソブエト軍が撤退活動を開始した。一時兵を引き、北にあるハバーフスク砦に集合するものと分析されている。
先の上陸作戦により、ソブエト北軍は大規模な損害を受けており、敵の襲撃回数からもそれが見て取れる。輸送大鳥を中心とした敵航空部隊を一挙追撃、撃破し、撤退を阻止せよ。
作戦開始時刻は[16:00]とする。
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【ウーラジアストック港・食事場所 [19:00]】
公園だった場所は遊具が全て撤去され、外観を彩っただろう木々は全てが伐採されていた。
辺りには「動くレストラン」こと、フィールド・キッチンがところ狭しと並べられ、兵士達で賑わいを見せる。
「腹減った」
ギュルル。漂う匂いが空腹を刺激する。
飛行時間は3時間。
戦闘を含んだ3時間。
たったソレだけで、脳もお腹も限界だ。
(簡単に疲労して、俺は飛び続けれるのかよ)
不安半分、空腹半分で、食事の配給所を見る。
「まだ並んでんだよなぁ」
ウーラジアストック港にいる兵士の数は大体4000人。
占領してから間もないためか、食事場所も数カ所しかなく、兵士達が食べる場所にテントすらない。
「やっぱり、混むよな」
時刻は夕飯前、配給場所には長蛇の列。
並んでいるだけで1時間は経ちそうである。
(でも、町に出ることはおっさんに禁じられてるしなぁ)
どうしたものかと思う中、
視界にはちょろちょろと動く人物が目に入る。
「激写ッ 、激写ッ、激写ッ」
シャッターを切りまくる女性。
腕の腕章には【記者】の文字。
つまり、シルさんである。
「激写ッ 、激写ッ、激写ッ」
周囲には煙たがれるどころか、ヤバい人すぎて無視される始末。
翼納庫に張り付く記者はいたが、食事場で暴れる記者には初めての遭遇だ。
(絶対ろくな事になんねーだろ)
周囲が見て見ぬフリをするということは、そういうことである。
「(よし、関わらない様にしとこう)」
判断一瞬、回れ右。
足も、気持ちも後ろ向き。
ご飯を食べれないのが悔やまれる。
(おとなしく翼納庫で鳥に囲まれて寝るか......)
食べれないなら、せめて休憩はとるべきだろう
と、一歩を踏み出した途端、
「──むっ、そこにいるな、謎ガールッ」
おかしい。向こうからは姿も、影も見えていないハズだ。
(とりあえず机の影にでも隠れ......)
ぽん。肩に手の感覚。
「──残念だが、ガールはスクープになる運命なのだ」
「ひえっ」
馬鹿な数メートルはあったぞ。
「ふはっはは、では早速スクープになって貰おうッ」
両手でガッチリと捕まえられる俺。
「まずは適当な兵士を発見。
そこにガールをシュートッ!
そしていい感じの角度で激写ッ!!」
バシバシバシ。焚かれるフラッシュ。
照らされるは、絡み合う少女と兵士。
(イテテッテ......頭打ったじゃねーか)
「題名、『夜、少女との愛』。
兵士と年齢の垣根を越えた愛憎劇。
コイツは世紀のスクープを撮っちまったぜ」
なお、タダのねつ造である。
「では、あばよ──」
「逃がすかッ」
「なっ、だがカメラを取られたところで」
両指で四角形をつくる、シルさん。
白い手袋には【(←写→)】と書かれている。
「激写ッ」
パラリ。極彩色の後には、一枚の写真。
少女が写る一枚の写真である。
「題名は、『少女、暴行、心無し』
戦火によって荒んだ少女の蛮行、
ふふふ、これでも十分なスクープに──」
「すみません、許可なき魔法発動は禁止です」
急に割り込んでくる警備兵士。
「えっ、でもコレ、ただの撮影魔法で......」
「規則は規則です」
「きちんと撮影許可も取ってますっ」
「それはカメラでの撮影許可ですよね」
「さ、撮影魔法も一応......」
「では貴方は先ほど発動した魔法が“そうである”と証明できますか?」
シルさんの答えは沈黙。
魔法の発動は極彩色で分かる。
だが何の魔法かまでは判別することはできない。
(たとえ危険な魔法が発動しても相手には分かんない訳だしなぁ)
「だからこそ、魔法の発動には許可がいるんですよ」
その後、念の為、カメラと写真を没収されるシルさんの姿があった。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・配給所 [19:30]】
「うお、ゆるせねェ。あの兵士私のスクープをおおおお」
「代わりに飯食ってんだからいいじゃん」
あの後、お詫びということでご飯が支給されたシルさん。
(本来なら牢獄行きでも、おかしくはないんだよなあ)
現在、アメリア軍は港の要塞化中。
忙しい事もあってなのか、
カメラを没収するだけで不問とされていた。
「そういや、さっきの魔法」
「ん? ほぎゅごほぎゅ (撮影魔法の事)?」
「食ってからでいいよ」
横では流し込むようにパスタが消える。
ゴクン。どうやら食べ終わったようだ。
「私の撮影魔法は世界一だからなッ」
「いや、なんでカメラ使ってるか気になって」
ウグッ。シルさんの頬が引きつる。
「そ、それは一日に撮れる制限がありまして」
「魔法なのに?」
「固有魔法だからだよっ」
固有魔法、
魔力の量に関係なく、一日に使える回数が決まっている魔法。
どのような固有魔法が使えるかは“生まれた時”に決まるため、一種の才能とも言われる。
魔力があれば無限に使える【水魔法】や【風魔法】などの属性に関する魔法とは異なり、“使用回数”というモノが何故存在するのかは議論の的である。
「いいか、ガールよ。
固有魔法は必殺の技。
むやみやたらに使うモノではないのだ」
良いように言っているが、それはただの言い訳だ。
「本音は?」
「ぶっちゃけカメラの方が画質がいい」
「身も蓋もねえ」
「ピントさえ擦れなければ、こんな事には......」
どうやらカメラの調整自体は手動らしい。
しかも脳内で感覚的に行うとか。
(思った以上に不便だな)
「むっ、今不便だと思ったな」
「いや思ってないが」
「なんなら“次週に上位互換が出そうな魔法”だなって思ったな」
「いやそこまでは思ってはないが」
ブーブー。シルさんの口から非難がとぶ。
「ウルセー、どーせそうですよ。
後輩に仕事奪われる程度の魔法ですよ。
なにが、私100枚撮れて、画質もいいです☆って、ふざけてんのかァ」
非難は、火となり、燃え広がり、
気づけば、心の導火線に着火したようだ。
「配置変えやがってよ、セクハラ編集長が、
お前が後輩という名の女狐に賺されたのは分かってんだよォ」
もはやただの愚痴である。
「で、仕事奪われたと」
「いや、女狐と一騎打ちすることになった」
「なんでだよ」
今のは会社追放パターンじゃないのか。
(どっから決闘フラグを拾ってきたんだよ)
「で、負けたのか」
「いや一騎打ちには勝った」
「勝つのか......」
「ああ、女狐を上回る写真を叩きつけてやった」
どや顔をするシルさん。
ただ一つ、ここで疑問が残る。
「あれ、今の仕事、ラジオ放送じゃ?」
「編集長の“顔面”に叩きつけたのが失敗だった」
「おい」
ついやってしまった、悪気はなかったとシルさんは語る。
(俺に語られても困るんだが)
「ガールよ、間違っても上司は殴るなよ」
「言われなくても殴らねぇよ」
「殴るぐらいなら、殺ったほうがいい。後処理が簡単だ」
「違う。そもそも殴るな」
ふふふふふ。虚ろな目で笑顔なシル記者。
ぎゅるるる。腹の虫が限界な俺。
(そういや結局、ご飯食べれなかったな......)
俺は──なんで話に付き合わされたんだろうか。
そう思うしかない、一日であった。
[Message]────────
ソブエト軍の空路による 撤退作戦の阻止に成功した。
これにより、首都への進軍はより確実なものとなるだろう。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
シルさんいつまで脳内に居座るつもりなんだろ。そろそろ追放しなきゃ(使命感)
誤字脱字報告があると作者が喜びます。