竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【隠岐基地・翼納庫 [11:30]】
ゆらりゆらり。少女の髪は揺れる。
(あー、最近切ってなかったしなぁ)
じゃまだな、と思うは白髪少女。つまり俺だ。
キラリ。白髪は輝き、
一歩踏みだせば炎天下、
隠岐の風は思ったよりも強い。
「あいかわらず、あっちいな」
翼納庫の外と内では気温が5℃ぐらい違う。
陽炎揺らぐ滑走路から目を背け、影の方に目をやると、
「何やってんだ、オル爺」
「ちょっとした暇つぶしじゃよ、レコ助」
太っちょな爺がせこせこと作業をしていた。
そして影には、もう一人。
「小遣い稼ぎの間違えやろ」
「まあそう怒るなよはっはは」
「休憩時間潰された身にもなってみいや」
細目少尉は渋々といった感じである。
「何やってんだ」
床に並べられているのは、
無色、無色、無色、緑色の珠、
2種類の珠が大量に置かれている。
(きれーな石だな)
「魔石を見るのは始めてか」
「いや小さいヤツなら見たことあるけど」
小石サイズのモノはよく見るが、
水晶玉のように大きいモノを見たのは初めてだ。
(普段は危険だからって倉庫にしまってあんだよなぁ)
「まあ一般人には不要なもんじゃからな」
オル爺はひょいと珠を持ち上げる。
無色の珠を見せる。
「こっちが使い切った魔石で」
緑色の珠も見せる。
「こっちが魔力を入れた魔石じゃな」
「へぇー、綺麗だな」
内部には緑閃光が渦巻いている。
「コレ、なにに使うんだ?」
「主には補助装置用じゃよ」
魔法補助装置。
大鳥が飛び続けるために必要な装置だが、最初に装置を起動する為に、魔力がいる。
毎回、手で起動するには魔力量や濃度の調整が必要となるため、魔石で起動するのが一般的である。
「まるで電池みてーだな」
「電池? なんじゃそれは......」
「ええっと、雷魔法を蓄える道具みたいな」
「あいかわらず、よく分からんことを言う」
オル爺はうさんくさい目で俺をみつめる。
「魔石があるのに、
「それもそうか」
この世界のモノは大体が魔力で動く。
魔力で灯るライト、魔力で渡る船、魔力で鳴るラジオ。
一見、普通の機械でも中を開けたら魔石が入っていることはざらにある。
元の世界での“電気”という概念が、ごっそりと“魔力”に置き換わった感じだ。
「あの、喋ってないで作業してくださいや」
「若者の仕事を奪ってはならんじゃろ、ほら」
「それは仕事してから言う台詞やッ」
どうやら先程までも細目少尉に作業を押し付けていたようだ。
おかげで、偏りがひどい。
緑色の珠は少尉の前に、
無色の珠はオル爺の前に、
といった悲惨な様子である。
「そもそもこんな屑、回収モンやで」
「屑? 回収?」
「こういうのを屑魔石っていうてな」
一つの無色の珠を見せられる。
よく見ると内部は白く濁っている。
「ここまで濁ると、回収して別のモンに使うんや」
「へー」
屑魔石の用途は様々である。
例としては、曳光弾。
空戦における銃弾として一般的な弾。
発火体には屑魔石を利用した火魔法を用いて発光させている。
「あれ、こっちの木箱は?」
オル爺の座っていた場所にポツンと置かれている。
中から覗くのは赤い色。
(なんか、吸い込まれそうな赤色だな)
「そいつは廃棄用だ」
「へえ、綺麗なのにもったいないな」
箱に触れようとするが、
「うかつに触ると爆発するぞォ、ドカーンッ!!」
「へっ!?」
思わず飛び退いてしまう。
「ちょっ、脅かすなよッ」
「いや、実際危険なんじゃよ、ほれ」
箱にはデカデカと【第二種危険物】と貼られている。
「んな危ないモン置いとくなッ」
「毎回ゴミに捨てるの面倒なんじゃよ」
(全く、これだからオル爺はッ)
危険物の取扱いぐらいきちんとしてほしい。
「んっ、どこに行くんじゃ、レコ助」
「今日もおっさんと飛ぶんだよッ」
プリプリと怒りながら、翼納庫を後にするのであった。
◆
「ええんですか、その魔石について話さなくて」
細目少尉の視線は木箱に向く。
(赤い魔力は──竜の魔力)
竜の魔力は濃密で濃厚だ。
故に魔力の色も緑色ではなく赤色。
循環する血の如く、歴史を感じさせる赤色なのだ。
(わざわざ廃棄用に隠すほどのモンやしな)
「まあ──って、おらんやんけッ」
翼納庫には少尉の言葉が木霊する。
気づけば、翼納庫の入口からは風が吹いていた。
◇◆◇
【隠岐基地・翼納庫 [11:50]】
やぽあり外は暑い。
(げっ、もうこんな時間か)
おっさんとの約束の時刻は12:00。
猶予はあと10分といったところか。
(今日はなんの任務をやらされるんだか)
「で、どうしたオル爺」
オル爺は、横に並ぶように立つ。
「空はどうだ?」
「最近は上から眺める楽しさを知った」
「そうか......なら飛ぶのはどうだ?」
「大変だけど、楽しいってヤツだな」
「そうか.....じゃあ大鳥はどうだ」
「ようやく羽の手入れが出来るようになったぜ」
「そう...か......なら銃を握ったか?」
「銃? いや握ってはいないが」
「そうかッ、ならっ......いや、無粋だったな」
オル爺は俺を見つめる。
目線は俺の頭よりも少し上だ。
「レコ助......時間ってのは恐ろしいな」
「急に湿っぽい言葉だな」
「湿っぽくもなる」
「昨日までよちよち歩きしてた奴が、今日見たら楽しいそうに空を飛んでんだぜ」
「誇張が過ぎるだろ」
「爺にはそれぐらいの感覚だ」
オル爺は座る。
地面にゆっくりとだ。
「結局、何も教えれなかった」
「そんなことはねぇよ」
「──オル爺がいたから俺は一歩を踏み出せたんだ」
“それ”は間違いない。
「あんなモン人生の一欠片に過ぎん......ホントはこうだな」
オル爺は手を大きく広げて、止まる。
「コレは、お前さんには不要なモン......だな」
時刻は[11:57]
おっさんとの約束の時間まであと少しだ。
「レコ助、行くのか」
「ああ、行く」
「飛ぶのか」
「ああ、飛ぶ」
オル爺は帽子を深くかぶる。
「なら、いってこい」
「応ッ」
俺はその場を去るのであった。
[Radio broadcasting]────────
『お昼のニュースです』
『沖縄付近で観測された台風は北上を続け、』
『進路は本島より上のコースを辿っています』
『明日には日本海を通過、大陸に上陸の予想です』
『歴代最強と呼ばれた台風の被害は......』
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。