竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
[司令官]
貴様達に命令を伝えるッ。
[Briefing]────────
我が軍の偵察機および輸送機が、ウーラジアストック南西の空域で次々と行方不明になるという不可解な事態が発生している。この現象はすでに数週間にわたり続いており、失踪機体の捜索を試みた救援隊も全て消息を絶った。
この異常事態が起こっている空域の調査および敵勢力の関与があるかの確認が最優先任務だ。我が軍は、この空域に敵の新型兵器もしくは隠れた基地が存在している可能性を強く疑っている。諸君の任務は、この空域に飛び立ち、異常の原因を究明することだ。
なお大型台風「テンペスト」の接近により天候が不安定である。十分注意されよ。
─────────────
【ウーラジアストック港・西南/高度3000ft [13:00]】
青い空──大鳥は飛ぶ。
「敵はどこだよ」
周囲に見えるは雲海。雲は3で、空は7、日差しは強め。
「飛んどけばいつか現れる」
「暢気かよ、おっさん」
「当然だろ、レコ」
帽子にジャケットに身を包んだおっさんは、あくびをし、
白髪少女な俺は、あきれた視線を向ける。
「後ろはピリピリしてるってのによ」
「奴らはまだ練度が足らん」
後方には、3機の大鳥。
翼を左右にゆらして、
大鳥は緊張感を顕わにし、
操縦者も周囲を念入りに確認する。
大鳥の障壁が──ゆれる。
『敵は来てない、ようです』
『なんでこんなに呑気に飛んでんだよッ』
『正気かよ、ウチの隊長はイカレてんのかッ』
「向こうの声届いてるし」
「どうせ魔力が濃いんだろ」
離れているにも関わらず、障壁越しに音が届く。
一説によると魔力を媒介として声が届くとされているが、正確な原理は解明されていない。
(これ知らないうちに声が届くから、迂闊に喋れねえんだよな)
両方の声が届くこともあれば、一方的に声が届く事もある。難儀な現象だ。
「常に警戒している餌がいるか、馬鹿が」
「だからって呑気すぎねーか」
「戦う時に本気になれば問題ねぇ」
おっさんは12.7mm機関銃をとんとんと叩く。
「餌の役目は何時間も、アホみたいな飛行をするのが任務だ」
「アホみたいな飛行に付き合わされる身にもなってみろ」
「勝手についてきただけだろ」
本来は長時間の飛行には向かない俺たち。
今回はその弱点を補うべく、装備が一つ取り付けられていた。
「やっぱり魔力タンクは邪魔だな」
魔力タンク。
円柱のタンクには大量の魔石が入っており、約330Lほどの魔力を貯蔵することが出来る。
「なんで今まで使わなかったんだ」
「使い捨てると整備課に殺されるんだよ」
「冗談だろ」
「冗談抜きで、だ」
魔力タンクは大量の魔石を使う都合上、物凄く高価である。
具体的に言えば、4万ドル(400万円)ほどである。
「大鳥の腹につけた、コレがねえ」
ビュウウ。下を覗いた顔には冷風が。
ゴーグルをつけていても目が痛い。
(下手に体出すと吹き飛ばされそうだな)
「大丈夫かよ、コレ」
「強い風の何にビビる必要がある」
「だってここらでも黒い雲が見えるんだぜ」
南南東の向こうに見えるは、バカでかい雲海。
内部は真っ黒。
ときどき黄色い閃光。
雷鳴は雲海の中で轟いている。
「デカいだけの雲だろ」
「いや、そうだけど」
おっさんは俺を横目に見る。
その視線は“しかたねえな”といった感じだ。
「......安心しろ」
「なんか安心できる要素あったか」
おっさんはニヤリと笑い、
「俺の方が台風より、風は上手く使える」
(いや、張り合うところ間違ってない......)
冷たい視線を向けそうになるが、
どうせ、コレがおっさん流の安心のさせ方なのであろう。
(不器用というか、下手だ......)
だがおっさんの不器用な努力には、
俺も全力で返すといのが礼儀というもの。
「なら、安心だなっ」
大きな声で少女は叫ぶのであった。
大鳥は──風を切るように飛ぶ。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・西南/高度4000ft [14:00]】
流れる風の音が耳にとどく。青く澄んだ空は広がり、太陽の光がゴーグルのレンズ部分に反射してキラリと輝く。ただ自分と大鳥、そして広がる大空だけが存在するその空間には、静寂と孤独が支配する。
「(あれっ?)」
空に違和感。
視界の端には影。
「おっさんっ」
「レコ、何が見えた」
「機影、3機。だけど──」
2機は普通、
問題は正面の1機。
一番、先頭で向かってくる一機。
「──赤い、ツバメ」
「ッ......搭乗者の姿は」
震え。おっさんには珍しい声。
「えっと......赤い、鎧ッ!?」
俺の瞳が捉えたのは、騎士。
冗談みたいな格好な、騎士。
(空で騎士の格好をする意味が分からない)
誇示のためか、鼓舞のためか、それともただのイカレ野郎か、
なんにせよ只者ではあるまい。
「レコ、歯食いしばっとけ」
おっさんは帽子を調節する。
「はぁ? 接敵まで数分はある距離だぜ」
「いいや、
何を言っているんだ、とは言い切れず。
言葉と思考が届くより早く、
それよりも早く、
「なッ──」
騎士が横切る。
『二人乗りとは、酔狂な』
障壁を通して響く、
甲高い透き通った声。
(まだ数秒しかたってねえってのに)
数秒、数刻、刹那のさなか、
騎士の視線はこちらを射抜く。
『少女か、おもしろい』
俺は見つめ返すのみ。
(言葉が、上手くでねえ)
そう思わせるほどの存在感。
鎧が、ツバメが赤いのではない、
奴の滲みでる魔力が赤いのだ。
「(バケモンかよ......)」
「──レコ、目に頼りすぎだ、頭で考えろ」
言葉がよぎり、
一息。呼吸をいれる。
肺に空気が満ち、脳に酸素が渡る。
視野はゆっくりと明瞭になる。
「──眼、凝らしとけ、コレが今回の敵だ」
過ぎゆく、騎士。
赤色の兜、
赤黒い鎧、
赤いパンツ、
褐色のブーツ。
「ん......? あれ」
今おかしなところなかったか。
もう一度騎士を見る。
頑丈な兜、
頑丈な鎧、
そして──薄いトランクス。
「へ、変態だ......」
『失礼な、ブーツは履いているぞ』
違う、そういう問題じゃない。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・西南/高度4000ft [14:03]】
「レコ、気をつけろ」
「どこにだよッ」
後ろには高機動な変態。
前にはその付添の2機。
すでに俺の頭はパンクしそうである。
「奴はズボンをはいていない」
「見りゃ分かるわそんなことッ」
「違ぇ、魔力にそんだけ余裕があるって事だ」
おっさんは万能時計を示す、
「──ここどこだと思ってんだ、高度4000ftだぞ」
保護魔法をかけていなければ、寒さで苦しむ領域。
だが一から発動するにはコスパが悪く、飛行士達は少しでも魔力を節約するためにジャケットを着る。
(そういや、ジャケットには保護魔法が組み込まれてるんだっけ)
「あれは魔力の効率を最大限にするためだ」
「ズボンをはかないことが、か?」
「俺たちは魔力を伝える際、服で減衰する」
飛行用の補助装置には、足を通して魔力を流入させる。
だが、魔法が組み込まれた服を通過する都合上、魔力の減衰が確実に起こる。
「だがやつは100%、見かけで舐めてると痛い目みるぞ」
障壁が震える。
『そんな......俺は天才だって』
『おい、3番機、落ちるなッ』
「ほら、いわんこっちゃねえ」
後方では味方が1機、操作不能に陥っていた。
「気を引き締めろよ、レコッ」
「了解っ」
大鳥は──旋回を始める。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
寝落ちをかました朝は清々しい気持ちになります。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。