竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ウーラジアストック港・西南/高度4000ft [14:20]】
空には大雲が見え、4機の大鳥が飛ぶ。
一本の飛行雲を追いかけるは、3機の大鳥。
大鳥は揺れる。
のっている、トリノ大尉もゆれる。
ひっついてる、白髪少女もゆれる。
「おっさんっ」
「どうした、レコ」
すでに、
大鳥の翼は傷付き、
おっさんの服は裂け、
俺の腕はズキズキ痛む。
「さっきから蜂の巣じゃねーかっ」
「3対一でやってんだ、それぐらいは覚悟しろ」
「味方はどうしたんだよ、味方はっ」
「戦果をとられる前に帰って貰っただけだ」
味方3機は、1機は墜落、2機は退避。
そこまでわずか3分の出来事だった。
(なのに殿なんか引き受けるからなぁ)
そこがおっさんクオリティであり、
乗っている俺の気持ちにもなれ、という感じだ。
「なんだ、言いたい事でもあんのか」
「戦果の『せ』の字もなさそうだなって」
「それは、あの赤い奴に言ってくれッ」
上空には赤いツバメ。優雅に空を飛ぶ。
後方には敵僚機。俺たちを追い回すように飛ぶ。
「7.7mmじゃなければ3回は死んでいたな」
「こっちは全身打ち身だらけだが?」
「動けるなら実質無傷だ」
「無茶言うなし」
大鳥は回避行動をとる。
「御託はいいが、次来るぞッ」
ツバメ達は後方からせまり、黒々とした銃口はこちらを幾度となくのぞく。
おっさんは軌道をずらすように指示をとばす。
左へ、
右へ、
大鳥を。
次は上空から赤いツバメが降ってくる。
速度はこちらよりうんと速く、すれ違うときに俺たちを撃ってやろう、という魂胆か。
「レコ、屈め」
「は──ぐえっ」
ドスッ。背中には、重く黒く硬く、熱をもったものが乗せられる。12.7mm機関銃だ。
『ほう、背面撃ち──』
タタタタタ。軽い射撃音。
背中につたわるは重振動。
耳元で落ちてきた空薬莢もあいまって、脳内が曖昧になる。
「少しは口が閉じたか? 変態」
噴煙が晴れる。
『──いい腕だ、アメリアの兵士』
「手応えはあったはずだが」
『障壁の堅さには自信があってね』
(おいおい、ツバメの障壁で12.7mmをはじくのかよ)
普通であれば、魔力や装置に引火して火だるまになっていてもおかしくはない。
『ではな、勇敢なるアメリア兵士』
お返しにと叩き込まれるのは銃弾。
7.7mmとはいえ何度も食らえば、被害は甚大だ。
翼の羽が飛び散り、
帽子のゴーグルは割れ、
おっさんの体からは血が、
そしてなにより──
「おっさん、高度がっ」
「ちッ......補助装置が逝かれたか」
足下の補助装置は、色を失っている。
銃弾がめり込み、プスプスとした白煙がたち昇る。
(おいおい、魔法障壁すら消えてるんだが)
補助装置は魔法発動を持続させる装置。
止まってしまえば、飛ぶための風魔法も、身を守るための魔法障壁も、全てが止まる。
「どうすんだよ、これっ」
「レコッ、コイツを補助装置に叩きつけろッ」
投げられたのは銃弾、
先端が潰され魔石がむき出しになっている。
「どうやってっ」
「気合いだ」
「タイミングはっ」
「こっちでとる──3ッ」
大鳥が斜めに落下しつつある中、銃弾を、
「おっさん、装置まで手がとどかねェっ」
「足引っかけて、身体を回せ」
「正気か?」
「正気だ──2」
高度は3000ft。
最初より下がったとはいえ、
下にあるのは真っ青な大海のみ。
もちろん命綱はない。
(それ、足外れたら死ぬんじゃ.....)
「──ビビったか? 俺は簡単に出来たぞ」
前からとぶは、煽り声。
頬が引きつき、見てみれば、
おっさんは笑いながら大鳥を立て直そうとしている。
(ああ゛ぁ、自分は余裕ってか?)
満ちるは、やる気とともに怒りまで。
「クソッタレ、後で覚えとけよっ」
「まかせたぞ──1」
身体を回し、頭上には海。
鼻先を銃弾がかすめる。
「生きてるかッ」
「生きてるよっ」
「なら十分だ──0」
補助装置に銃弾を叩きつける。
刹那。おっさんも魔法を発動、
極彩色が放たれ、装置に命が吹き込まれる。
「上出来だ、レコ」
「二度とやらねえ、からな」
逆さになったせいか、まだ頭がクラクラする。
「で、どうすんだ」
上方には3機。
こちらが復調したのを察したか、
既に再び攻撃の構えを見せている。
「正面に“いい場所”があるだろ」
おっさんの正面は、南南東。
「考え直そうぜ、おっさん」
「深く考慮を重ねた結果だ、レコ」
「嘘つけ。ぜってー思いつきだろ、それ」
南南東に鎮座するは、バカでかい積乱雲。
内部は見えずとも、周囲にゴロゴロ鳴り響く。
「歯食いしばっとけ、突っ込むぞ」
「やっぱりかぁ」
そろそろ、白旗をふった方がマシな気がしてくるのであった。
◇◆◇
【???/台風内部・高度不明 [15:00]】
内部は
「コイツは低気圧の塊だ、しっかり掴まってろッ」
「へいへい。でも周囲は──」
暴風。開いた口が塞がらない。
おっさんの背中から顔を出した途端にこれだ。
うっすらと見える視界には様々なモノが飛び込んでくる。
雨粒、
「がぼぼぼぼっ」
雲海
「ぐももももっ」
生魚、
「うェ、生臭っ」
四苦八苦しながら、おっさんの背に戻る。
「食事もとれてラッキーだな、レコ」
「言ってる場合かよ、おっさんっ」
ぺっ。魚を吐き出す。
口の中にはなんともいえぬ味。
(こりゃあ当分は生魚食えねえなぁ)
ゲロよりはマシであったといった感想だ。
「にしても」
落ちた生魚はすでに消えた。
暴風雨にて一瞬で向こう側に。
今や嵐の一部に成っている所か。
(にしても、超スピードで前にぶっ飛んだな)
自分の靴もガタガタと暴風雨にゆさぶられる。
「へっ、次は我が身か」
「どうした? 飯を食いそびれたか」
「俺は焼き魚の方が好きなんだよ、おっさん」
周囲は暗雲、
ときどき雷光、
暴風雨は髪をなぞる。
敵の姿はともかく、周囲の感覚すらつかめない。
「これ大丈夫かよ」
「俺を誰だと思ってんだ」
「んなこと言ってもよっ」
「数分したら出る。奴らも流石に諦めただろ」
大鳥の障壁がゆれる──
『少佐ッ、引き返しましょう』
『そうですこのままでは我々も』
『無理に付き合う必要はない、諸君らは帰投しろ』
『で、ですが』
『それは少佐は残る、と』
『私にも矜持というモノがある』
『なにより傷を負わせたなら、狩るまでが私の流儀でな』
「だ、そうだぜ」
「しつこい野郎どもだ」
おっさんは羽を左に動かす。
「うおっと、急にあぶねえな」
「悪い、内部に吸い込まれそうな風で......」
沈黙。その後。おっさんは疑惑を含んだ声をだす。
「レコ、吐いた魚どっちに飛んだ」
「どっちって、そりゃ前だけ──っ!?」
俺たちは風に逆らって飛んでいるはず。
ならば魚は後ろに飛ぶのが道理。
だが飛んだのは前──
「コイツは本当に台風か?」
雲の隙間から、赤色が覗く。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
えっ、いつまで空で戦ってんだって。それは作者も思ってる。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。