竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【???/台風内部・高度不明 [15:10]】
白髪少女は飛んでいた。青の欠片もない、灰色にそまった空間を。空間には、雨が横殴りに降り続け、風は叩きつけるように吹きつける。そこはまさしく、嵐の中であった。
嵐の、先の先の先。つまり中心部分。
妖しくゆらめくは、謎の光源。
真っ赤で、真紅な、赤色光。
「なんだ、あれ......」
「レコ、何が見える」
「炎? いや、赤い石? いや──」
あれは炎ではない。
だって炎は睨んだりはしないから。
あれは石ではない。
だって石は動いたりしないから。
あれは──瞳だ。
ビカビカビカッ。
喉にかけた言葉は雷鳴にかき消される。
否、口から言葉がでなかったが正解か。
天雷が雲に映しだすは、
大鳥の10倍以上はある、
物語に出てくるような、巨影。
「──りゅ、竜だ」
誰が言ったか定かではない。
だがソレは、目の前に現れたバケモノを的確に表していた。
「おいおい、おっさんっ」
「......冗談だろ」
戦闘中というのに呆然とする2人。
大鳥はゆっくりと飛び、障壁は静かにゆれる。
『しょ、少佐』
『こ、こいつは』
『なんと。竜を拝むとは』
よく見れば、敵3機の攻撃も止んでいた。
(まあ、戦闘どころじゃないよな)
あわよくばこのまま逃がしてほしい。という気持ちが少々。
どうせ変態からは逃れない。という気持ちが大半。
結果は──
『落ち着け諸君。竜は争いには不干渉だ』
『確かに人に手を出した話は聞きませんな』
『所詮は名ばかりの老体だ。臆するな』
3機は再び攻撃行動に移る。
最初に迫ってきたのは僚機のツバメ。
『び、びびらせやがって』
『おい、早いぞ、モブエー』
『うるさい、少佐だってやれたんだ。俺だってッ』
動きは変態ほどではない。
だが、被弾が蓄積した俺たちにとっては致命傷にはなりえる攻撃。
「おっさんっ」
「なんだッ」
「やばくね」
「正直、ヤバい──」
俺も、おっさんも、ボロボロだ。
服には赤い滲み、皮膚には青い打撲痕、お互い疲労困憊。
「──が、俺なら勝てる」
なぞの自信、なぞの根拠。
俺を安心させるためか、
それとも、
こんな状況でも空を楽しんでいるのか。
(どうせ後者だろうなぁ)
大鳥は、無理矢理、回避行動をとり、弧を描く。
『さっさと落ちろよッ』
7.7mmの音。何度目の被弾か。
後方。
目視2m。
再び。銃口と視線は交差をする。
(あ、やっばい、コレ)
魔法障壁はすでに限界だ。
手に伝わる感覚で分かる。
これ以上は障壁が抜かれる、と。
『俺にだってや──「 ッ!!」』
──敵が消えた。
「はっ?」
唖然。そして衝撃波。
振り回される大鳥から見たモノは、
嵐を束ね、それを叩きつけたような、光線。
斜線上のモノは全て消え、
三重層もの雲を突き抜け、なお進み、
ついには全てをぶち抜き、太陽さす青空が。
「いまの、避けてなかった、ら」
「直撃していたのは俺らだったな」
冷や汗、すら止まっている。
(直撃した敵は、姿どころか、影さえ消えた)
視覚的に、あまりにも強烈な竜の一撃。
気持ち的には、
馬鹿げた威力だなというよりも、
なぜ俺たちが狙われたのかが気にかかる。
「竜は不干渉なんじゃないのかっ」
「レコが吐いた魚が逆鱗にでも当たったんだろ」
「そんなことで狙われてたまるかよ、おっさん」
竜は、人の戦いには無関心だ。
古来よりそれはわかりきったこと。
だが竜が争った事がないわけではない。
例えば、竜対竜。
熾烈な縄張り争いは大陸を変えるお話だ。
他にも、宝集め。
竜にとって宝と思えるモノは自分のモノである。
もちろん、これらは歴史書を紐解かねば出てこない話。
(絵本だと竜は温厚に書かれてたんだけどなっ)
「レコ、竜に狙われた経験は?」
「ねえっ。今回が最初で最後だっ」
「なら、大魔力を秘めた物持ってるか?」
「んなモン持ってねーよっ」
「なら竜に関係するモノは?」
「だから、持ってっ......いや持ってるわ、俺」
懐から取り出すのは──竜の鱗。
お守り代わりに、とずっと持っていたモノだ。
「えっ、狙われてる原因、コレ」
「だろうな」
「お守りとは?」
「自らを犠牲に、周囲を殲滅するお守りだぞ」
「お守り要素どこだよ」
殲滅のために自爆必須は、もはや呪いのアイテム。
大魔力を含んでいるため、無駄にキラキラ光って、お守り感をアピールしているのが腹立たしい。
(いつか売ろうと思っていたのが裏目に.......)
仕方なしに捨てようとするが、
おっさんが手で止める。
「俺にいい考えがある」
奪いとられるお守り。
ニヤリ笑うおっさん。
いやーな予感がする俺。
「なあ、それって──」
「どうせ、この状態でまともに相手などできん」
「おう、そうだな」
「ならば、だ」
何がならばなのかは、説明して欲しいところだ。
(いや、しなくても大体やりたいこと分かるけどさ)
暴風雨を突っ切って、赤いツバメ迫る。
◇◆◇
【???/台風内部・高度不明 [15:15]】
ツバメの追撃を避け、後ろをとろうと半回転。
おっさんの声がとぶ。
「レコ、光を認識したのはいつだ」
「えっと、おっさんに声をかけたときだから......」
「そうか、なら大体分かった」
再び、台風の中心がゆれる。
『老害め。マナーすら守れんとは』
灯るは──真紅の光だ。
「だいたいだが、一度目から計算すると」
『竜の目が光ってから』
「射撃が行われるまで」
「『後、30秒』」
おっさんはツバメを最大速度で追いかける。
『悪いが、巻き込まれるのは遠慮する』
だが、速度はツバメの方が早い。
逃げるツバメには追いつけない。
「ふんっ」
『銃を捨てたとてッ』
距離は縮まるが、
撃つための武器は、ない。
「いいや、この距離で十分だ」
『ちいっ、ブレスによる巻き添えとは下品な』
「まさか、俺はプレゼントを渡しに来ただけだ」
投擲。勢いそのまま投げつける。
キラリと光る物体は、弧を描き、空へ。
『何のつもりだ、アメリア兵』
30秒。そのタイミングはもうすぐだ。
「レコッ──」「──【風魔法】起動」
『ほう、今更逃げたところで』
逃げる? この変態は何を言っている。
竜のブレスは必殺必中広範囲攻撃。
俺の風魔法ごときで逃げれる距離ではない。
(それはさっきの事でわかってんだよッ)
だからこそ、
「発動方向を前にっ」
矢印を描き足し、魔法に向きを与える。
「魔力が混ざると、どうなるか知っているか、変態?」
『笑止。それは膨大な魔力の激突のみで──』
キラリ。射線でひかるは鱗。
『竜の鱗、かッ』
「ぶち抜けッ」
「了解っ」
そよ風如きの、俺の風魔法。
本来は軌道を変えるのが精一杯。
だが、撃鉄にしては十分な魔法だ。
風魔法が、鱗を跳ね飛ばす。
投擲から、銃弾に変わった鱗は、一瞬を破り、敵障壁に激突する──
ピカッ。視界が光に埋め尽くされたのが、俺の最後の記憶である。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・南南東/海上 [16:00]】
ザブンザブン。波がゆれる。
「あのー、おっさん」
「何だ、レコ」
海上に浮かぶは、少女とおっさん。
掴まる浮き輪は波に揺られて、ぷかぷかとしている。
(微妙に沈むせいで、口に海水が入りまくるんだが)
「浮き輪が小さい」
「無理矢理使ってんだ、諦めろ」
「いや、これ沈みそうだし」
「なら気絶すんな」
そういわれるとなにも言い返せない。
(俺の浮き輪は足下にあったしなぁ)
爆発から脱出したおっさん曰く、お前を抱えるのが精一杯だった、という話。
「ところで、だ」
「今度はなんだ」
じっと浮き輪を見つめる。
「こいつは勝ったのか?」
大鳥は行方不明、俺たちはボロボロ。
(傷口は海水で痛いし、ちょっとずつ体も冷えている)
これを勝者の姿というには厳しいモノがある。
「ああ゛? 当然、勝ちだろ」
「当然なのか」
「味方を逃がして、敵の情報を掴んだ、結果としては上々だ」
「課程で俺たちは死にかけたけどな」
「だが死んではいない。それがこの戦闘の最大の戦果だ」
おっさんは俺に視線を向ける。
「歴戦とひよっこが生き残り、
敵の情報を掴んで帰ってきた。
この情報で次の部隊が楽になる」
──そして俺たちは、また飛べる。
「空の勝敗と、戦場の勝敗は必ずしも同じじゃねえ。
何に拘るか、それが兵士に求められることだ」
おっさんはそう言うと、空を見る。
「見てみろ、レコ」
「久しぶりに見た」
蒼空を彩るは、七色の光。
嵐が去った後、日光に照らされてできる、光の架け橋。
(虹か......最後に見たのはいつだっけな)
まあ、疲れすぎてその橋を使って帰りたいと思うのは、仕方ないことだ。
「良いことがあるかもな」
「逃げ切れたのが良いことだろ」
「馬鹿が、そりゃ実力だ」
おっさんと少女はクスッと笑う。
海から見上げた空は、やはり壮大であった。
[Message]────────
飛行隊が持ち帰った情報を分析した結果、ハンカ湖周辺に敵基地が隠されているという結論にいたった。敵基地の正確な位置は不明だが、周囲に展開する防空網のパターンと 地下施設または自然の地形を利用した構造であることを示唆している。現在、アメリア偵察部隊が基地の探索を行っている。続報を待て。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
長い戦闘シーンはもうかかない(ゲッシュ)
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
誤字報告があったので作者がおどるーぷを踊ります。