竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ハンカ湖周辺・ソブエト基地 [11:59]】
かすかな機械音と共に、無数の機器が淡い光を放ち稼働している。部屋を支配するのは、兵士の活動音よりも、機械が作り出す絶え間ない信号。椅子の音さえしない部屋には、ヘッドセットを耳に当てた兵士たちが多くいた。
機器が不審な波を捉える。
『ひゃっはあああー』
『五月雨如き流星の天才ラジオガールの放送だぁ』
『今日は最前線から、ワンミニッツううううッッッ』
『えっ、なんで最前線かって?』
『そりゃあ、最新の情報をお届けする為よッ』
『まずは一発目ェ、おいしい軍の食事場所ランキングからだァ』
『「あの~、すみません。ここ軍事用の施設なんですけ」』
『うるさーい。この放送を止めたければお金でももってこーい』
『「ですから、ここは軍用の」』
『ええーい、3億ドルくれないとうごかないぞー』
『(──ドタバタ音)』
『ふっ雑魚め。私の発言にびびって逃げるとは』
『やっぱり、何事も暴力。暴力は全てを解決なんだよなー』
『いやー、天才ラジオガールすぎてつらいわー』
『じゃあ、早速──って、はなせー、この私を誰とこころえてんだー』
『(憲兵に捕まる音)』
『このシル「プチッ」──』
音は切れる。
「......なんなんでしょう、この放送」
「アメリアの作戦の一環かもしれん」
ソブエトの兵士は静かに口を開く。
「ただのラジオにも聞こえましたが」
「だが周波数はラジオのモノではない」
兵士は額に手を当てる。
「上層部に報告ですか、これを」
「しなくちゃ、ならんだろなぁ」
静かに黙る、ソブエト兵2人だった。
◇◆◇
【ハンカ湖周辺・ソブエト基地/翼納庫 [12:30]】
ウーラジオストックの東に位置する、ハンカ湖。
そのほとりに隠されるように作られた基地が一つ。
丁寧な偽装と、爆撃対策をされた基地。
小さいながらも活発な基地。
そこには、コンクリートに覆われた翼納庫があった。
「お疲れ様です、少佐」
「どうも、すまない」
少佐と呼ばれた兵士は、大鳥から降りてくる。
整備兵は大鳥に留め具を着けていく。
「少しお待ちください」
「大丈夫だ」
少佐は、
上半身は赤い鎧、
下半身をトランクスに身を包んだ、兵士。
どこぞやの少女には、
「こちらがお召し物です」
「いつも助かる」
手慣れた手つきで、腰巻きを装着する。
「サイズは大丈夫でしょうか」
「問題ない」
甲冑に包まれた表情は、読み取ることができない。
「何か不満な点でもありましたか」
だが、整備士はいつもどおりといった様子で聞く。
「やはり操縦席が硬くてな」
「どうも金属製のモノしか残っていないので」
「木製の操縦席はないかね」
「木製は......数週間あれば調達は可能です」
木製の操縦席。
大鳥を軽くするため、この数十年間あらゆる方法が試されてきた。
その一つが合板を用いた大鳥の装備。強度は金属には及ばなかったが、その軽さと座り心地から好むモノがいたという。
「いや無理なことを聞いて済まなかった」
「いえ、整備班として当然です」
少佐は整備兵に視線を向ける。
「前回の戦闘は私の失態だ」
「いえ、満足な大鳥を用意できなかった我々にも」
「用意されたツバメは素晴らしいモノだった」
「──上にはそう報告しておいた」
そういって少佐は去る。
その背中を見るのは数人の整備兵達。
「また、俺達の恩赦を気をつかって、だぜ」
「こんな一兵卒にわざわざなぁ」
風が吹く。
室内の熱気を追いだそうとする、強風。
作業帽が飛びそうになり、道具もカタカタとゆれる。
「まーた、誰かが翼納庫の扉開けたのか」
「風だって出ていきたくなる暑さだからな」
寒冷とはいえ、季節は夏。
偽装に、コンクリに、密閉を重ねた、翼納庫内は暑かった。
「入り口のシャッターがまた揺れてるぜ」
「この前ゆがみを直したばっかだぜ」
そこには、騎士の姿。
照らす朝日は、逆光で、騎士をうつす。
堂々たる赤き騎士は、風如きではゆるがない。
「しかし、少佐なぁ」
「なんだ、不満か?」
「いや、不満じゃない」
「まじ、いい上官なんだが」
「ああ、いい上官ではあるんだが」
ならばと、風は下半身に襲いかかり、
腰巻きはここぞとばかりに舞いあがる。
「「ソブエト随一の──効率重視の変態なんだよなぁ!!」」
日光に照らされて、赤く、トランクスは輝いていた。
◇◆◇
【ハンカ湖周辺/岸辺 [12:50]】
翼納庫の外に出る、少佐と呼ばれた騎士。
歩いた先には大きな湖。ハンカ湖だ。
「赤騎士と呼ばれた貴方が、地上にいるとは」
湖の畔より歩いてくるは、赤髪の少女。
「キミは確か」
「申し遅れました、私はソブエト軍──」
優雅なお辞儀。
軍服の袖の動きにあわせて、
ショートカットに揃えられた髪が、ゆれる。
「土魔法の陣地構築の名手と聞いている」
「はい、このたびは基地改造の為に呼ばれました」
少女は有能な魔法使いであった。
「キミの2つ名はこちらにも響いている」
「それは、さぞ可憐な名前なのでしょうね」
「ああ、君の強さを表すような名前だった」
そして、2つ名を与えられるほどの強さであった。
「ちなみに、お伺いしても?」
「たしか──」
「ふっふっふ、
土の魔女とかでしょうか。
でも、それでは捻りがありませんね。
ええ、そうですね自分で言うのもなんですが
絶世美少女の魔女とか.....ふふ照れてしまいます」
「そう──絶壁の魔女」
「あ゛?」
だが、少女の胸はぺったんこであった。
「えっと゛、由来を聞いても」
「土魔法による、見事な壁ゆえ、と聞いた」
「えー、それは一部を揶揄しているわけではなく」
「最近では、絶壁が来ると聞いただけで現場が盛り上がる、と」
「ホントですか! ホントに、ホントですかァ!!」
「元帥閣下も気に入っていたという話も」
「ぐ、ぐぬぬぬっ」
どうやら少女は、振り下ろす拳の先を見失ったらしい。
仕方なく、じだあしが地面に踏まれる。
「そ、そういえば、貴方は大鳥を失ったと聞きましたが」
話題の変え方にしては2流、
皮肉を言うにしては3流、
そんな少女。
だが、少佐は礼をもって返す。
「功を焦った、私の失態だ」
「貴方ほどの腕でも焦ることがあると」
「もちろん。弱小の身ゆえ」
赤騎士は思い出すように、空を見上げる。
空は蒼く、どこまでも蒼く、悲しいほどに澄んでいた。
「あの、アメリアの兵士はいい腕だった」
「空での戦いは
嵐の中での“空戦”を思い出す。
「そうだな──」
子連れ狼な、アメリアの兵士。
射撃、操縦、判断、どれも熟練といったレベル。
惜しむらくは背後に守るべきモノを乗せていたという事。
「万全ならば、私といい勝負が出来たことは保証しよう」
「結構な評価ですね」
「だからこそ、惜しい事をしたと思うのだよ」
「それは、落とせなかった事に対してですか?」
「彼を
「これからの戦争は変わってしまう」
「それが唯一の心残りだな」
翼納庫には、赤い光が灯る。
◇◆◇
【情報部保管庫:第一種指定】
[ソブエト語の為、アメリア語への翻訳有]
「本来の任務聞こうか、絶壁の」
「なんのことでしょうか」
「元帥付きが、最前線を回っている理由だ」
「観光目的というのは」
「冗談も言えたのだな」
「ええ、冗談です」
「大方──基地の抹消か」
「話が早いですね」
「元帥閣下はココで取れたデータ満足しております」
「役割は十分に終えた、と」
「そう考えてもらっても結構です」
「わざわざ、自国に侵攻させるとは......戦争とはままならんな」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ラジオガールは勝手に乱入してきました。私は知りません。
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