竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

3 / 44
記録③ 飛び方と落ち方

強固な支柱だったものは崩れ落ち、いまや瓦礫の一部となっている。

倉庫と呼ぶには、雨を凌ぐ天井も、風を防ぐ壁もなく、荷物の一つも無事ではない。

 

「まともな武器すらないか」

 

背負うは貯水タンク。手に持つは高圧洗浄機。

 

タンクの水量は満水に近いとはいえ、高圧洗浄機はブシュブシュと水を吹き出すだけである。

 

「それ以前の問題か」

 

滑走路を使うには穴が空きすぎていた。

高度50フィートに到達するためには、滑走路長が足らない。

滑走が出来ないとなれば、俺達は空を眺める事しかできない。

 

「さてどうする、ピィー助?」

 

疑問に答えるかのように、

ピィー助の鳴き声がすれば、

周囲は緑色の光りで満たされる。

 

魔法────と思った時には、

 

()()()()()()()()()()

 

意識できたのはそこまで、

顔がピィー助の羽毛にへばりつき、

外から見れば、少女は鳥に抱きつくという形になる。

 

「(何が起こった)」

 

ぶはっと埋めた羽毛から顔を起こし、息を吸う。

 

呼吸は少し苦く、

体の横には雲が流れる。

下には点のような隠岐基地が。

 

「これが“空の上”か」

 

正面に飛ぶは爆撃虫(テントウムシ)

 

感動なんてものは無く、

 

呆気なさがそこにはある。

 

初めての空はなんともいえないモノだった。

 

◇◆◇

 

ビィンと弾く。

 

ビュウビュウと音が吹く。

 

ドンッと音が鳴る。

ビュウビュウと音が吹く。

ダンダカラン、ダンダカランと脳に物質が流れる。

 

心臓の鼓動はMAX。

 

緑の光りを纏う大鷲も、

鳥の背に掴まる少女も、

 

必死だ。

 

「当たらんッ」

 

握る力がこもる。

 

洗浄機の水量は一刻と減る。

 

「敵は反撃すらしてこないんだぞッ」

 

【偏差】というモノが空には存在する。

 

秒速100mを超える世界では見える的に撃っても弾は当たらない。

敵機の“未来の位置”を予測して撃つ。それが敵に弾を当てる絶対条件である。

 

だが少女の俺には分からない。

 

「ああ、クソッたれ」

 

水量は残り3。

 

もう外す事は出来ない。

 

故にピィー助にお願いをする。

 

常識的ではない。

だが、敵を落とす為、

俺は絶対距離を要求する。

 

「(零距離に──俺をッ)」

 

嘴は二度鳴り、

 

風景は動く。

 

(クッソ、追い付けねェッ)

 

速度はこちらの方が上なハズ。

 

だが“爆撃虫”には追いつかない。

 

「これじゃあ、いつまでたってもッ」

 

焦る。

脳内が真っ白になる。

思考を9割放棄したとき、浮かぶは、

 

何故か──オル爺の言葉。

 

「(いいかレコ助、“鳥と視線を合わせろ”だ)」

 

「鳥と、視線を、合わせる」

 

その言葉はすんなりと体に滲み。

俺は屈む。視線をピィー助と同じに。

俺が敵を追うのではなく、ピィー助が追う事を信じて。

 

手には少々の焦り、

握る間もなく風が抜け、

かいた汗は後ろにぶっ飛ぶ。

 

耳を鋭い鳴き声が貫く。

 

目前、爆撃虫(テントウムシ)

 

「よくや───いや行き過ぎだッ、馬鹿鳥ィッ」

 

否、後方に爆撃虫(テントウムシ)

すでに距離は1mほど空いている。

 

焦る俺。

 

楽しそうに鳴くピィー助。

 

そして、()()()()()()()()()

 

俺の体には大きなGがかかり、体内の血流は下半身に集まり始める。脳への血流が少なくなり、思考は────簡単に単純になっていく。

 

上には俺たちの島。

下には眺めてた空。

 

「あぁ──」

 

中に差すは夕日。

 

「──綺麗だ」

 

翼が雲を描きはじめ、

足に溜まっていた血流が、

脳にゆっくりと流れ始める。

 

(何考えてんだッ、馬鹿か俺はッ)

 

爆撃虫(テントウムシ)の位置は真下。

 

銃口は重力に沿って下を向き、

 

トリガーはゆっくりと指に引かれ、

 

パシュッと音を立てて水は放出される。

 

「命中ッ」

 

噴射した水流は、

爆撃虫の顔にあたり、

虫は重力に負けていく。

 

(まぐれに近いが知った事じゃねェ)

 

はぁはぁという浅い呼吸の中に、

ドカンという水中での爆発音が混ざる。

 

ようやく脳から足に血がまわる。

 

「俺、やったんだ」

 

実感はあまりない。

飛んでいる虫を叩き落とした、

達成感としてはその程度ではある。

 

程度ではあるが、俺の脳をハイにするには十分な実績だった。

 

「やれるそ、俺はやれるぞッ、ピィー助ッ」

 

返事はない。

 

嘴の音も聞こえず、

 

やけに風の音だけが耳に残る。

 

「ピィー助......?」

 

翼の温かさは既に失われている。

 

先程まで楽だった呼吸は苦しく、

 

まるで水中にいるような感覚である。

 

「(急に、空から追い出された見てェだ)」

 

最後に思ったことは切なく、俺の視界はゆっくりと閉じていくのであった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

前回、誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。