竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

30 / 44
『魔法は全てにおいて強し』

そんなことわざが日本にはある。
由来は、北の遠方、ソブエトから、
正確には、()()()()()()時代の話。

「あれは、雪の降る寒い時期だった──」

そんな、一節から、話は始まる。


記録㉚ 国の理由、戦う理由

【ウーラジアストック港・港南側/外れ [11:30]】

 

「雪の、ゆの字もない道だな」

 

ファインダーにうつるは灰色のコンクリート。

切り取られた風景に、情緒の欠片もない。

白髪少女はカメラを首にもどす。

 

(雪っていわれてもなあ)

 

ソブエトで雪が降ることは珍しくなった。

 

侵攻する兵士達に防寒具の配布はなく、ジャケットを着ているのは一部の飛行士のみ。

 

「それでも少し、肌寒いか」

 

カツカツ。灰色なコンクリートの上を歩く。

 

(ここは静かだけど......)

 

右側を見る。

 

ざばざばと波の音、

がやがやという人の声、

壁を隔てるだけでずいぶん違う。

 

建物一つ向こう側は、盛況のようだ。

 

「そろそろ、昼飯時かね」

 

首にかけているカメラを直し、路地に向かう。

アメリアの兵士達もよく使う、抜け道。

大人2人でも通れる抜け道だ。

 

(ありゃりゃ、山程、一斗缶が積まれてやがる)

 

そんな路地を覆うような缶の山。

 

大人二人は通れそうな路地が、子供ですら狭く感じる。

 

「次回からは道も考える必要があ、うぐっ」

 

腹部に缶はあたる。

ぐりぐりと圧迫感、

絶妙な塩梅と感触だ。

 

そんな思いをしながら、抜けた先、

 

(今度は人で塞がれんのかよ)

 

喧騒。しかも路地の出口でだ。

 

「またですか......」

「今回だけだから、頼むよ」

 

頼み込む眼鏡の男。

 

聞き手の兵士は呆れている。

 

「その今回は既に3度目なんですが」

「ならば3度目の今回で、どうかな」

「屁理屈こねても、駄目なものはダメです」

 

兵士に引っ張られる、男。

 

「いいから帰りますよ」

「いやだぁ、僕は帰らない」

「ちょっ、暴れないでください」

 

ジタバタ。動き回る男はバランスを崩し、

 

倒れる方向は、俺の方。

 

結果は見るも明らか。

 

「うぎゃっ!」

 

見事にぶつかるのであった。

 

「(くっせえ、薬品系の香りが強すぎる......)」

 

覆いかぶされて思ったこと、その一。

 

次点で、重なるコートがクソ重い。

 

「いやぁ、大丈夫かい」

「少女を押し倒すのは犯罪だぞ」

「これは、意外とお手厳しいんだね」

 

目線は、男の顔───いやその上、

 

頭上の缶はぐらぐらと揺れていた。

 

「まっずっ」

 

頬は引きつる。

 

「あー、大丈夫だよ」

 

ぐらぐら。

ぐらんぐらん。

ぐわん──ピタっ。

 

不自然なほど、急に、缶は制止する。

 

(あと3mm、いや1mmでも缶が動いてたら落下して......)

 

そう思う程、ギリギリのバランスである。

 

「ふー、死ぬかと、思ったぜ」

「いやー、ホントに危ない所だった」

 

覆いかぶさる男は呟く。

 

「いや、いつまで上に被さってんだよ」

「おっとこれは───ごばぁ」

 

だらだらと零れるは鮮血。

 

じわーと服が赤に染まる。

 

空白の思考はゆっくりと赤に染まる。

 

「ひ、ひぇっ」

「むっ、おっと服を汚して申し訳ない」

 

何、平然といっているんだ、コイツは。

 

すまないのはお前の体だろ。

 

どう見ても一大事。

 

(すぐに、医者を───)

 

「っ、そ、その」

「落ち着いてくれ、ただの吐血だよ」

「いや、でもなあっ」

「大丈夫、すぐに止まるから」

 

ほらね。と言うと、

 

男は何てことの無いかのように立つのであった。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック港・堤防 [13:00]】

 

海風を浴びる、少女と男。

 

かーかーと鳴く海鳥が欲しいところだ。

 

「詫びは、食い逃した昼飯でいいぞ」

「奇遇だね、僕も昼飯は食い逃がしたんだ」

 

(どっかの誰かが服を汚さなければ問題なかったんだよな)

 

俺はジト目の一択。

 

眼鏡をかけた男は笑う。

 

「で、あんたは?」

「僕? 僕はただの研究員だよ」

 

「研究員の仕事は他人の邪魔か?」

「ちょっと大鳥装備の疲労を調べにきててね───だらぁ」

 

吐血。またもや、研究員の口から血がたれる。

 

「またかよ」

「まただね」

 

「いや、呑気か。ホントにソレ、大丈夫なのかよ?」

「大丈夫、今はキャリーバックも持ってきてるからね」

 

なるほど。会話すらままならないと。

 

「必要なのは憲兵でもなく、医者か」

「実は、憲兵とも医者とも顔見知りでね」

 

「そいつは話が早いな」

「で、体のどこが悪いんだい」

「ええい、悪いのはオメーの頭だっ」

 

──ははは、こう見えても頭はいいんだ。

なんたって僕は研究員だからね。

 

男はそう笑った。

 

「もういいや、めんどくせぇ」

 

視線を戻し、手元のカメラを弄る。

 

まずは、先ほど巻き忘れたフィルムを、

 

「あれ、動かない? もしかして壊れた......」

 

カラカラ。部品は空回る。

 

【ウーラジアストック港・堤防 [13:10]】

 

──そのカメラ、貸してくれないか。

 

研究員は、そう言った。

 

「いや、更に壊されても困るし」

「でも、僕の責任もあるし」

「いや、それでも」

「でも、僕は」

 

そういう、善意の問答を数十回、

 

研究員の吐血を二回ほどはさみ、

 

仕方なしにカメラを渡す。

 

「ええっと、これがこうで」

「ホントに、大丈夫か」

 

(なーんか、不安な手つきだな)

 

思案する研究員は、

どことなく工具を出して、

なんとなくでカメラが分解する。

 

外された、部品は────

 

「───へっ?」

 

この無言は彼の手際を評したモノではない。

 

ただ、状況を、飲み込めなかったからである。

 

「部品《パーツ》が、空に浮いてる......」

「あ、うん、ごめん。嫌いだった?」

「い、いや、不思議だって思ってな」

 

くるくる。振れた部品は、宙を回る。

 

気ままに回った後、ゆっくりと回転をやめる。

 

「浮いてるとは違うような」

「ああ、これは固定していてね」

「それは“そういう魔法”ってことか?」

 

極めた風魔法は何でもできるらしいが、これもその一種だろうか。

 

「いいや、違うよ──これは技術なんだ」

 

研究員は悲しそうにつぶやく。

 

「ただ空気中の魔力を固めただけ、それを精密に行っているに過ぎない」

「それは......凄いことなんじゃないのか」

 

いや、俺の中で魔力は固まるという認識はないぞ。

 

「あっ、いや、えーと、そうだね......」

 

研究員は、

少し考えた後、

宙に浮くカメラを指す。

 

「例えば、世界には【撮影魔法】というのがあるんだけど───」

 

魔法については、基地の誰かが話してくれたような......覚えていないな。

 

でも、アメリアの人間ってカメラで写真を撮ってる気がするんだが。

 

「なのに、何故カメラを使って写真を撮ると思う」

「そりゃ、そっちの方が画質がいいからみたいな」

「いや、魔法の方が、画像も、速度も優れている」

 

「なら、魔力の消費が多いとか」

「実はそんなこともないらしい、引用だけど」

 

「ならば、どうして?」

「答えは、法律に、僕たちの使用権が、簒奪されているから」

 

研究員は、悲しげに言うのであった。

 

「権利? 魔法は自由に使えるもんだろ」

「それは属性魔法は、という話だね」

 

えーと、属性魔法ってのは、アレだ。

 

火、水、風......なんかの魔法だった気もする。

 

「でも、一人ぐらい破っても、バレなくない?」

「間違いなく破ってもバレないだろうね」

「ならば別に───」

 

「───破った人間は問答無用で死ぬから」

「へっ?」

 

「ちなみに死に方はいろいろだよ。心臓が止まったり、雷が落ちたり」

「いや、そ、そうじゃなくて」

 

「法を破っただけで死ぬ? 冗談だろ」

 

「ほら、この世には絶対的なルールがあるだろ」

 

「なわけ──いや、魔法か」

「そう“魔法による法”なんだ」

 

「人間は生まれた瞬間から魔法に縛られる。

一部の魔法以外使えないという、魔法にね。

この法律を敬意と憎しみを込めて“魔法法”と呼ぶ」

 

直接読むと、まほうほう、か面白いな。

 

いや、面白くないだろ。

 

何考えてんだ俺。

 

「そんな事して、何の得になんだよ」

「元は、秘伝が盗まれない為に竜から託されてね」

 

昔に、善意の為に求められた魔法なんだ。

 

「そして、託された人間はこうも思った。

この法律を使えば安全に魔法を広めるのではないか。

今よりも万人に魔法を使ってもらえるのではないか」

 

「崇高な理念だな」

「崇高だよ。昔は今よりも魔法の事故が多かったからね」

 

未熟なモノが、高度な魔法の暴発なんてざらにあったんだよ、と。

 

だからこそ、魔法が悪とされていた時代もあった、と。

 

「彼はゆっくりと魔法を集め、法律で縛り、魔法を伝授していった」

 

「だが、別の人間は思った」

「これは万の武力にも匹敵するものだと」

「この魔法を得ることは、魔法を統べると同じことだと」

 

うーわ、でましたよ。悪の親玉的発想。

 

「いや、個人でそんなことをしても潰されるだけだろ」

「そうだね。ならば国の規模でそれをおこなえば?」

 

「そんなこと......」

「そんなことをした国があるのさ」

 

──ちょうど君がいる国だね。

 

「......ソブエト」

「そう、この国には万を超える魔法の法律がある」

 

研究員は哀愁をこめて言う。

 

「これが今日まで生き延びた超大国の姿さ」

 

◇◆◇

 

「じゃあ、なんでこの国(ソブエト)は戦争なんかしてんだよ」

 

質問はシンプルだ。

 

(そんな凄いものがあるなら、戦争なんかしなくてもいいだろ)

 

「それはこの国が貧しいから」

「凄い魔法があっても貧しいのか?」

「魔法を使う権利があっても、誰もが魔法を使えるワケじゃない」

 

魔法の能力、は生まれた時によって決まる。

 

例えば俺の様に全く魔力を持たない人間だって存在する。

 

「なら有能な魔法使いが、無能な人間を助ければいいじゃん」

「昔のソブエトはそう考えていたんだけどね」

 

研究員は頭を搔く。

 

「ある日、彼らは気付いたんだよ」

 

「───自国の無能を助けるより、他国の無能を殺して奪った方が早い、と」

 

「いや、それは......」

 

言葉に詰まる。

 

合理的ではある。

だが論理的ではない。

その考え方には致命的な欠点が存在する。

 

(他を奪いつくした後、その国には何が残る?)

 

「考えてることは分かるよ」

「なら、なんで、そんな事をソブエトは......」

「なぜって? 彼らは国を富ます方法をそれしか知らないからだよ」

 

研究員は、なんてことないように言う。

 

「まっ、今回は、彼らの魔法も、ウチの科学の前には苦戦を強いられているみたいだけどね」

 

カメラが投げられる。

 

「ほら、治ったよ」

 

もうこんな時間だね。そう去っていく研究員を見て、ふと思う。

 

そんな魔法があるのなら、どうして彼らは使わないのか?

何故、こうも真っ当に挑み。我々に負けているのか。

それとも、何か使えない理由があるのか。

 

眺める海は、不気味である。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
リアルが忙しかったといい訳をしておきます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。