竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

31 / 44
「偶には.....飯でも食いに行くか」

きっかけはおっさんの何気ない一言だった。

「......悪いものでも食ったか、おっさん」

ポカリ。軽く頭を叩かれる。

(おかしい、純粋に心配したはずだが)

「俺の都合で港に閉じ込められてんだ」
「いや、まあ、そうだけども」
「なら......街の空気を吸うってのも悪くないだろ」

おっさんは真面目な顔で語る。

どうやら、意外にも、俺が港外にでれないのを気にしていたようだ。

(うーん、ただなぁ)

「やっぱり、似合ってないな、そのキャラ」
「余計なお世話だ、レコ」

ポカリ。また一つ頭がゆれるのであった。



記録㉛ 空は賑やか、街は静か、なら陸は?

【ウーラジアストック・街中 [18:30]】

 

まとまりのない街並みが並ぶ。赤や白のまばらな建物、色が異なれば建築様式すら異なる。まるで、カレーの中にパスタもご飯もぶち込んだような。

 

これを異色と捉えてしまうのは、自分の感覚が日本人であるから、だろうか。

 

そんな思いと共に一歩を、また踏み出していく。

 

カツカツ、こんこん。鳴る足音はまばら、

 

白く照らされた道に、映る影は、4つ。

 

「お前らまで誘った覚えはないが」

「上司のおごりと聞いたので」

 

と、発言するは、パーマ少尉。

 

「このアホに付き合わされたんや」

 

と、言うは、細目少尉である。

 

「お前らは、自腹だぞ」

「「......?」」

「何死ぬほど不思議な顔してんだ、当然だろ」

 

2人は、顔を見合わせる。

 

2秒ほどアイコンタクトした後に、再びこちらを見る。

 

(うわ、わっるい笑顔してんな)

 

「「本当に、イイノカナー」」

「何がだ」

 

妙にくねくねしている2人。

 

「いやー、日々、大尉殿の代わりに飛んでてツライナー」

「ワイも偵察任務があるのに仕事増やされてツライナー」

 

「だからどうした、仕事だろ」

 

「上によからぬことゲロっちゃうゾー」

「上にあることないことチクっちゃうゾー」

 

よからぬ事と言うのは、俺たちが飛んでいる事だろうか。

 

それとも、一般人が許可なく彷徨いている事だろうか。

 

(意外と、何言われてもアウトな気がするな......)

 

「......ちっ、今回だけだ」

「「流石、大尉、太っ腹ッ」」

 

二人とも満面の笑みである。

 

「ほな、自分高い店知ってるんで」

「おっ、自分もその店で食べたいです」

 

「馬鹿、俺のタダでさえ薄い財布を消しとばす気か」

 

「もちろん、そのつもりですよ」

「ええですやん。どうせ使ってないでしょ」

 

おっさんは渋顔だ。

 

「今からでも変更は」

「もちろん駄目ですかね」

「上官殿の発言は絶対ですやん」

 

そう言いながら、3人は、ちょっとだけ高級なレストランに入っていくのであった。

 

(なんだかんだで仲いいんだよなぁ)

 

こっそり。カメラを懐から出す。

 

暗闇は濃いが、撮れているなら楽しそうな3人組が映っているだろう。

 

(こりゃあ、現像するのが楽しみだな)

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・レストラン/内部 [19:00]】

 

木を基調として作られた店は、

解放的な空間に照明が釣り下がり、

ゆっくりとしたBGMがながれていた。

 

がさごそ、ざわざわ。

 

店の奥に座ったためか、客の音もよく響く。

 

そんな中、机に着くは、4人席。

円机の4人席。置かれるは料理。

 

赤色のスープを皆で、覗き込む。

 

「なんだ、これは」

「なんなんやろなぁ」

「普通においしいと感じるが?」

 

スプーン進みは三者三様。

 

そして、俺こと四人目は、

 

「うぐっ......口が痛い」

 

辛さに悶えていた。

 

(これ、ボルシチかと思ってたら全く違うじゃねーか)

 

少女が食べたものは、ハルチョーと呼ばれる、辛いトマトのスープ。

 

西のソブエトから伝わった、西洋よりの料理である。

 

「み、水......」

 

手を伸ばすコップは軽い。

すでに水瓶は3つほど開けており、

3本ともが瓶としての役割を終えている。

 

つまるところ、一滴ぐらいしか水が残っていないということである。

 

「うっ、ひひふうふ(水貰ってくるっ)」

「気をつけろよ」

「うい(了解)」

 

口は回らず、足は回る。

 

ドタバタ。急いで立ち上がり、向かうは厨房に一目散。

 

後ろから、カメラ忘れているぞ、なんて聞こえたが、今はそれどころではない。

 

口を冷やさねば、頭すら回らぬのだ。

 

 

【ウーラジアストック・レストラン/入口 [19:05]】

 

「ようやく、痛みが治まった」

 

厨房から水をいただき、てこてこと歩く。

 

水で料金を取られたのは心外だったが、気にせず飲む。

 

(どうせ料金はおっさん持ちだし──)

 

「──店員さん、この店に10人は入れるか」

 

野太い声。

店内によく響く、

山賊のような声だ。

 

(きっと、頭領は髭がモジャモジャだな)

 

そんな事を考えていると、再び声。

 

「おい、嬢ちゃん、お前さんに言ってるんだぞ」

 

「俺に?」

「そうそう」

 

首を傾ける。

 

「えーと、俺は店員じゃねぇぞ?」

 

ゆっくりと振り返れば、

 

同じ帽子をかぶった十人の男性集団。

ガタイのいい体に、同じ野戦服。

埃まみれな素敵な野戦服だ。

 

(でもおっさん達とは、微妙にデザインが違うな)

 

「むむ、そいつは悪いことをした」

「兄貴ィ、なら俺が聞いてきまっせェ」

「いや、落ち着け。まずは嬢ちゃんに詫びからだ」

 

「「「流石、兄貴ッ」」」

 

(荒くれ兵士かと思ったが、違うみたいだな)

 

部下達は大げさに、なるほどなるほど、と頷いたあと、俺を見る。

 

「すまんな」

「邪魔しちまったな」

「俺たちの事は気にせんでくれ」

「コイツは詫びの飴だ受け取ってくれ」

 

どんどんと乗せられていく飴玉。

 

気づけば、左手には、こぼれそうな量が。

 

「あっ、いや、どうも......」

 

「「「気にすんなっ」」」

 

慣れてないのか、部下達の笑顔はぎこちない。

 

それを言ったら、ひきつった笑顔をしている俺もだが。

 

(いや、なんなんだったんだ、あの連中......)

 

そう思い、俺は席へと戻るのであった。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・レストラン/内部 [19:30]】

 

「ようやく帰ってきたか」

「いや、うん」

 

目線を机に戻すと、こっちには大量のお皿。

 

どうやら、上司の金だからと、食えるだけ食った連中がいたらしい。

 

「ふう、酒は無いんすかね」

「ふう、飲んだら飛べんくなるやろ」

「それでも、せっかくの機会ですからね」

 

パーマ少尉は、声をかける。

 

「ちょっと、そこの店員さん」

「実は、お酒、今切らしちゃって」

「へえ珍しいすね」

「向こうのお客さまが全部頼んでしまって」

 

「向こうねぇ、ん」

 

店員にさされた向こうには、

 

『店員、水を頼めるか』

『実は、お水、今切らしてまして』

『なんだとォ』

『向こうのお客様が飲み切ってしまって』

 

『向こうだと』

 

視線が合う。

 

視線の先には、さっきの男達。

 

(絶対、碌なパターンじゃないだろ)

 

その通り、とばかりに、ガタンと椅子は揺れ、

 

どすどす。荒くれ兵士は大股でこちらに向かってくる。

 

「ほら、空のハイエナ共、オレンジジュースだ」

「なら、陸のゴミムシ共、水だ」

 

どん、どん。

机にオレンジの瓶が置かれ、

机の水瓶が男の前に移動させられる。

 

「ほう」「あァ」

 

お互い瓶を取り、口を付ける。

 

ゴクゴクと飲んで、一言。

 

「「ふざけんなッ」」

 

「なんだ、この果汁の「か」の字もないジュースは」

「そっちこそ、一滴しか水が残ってないだろッ」

 

「悪いな、ウチは水分補給を大事にしていてな」

「にしても、限度ってモンがあるだろォ」

「お前らの水は酒で十分だろ」

 

おっさんが言い切ると、

 

ぞろぞろと、部下が集まり出す。

 

「おい、そこの大男、俺らを誰だと思ってやがる」

「あッ、陸軍の連中なんか知るか」

「なんだァ、やんのかァ」

 

ガンを飛ばされる、おっさん。

 

首根っこが引っ張られる、俺。

 

「(ほら、今のうちに帰るで)」

「(えっちょっ)」

「(了解っ)」

 

パーマ少尉に担がれ、店から運び出される。

 

去りゆく際に見たのは、徐々に窓に近づく、おっさん。

 

「落ち着け、ブラザー。知らないなら教えてやればいいだけだ」

 

店内に声が響き渡る。

 

「野郎ども、陣を組めッ」

「「「えいえいさー」」」

 

荒くれ兵士を中心に、周囲が移動、そしてキメポーズ。

 

「誰かと聞かれたら答えてやるのが、俺達流。

アメリア陸軍、第7騎兵連隊、戦車小隊、

奪ってよし、殴ってよし、殺してよし、が信条《モットー》の──」

 

「「「鳴く子も黙る、ヘルブラザーズ。地獄のヘルブラザースだァッ」」」

 

「「「────って、いねえッ!!」」」

 

皆様が陣を組んでる間に会計を───という店員の声は、

 

男たちの騒音でかき消されるのであった。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・街中 [19:45]】

 

同じような道を、歩く3つの影。

 

「いいんすか帰って」

「ええんや、ええんや」

「あんなところで陸と問題起こして見ろ──飛ぶのは俺たちの首だ」

 

「えっ、でも大尉殿の方が階級は高いでしょうに」

「階級の問題というよりも、派閥の問題や」

 

創設されてから年月が経っていない空軍は、どうしても海軍や陸軍の顔色をうかがう必要があった。

 

それは、作戦内容にも現れる、特色である。

 

「陸軍と空軍のやり玉なんかにあげられて見ろ、一生会議室でうなされることになるぞ」

 

そんなもんですか、という声は、街の夜に飲み込まれていく。

 

「ところで、嬢ちゃんは?」

「えっ、さっき忘れ物があるって」

「いや、なにも聞いていないんだが?」

 

「「「(うわ、嫌な予感がする......)」」」

 

そういえば、机にカメラが置きっぱなしだったな、と誰かが思った。

 

でも、あの少女、絶対問題を起こすし、とは皆思った。

 

「なあ、誰が戻るか決めねえ、か」

 

「何で決めますか? 拳とか」←実は格闘技の免許持ちのパーマ少尉。

「馬鹿、階級順だよ」←最も権力があるトリノ大尉。

「年齢順でどうや」←最も若い細目少尉。

 

「「「(......うわ、誰も行く気ねェ)」」」

 

こほんと、トリノ大尉は咳払い。

 

口を開いて出た言葉は──

 

「とりあえず明日にするか」

「そうや、部下辺りにやらすのが一番や」

「いい案ですね。それでいきましょう、賛成賛成」

 

白髪少女の命運は、軍部の面倒ごとには勝てなかったようである。

 

店からは、可愛い悲鳴が聞こえるが、それはまた別のお話。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
こんかいは2話か3話構成です。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。