竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
きっかけはおっさんの何気ない一言だった。
「......悪いものでも食ったか、おっさん」
ポカリ。軽く頭を叩かれる。
(おかしい、純粋に心配したはずだが)
「俺の都合で港に閉じ込められてんだ」
「いや、まあ、そうだけども」
「なら......街の空気を吸うってのも悪くないだろ」
おっさんは真面目な顔で語る。
どうやら、意外にも、俺が港外にでれないのを気にしていたようだ。
(うーん、ただなぁ)
「やっぱり、似合ってないな、そのキャラ」
「余計なお世話だ、レコ」
ポカリ。また一つ頭がゆれるのであった。
【ウーラジアストック・街中 [18:30]】
まとまりのない街並みが並ぶ。赤や白のまばらな建物、色が異なれば建築様式すら異なる。まるで、カレーの中にパスタもご飯もぶち込んだような。
これを異色と捉えてしまうのは、自分の感覚が日本人であるから、だろうか。
そんな思いと共に一歩を、また踏み出していく。
カツカツ、こんこん。鳴る足音はまばら、
白く照らされた道に、映る影は、4つ。
「お前らまで誘った覚えはないが」
「上司のおごりと聞いたので」
と、発言するは、パーマ少尉。
「このアホに付き合わされたんや」
と、言うは、細目少尉である。
「お前らは、自腹だぞ」
「「......?」」
「何死ぬほど不思議な顔してんだ、当然だろ」
2人は、顔を見合わせる。
2秒ほどアイコンタクトした後に、再びこちらを見る。
(うわ、わっるい笑顔してんな)
「「本当に、イイノカナー」」
「何がだ」
妙にくねくねしている2人。
「いやー、日々、大尉殿の代わりに飛んでてツライナー」
「ワイも偵察任務があるのに仕事増やされてツライナー」
「だからどうした、仕事だろ」
「上によからぬことゲロっちゃうゾー」
「上にあることないことチクっちゃうゾー」
よからぬ事と言うのは、俺たちが飛んでいる事だろうか。
それとも、一般人が許可なく彷徨いている事だろうか。
(意外と、何言われてもアウトな気がするな......)
「......ちっ、今回だけだ」
「「流石、大尉、太っ腹ッ」」
二人とも満面の笑みである。
「ほな、自分高い店知ってるんで」
「おっ、自分もその店で食べたいです」
「馬鹿、俺のタダでさえ薄い財布を消しとばす気か」
「もちろん、そのつもりですよ」
「ええですやん。どうせ使ってないでしょ」
おっさんは渋顔だ。
「今からでも変更は」
「もちろん駄目ですかね」
「上官殿の発言は絶対ですやん」
そう言いながら、3人は、ちょっとだけ高級なレストランに入っていくのであった。
(なんだかんだで仲いいんだよなぁ)
こっそり。カメラを懐から出す。
暗闇は濃いが、撮れているなら楽しそうな3人組が映っているだろう。
(こりゃあ、現像するのが楽しみだな)
◇◆◇
【ウーラジアストック・レストラン/内部 [19:00]】
木を基調として作られた店は、
解放的な空間に照明が釣り下がり、
ゆっくりとしたBGMがながれていた。
がさごそ、ざわざわ。
店の奥に座ったためか、客の音もよく響く。
そんな中、机に着くは、4人席。
円机の4人席。置かれるは料理。
赤色のスープを皆で、覗き込む。
「なんだ、これは」
「なんなんやろなぁ」
「普通においしいと感じるが?」
スプーン進みは三者三様。
そして、俺こと四人目は、
「うぐっ......口が痛い」
辛さに悶えていた。
(これ、ボルシチかと思ってたら全く違うじゃねーか)
少女が食べたものは、ハルチョーと呼ばれる、辛いトマトのスープ。
西のソブエトから伝わった、西洋よりの料理である。
「み、水......」
手を伸ばすコップは軽い。
すでに水瓶は3つほど開けており、
3本ともが瓶としての役割を終えている。
つまるところ、一滴ぐらいしか水が残っていないということである。
「うっ、ひひふうふ(水貰ってくるっ)」
「気をつけろよ」
「うい(了解)」
口は回らず、足は回る。
ドタバタ。急いで立ち上がり、向かうは厨房に一目散。
後ろから、カメラ忘れているぞ、なんて聞こえたが、今はそれどころではない。
口を冷やさねば、頭すら回らぬのだ。
◆
【ウーラジアストック・レストラン/入口 [19:05]】
「ようやく、痛みが治まった」
厨房から水をいただき、てこてこと歩く。
水で料金を取られたのは心外だったが、気にせず飲む。
(どうせ料金はおっさん持ちだし──)
「──店員さん、この店に10人は入れるか」
野太い声。
店内によく響く、
山賊のような声だ。
(きっと、頭領は髭がモジャモジャだな)
そんな事を考えていると、再び声。
「おい、嬢ちゃん、お前さんに言ってるんだぞ」
「俺に?」
「そうそう」
首を傾ける。
「えーと、俺は店員じゃねぇぞ?」
ゆっくりと振り返れば、
同じ帽子をかぶった十人の男性集団。
ガタイのいい体に、同じ野戦服。
埃まみれな素敵な野戦服だ。
(でもおっさん達とは、微妙にデザインが違うな)
「むむ、そいつは悪いことをした」
「兄貴ィ、なら俺が聞いてきまっせェ」
「いや、落ち着け。まずは嬢ちゃんに詫びからだ」
「「「流石、兄貴ッ」」」
(荒くれ兵士かと思ったが、違うみたいだな)
部下達は大げさに、なるほどなるほど、と頷いたあと、俺を見る。
「すまんな」
「邪魔しちまったな」
「俺たちの事は気にせんでくれ」
「コイツは詫びの飴だ受け取ってくれ」
どんどんと乗せられていく飴玉。
気づけば、左手には、こぼれそうな量が。
「あっ、いや、どうも......」
「「「気にすんなっ」」」
慣れてないのか、部下達の笑顔はぎこちない。
それを言ったら、ひきつった笑顔をしている俺もだが。
(いや、なんなんだったんだ、あの連中......)
そう思い、俺は席へと戻るのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック・レストラン/内部 [19:30]】
「ようやく帰ってきたか」
「いや、うん」
目線を机に戻すと、こっちには大量のお皿。
どうやら、上司の金だからと、食えるだけ食った連中がいたらしい。
「ふう、酒は無いんすかね」
「ふう、飲んだら飛べんくなるやろ」
「それでも、せっかくの機会ですからね」
パーマ少尉は、声をかける。
「ちょっと、そこの店員さん」
「実は、お酒、今切らしちゃって」
「へえ珍しいすね」
「向こうのお客さまが全部頼んでしまって」
「向こうねぇ、ん」
店員にさされた向こうには、
『店員、水を頼めるか』
『実は、お水、今切らしてまして』
『なんだとォ』
『向こうのお客様が飲み切ってしまって』
『向こうだと』
視線が合う。
視線の先には、さっきの男達。
(絶対、碌なパターンじゃないだろ)
その通り、とばかりに、ガタンと椅子は揺れ、
どすどす。荒くれ兵士は大股でこちらに向かってくる。
「ほら、空のハイエナ共、オレンジジュースだ」
「なら、陸のゴミムシ共、水だ」
どん、どん。
机にオレンジの瓶が置かれ、
机の水瓶が男の前に移動させられる。
「ほう」「あァ」
お互い瓶を取り、口を付ける。
ゴクゴクと飲んで、一言。
「「ふざけんなッ」」
「なんだ、この果汁の「か」の字もないジュースは」
「そっちこそ、一滴しか水が残ってないだろッ」
「悪いな、ウチは水分補給を大事にしていてな」
「にしても、限度ってモンがあるだろォ」
「お前らの水は酒で十分だろ」
おっさんが言い切ると、
ぞろぞろと、部下が集まり出す。
「おい、そこの大男、俺らを誰だと思ってやがる」
「あッ、陸軍の連中なんか知るか」
「なんだァ、やんのかァ」
ガンを飛ばされる、おっさん。
首根っこが引っ張られる、俺。
「(ほら、今のうちに帰るで)」
「(えっちょっ)」
「(了解っ)」
パーマ少尉に担がれ、店から運び出される。
去りゆく際に見たのは、徐々に窓に近づく、おっさん。
「落ち着け、ブラザー。知らないなら教えてやればいいだけだ」
店内に声が響き渡る。
「野郎ども、陣を組めッ」
「「「えいえいさー」」」
荒くれ兵士を中心に、周囲が移動、そしてキメポーズ。
「誰かと聞かれたら答えてやるのが、俺達流。
アメリア陸軍、第7騎兵連隊、戦車小隊、
奪ってよし、殴ってよし、殺してよし、が信条《モットー》の──」
「「「鳴く子も黙る、ヘルブラザーズ。地獄のヘルブラザースだァッ」」」
「「「────って、いねえッ!!」」」
皆様が陣を組んでる間に会計を───という店員の声は、
男たちの騒音でかき消されるのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック・街中 [19:45]】
同じような道を、歩く3つの影。
「いいんすか帰って」
「ええんや、ええんや」
「あんなところで陸と問題起こして見ろ──飛ぶのは俺たちの首だ」
「えっ、でも大尉殿の方が階級は高いでしょうに」
「階級の問題というよりも、派閥の問題や」
創設されてから年月が経っていない空軍は、どうしても海軍や陸軍の顔色をうかがう必要があった。
それは、作戦内容にも現れる、特色である。
「陸軍と空軍のやり玉なんかにあげられて見ろ、一生会議室でうなされることになるぞ」
そんなもんですか、という声は、街の夜に飲み込まれていく。
「ところで、嬢ちゃんは?」
「えっ、さっき忘れ物があるって」
「いや、なにも聞いていないんだが?」
「「「(うわ、嫌な予感がする......)」」」
そういえば、机にカメラが置きっぱなしだったな、と誰かが思った。
でも、あの少女、絶対問題を起こすし、とは皆思った。
「なあ、誰が戻るか決めねえ、か」
「何で決めますか? 拳とか」←実は格闘技の免許持ちのパーマ少尉。
「馬鹿、階級順だよ」←最も権力があるトリノ大尉。
「年齢順でどうや」←最も若い細目少尉。
「「「(......うわ、誰も行く気ねェ)」」」
こほんと、トリノ大尉は咳払い。
口を開いて出た言葉は──
「とりあえず明日にするか」
「そうや、部下辺りにやらすのが一番や」
「いい案ですね。それでいきましょう、賛成賛成」
白髪少女の命運は、軍部の面倒ごとには勝てなかったようである。
店からは、可愛い悲鳴が聞こえるが、それはまた別のお話。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
こんかいは2話か3話構成です。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。