竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ウーラジアストック・店内 [19:45]】
「へっへ、コイツはアンティークなカメラだぜェ」
煌びやかなレストランには、不釣合いな、悪役台詞。食器を鳴らす音は潜めており、周囲の客も、吊り下がった照明も、にらみ合う2つの影を注視するのみであった。
1つは大影。十人はいる荒くれ兵士達。
1つは小影。白髪が帽子から見える少女なり。
彼ら彼女の争点は、荒くれ兵士が持つ、俺のカメラ。
「嬢ちゃんの探し物はこいつかい」
「いいセンスしてんじゃねーかァ」
「なかなかのブツでっせ、兄貴ィ」
「ブラザー共、まずは落ち着け。嬢ちゃんが困ってるじゃねーかッ」
荒くれ兵士のボスは、声を張り上げる。
もじゃもじゃしたヒゲも一緒に動くところに、かすかな愛嬌がある。
「こいつを拾ったのは、俺達だ」
「まあ持ち主は俺だが、な」
「ええっと、嬢ちゃんのものかも知らんが」
「かも何も、確定事項だ、あほか」
「だが、タダで返すのは俺たちの信条に反する」
「知るか、ボケェっ」
あまりの屁理屈に口が悪くなるのは、仕方ない。
(こんなことなら、名前でも書いとけばよかったぜ)
そんな口論に水を差すは、店員だ。
「あのー、お客様」
「「なんだッ」」
「これ以上は────」
騒がしい俺達。
周囲など気にしていなかったが、
周りの客の視線にようやく気づく。
流石に騒ぎは起こせないのか、荒くれからの提案一つ。
「仕方ねぇ。続きは、向こうでやるぞ」
「いや、口車には乗らねえぞ」
そもそも、カメラを返してくれれば済む、話なのだ。
「まあ聞けって」
「だから口車には......」
「場所は、大人の遊び場──賭博場でだ」
毎日港にいたストレスか、
大人という響きに惑わされたのか、
単純に賭博場で遊んでみたかっただけか。
こんな言い訳を重ねて、言いたい事は一つ。
好奇心のあまり、提案に乗ってしまった俺は悪くない。
◇◆◇
【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:00]】
連れてこられたのは小さなBAR。
こじんまりとしたドアの中には、予想以上の兵士で賑わっていた。
「本土には、もっとデッカイ場所があるんだけどな」
「軍人でもギャンブルするのか」
「当然だ。賭けて、飲んで、戦うのが軍人だ」
嘘である。
賭け事が禁止されている州もあれば、海軍では酒を飲むことも許されてはいない。
酔っぱらっているのは、だいたい陸軍か、ジジイの2択と言われるぐらいである。
「酒も販売してんのかよ、呑気なこって」
「オススメはしねえぞ。消毒液と変わんねえからな」
そうやって、店の中に連れていかれ、荒くれ兵士は宣言する。
「よし、ここで嬢ちゃんには───」
「賭けで勝てと」「給仕をしてもらう!!」
被った言葉は別々だ。
(あれ? 思ってたのと違う)
「うん、給仕?」
「この店はセルフで取る必要があって、大変でな」
「それで俺に給仕させようって魂胆か」
「まあ2時間ぐらいやってくれればいい」
「2時間? なんか中途半端な時間だな」
「じゃないと、深夜になっちまうからな」
「あっそう」
なんというか良心的な提案である。
いや、モノ捕られて、働けの時点で悪質ではあるんだが。
(普通こういう時って、賭け事で勝負だ、って流れな気もするが)
期待していた方面とは違う、といった感想であろうか。
「いや、これは騙してエ○同人みたいな流れか」
「いや騙すもなにも、嬢ちゃん未成年だろ」
それはそうだが。
その見かけで、そんな律儀なのは違う、と思ってしまう。
「でも──」
「──いいか、嬢ちゃん。
無法ってのは最低限のルールの上で成り立ってんだ。
それすら守れねえヤツは人間ではなくてな、ただの獣だ」
別に威圧感があるわけではない。
周囲の喧騒に飲まれてしまうほどの話。
だが、そこには荒くれ兵士なりの生き様があった。
故に、思わず頷いてしまう。
「この賭博場だってそうさ」
壁には、ルールがびっしりと書かれている。
そして最後に大きく──イカサマした者は、全裸に処す、と書いてあった。
「過激なルールだな」
「これでもマイルドになった方らしいぞ」
よく見れば、下の方に“私刑”なんて文字がうっすらと残る。
(確かにコレに比べりゃマイルドかもな)
しかたなし、と一歩踏み出し、疑問が湧く。
「ちなみに普通にカメラ返すのはダメなのか?」
「そこは俺のルールに抵触してな」
“悪いな”と、荒くれ兵士は笑うのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:10]】
天井の羽根はゆっくりと回り、室内に熱気を充満させていく。熱気は喧騒を乗せ、やがて歓声へとなっていく。
歓声が包み込むは、酒場の中心、丸机の3人。
「で、どうして俺が対戦席に座ってんだ」
「そうかっかするなよ、お嬢ちゃん」
「別にキレてはねえよ、よぼよぼ老人」
対面に座るは、白髪の老人。
身なりは普通以下、布切れはボロボロだ。
だが、周囲には大量の硬貨。
身なりには似てもつかない、ギラギラが爺を彩っていた。
「さて、なんか言ったら、どうなんだ──研究員さんよ」
横の人物に声をかけるが、
返答が返るのは脳内だ。
「(いやー、聞こえてます?)」
「(やっぱりコレ、気持ち悪い)」
「(まあ、一種の通信と思ってくれば)」
そう言って、血をオロオロ吐いている、研究員。
すでに2回目であり、店員の手際も慣れてきた。
「(で、なんで俺がプレイヤーなんだよ)」
「(助手から賭け事は禁止されてまして)」
「(なら賭博場にくるなよ......)」
「(行くことは許されていますから)」
どんな屁理屈だよ。
てか、賭博を見るだけで楽しめるのか、という疑問すら湧いてくる。
「儂帰って、いいかのー」
「駄目に決まってんだろ」
呑気に話しかけてくる老人。
だが油断してはならない。
全ての元凶はこの老人だ。
聞いた話によると、地元の常連客。
何時もはカモ寄りの、頑固な爺らしいのだが、
本人曰く、今日はかなりツイているということ。
(これが一度や二度なら分かるんだが、な)
誰が挑もうとも、連戦連勝。
爺さんの牙城を崩すことはできず。
遂には大事なモノを賭けた馬鹿がいる始末。
(それを取り戻す必要があるのは分かるが......)
店の挑戦者が尽きたところで、
偶然、介抱されていた研究員が、登場。
何故か、俺を代役に立てて勝負を始める。
「勝負はどうしますか」
「ポーカーでどうじゃろう」
「ポーカーですか。分かりました」
「いや、納得するな──俺はルールすら知らんぞ」
なに、本人の了承もなく決めてんだ。
せめてババ抜きや、じじ抜きとかで勝負してほしい。
「(大丈夫さ)」
「(どこら辺が大丈夫なんだ)」
「(子供でも分かるルールだからね)」
「(その子供が分かってないのが、問題なんだよっ)」
頭はすでに、痛い。
だが、了承したのなら仕方ないと、
痛い頭を捻って、ルールを思い出そうとする。
(ポーカーって、アレだよな)
手札見せて、強い方が勝つ奴。
確か.....Aが強いのと、ジョーカーが何でもなれるんだっけ。
いや、これ以上は────
「(なーに、僕が言った通りにすればいいから)」
「(それ、俺、いる?)」
「(ははは、まあ気にしないでくれ)」
そんな脳内の笑い声と共に、
手元に最初のカードが配られるのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:13]】
カードの入れ替えは一度。
その後、お互いに手札を見せ合う。
丸机の上で対になるのは、5枚のカード。
「ワンペアです」
「ツーペアじゃ」
そして役が強いほうが勝つ。それがルール。
「儂の勝ちじゃな」
見せたカードは中央に捨てられ、
新しいカードが再分配。
「次......儂は勝負を降りる」
「ほう、ならば僕らの勝ちですね」
「ツーペア」
「ストレートじゃ」
「今度はこっちが降りますね」
「なら儂の勝ちじゃな」
そうやって勝負は続いていき、
丸机にカードの山が出来上がった頃、
俺達の手持ちは───無一文になっていた。
「いや、負けてんじゃねーかっ!!」
「はははっ、思ったより強いなぁ」
呑気に笑う研究員。
ニヤリと微笑む老人。
「じゃろ、儂、結構強いんじゃよ」
その眼光には、衰え知らずと書いてあった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は無駄に書きすぎたので、前編後編構成です。
処すならなにも考えず書いた作者に言ってください。
えっ、もちろん3話で終わらなくなったよ。4話構成だよ。
チックショー。
誤字報告があると作者が喜びます。