竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

32 / 44
記録㉜ 喧騒にて、若者達は老人に訊ねる

【ウーラジアストック・店内 [19:45]】

 

「へっへ、コイツはアンティークなカメラだぜェ」

 

煌びやかなレストランには、不釣合いな、悪役台詞。食器を鳴らす音は潜めており、周囲の客も、吊り下がった照明も、にらみ合う2つの影を注視するのみであった。

 

1つは大影。十人はいる荒くれ兵士達。

1つは小影。白髪が帽子から見える少女なり。

 

彼ら彼女の争点は、荒くれ兵士が持つ、俺のカメラ。

 

「嬢ちゃんの探し物はこいつかい」

「いいセンスしてんじゃねーかァ」

「なかなかのブツでっせ、兄貴ィ」

 

「ブラザー共、まずは落ち着け。嬢ちゃんが困ってるじゃねーかッ」

 

荒くれ兵士のボスは、声を張り上げる。

 

もじゃもじゃしたヒゲも一緒に動くところに、かすかな愛嬌がある。

 

「こいつを拾ったのは、俺達だ」

「まあ持ち主は俺だが、な」

 

「ええっと、嬢ちゃんのものかも知らんが」

「かも何も、確定事項だ、あほか」

 

「だが、タダで返すのは俺たちの信条に反する」

「知るか、ボケェっ」

 

あまりの屁理屈に口が悪くなるのは、仕方ない。

 

(こんなことなら、名前でも書いとけばよかったぜ)

 

そんな口論に水を差すは、店員だ。

 

「あのー、お客様」

「「なんだッ」」

 

「これ以上は────」

 

騒がしい俺達。

周囲など気にしていなかったが、

周りの客の視線にようやく気づく。

 

流石に騒ぎは起こせないのか、荒くれからの提案一つ。

 

「仕方ねぇ。続きは、向こうでやるぞ」

「いや、口車には乗らねえぞ」

 

そもそも、カメラを返してくれれば済む、話なのだ。

 

「まあ聞けって」

「だから口車には......」

 

「場所は、大人の遊び場──賭博場でだ」

 

毎日港にいたストレスか、

大人という響きに惑わされたのか、

単純に賭博場で遊んでみたかっただけか。

 

こんな言い訳を重ねて、言いたい事は一つ。

 

好奇心のあまり、提案に乗ってしまった俺は悪くない。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:00]】

 

連れてこられたのは小さなBAR。

 

こじんまりとしたドアの中には、予想以上の兵士で賑わっていた。

 

「本土には、もっとデッカイ場所があるんだけどな」

「軍人でもギャンブルするのか」

「当然だ。賭けて、飲んで、戦うのが軍人だ」

 

嘘である。

 

賭け事が禁止されている州もあれば、海軍では酒を飲むことも許されてはいない。

 

酔っぱらっているのは、だいたい陸軍か、ジジイの2択と言われるぐらいである。

 

「酒も販売してんのかよ、呑気なこって」

「オススメはしねえぞ。消毒液と変わんねえからな」

 

そうやって、店の中に連れていかれ、荒くれ兵士は宣言する。

 

「よし、ここで嬢ちゃんには───」

 

「賭けで勝てと」「給仕をしてもらう!!」

 

被った言葉は別々だ。

 

(あれ? 思ってたのと違う)

 

「うん、給仕?」

「この店はセルフで取る必要があって、大変でな」

 

「それで俺に給仕させようって魂胆か」

「まあ2時間ぐらいやってくれればいい」

 

「2時間? なんか中途半端な時間だな」

「じゃないと、深夜になっちまうからな」

 

「あっそう」

 

なんというか良心的な提案である。

 

いや、モノ捕られて、働けの時点で悪質ではあるんだが。

 

(普通こういう時って、賭け事で勝負だ、って流れな気もするが)

 

期待していた方面とは違う、といった感想であろうか。

 

「いや、これは騙してエ○同人みたいな流れか」

「いや騙すもなにも、嬢ちゃん未成年だろ」

 

それはそうだが。

 

その見かけで、そんな律儀なのは違う、と思ってしまう。

 

「でも──」

 

「──いいか、嬢ちゃん。

無法ってのは最低限のルールの上で成り立ってんだ。

それすら守れねえヤツは人間ではなくてな、ただの獣だ」

 

別に威圧感があるわけではない。

周囲の喧騒に飲まれてしまうほどの話。

だが、そこには荒くれ兵士なりの生き様があった。

 

故に、思わず頷いてしまう。

 

「この賭博場だってそうさ」

 

壁には、ルールがびっしりと書かれている。

 

そして最後に大きく──イカサマした者は、全裸に処す、と書いてあった。

 

「過激なルールだな」

「これでもマイルドになった方らしいぞ」

 

よく見れば、下の方に“私刑”なんて文字がうっすらと残る。

 

(確かにコレに比べりゃマイルドかもな)

 

しかたなし、と一歩踏み出し、疑問が湧く。

 

「ちなみに普通にカメラ返すのはダメなのか?」

「そこは俺のルールに抵触してな」

 

“悪いな”と、荒くれ兵士は笑うのであった。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:10]】

 

天井の羽根はゆっくりと回り、室内に熱気を充満させていく。熱気は喧騒を乗せ、やがて歓声へとなっていく。

 

歓声が包み込むは、酒場の中心、丸机の3人。

 

「で、どうして俺が対戦席に座ってんだ」

 

「そうかっかするなよ、お嬢ちゃん」

「別にキレてはねえよ、よぼよぼ老人」

 

対面に座るは、白髪の老人。

 

身なりは普通以下、布切れはボロボロだ。

 

だが、周囲には大量の硬貨。

 

身なりには似てもつかない、ギラギラが爺を彩っていた。

 

「さて、なんか言ったら、どうなんだ──研究員さんよ」

 

横の人物に声をかけるが、

 

返答が返るのは脳内だ。

 

「(いやー、聞こえてます?)」

「(やっぱりコレ、気持ち悪い)」

「(まあ、一種の通信と思ってくれば)」

 

そう言って、血をオロオロ吐いている、研究員。

 

すでに2回目であり、店員の手際も慣れてきた。

 

「(で、なんで俺がプレイヤーなんだよ)」

「(助手から賭け事は禁止されてまして)」

「(なら賭博場にくるなよ......)」

「(行くことは許されていますから)」

 

どんな屁理屈だよ。

 

てか、賭博を見るだけで楽しめるのか、という疑問すら湧いてくる。

 

「儂帰って、いいかのー」

「駄目に決まってんだろ」

 

呑気に話しかけてくる老人。

だが油断してはならない。

全ての元凶はこの老人だ。

 

聞いた話によると、地元の常連客。

 

何時もはカモ寄りの、頑固な爺らしいのだが、

 

本人曰く、今日はかなりツイているということ。

 

(これが一度や二度なら分かるんだが、な)

 

誰が挑もうとも、連戦連勝。

爺さんの牙城を崩すことはできず。

遂には大事なモノを賭けた馬鹿がいる始末。

 

(それを取り戻す必要があるのは分かるが......)

 

店の挑戦者が尽きたところで、

 

偶然、介抱されていた研究員が、登場。

 

何故か、俺を代役に立てて勝負を始める。

 

「勝負はどうしますか」

「ポーカーでどうじゃろう」

「ポーカーですか。分かりました」

 

「いや、納得するな──俺はルールすら知らんぞ」

 

なに、本人の了承もなく決めてんだ。

 

せめてババ抜きや、じじ抜きとかで勝負してほしい。

 

「(大丈夫さ)」

「(どこら辺が大丈夫なんだ)」

「(子供でも分かるルールだからね)」

「(その子供が分かってないのが、問題なんだよっ)」

 

頭はすでに、痛い。

 

だが、了承したのなら仕方ないと、

 

痛い頭を捻って、ルールを思い出そうとする。

 

(ポーカーって、アレだよな)

 

手札見せて、強い方が勝つ奴。

確か.....Aが強いのと、ジョーカーが何でもなれるんだっけ。

 

いや、これ以上は────

 

「(なーに、僕が言った通りにすればいいから)」

「(それ、俺、いる?)」

「(ははは、まあ気にしないでくれ)」

 

そんな脳内の笑い声と共に、

 

手元に最初のカードが配られるのであった。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・街外れ/酒場 [20:13]】

 

カードの入れ替えは一度。

その後、お互いに手札を見せ合う。

 

丸机の上で対になるのは、5枚のカード。

 

「ワンペアです」

「ツーペアじゃ」

 

そして役が強いほうが勝つ。それがルール。

 

「儂の勝ちじゃな」

 

見せたカードは中央に捨てられ、

 

新しいカードが再分配。

 

「次......儂は勝負を降りる」

「ほう、ならば僕らの勝ちですね」

 

「ツーペア」

「ストレートじゃ」

 

「今度はこっちが降りますね」

「なら儂の勝ちじゃな」

 

そうやって勝負は続いていき、

 

丸机にカードの山が出来上がった頃、

 

俺達の手持ちは───無一文になっていた。

 

「いや、負けてんじゃねーかっ!!」

「はははっ、思ったより強いなぁ」

 

呑気に笑う研究員。

 

ニヤリと微笑む老人。

 

「じゃろ、儂、結構強いんじゃよ」

 

その眼光には、衰え知らずと書いてあった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は無駄に書きすぎたので、前編後編構成です。
処すならなにも考えず書いた作者に言ってください。
えっ、もちろん3話で終わらなくなったよ。4話構成だよ。

チックショー。

誤字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。