竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
「いや、こんな重い装甲、人間には動かせんだろ」
「まあ、確かに......」
[ドイチュ軍事雑誌、コラム:新兵器を作る男達、抜粋]
【ウーラジアストック・西/大通り[9:00]】
建物であった残骸は道ばたに放置され、荒れた道を補修もせずに人々は通っている。ねじ曲がった街灯は本来の役割を捨て、道端のオブジェクトと化している。
戦闘の残滓は未だ放置されていた。
「うわっと」
風で飛びかける帽子を押さえる少女。
そんな白髪少女の右手にはカメラが。
撮るのは数人の荒くれ兵士達。
野戦服に身を包んだ兵士達だ。
2、3回カメラを向け、ふと思う。
「コレ、人力で終わるのか......?」
荒くれ兵士達は真面目に仕事をしているが、
作業量は瓦礫に比べて焼け石に水であった。
(こりゃあ、ボスであるヒゲのおっさんに聞いてみるか)
足を進めて数分、瓦礫の近くで立っているおっさん。
「おい、ヒゲのおっさん、サボりかよ」
「嬢ちゃんこそ、写真はどうした」
「十分に撮ったと思うけど」
ぱんぱんになったポケットを見せる。
革のジャケットには、外からでも分かるほどフィルムが詰め込まれていた。
「安心しろ、こっちも“そろそろ”だ」
「なーにが、そろそろだよ」
ヒゲのおっさんは腕時計から視線を外さない。
よく考えれば、部下の兵士だけ働かして、ボスであるおっさんは動いていない気がする。
(荒くれ兵士だけ働かせていい役職だこと)
「サボるのも───」
きゅらきゅらきゅ。地面が軋むような音が聞こえる。
聞いたことの無い、音。
次第に音は大きく、重厚になってゆく。
「何だ? 何かが近づいて......」
音の方向へ、警戒の視線。
「嬢ちゃん、顔を覆ってた方がいいぞ」
「冗談だろ、マンモスでも近づいてんのか」
「マンモス......割と惜しいこと言ってるかもしれんぞ」
ゴゴゴゴゴッ。噴煙は顔に、
薄ら目を開け、瞳に映るは影。
マンモス如き、巨体の影だ。
「で、デケえ」
巨大装甲。全身を鉄で覆ったそれは───、
「
そう、ヒゲのおっさんは満足に言うのであった。
◇◆◇
【ウーラジアストック・西/大通り[9:05]】
地面を踏み締めて登場するは、“陸の王者”。
海が戦艦であるならば、陸は戦車といわれるほどの花形である。
「兄貴ィ、お待たせしやしたァ」
「ブラザー、遅かったじゃねえか」
「朝はコイツにとっても苦手なようですやァ」
砲塔から、荒くれ兵士が姿を現す。
ヒゲのおっさんは号令をかけ、戦車の周りには兵士が集まっていた。
「ブラザー達、換装の時間だ」
「「「ヘイッ」」」
「C装備換装は15分だ。戦場は厳しいぞ」
「「「ヘイッ!」」」
「その後、休憩を挟み、瓦礫の撤去だッ」
「「「ヘイッ、兄貴ッ!!」」」
凹んだ鉄板が取り付けられていく。
手際はいい。何度も練習したような速さ。
10分もしないうちに取り付け作業は終わっていた。
(みんな呑気に休憩してんな)
野郎の休憩写真なぞいらないので、戦車の周囲を撮る。
「しっかし、車はないのに、戦車はあるなんてな」
戦車の形状に対して、
前方には、垂れる2本の線。
弧をえがき垂れる姿は愛嬌すら感じる。
(だが、通信用のアンテナにしても、微妙な)
「もっと短くしとけよ」
指でアンテナを弾く。
びよよよーん。不規則に揺れる様子は、妙に面白い。
「へっ、戦車でもびっくりするの──「「「馬鹿ッ、戦車に喰われるぞッ!!」」」」
声を荒げるは兵士達。
だが、それ以上に、気になったのは。
「
ガサガサ───手遅れだ。
異変に気づいたときには、背後に眼光。
戦車から這い出てくるは、漆黒の甲殻。
ご家庭に出没するヤツは、想像の50倍でそこにいた。
「ひ、ひゃ──っ」
可愛らしい声が響き渡る。
◇◆◇
【ウーラジアストック・西/大通り[9:30]】
「で、馬鹿でかいゴキブリはなんだよ」
「ゴキブリではない、俺たちの家族
威張るヒゲのおっさん、カサカサと動く横の生物。
キラリと光る漆黒の甲殻に、
きょろきょろ動く球体が2つ、
もぞもぞと動くはブラシのような部分。
どうみても、ゴキブリだ。
「流石に無理があるだろ」
発言するは野戦服白髪少女。
あの後、食べられかけた俺。
液体でぐちょぐちょになった服を脱ぎ、現在は隊員に貸してもらった野戦服だ。
「Gは凄いんだぞ」
「何が凄いんだよ」
横のゴキブリも、ふんすと威張っている。
「まずは好き嫌いがない」
「そりゃゴキブリだからな」
雑食性が売りである。
「そしてよく動く」
「そりゃゴキブリだからな」
諸説によれば300km/h出すことも可能な足を持っているそうだ。
「何より可愛らしいッ」
「それは目が腐ってる」
マジレスしてしまったが、ゴキブリは可愛くない。
まだ俺の方が愛嬌があるレベルである。
(こんな化物を飼いやがって───)
くちゃ。生暖かい感触に包まれる。
「うおおおお、また食おうとしてんじゃねーっ」
「いいぞ、いいぞ、G。分からせろッ」
「馬鹿、助けろ。少女がゴキブリに食われてんだぞっ」
戦闘装甲車両型昆虫、略称は──
この世界の戦車は、昆虫に装甲をのせたモノを指す。
新人整備士が、最初にたたき込まれることは、戦車には迂闊に近づいてはいけないことである。
◇◆◇
【ウーラジアストック・M戦車内部[10:00]】
金属に覆われた車両内部は僅かな明るさと、オイルと鉄の匂いが充満していた。
足を伸ばせば金属に当たる。様々な突起やレバーがある中では、休むという行動さえも制限されていた。
「驚かせた分は、詫びねえとな」
膝の上にのせられる。
自分の二倍ほどもある大きな膝だ。
「どうだ特等席だろ、嬢ちゃん」
「後は狭くなけりゃ完璧だな」
「文句をいうな、文句を」
髪をわしゃわしゃされる。
火薬とオイルの匂いが染みついた手。
いつもの手とはまた違った匂いを感じる。
「兄貴の膝の上なんて怪我しても乗れねえぜェ」
「馬鹿が怪我したときぐらいは乗せてやるぞ」
「なら今後怪我したときには膝の上ですなァ」
砲手の兵士とヒゲのおっさんは笑い合う。
「くくく、俺たちに兄貴の膝はちっさすぎるぜェ」
更に、下から顔を出した兵士。
「下にも部屋があんのかよ」
「大虫を身近に感じれる最高の部屋だぜェ」
「うーん、また今度で頼む」
正直、大虫の口に包まれた感触がまだ残っている。
まさか俺を一飲みするほどデカいとは思わなかった。
(でも、あの巨体が下にいるんだよなぁ)
「運転手ってどうやって座るんだ?」
「こう、寝そべるように座るんだぜェ」
そんなこんなで、戦車は起動する。
赤ランプが灯り、カサカサ音が鳴り始め、
ガゴンと無限軌道が回転を始める。
「上に行くぞ」
砲塔上部ハッチが開けられて、俺は肩車される。
「ぷはっ」
「いい眺めだろ、嬢ちゃん」
360度、街の景色。
変わったのは高さだけ、
それだけだが新鮮な空気が脳に入ってくるようだった。
「いい眺めだ」
「特等席の特権ってヤツだ」
上を眺めると、飛んでる鳥。
癖で首が痛くなるほど、空を見てしまう。
「おいおい大丈夫か」
「やっぱり空の方が好きだな」
「そいつは飛んでから比べるもんだぜ」
「兄貴ィの言うとおりだァ」
「でも飛ぶってのは何年もかかるんだろォ」
「嬢ちゃんが俺らぐらいの年齢になると、陸の方が好きになってるさ」
装填手と運転手は顔を見合わせる。
「「そりゃ、違いねェ!!」」
戦車は瓦礫をどんどんと端にどけていく。
◇◆◇
【ウーラジアストック・M戦車上部[10:30]】
「しっかし、いい大虫を育てたモンだ」
「全くだ、動きにブレがねェ」
「そんなに違うのか?」
ガタンガタンと揺れる俺にとっては、歩いた方がマシに感じるレベルだ。
「昔、アリに乗ってた事があるんだが、あれは酷かった」
「餌を見つけたら、すぐに右往左往するんだぜェ」
「まだ馬の方がマシさァ」
戦場の主役は、未だに騎兵。
だが彼らが乗るのは馬ではない。魔力で巨大化した大虫。
地上を這う虫なんぞ、大鳥の前では赤子よ──とか言っていた爺の顔が浮かぶ。
「じゃあ、なんで乗ってたんだ」
「俺たちは人殺しを仕事にする人間だぜェ」
「強いモン使ってねーと負けちまうだろォ」
それは地上での理屈だ。
普通に考えれば絶対安全圏から銃を撃った方が強いに決まっている。
「空から銃を撃った方が強くない?」
「あーんな、豆鉄砲で大虫が倒せるかッ」
ヒゲのおっさんは、発言を強める。
どうやら何かが琴線に引っかかったようだ。
「いいか、タダでさえ強靱な大虫の障壁──」
おっさんは装甲をだんだんと叩く。
「そこに3人も乗ってんだ」
「だから?」
「つまり障壁の堅さも3倍」
戦車の利点。
それは魔力があれば運用できると言うこと。
大鳥の場合、風魔法+障壁の魔力が必要になる。だが大虫の場合、必要なのは障壁の魔力のみ。才能や技能に左右されないため、募集しやすく、扱いやすかった。
「コイツは化物だぜェ」
「まさしく一騎当千の怪物ォ」
「倒したけりゃ、俺たちと同じモンもってこいってな」
古来より戦場での大虫同士の衝突は、よく行われた。
大規模な戦争の壁画には、勇敢な兵士と、猛進する大虫が描かれる。
国力の一つとして、大虫の保有数という項目が存在するほどである。
「しっかし、研究者達も考えたモンですなァ」
「まさか大虫に装甲を付けるとは凄いぜェ」
「元を作ったのはドイチュの連中だ」
「げっ、亡国の技術なんすかァ」
ドイチュ。欧米に存在する国の1つ。
前回の戦争で負けた国の一つらしい。
まあ、風の噂で聞いただけなのだが。
「そうだ、やっこさんどもはアリを装甲化した。それが始まりだ」
アリの装甲化。戦車のような外観を付けたと言うことだろうか。
大虫の防御力に戦車の火力が足されれば、確かに強そうではある。
「でも戦争に負けたんだろ?」
「負けたどころじゃねェ。首都が滅んだんだァ」
「一夜にしてなにも無くなってちまったんだぜェ」
しみじみと語る兵士達。
「そんなにヤバい魔法でも使われたのか?」
決戦兵器と呼ばれる魔法がある。
大地を割ったり、天を裂いたり、と書物に登場するおとぎ話級ではあるが。
「そんな華々しい末路じゃねェ」
「あれはおぞましいっていうのがあってるぜェ」
「奴らは───大虫に飲まれたんだ。凶暴化した自国の虫にな」
ヒゲのおっさんは、遠い向こうを見る。
「あれは、なんともいえねえ、末路だ」
つん、と風が吹く。
涼しいがどこか悲しい風。
妙に肌寒いと感じたのは気のせいではない。
「まあ、最強の俺らには関係ない話だな」
「兄貴ィの言うとおりだぜェ」
「よしッ、次の瓦礫だァ」
戦車は進む。
瓦礫を押しのけ我が道を。ここはウーラジオストック。未だに首都ではない。
だが、この道は首都へと続く。
戦車を使ってまでも、道を整備するのは善意ではないような、そんな予感がした。
──余談
「なあ、戦車って2両あるよな」
「向こうにはG2がいる」
「そうか......2匹いるのか」
1匹見たら30匹いると言われたゴキブリ。
この世界でも増やすのが他の虫より楽なそうだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
戦車を書いてたらあーでもないこーでもないとなりました。
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