竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
[司令官]
大虫が街に侵入だと......警備の連中は何をやっている!!
[Briefing]────────
ウーラジアストック市街地に突如侵入したクワガタ型の大虫が、破壊行動を開始。港に被害が及ぶ前に、これを速やかに討伐せよ。クワガタ型の特徴として、鋭利な顎を持ち、攻撃力が高いと見られるため、正面からの接近は避けて、交戦をおこなえ。では作戦を遂行せよ。
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【ウーラジアストック・西/大通り/入り口[14:15]】
ひょっこり。
白髪少女は顔を出す。戦車の砲塔から見える景色は、変わらない街並み。
(ちょっと薄暗いな)
戦車を覆うは薄緑の布。迷彩用の布だが、街の景色とはミスマッチ。
大虫の臭いを隠すとか言っていたが、どれほどの効果があるのやら。
「てか、時間かかりすぎだろ」
「嬢ちゃん、まだ乗ってたのか」
「いや、うぐ、それはあのだな......」
カメラを握り混む。
本音として、戦闘を撮影したいという気持ち。
不謹慎だとは分かっているが、好奇心には勝てず。
結局戦車が止まっているにも関わらず、乗員していた。
(戦闘がすぐに始まると思って、身構えてたのになぁ)
「全く、今から降ろすのは不可能だな」
「悪かったよ」
「ちょっとは周りのことを考えやがれ」
「うぐぐぐっ」
ひげのおっさんに呆れられる。
「だって、15分で現場について、1時間も待つとか分からんじゃんっ」
「嬢ちゃん、緊急ならまだしも、普通は上の判断を待つもんなんだよ」
ズドーン、ズドーン。
向こう側の建物が倒壊する。
「しかも、街壊れてるしっ」
「壊れてるだけだ。退去通達は出してる」
サイレンでの通達、いそいそと移動する人達、30分前の事。
街には人間よりも、ころがるゴミの方が多い、現在。
(でも、壊れるのを見てるだっけてのは、ちょっとなぁ)
「どうにかならんもんか」
「どうにもならん。それが軍隊ってやつ──」
無線が鳴る。
『総員、配置につけ』
『大虫は予定通り進行中』
『作戦開始時刻だ。検討を祈る』
数秒の通信であったが、
周囲の空気はピリリとした物に変わる。
「───ブラザー達、予定位置に付いたか」
『A班、了解ァ』
『B班、了解でェ』
『C班、了解だぜォ』
ヒゲのおっさんは息を吸い込んで、無線に話す。
「虫退治と甘く見るな、気を引き締めていけ」
『『『ヘイ、兄貴ィ!!』』』
平穏な街に、硝煙交じりの空気が流れ始める。
◇◆◇
【ウーラジアストック・西/大通り[14:20]】
路地裏には潜む影。
大小連なる兵士達が息を潜める。
視線の先には大虫。
大通りを踏みつけ進む───巨大なクワガタ。
(やっぱりデケェ)
クワガタが一歩進むたび、大通りの舗装はビキビキと割れる。
ツノのように尖った大顎は、当たるだけで街灯を切り裂く。
「化物みてぇだ」
「化物だ。だが俺達の方がバケモンだ」
ひげのおっさんは無線を取る。
チャンネルは味方の別働班へ。
ジジっと雑音のって声が届く。
「A班、動きを止めろ──」『──ヘイッ!』
大通りが爆発。
煙、タイルは飛び散り、
噴煙が晴れたあとには、大穴。
足を引っかけたクワガタは、動きがぎこちなくなる。
「B班、足を狙え───」『──アイッ!!』
4発の弾頭。
見事に足を捉えたソレは、盛大な爆発。
クワガタの足はそこで止まる。
「C班、陽動をしろ──」『──ヘイサッ!!!』
機関銃の発砲多数。
被弾した甲殻から煙が上がり、
カランカランと銃弾は地面に転がる。
クワガタは周囲を警戒する。
「最後は俺達だ───とどめを刺すぞ」
砲塔が揺れ、迷彩用の布が飛ぶ。
砲身は正面、クワガタを捉える。
距離は30m。的にするにはやや小さい。
「当てれるか」
「ハエにだって当てれまっせェ」
「ならクワガタは余裕だな、撃てッ」
ドスン。空薬莢が踊る。
(うぐっ、う、うるせーぇ)
反射的に耳をふさぎ、片目で、
弾頭は甲殻に当たり、火花が舞う。
ぐっと逸れた弾頭は、建物と共に、爆発。
『兄貴ィ、まだ生きてるッ』
「思ったよりも甲殻が硬い」
『いったん退きやすかァ』
「いいや、二発目を────ぬっ」
違和感。
戦場に奔る一瞬の空白。
嫌な予感と言ったばかりに周囲が止まる。
荒くれ兵士が、双眼鏡を覗く。
「兄貴ィ────ガキがコケてやがる」
煤まみれの子供。
仰向けに転がり、起き上がろうと、もがく。
だが、脚を痛めたのか、恐怖からか、立ち上がれない。
(アレは、さっきの身寄りのない子供っ)
「何やってんだっ、こんなところでっ」
「火事場泥棒だ。やんちゃなガキ共が」
ひげのおっさんは吐き捨てるように言う。
『兄貴ィ、作戦はァ』
「......続行だッ! 今更変更できるかッ!!」
『それじゃァ、ガキは......』
「運が良ければ助かる、気にするなッ」
冷徹な命令。
助けに行けば味方を危険に晒す。
退去通告も出してあるので、妥当な命令だ。
だが、人間としては欠けた命令とも感じた。
「二発目、撃て撃てッ───」『───りょ、了解ッ』
砲弾、と、銃弾の、雨あられ。
360°全方位からクワガタを包み込み、
耳を塞ぐ暇もなく、爆煙が視界を覆う。
◇◆◇
【ウーラジアストック・西/大通り[14:40]】
優雅な匂い。
表現するなら落ち着きや渋み感じてしまう異質な香り。
爆煙につつまれるなか、周囲には妙な香りが漂っていた。
手の甲にちょこんとのるは、植物の葉。
「紅茶の葉っぱ?」
葉は手から落ち────煙は吹き飛ぶ。
拮抗するは魔法障壁。
不可視の壁はクワガタの攻撃を止め、火花を散らす。
発動者は一人。
ボロボロの外套をたなびかせ、老人は立ち向かう。
少女は知っていた。
周囲に飛び散るは、少女も飲んだ紅茶の葉っぱ。
糞爺が───いや、立派な魔法使いが、そこにはいた。
「ま、魔法のじいちゃん」
「ガキっ、さっさといくんじゃ」
そんな声が、届く。
(む、無謀すぎる)
表面上は拮抗、
だがどう見ても押され気味。
数秒後には壊れてしまいそうな儚さだ。
「ひげのおっさんっ」
「あー、分かってるよッ」
距離30m。
急加速。戦車が軋みを上げる。
タイルをすっ飛ばし、視界は急速に変わる。
「兄貴ィ、これじゃあ戦車がァ」
「うるせー、爺が頑張ってんだ、俺達も頑張らなくてどうするッ」
距離20m。
ビキビキ。異音、見れば障壁にひび割れ。
「嬢ちゃん、どうする気だ」
「ちょっとでも可能性を稼ぐっ」
「馬鹿野郎、そっちは砲身だぞッ」
距離10m。
「おい、ブラザーッ」
「なんすか、兄貴ィッ」
「“コレ”止まれるか」
「このスピード、爺を回収するのは刹那でさァ」
────可能性を稼ぐ、か。
「なら合図で搭乗員を右側に寄せろ」
「戦車が傾きまっせ、兄貴ィ」
「上等だ」
距離1m。
少女は手を伸ばす。
わが身で風を切りながら、砲身に掴まり、これでもか、と。
「とっ、とどけっ、届いてくれっッ! 俺の右手ェッ!!」
だが、それでも、少女だけの手では、
───空を、
「ブラザー、今だッ!」
「「「へいッ!!、兄貴ッ!!!」」」
───否、届く。
曲芸じみた戦車の機動で稼がれた、僅かな距離は、確かな結果となって現れる。
少女の右手が掴むは、老人。
今度の右手は掴み損ねることはなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は長いので2話構成の戦闘です。
誤字報告があれば作者が喜びます。
誤字報告があったので踊っておきます。
ヽ(*゜∀゜)メ(゜∀゜*)ノ 飲まイェイ!!