竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録㊲ 努力の対価は感謝である

◇◆◇

【ウーラジアストック・西/大通り[13:41]】

 

「死ぬかと思った」

「儂の台詞じゃ」

 

砲塔を背にして、座り込む2人。

 

糞爺と白髪少女である。

 

「なんで子供を助けたんだよ」

「帰り道にデカブツが邪魔だっただけじゃ」

 

「なんで儂を助けたんじゃ」

「老人が道で転んでたからな」

 

「「......」」

「「.........っ!」」

「「ふははっははっはッッッ!!」」

 

戦車に吹く風すら気持ちがいい。

 

「あー、嬢ちゃん方、悪いがまだ戦闘中だ」

 

────現実に目を向ける。

 

タイルを叩き割りながら、迫るクワガタ。

大通りのタイルをふき飛ばして、逃げる戦車。

無茶の代償か、戦車の砲身はまっ二つに切られ、射撃は不可。

 

(いやー、軽く詰んでるなぁ)

 

「ブラザーッ、ケツが斬られそうだぞ」

「さっきの無茶で大虫がヒイヒイいってますさァ」

 

「弱気な発言は聞きたくねえッ」

「なら、なんとかしてみせまっせ、兄貴ィ」

 

ジャキンジャキンと鳴る大顎が、

 

今か今かと俺たちを喰おうとしてくる。

 

「爺さん、攻撃魔法とかねーのか」

「あるわけ無いじゃろッ! 儂は学者じゃぞッ!!」

 

「最近の学者はビームぐらい出せるんだよっ」

「悪いが儂は暗躍する古い学者の方が好きじゃッ」

 

うおっと。自慢の白髪が数ミリ切られる。

 

「ちいっ、追いつかれかねーぞっ」

 

(こういう時、魔法が使える連中がうらやましく感じる......)

 

武器は拳のみ。

 

頼りになる大鳥も、

おっさんも居なければ、

俺はただの幼い少女である。

 

せめて魔力があれば───いや、魔力?

 

「おっさん、大虫の障壁はどうなってやがるっ」

「どうやってっ、何がだッ」

「大きさ、形、魔力をどうやって操作してるかだ」

「知らんッ」

 

よく見れば、おっさんの手からは細い管。

 

戦車とつながる細い管。

 

(あれはいつも使っている魔力を伝える管っ)

 

「その手に付いてる、管をよこせッ」

「これ外すなって習うモンだぞ」

「いいからよこしやがれっ」

 

管を剥ぎ取り、口に咥える。

 

(うげっ、気持ち悪い)

 

中からはドロッとした、なんともいえない魔力。

 

虫の魔力は苦くて飲めたもんじゃないという感じだ。

 

「何をする気じゃ」

「砲身を作る」

 

苦虫を噛み潰したよう顔で、想像する。

 

(イメージするは、円状の筒)

 

細く、長く、穴が空いた筒、なのだが───

 

「うぐぐぐぐっ」

 

イメージ通りに、障壁が変形しない。

 

「うっ、上手くいかねぇっ」

「当然じゃ、穴の開いた障壁なぞ、成り立つわけ無いじゃろッ」

 

冷静な指摘。

確かに、障壁に穴が空いていては、盾として駄目な気がする。

魔法はイメージに左右されると言ったがここまでとは。

 

「ならどうすんだよっ」

「要は弾が飛べばいいんじゃろ」

 

「それはそうっ」

「なら砲弾を囲め」

 

「囲んだら撃てないじゃんっ」

「先端だけ薄くすればいいじゃろッ」

 

出来たのは、淡く発光する砲弾。

 

砲身も無ければ、撃鉄すらついていない。

 

(こんなのどうやって当てるんだよっ)

 

「いい考えだ、爺さん」

「じゃろ、要は爆縮すればいいわけじゃ」

「それは、何言ってるのか分からんのだが」

 

糞爺とひげのおっさんは、頷き合う。

 

「問題はどうやって当てるか、だな」

「まあ、それもそうじゃな」

 

おっさんは車両内にもぐり、指示を出す。

 

「ブラザー、大虫に戦車をぶつけろ」

「兄貴ィ、そいつは」

 

「どのみち追いつかれるのが関の山だ」

「ケツ斬られても、命は守ってみせやすよォ」

 

「馬鹿野郎、(だま)取られる前に、(たま)打ち込みに行くんだよッ」

「ならしかたねェ、オイ、バックするぞォッ」

 

停止からの加速。方向はもちろん逆向き。

 

(なーんか、不穏な文言が聞こえてたなぁ)

 

「嬢ちゃん達、衝撃に備えろ」

「全く、老人が乗っておるんじゃぞ」

「いや、子供だって乗っている「ズドンッ」────ぐェっ」

 

ガコン。頭が砲塔にぶつかる。

 

(いてて......砲弾は落としてないな)

 

茶色い甲殻。

正面に覆いかぶさるそれは、それでそれであった。

 

「あとは怯んだ隙に───」

 

だが、大虫は怯まず。

むしろ、俺達が捕まって。

そのうえ、大顎は極限まで絞られ、

 

────命を刈り取ろうとしていた。

 

「やばいっ、大顎が閉じるっ」

 

「ブラザーッ、機銃はッ」

「効くわけねェぜ、兄貴ィ」

 

「それでも時間を稼ぐんだよッ」

「跳ね返ったら死ぬのは俺達だぜェ」

「どうせ死ぬんだ、ならば撃っとけッ」

 

ゆっくりと、スローモーションで、顎が閉じ、

 

「ここま───」「───【糞魔法】を喰らえ」

 

間一髪。装甲のみが切り落とされる。

 

「糞爺っ、まじでナイスっ」

「さて、一瞬は稼いだぞ」

 

目線の先は、ひげのおっさん。

 

「嬢ちゃん、砲弾を大虫につけろッ」

「くっつけても爆発はしねえぞっ」

「ばか、外さない距離ならいいんだよッ」

 

砲弾は甲殻にくっつけた。だがそれだけだ。

 

「なら、どーやって起爆すんだよっ」

「嬢ちゃん、絶対に落とすなよッ」

 

ひげのおっさんは、足を踏み、腕を回す。

 

「いいかァ、撃鉄が無ければなァ!

 

────拳を使えばいいんだよッ!!」

 

拳骨一発。

 

砲弾の尻に拳がたたき込まれる。

 

「熱っ───うおっ」

 

障壁から火花が飛び、

 

爆風が、俺たちを、周囲を、包み込む。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック・西/大通り[13:45]】

 

正面には、頭から貫通した死体。

クワガタの巨体は地面にひっくり返り、

砲弾は大通りのタイルにめり込んでいる。

 

「いやー、また死ぬかと思った」

「普通は、障壁ぐらいはるじゃろ」

 

俺達は糞爺が障壁を張ってくれたおかげで、何とか生きていた。

 

(戦車の障壁破れてたからな.....割と死んでたな)

 

気分は放心状態である。

 

「いやー、危ないところだった」

「本当にどういう神経しとるんじゃ......」

「いやー、人間あれぐらいの爆発なら耐えれるから、多分っ」

 

糞爺は呆れた目でこちらを見る。

 

「あのじゃな「そこの爺ッ」──なんじゃ」

 

声の主は、ひげのおっさん。

 

無駄に大きな声を立てて、糞爺を見ている。

 

「詫びもお礼もする気はないぞ」

「そんな事を求めるほど、俺達の器は小さくない」

 

「なら何じゃ、交通安全のお便りか」

「受け取りたいなら、軍用のお便りを渡すが」

「まさか、聞けても読めん言語を貰う気はないわい」

 

糞爺はぺっぺっと唾を吐く。

 

「結局、何が言いたいんじゃ」

「いや、大したことじゃないんだが」

 

「────あんがとよ」

 

「じいさんのおかげで子供も助かった」

「......」

 

「魔法のおかげで戦車のブラザー達も助かった」

「......っ」

 

「へ、兵隊なら......儂らが死んだ方がよかったじゃろっ」

 

「軍人ならそうかもしれんが、俺達は人間だ────

目の前で子供が助かって、喜ばん大人がいると思うか?

先輩に助けられて、感謝しない若者がいないと思うか?」

 

「どっちもおらんのが、世の常じゃ」

「なら俺たちが世界初だ」

「ふんっ......」

 

糞爺は、さっと後ろを向く。

 

眺めている空はいつもと変わらない空だ。

 

「......瓦礫を片付けるのに力を貸してやる」

「おいおい、別に片付けるのに困ってはないぞ」

「横に退けるだけじゃ住民が迷惑しておるんじゃッ」

 

そう言って、いそいそと魔法の紙を探す、糞爺。

 

(まったく、どこまで頑固な爺なんだか......)

 

「全く、頑固な爺だぜ────」

 

「だが、ブラザー共聞いたかッ」

「「「へいッ」」」

 

「爺は俺達の仕事に文句があるらしい。

上官にどやされるのはいつもの事だが、

老人に負けるってのはおもしろくねえッ」

 

「いいか、ブラザーッ

今すぐ銃をしまい、箒を持て!

我らがヘルブラザーズの実力みせるぞッ!!」

 

「「「へい、兄貴ィッ」」」

 

兵士達の声が、ウーラジアストックの街に反響する。

戦場であれ、街中であれ、彼らの活気に変わりはない。

 

(まったく元気な奴らだな.......)

 

少女は構えたカメラをゆっくりと戻す。

 

「帰ったら翼倉庫で寝るか」

 

大地には硝煙の香りが少し。

 

空は青く澄み渡っている。

 

◇◆◇

【ニホン海・???/艦橋 [13:45]】

 

「目的地まで何時間だ」

「港到着まで後4時間です」

「予定より遅れているな」

 

「はっ、ニホン海が思った以上に狭かったため」

「構わん。あとで報告書にでも載せておけ」

 

艦長は、副艦長を制止する。

 

「果たしてこの船たちで、戦争は終わるんでしょうか?」

「ノー。だが対局は変わる」

 

艦長は艦橋から下を眺める。

 

そこには巨大な生物の頭部。

 

「まるで強大なアメリアそのもの、そう思わないかね」

 




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