竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

39 / 44
【ウーラジアストック・???/艦内  [10:00]】

「報告です、艦長」
「端的に話せ」
「はっ」

艦長は問いかけ、兵士は答える。

「偵察の結果、ソブエト中央部に物資の搬入が集中」
「他には」

「不確定ではありますが、各域から戦車が集まっているという情報が」
「程度は」

「推定200、それも最新型とのことです」
「本国を攻められ、ようやく本気になったか」

艦長の表情は変わらず。

「砲塔換装終了までの時間は」
「あと3日ほどで終わります」
「換装を急がせろ」

「───ジャパニーズ武士道だ、さっさと介錯してやる」

艦内は更に慌ただしく。
船員達は計器のチェックを、
艦長の足は外に向いていた。

「どちらに行かれるのですか」
「急がすんだ。私が工場に出向く」

「流石にそこまでは」
「嫌みを言われるなら、作業員の方が楽だ」

「見てみろ────」

艦橋から見下ろすは、人々の群れ。

「呼んでもないのに、マスメディアが集まってやがる」


記録㊴ 巨大な艦、少女の感

【ウーラジアストック港・謎の暗室?  [11:00]】

 

「ヒヤッハァァァァッ

ひさしぶりのラジオガールのお時間だァ

数話ぶりの登場な気がするが気のせいって奴だァ」

 

薄暗い部屋、

明かりの下にいるのは、シルさん。

黒髪短髪緑袖なしセーターの女性である。

 

「あー、シャバの空気はうめーぜ」

 

と、シルさんは可憐に歩く。

 

手には巨大な写真。

 

「さってええええ、今回ッ、取材するのは、こちらァ」

 

ドンッ。写真が壁にはられる。

無理やり引き延ばされた写真はピンボケ。

辛うじて分かるのは、大きな影が7つほど。

 

「見えるかこの影が、

ウーラジアに突如現れた、謎の戦艦。

全長200m、砲塔は3門、機銃はいっぱい」

 

「そしてなにより──────コイツが陸でも動いていることォ」

 

「接岸したと思いきや、足を出して上陸、

リクガメの上に戦艦を乗っけるとは、誰が考えたのかァ!

この戦艦の秘密を暴き、朝刊一面に載せてやるのが我々のォ使命だッ!!」

 

ドドンッ。力強く拳を握るシルさん。

 

心なしか爆発音や金属音も聞こえる。

 

「───ええいっ、うるさいっ」

 

バリバリ。壁に張られた暗幕を取り外す。

 

後ろから剥き出しになるは、金属製の壁。

 

錆びた窓に、埃の溜まったコンクリート、変な機械が置かれてる。

 

(ホコリっぽい部屋だなぁ)

 

「何をする、謎ガールッ」

「連れてこられた俺の気持ちにもなれってんだ」

 

「漁師な夫への愛情弁当作戦に、謎ガールは必須だったのだッ」

「どんな作戦だよっ」

 

「そもそもだな───なんで軍の整備場所に来てんだよ」

 

そう、ここは軍の工場。

 

俺とシル「流星のラジオガールだァ」は、

 

なんやで工場のなかに忍び込み、

かんやで部屋の一室に潜り込む。

 

(戦艦に突撃するもんだと思ったが.....)

 

今日のシルさんの気分は違ったらしい。

 

「ガールよ、馬を射るにはまずは将からという言葉を知っているか」

「逆だ、逆っ」

 

正確には、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ。

 

状況的には、逆が正解かも知れないが。

 

「ここで艦の重要人物を狙い撃ち。

そのまま情報を引き抜いて朝刊いきって寸法よ。

わざわざ船の前で出待ちしているば~か共とは違うのだッ」

 

(珍しく筋の通ったことを言っている......)

 

トンチキな行動にも意味があったのか。

 

いや、騙されてはいけない。

 

「軍事施設に忍び込んでいる時点で、馬鹿だろ?」

「そこは、しゃらーっぷだ、謎ガールよッ」

 

「まあ────」

 

「あー、そこの二人、ここ立ち入り禁止って知ってるか」

 

ガラガラ。開いたドアには、警備兵。

忘れないでいただきたいがここは軍事施設。

どったんばったんしていれば誰かが気付く。

 

(まあ、そうなるよな)

 

呆れ顔の俺、

笑顔のシルさん、

お互いに顔を見合わせる。

 

「「いや、コイツのせいですッ!!」」

 

もちろん両方連れていかれた。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック港・工場/内部  [11:15]】

 

ずるずる。引きずられる2人組。

死んだ顔のシルさんと、死んだ目の少女。

 

2人を引きずる警備兵は、周囲から注目の的であった。

 

「警備兵、どうしたのかね」

「か、艦長。実はネズミが入り込んでまして────」

 

「失礼な、私は立派な記者だぞッ」

「シルさん、立派な記者は忍び込まねーよ」

 

艦長はこちらを見る。

帽子の下にはアメリア人らしい顔。

視線を合わせるだけで迫力を感じてしまう。

 

(あー、怖い怖い、おとなしく黙っとくか)

 

「悪いが取材はお断りでな」

「むむ、これは取材ではありません」

 

気にしない、シルさん。

拘束を解き、横で仁王立ち。

気付けばいつのまにかである。

 

「なら何しに来たのかね」

「め、メッセージを貰いに来たのでッ」

 

「国民へのアピールなら十分なはずだ、が」

「甘いですよ、私なら誰にでも届けれますッ」

 

(まーた、アホな事を堂々と言う)

 

いや、否か。

臆せず言える事こそ、

彼女らしいという話かもしれない。

 

「大した自信だな」

「私は完全無欠のラジオガールなのでッ」

 

「それは、大統領、でもか?」

「も、もちろんッ、伝えて見せますよッ」

 

どうみてもヤケクソな返答。

 

(一般人が大統領へは、無理があるだろ......)

 

俺は白い目で見るが、

艦長の反応は違ったようで、

 

「ふっ、はは、いいだろう」

「うんっ? えっ、いいの、いいんですかッ」

 

───アメリアは野心には寛大な国だ。

 

「なにより小癪な記者共と違って、ここまで率直だと、な」

「私も似たようなモンですけど......」

「まさか、機密に突撃するクレイジーはいなかったさ」

 

「さて、メッセージだ」

「はっ、はい」

 

シルさん慌てて懐を、

ペン、メモ、カメラで、お手玉して、

器用に口もつかって、全てをつかみ取る。

 

「重要なことだ」

「心してメモします」

 

「一度しか言わんぞ」

「は、はい」

 

「心の準備は出来たか?」

「もちろんですッ」

 

ごくり。唾を飲み込む音が聞こえる。

 

「────家の子犬の様子が気になる。俺も偶には帰る」

 

「......はいっ?」

 

「家族宛てに、そう頼む」

「留守番のメッセージかよ」

「そうかもしれんな、少女よ」

 

満足する艦長、

唖然とするシルさん。

 

肩透かしを食らって、魂まで抜けているようだ。

 

(あーあー、身構えて損した気分だ)

 

こういう大人が出世するのか、

 

嫌な世界だな、と少女は思うのであった

 

◇◆◇

【ウーラジアストック港・工場/内部  [11:30]】

 

「少女は何も聞かないのか」

「俺は巻き込まれた一般人だ」

 

偶然巻き込まれた、儚い少女を装っておく。

 

(下手にツッコまれても、厄介だしな)

 

「ほう、なら急いで帰りたまえ。ここはもうじき荒れる」

「いや、帰れない訳があってだな」

 

「船か? うむむ、特例だが輸送船に」

「好意だけ受け取っておくよ」

 

「他に訳があるのかね」

「飛ぶ理由を探していてな」

 

「ほほう、少女は空を飛ぶのか」

「えっと、少女は夢見がちだから......」

 

アカン、不味い発言をした。

 

なんで、流れで飛んでいる事を喋ってんだよ。

 

アホか、俺は......

 

「これはだな───「ならば、空はどうだった?」」

 

狼狽えている俺に対して、

艦長の質問は意外であった。

 

「ウーラジアスの空がってこと?」

「そうだ」

 

(と、言われてもなぁ)

 

長い間飛んだわけでもなく、

大半は地上にいた今回、

しいて言うなら、

 

「───広かった」

 

「ほう」

 

個人的な感想ではあるが。

 

「今まで上ばかりを見てたんだ。

蒼くどこまでも広がる蒼穹を、

飛べる俺はスゲーって思ってた」

 

「だから、地面にいるのは退屈だった」

 

「退屈だったんだけど......

毎日が過ぎていくうちに変わってさ、

自分がいた場所も案外悪くないなって」

 

少女は地面を擦る。

 

「ボケっと俺が生きてる横で、誰かは努力している」

 

「みんな自分の人生に絶望しても、諦めはしてなかった」

 

「関わってみて実感したよ、俺の世界は広かったんだなって」

 

────ただ俺が見えてなかった、それだけの話。

 

「なら少女よ。どう生きる?」

「日々を努力するのは嫌いだ」

 

明日のことを考えるのは性分ではない。

 

「なら今日を全力で生きるのか」

「いいや違う」

 

今日に全力を注ぐのは死人やることだ。

俺は死んでもいいなんて思っていない。

それだけの話。

 

「再度聞くが、どう生きるつもりだ?」

 

「───明日を誰かに渡すために、今日を俺は生きる」

 

「チグハグだな」

「俺もよくは分かってない」

 

今、そう思った。

脳内で言語化された、

思い付きでといわれるモノ。

 

「だが、良い理由だ」

 

艦長は帽子を持ち上げる。

視線は俺を捉えているが、

顔はニヤリと笑っていた。

 

「いつか海に出てみるといい。いい船乗りになる」

「んー俺は空が好みだからな。遠慮させてもらう」

 

「そうか......私の息子もこうであれば」

「野暮なことは聞かないしゅぎ、だ」

「ありがたい」

 

「ならば、こちらも野暮な事は聞かないでおく」

「それはマジでありがたい」

 

ついでに俺と会った記憶も忘れて欲しい。

 

(トリノのおっさんにはナイショにしておこう......)

 

「まっ、艦長も頑張ってくれ」

「心に留めておくとしよう」

 

こんこん。コンクリートの音が響いていく。

 

気付けばおっさんの背中は小さくなっていた。

 

「さて、俺達も帰ろうぜ────ってどうした、シルさんっ」

 

恐い警備兵が睨んでいる中、

 

シルさんは、

 

「う゛ぅ゛ぅ゛いいばなしだっだぁ」

「いや泣くほどかよ」

 

この後、丁寧に出口まで送り返された。

 

◇◆◇

【ウーラジアストック港・翼納庫/内部  [13:00]】

 

「で、おっさんはなんで羽塗れなんだ?」

「久しぶりに喧嘩しただけだ」

 

トリノ大尉の服には、羽毛、羽毛、羽毛。

 

そしておっさんの顔には、切り傷が多数。

 

「嫁と喧嘩したみてーだな」

「ある意味、そうかもしれんな」

 

おっさんは髪の毛をボリボリとかく。

 

はーと大きなため息をついた後、一言。

 

「レコ、街で上質なブラシ探してくれ」

「えっ、急にどゆこと」

 

「俺は、大鳥用の高級油を探して来る」

「あっ、そゆことね」

 

どうやら嫁さん(大鳥)の機嫌はよっぽど悪いらしい。

 

「迎えに来なかったことにキレているらしい」

「むしろ竜の攻撃食らってよく生きてたな」

「悪運が強いんだろ、俺もアイツも」

 

少女とおっさんは笑い合う。

 

風は微風、季節の変わり目のような風は、戦火をのせて、ゆっくりと。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。