竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
「報告です、艦長」
「端的に話せ」
「はっ」
艦長は問いかけ、兵士は答える。
「偵察の結果、ソブエト中央部に物資の搬入が集中」
「他には」
「不確定ではありますが、各域から戦車が集まっているという情報が」
「程度は」
「推定200、それも最新型とのことです」
「本国を攻められ、ようやく本気になったか」
艦長の表情は変わらず。
「砲塔換装終了までの時間は」
「あと3日ほどで終わります」
「換装を急がせろ」
「───ジャパニーズ武士道だ、さっさと介錯してやる」
艦内は更に慌ただしく。
船員達は計器のチェックを、
艦長の足は外に向いていた。
「どちらに行かれるのですか」
「急がすんだ。私が工場に出向く」
「流石にそこまでは」
「嫌みを言われるなら、作業員の方が楽だ」
「見てみろ────」
艦橋から見下ろすは、人々の群れ。
「呼んでもないのに、マスメディアが集まってやがる」
【ウーラジアストック港・謎の暗室? [11:00]】
「ヒヤッハァァァァッ
ひさしぶりのラジオガールのお時間だァ
数話ぶりの登場な気がするが気のせいって奴だァ」
薄暗い部屋、
明かりの下にいるのは、シルさん。
黒髪短髪緑袖なしセーターの女性である。
「あー、シャバの空気はうめーぜ」
と、シルさんは可憐に歩く。
手には巨大な写真。
「さってええええ、今回ッ、取材するのは、こちらァ」
ドンッ。写真が壁にはられる。
無理やり引き延ばされた写真はピンボケ。
辛うじて分かるのは、大きな影が7つほど。
「見えるかこの影が、
ウーラジアに突如現れた、謎の戦艦。
全長200m、砲塔は3門、機銃はいっぱい」
「そしてなにより──────コイツが陸でも動いていることォ」
「接岸したと思いきや、足を出して上陸、
リクガメの上に戦艦を乗っけるとは、誰が考えたのかァ!
この戦艦の秘密を暴き、朝刊一面に載せてやるのが我々のォ使命だッ!!」
ドドンッ。力強く拳を握るシルさん。
心なしか爆発音や金属音も聞こえる。
「───ええいっ、うるさいっ」
バリバリ。壁に張られた暗幕を取り外す。
後ろから剥き出しになるは、金属製の壁。
錆びた窓に、埃の溜まったコンクリート、変な機械が置かれてる。
(ホコリっぽい部屋だなぁ)
「何をする、謎ガールッ」
「連れてこられた俺の気持ちにもなれってんだ」
「漁師な夫への愛情弁当作戦に、謎ガールは必須だったのだッ」
「どんな作戦だよっ」
「そもそもだな───なんで軍の整備場所に来てんだよ」
そう、ここは軍の工場。
俺とシル「流星のラジオガールだァ」は、
なんやで工場のなかに忍び込み、
かんやで部屋の一室に潜り込む。
(戦艦に突撃するもんだと思ったが.....)
今日のシルさんの気分は違ったらしい。
「ガールよ、馬を射るにはまずは将からという言葉を知っているか」
「逆だ、逆っ」
正確には、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ。
状況的には、逆が正解かも知れないが。
「ここで艦の重要人物を狙い撃ち。
そのまま情報を引き抜いて朝刊いきって寸法よ。
わざわざ船の前で出待ちしているば~か共とは違うのだッ」
(珍しく筋の通ったことを言っている......)
トンチキな行動にも意味があったのか。
いや、騙されてはいけない。
「軍事施設に忍び込んでいる時点で、馬鹿だろ?」
「そこは、しゃらーっぷだ、謎ガールよッ」
「まあ────」
「あー、そこの二人、ここ立ち入り禁止って知ってるか」
ガラガラ。開いたドアには、警備兵。
忘れないでいただきたいがここは軍事施設。
どったんばったんしていれば誰かが気付く。
(まあ、そうなるよな)
呆れ顔の俺、
笑顔のシルさん、
お互いに顔を見合わせる。
「「いや、コイツのせいですッ!!」」
もちろん両方連れていかれた。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・工場/内部 [11:15]】
ずるずる。引きずられる2人組。
死んだ顔のシルさんと、死んだ目の少女。
2人を引きずる警備兵は、周囲から注目の的であった。
「警備兵、どうしたのかね」
「か、艦長。実はネズミが入り込んでまして────」
「失礼な、私は立派な記者だぞッ」
「シルさん、立派な記者は忍び込まねーよ」
艦長はこちらを見る。
帽子の下にはアメリア人らしい顔。
視線を合わせるだけで迫力を感じてしまう。
(あー、怖い怖い、おとなしく黙っとくか)
「悪いが取材はお断りでな」
「むむ、これは取材ではありません」
気にしない、シルさん。
拘束を解き、横で仁王立ち。
気付けばいつのまにかである。
「なら何しに来たのかね」
「め、メッセージを貰いに来たのでッ」
「国民へのアピールなら十分なはずだ、が」
「甘いですよ、私なら誰にでも届けれますッ」
(まーた、アホな事を堂々と言う)
いや、否か。
臆せず言える事こそ、
彼女らしいという話かもしれない。
「大した自信だな」
「私は完全無欠のラジオガールなのでッ」
「それは、大統領、でもか?」
「も、もちろんッ、伝えて見せますよッ」
どうみてもヤケクソな返答。
(一般人が大統領へは、無理があるだろ......)
俺は白い目で見るが、
艦長の反応は違ったようで、
「ふっ、はは、いいだろう」
「うんっ? えっ、いいの、いいんですかッ」
───アメリアは野心には寛大な国だ。
「なにより小癪な記者共と違って、ここまで率直だと、な」
「私も似たようなモンですけど......」
「まさか、機密に突撃するクレイジーはいなかったさ」
「さて、メッセージだ」
「はっ、はい」
シルさん慌てて懐を、
ペン、メモ、カメラで、お手玉して、
器用に口もつかって、全てをつかみ取る。
「重要なことだ」
「心してメモします」
「一度しか言わんぞ」
「は、はい」
「心の準備は出来たか?」
「もちろんですッ」
ごくり。唾を飲み込む音が聞こえる。
「────家の子犬の様子が気になる。俺も偶には帰る」
「......はいっ?」
「家族宛てに、そう頼む」
「留守番のメッセージかよ」
「そうかもしれんな、少女よ」
満足する艦長、
唖然とするシルさん。
肩透かしを食らって、魂まで抜けているようだ。
(あーあー、身構えて損した気分だ)
こういう大人が出世するのか、
嫌な世界だな、と少女は思うのであった
◇◆◇
【ウーラジアストック港・工場/内部 [11:30]】
「少女は何も聞かないのか」
「俺は巻き込まれた一般人だ」
偶然巻き込まれた、儚い少女を装っておく。
(下手にツッコまれても、厄介だしな)
「ほう、なら急いで帰りたまえ。ここはもうじき荒れる」
「いや、帰れない訳があってだな」
「船か? うむむ、特例だが輸送船に」
「好意だけ受け取っておくよ」
「他に訳があるのかね」
「飛ぶ理由を探していてな」
「ほほう、少女は空を飛ぶのか」
「えっと、少女は夢見がちだから......」
アカン、不味い発言をした。
なんで、流れで飛んでいる事を喋ってんだよ。
アホか、俺は......
「これはだな───「ならば、空はどうだった?」」
狼狽えている俺に対して、
艦長の質問は意外であった。
「ウーラジアスの空がってこと?」
「そうだ」
(と、言われてもなぁ)
長い間飛んだわけでもなく、
大半は地上にいた今回、
しいて言うなら、
「───広かった」
「ほう」
個人的な感想ではあるが。
「今まで上ばかりを見てたんだ。
蒼くどこまでも広がる蒼穹を、
飛べる俺はスゲーって思ってた」
「だから、地面にいるのは退屈だった」
「退屈だったんだけど......
毎日が過ぎていくうちに変わってさ、
自分がいた場所も案外悪くないなって」
少女は地面を擦る。
「ボケっと俺が生きてる横で、誰かは努力している」
「みんな自分の人生に絶望しても、諦めはしてなかった」
「関わってみて実感したよ、俺の世界は広かったんだなって」
────ただ俺が見えてなかった、それだけの話。
「なら少女よ。どう生きる?」
「日々を努力するのは嫌いだ」
明日のことを考えるのは性分ではない。
「なら今日を全力で生きるのか」
「いいや違う」
今日に全力を注ぐのは死人やることだ。
俺は死んでもいいなんて思っていない。
それだけの話。
「再度聞くが、どう生きるつもりだ?」
「───明日を誰かに渡すために、今日を俺は生きる」
「チグハグだな」
「俺もよくは分かってない」
今、そう思った。
脳内で言語化された、
思い付きでといわれるモノ。
「だが、良い理由だ」
艦長は帽子を持ち上げる。
視線は俺を捉えているが、
顔はニヤリと笑っていた。
「いつか海に出てみるといい。いい船乗りになる」
「んー俺は空が好みだからな。遠慮させてもらう」
「そうか......私の息子もこうであれば」
「野暮なことは聞かないしゅぎ、だ」
「ありがたい」
「ならば、こちらも野暮な事は聞かないでおく」
「それはマジでありがたい」
ついでに俺と会った記憶も忘れて欲しい。
(トリノのおっさんにはナイショにしておこう......)
「まっ、艦長も頑張ってくれ」
「心に留めておくとしよう」
こんこん。コンクリートの音が響いていく。
気付けばおっさんの背中は小さくなっていた。
「さて、俺達も帰ろうぜ────ってどうした、シルさんっ」
恐い警備兵が睨んでいる中、
シルさんは、
「う゛ぅ゛ぅ゛いいばなしだっだぁ」
「いや泣くほどかよ」
この後、丁寧に出口まで送り返された。
◇◆◇
【ウーラジアストック港・翼納庫/内部 [13:00]】
「で、おっさんはなんで羽塗れなんだ?」
「久しぶりに喧嘩しただけだ」
トリノ大尉の服には、羽毛、羽毛、羽毛。
そしておっさんの顔には、切り傷が多数。
「嫁と喧嘩したみてーだな」
「ある意味、そうかもしれんな」
おっさんは髪の毛をボリボリとかく。
はーと大きなため息をついた後、一言。
「レコ、街で上質なブラシ探してくれ」
「えっ、急にどゆこと」
「俺は、大鳥用の高級油を探して来る」
「あっ、そゆことね」
どうやら嫁さん(大鳥)の機嫌はよっぽど悪いらしい。
「迎えに来なかったことにキレているらしい」
「むしろ竜の攻撃食らってよく生きてたな」
「悪運が強いんだろ、俺もアイツも」
少女とおっさんは笑い合う。
風は微風、季節の変わり目のような風は、戦火をのせて、ゆっくりと。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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