竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
────これは少し前のお話。
【アメリア・ニホン州/旧大使館/執務室 [13:00]】
「侵攻が、なぜ遅いか考えたことはあるかね」
「陸軍のやる気の無さだと思っていますが」
「海軍らしいジョークだな」
男二人。
艦長とよばれた、軍服の男。
真面目な顔立ちの、スーツの男。
「案内しよう、第七艦隊、艦長」
「補佐官殿に案内させるというのは、」
「構わんよ、誰よりも知っている室内だ」
スーツの男の肩書は、大統領補佐官。
名をスーツマン。
大統領の手足となり動く人間の一人である。
「先の答えだが────」
「我々が快進撃を望んでいないからだ」
部屋の一室に案内される。
◇◆◇
【アメリア・ニホン州/旧大使館 [13:05]】
部屋には正確なソブエトの地図が貼ってあった。
「精巧な地図ですな」
「工兵の努力の成果だ」
ソブエトの首都まで描かれた地図。
特筆べき点はそこではない
刻まれた×、×、×。
南側には、異様なまでに×印が刻まれていた。
「村ですか」
「今は廃墟をしめすマークだ」
「住んでいた村人は」
「村人は存在しなかった」
残っているのは、ウーラジアストックのみ。
そこだけには〇印が付けられていた。
「足場にするには少ないですな」
「補給を考えるならまた作ればいい」
「だがソレ以上にここは網なのだよ」
「何を捕えるための、ですかな」
「村人がいた場合だ」
「(胡散臭いと思っていたがここまでとは)」
艦長はおわもず、ため息をつきたくなる。
「首都に逃げるなら良し、だが海には出さん。
ゆっくりと包囲を広げ、確実に殺していく。
それが我々がえがいた、最初の計画だ」
アメリアは和平などするつもりがなかった。
国内では戦争ムードが更に高まっているが、
それもまた工作に感じてしまう程のものだ。
「ソブエト人を根絶やしにでも?」
「無論だ」
艦長はため息をつく。
「非武装民への攻撃は勝機を削ぎます」
「それは人へ攻撃するときの話だ」
「───神は悪魔を人とは認めぬ」
「神? あまりよろしくない宗教ですな」
「そう言われてしまうのも仕方ない」
キリスド教
神の子として生まれたキリスドの、教えと生涯に基づく宗教。
竜を崇めていない為、一部では邪教として扱われることもある。
「君は竜を崇めているのかね」
「先代からの習慣なので」
「それは愚かなことだ」
「そうは思いませんが」
スーツマンは再び問う。
「竜にこの国が作れたと思うか?」
「彼らが持つ魔法があれば可能でしょうな」
「いいや不可能だ。空を飛ぶだけの怠惰な種族にできるはずがない」
取り出されるのは一冊の本。
アメリア建国書とよばれるトンチキ書。神と人間を描いた、眉唾物のお話だ。
「この国は、1人の人間が作った。
手からは作物をだし、歩けば水脈を生み、
そして彼は死後、自身を神とし、今の人々を見ている」
「創作物の内容を鵜呑みにするのはいかがなものかと」
「事実だ。歴史からは消されたがな」
アメリアの星条旗に祈るとき、竜に祈る。
だが噂では、竜ではなく神に祈る、そんな話があった。
「何をお考えで......」
「君にはこの世界はどう見える」
「ただの仕事場ですな」
「魔力に汚染された世界に見えぬかね」
「だからどうしたと?」
「だからこそ地球の浄化が必要だ」
「クレイジー。大地の80%は他国の領土ですぞ」
「出来る、出来ないではない。やるのだ」
「────神は人による支配を望んでいるのだよ」
スーツマンはそう言い切った。
艦長は冷や汗をたらす。
「いずれにせよ、戦争に思想はいりませんな」
「いずれわかる、この戦争の意味が、な」
◇◆◇
【アメリア・ニホン州/旧大使館 [13:30]】
明るいはずの室内だが、空気は悪い。
「もう艦に戻ってもよろしいですかな」
「すまない。私用で熱くなってしまった」
スーツマンは封筒を取り出す。
中には1枚の写真。
「本題はこれだ」
「戦艦ですか」
「そうだ」
「妙な設計だ。動力が亀になっている」
「たしかに魚の方が速度はある」
「だが───この戦艦は陸を泳げる」
艦長は頭を抑える。
戦場を知らぬ人間が、作ったような設計ゆえ。
「歩ける程度で......いい的でしょうな」
「大亀の障壁を信じていないのかね」
「乗ったことがありませんので」
気になる点は、もう1つ。
「過剰な火力ですな」
設計思想の違和感。
アメリアの船にしては、火力と速度に比重が振られている。
「それは1から7番までの写真だ」
「この船を量産したのですか......」
「当然だ。ここはアメリア、造作もない」
艦長はため息を再びつく。
「まあ、アドバイザーぐらいならば」
「いや、この船の艦長を任せたい」
「(早く帰りたい......)」
陸上戦艦の艦長。
慣例であれば、空母であれば空軍が、といった部類ではあるが。
「ですが海軍に、陸での戦いは酷では」
「操艦は最上級だと考えている、が」
「陸と海では戦術が違います」
「副艦長は陸軍あがりだ」
「それはそれですな」
艦長の心は、メンドクサイという気持ちがいっぱいであった。
自艦の後任決めの大変さ、
陸軍と海軍が一緒にいる大変さ、
マニュアル無き新型艦を扱う大変さ、
誰がこんな仕事を引き受けたいんだという気持ち。
「私は、思想には忠実になれませんので」
「だが命令には忠実だ
心に秘めたモノは読めなくとも、
君の50年の経歴は嘘を付いていないと考えるが」
「(ああいえば、こういってくるな)」
「(メンドクサイという気持ちもあるが、)」
読めない。
上層部の考えが読めないことが、艦長にとっての一番気がかりな点だ。
「補佐官殿の事だ、私以外に宛あるのでしょう」
「そこまでかね、名誉なことだと考えるが」
「この老体に、名誉は不要ですからな」
スーツマンは仕方ないといった様子だ。
「ならばこちらも、カードを切るとしよう」
補佐官は一枚の紙を取り出す。
紙には、アメリア印章の魔法印。
印章の魔法印を使えるのは一人。
「────大統領が君を選んだ」
「......わかりました。引き受けましょう」
それは卑怯だろと、思ってしまう艦長であった。
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