竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

41 / 44
記録㊶ 戦場が変わった日(前編)

【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1/艦橋 [12:00]】

 

泥沼な戦場に、七隻の戦艦がいた。

草は泥にまみれており、一面が黒茶色に染まった大地。

大地の先には、山麓から木々が生える山があり、上に行くにつれ、木々は刈り取られ、頂にいたっては人工物が立てられていた。

 

岩山に聳え立つはソビエトの砦。

無駄に様式美にこだわった外見は、いかにも魔法で作りましたという有り体だ。

 

陸上戦艦はゆっくりと進んでいる。

大亀の上にのる船体は、魔法障壁で囲まれており、艦壁には脱出用の大虫の姿も見える。

 

空は澄んだ青であった。

太陽はやや弱く、周囲を包む空気はいつもより冷たかった。

 

「三日で砦を作り上げるか......恐るべしだな」

 

艦橋で周囲を見わたす艦長は、呟いた。

アメリアの軍服を着て、軽く軍帽を被る艦長。

顔にあらわれるシワの本数は年齢よりも多く、経験の証であった。

 

「都合のいい待ち構え方だな、副長」

 

艦長は副長にたずねるように聞いた。

 

「魔法で泥畑を作り出すとは、大した苦労です」

 

副長は呆れるように同意した。

 

「おそらく、山の裏手にはソブエト戦車が隠れている」

「ですが泥沼に戦車を突っ込ます馬鹿いないでしょう?」

 

艦長は思い出しながら話を続ける。

 

「迂回路は森林地帯だ」

「そこにも罠が仕掛けられてあると」

「十中八九ぐらいだ、私ならそんな事はしないがな」

 

艦長は思案顔で話す。

 

「奴らは時間を稼ぎたいのだ」

「何かを待っていると?」

「ああ、援軍か、秘策か、何かの為に」

 

「その根拠は」

「経験と勘だ」

 

「……どちらにせよ、関係ない事だと思いますがね」

 

陸上戦艦は泥土をものともせず進行中。

 

並みの戦車であれば間違えなく、足をからめとられていただろう。

 

「大した船だ」

 

戦場を睨むは、艦長。

 

前を見ながら、艦橋に指示を飛ばす。

 

「放送機器をよこせ」

「場所を知らせるのですか」

「この巨体だ、見えない馬鹿はいない」

 

副艦長からの反応は悪い。

 

「時間が無駄になるだけです」

「意味が無いのは知っている。だが“行為をした”という事実は必要だ」

 

乗組員から渡される、拡声器。

手のひらサイズのマイクにコードが伸びている。

コードの先は艦橋外の放送機器に繋がっていた。

 

「聞こえているか、こちらアメリア軍────、ドッグ大佐だ」

 

「艦長、名乗る必要はッ」

「副長、我々はそういう戦いを望んでいる」

 

開戦での名乗り。

兵士は名乗らない。名前を介して魔法の標的にされる危険性があるからだ。呪い魔法が、条約で禁止された現在でも、明らかな偽名を使う兵士たちは多い。

 

だが、あえて、名乗る強者達もいた。

 

意味をつけるのであれば“正々堂々とした戦争を望む”である。

 

『────聞こえている、こちらソブエト、ロングヘヤー・ザピス中将』

 

戦場に響く、女声。音質は魔法の拡声器と言ったところ。

 

『貴君の名乗りに敬意を評す。用件はなんだ』

 

戦場にあるまじき凛とした声だ。

 

だが信念を感じさせる力強い声でもあった。

 

艦長は再び口を開く。

 

「降伏勧告だ」

『アメリアにしては冗談のセンスはないようだ』

 

「ジョークを言う必要はなのでない」

『祖国の地を無傷で手に入れたいと?』

 

「数分でそちらを焦土に変えることは可能だ」

『信じる祖国に傷をつけることは、不可能だ』

 

「いいのか500ポンド級の爆弾が貴様を狙っているのだぞ」

『ならば我が祖国には無限の信仰がある、以上だ』

 

プツっ。戦場には船がゆく音だけが響く。

 

艦長は静かに拡声器を置いた。

 

「副艦長の予想通りだったな」

「馬鹿な奴らです。祈りで砲弾は落ちませんよ」

「いいや、奴らは落とせるからこそ祈っているのだ」

 

────魔法なぞ無ければ、私も笑っている。

 

艦長は帽子を深く被り、指示を出す。

 

「全艦砲撃戦用意」

「全艦砲撃戦用意」

 

副長は続けて復唱する。

 

指示を聞き、艦橋は慌ただしく動き出す。

 

「主砲射撃指揮所へ伝達」

「諸元入力開始せよ」

 

「目標 ソブエト砦」

「距離20km」

 

「主砲旋回角60度」

「仰角25度」

 

動くは、35.6cm(45口径)連装砲。

 

世界最大の戦艦砲。その威力は想像を絶するものであった。

 

◇◆◇

【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1/艦橋 [12:15]】

 

七艦。砲身を向けるは、砦。

 

「主砲用意、完了」

「砲術長命令を」

「発砲ッ」

 

二連装の砲身は、震える。

 

軋む、艦橋の窓、

耳を塞ぎたくなる轟音、

前が見えなくなるような噴煙。

 

技術の結晶たる砲弾は、放物線を描き、ソブエト敵陣を目指す。

 

砲弾落下予測地点は、砦の頂。

頂きにて震えるは、ソブエトの旗。

象徴たる旗をへし折らんと────そこには女性がいた。

 

旗を掲げるように持ち、軍服をたなびかせる、ソブエトの軍人であった。

 

声が聞こえた、『見事だアメリア』

 

輝きは極彩色、『だがな私がいる限り』

 

現れるは閃光、『この地に砲弾は落ちぬと思え』

 

大爆発。撃ちだされた光の矢は、砲弾を全て撃ち落とす。

 

空には弾けた煙、

残光は流星の如く、

両陣営を明るく照らす。

 

────見る者は圧倒された。

 

「馬鹿な」

「全弾、迎撃......」

「さ、サジタリウスだ」

 

ざわつく艦内。当然だ、このような奇天烈な戦場は彼らは知らない。

 

砲弾の飛ぶ速度は音速。防がれることはあっても、撃ち落とされる経験などあるわけがない。

 

「あ、ありえない、技術の結晶である「シャラーープッッ!」」

 

艦内に、艦長の叫び声が、沁みる。

 

視線の先にいた艦長の姿は“動じず”の一言であった。

長年の経験が、戦場での経験が、この男を作っていた。

 

「遠距離魔法ごときで、手を止めるなッ!!」

 

再度の激励で、空気が戻る。

 

「副艦長ッ」

「は、はいっ」

 

「今のは何の魔法だと考える」

「お、おそらく魔法の矢の一種かと」

 

魔法の矢。

魔力を外側に飛ばす初期魔法。威力は石つぶて程のモノであり、人は害せど、砲弾を撃ち落とせるような魔法ではない。

 

「どのくらいの射撃の感覚だと考える」

「上級の魔法使いならば一分間で3、4発でしょうか」

「そうだ、その程度だ。 我々は40秒で1発撃てる。 それが七艦、七艦もいるのだッ」

 

─────落とせるものなら、落としてみろ、ボルシチ野郎ッ。

 

激高が艦内に響き渡る。

 

『次弾装填完了』

「撃て撃て撃てッ」

 

艦内通信を受け、間髪入れず、砲撃命令が出される。

 

主砲は鳴り止まぬことを知らない。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は長いので二部構成です。
誤字脱字報告があると喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。