竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1/艦橋 [12:00]】
泥沼な戦場に、七隻の戦艦がいた。
草は泥にまみれており、一面が黒茶色に染まった大地。
大地の先には、山麓から木々が生える山があり、上に行くにつれ、木々は刈り取られ、頂にいたっては人工物が立てられていた。
岩山に聳え立つはソビエトの砦。
無駄に様式美にこだわった外見は、いかにも魔法で作りましたという有り体だ。
陸上戦艦はゆっくりと進んでいる。
大亀の上にのる船体は、魔法障壁で囲まれており、艦壁には脱出用の大虫の姿も見える。
空は澄んだ青であった。
太陽はやや弱く、周囲を包む空気はいつもより冷たかった。
「三日で砦を作り上げるか......恐るべしだな」
艦橋で周囲を見わたす艦長は、呟いた。
アメリアの軍服を着て、軽く軍帽を被る艦長。
顔にあらわれるシワの本数は年齢よりも多く、経験の証であった。
「都合のいい待ち構え方だな、副長」
艦長は副長にたずねるように聞いた。
「魔法で泥畑を作り出すとは、大した苦労です」
副長は呆れるように同意した。
「おそらく、山の裏手にはソブエト戦車が隠れている」
「ですが泥沼に戦車を突っ込ます馬鹿いないでしょう?」
艦長は思い出しながら話を続ける。
「迂回路は森林地帯だ」
「そこにも罠が仕掛けられてあると」
「十中八九ぐらいだ、私ならそんな事はしないがな」
艦長は思案顔で話す。
「奴らは時間を稼ぎたいのだ」
「何かを待っていると?」
「ああ、援軍か、秘策か、何かの為に」
「その根拠は」
「経験と勘だ」
「……どちらにせよ、関係ない事だと思いますがね」
陸上戦艦は泥土をものともせず進行中。
並みの戦車であれば間違えなく、足をからめとられていただろう。
「大した船だ」
戦場を睨むは、艦長。
前を見ながら、艦橋に指示を飛ばす。
「放送機器をよこせ」
「場所を知らせるのですか」
「この巨体だ、見えない馬鹿はいない」
副艦長からの反応は悪い。
「時間が無駄になるだけです」
「意味が無いのは知っている。だが“行為をした”という事実は必要だ」
乗組員から渡される、拡声器。
手のひらサイズのマイクにコードが伸びている。
コードの先は艦橋外の放送機器に繋がっていた。
「聞こえているか、こちらアメリア軍────、ドッグ大佐だ」
「艦長、名乗る必要はッ」
「副長、我々はそういう戦いを望んでいる」
開戦での名乗り。
兵士は名乗らない。名前を介して魔法の標的にされる危険性があるからだ。呪い魔法が、条約で禁止された現在でも、明らかな偽名を使う兵士たちは多い。
だが、あえて、名乗る強者達もいた。
意味をつけるのであれば“正々堂々とした戦争を望む”である。
『────聞こえている、こちらソブエト、ロングヘヤー・ザピス中将』
戦場に響く、女声。音質は魔法の拡声器と言ったところ。
『貴君の名乗りに敬意を評す。用件はなんだ』
戦場にあるまじき凛とした声だ。
だが信念を感じさせる力強い声でもあった。
艦長は再び口を開く。
「降伏勧告だ」
『アメリアにしては冗談のセンスはないようだ』
「ジョークを言う必要はなのでない」
『祖国の地を無傷で手に入れたいと?』
「数分でそちらを焦土に変えることは可能だ」
『信じる祖国に傷をつけることは、不可能だ』
「いいのか500ポンド級の爆弾が貴様を狙っているのだぞ」
『ならば我が祖国には無限の信仰がある、以上だ』
プツっ。戦場には船がゆく音だけが響く。
艦長は静かに拡声器を置いた。
「副艦長の予想通りだったな」
「馬鹿な奴らです。祈りで砲弾は落ちませんよ」
「いいや、奴らは落とせるからこそ祈っているのだ」
────魔法なぞ無ければ、私も笑っている。
艦長は帽子を深く被り、指示を出す。
「全艦砲撃戦用意」
「全艦砲撃戦用意」
副長は続けて復唱する。
指示を聞き、艦橋は慌ただしく動き出す。
「主砲射撃指揮所へ伝達」
「諸元入力開始せよ」
「目標 ソブエト砦」
「距離20km」
「主砲旋回角60度」
「仰角25度」
動くは、35.6cm(45口径)連装砲。
世界最大の戦艦砲。その威力は想像を絶するものであった。
◇◆◇
【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1/艦橋 [12:15]】
七艦。砲身を向けるは、砦。
「主砲用意、完了」
「砲術長命令を」
「発砲ッ」
二連装の砲身は、震える。
軋む、艦橋の窓、
耳を塞ぎたくなる轟音、
前が見えなくなるような噴煙。
技術の結晶たる砲弾は、放物線を描き、ソブエト敵陣を目指す。
砲弾落下予測地点は、砦の頂。
頂きにて震えるは、ソブエトの旗。
象徴たる旗をへし折らんと────そこには女性がいた。
旗を掲げるように持ち、軍服をたなびかせる、ソブエトの軍人であった。
声が聞こえた、『見事だアメリア』
輝きは極彩色、『だがな私がいる限り』
現れるは閃光、『この地に砲弾は落ちぬと思え』
大爆発。撃ちだされた光の矢は、砲弾を全て撃ち落とす。
空には弾けた煙、
残光は流星の如く、
両陣営を明るく照らす。
────見る者は圧倒された。
「馬鹿な」
「全弾、迎撃......」
「さ、サジタリウスだ」
ざわつく艦内。当然だ、このような奇天烈な戦場は彼らは知らない。
砲弾の飛ぶ速度は音速。防がれることはあっても、撃ち落とされる経験などあるわけがない。
「あ、ありえない、技術の結晶である「シャラーープッッ!」」
艦内に、艦長の叫び声が、沁みる。
視線の先にいた艦長の姿は“動じず”の一言であった。
長年の経験が、戦場での経験が、この男を作っていた。
「遠距離魔法ごときで、手を止めるなッ!!」
再度の激励で、空気が戻る。
「副艦長ッ」
「は、はいっ」
「今のは何の魔法だと考える」
「お、おそらく魔法の矢の一種かと」
魔法の矢。
魔力を外側に飛ばす初期魔法。威力は石つぶて程のモノであり、人は害せど、砲弾を撃ち落とせるような魔法ではない。
「どのくらいの射撃の感覚だと考える」
「上級の魔法使いならば一分間で3、4発でしょうか」
「そうだ、その程度だ。 我々は40秒で1発撃てる。 それが七艦、七艦もいるのだッ」
─────落とせるものなら、落としてみろ、ボルシチ野郎ッ。
激高が艦内に響き渡る。
『次弾装填完了』
「撃て撃て撃てッ」
艦内通信を受け、間髪入れず、砲撃命令が出される。
主砲は鳴り止まぬことを知らない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は長いので二部構成です。
誤字脱字報告があると喜びます。