竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1 /艦橋 [12:30]】
焦土が広がっていた。
燃え焦げた草木、抉れた地面がいくつもあるだけの大地。
ソブエトの兵器だった残骸が転がり、怨嗟の悲鳴はとどまるところを知らなかった。
艦長は、そんな光景を艦橋から眺め、叫ぶ。
「見たかッ、クレイジーウィザードめッ!!」
「ですが敵本拠地は健在です」
「砦だけで何ができる」
一つ取り残されるは、ソブエトの砦。
砦に強靭な障壁を張ることは、古の戦術書にも書いてある。
だが、それが有効なのは、周囲か、後方の戦力がいる場合。
「手を緩めるな、撃ち尽くす気持ちでいけ」
戦場の勝敗は決まっていた。
奇跡をもってしても人同士の戦いには限界があったのだ。
「魔力濃度さらに上昇」
「通信さらに混線が予想されます」
「当然だ、敵が死んでいるのだ、魔力濃度も上がる」
『これが新時代の戦争だ』
『アメリアに不可能はなし』
『撃ち込め、ソブエトの馬鹿共に撃ち込めェッ』
砲弾は飛ぶ───ソブエトの戦車へ、
『怯むなァ、散開して足元に滑り込めェ!』
『こちら兵器損傷っ、動けません』
『隊長死亡、代理を頼みますッ』
爆発は連鎖、砦へ。
『こちらの小隊はもう駄目です』
『うわあああああああ』
『司令官殿ォ』
『くっ────覚悟十分に───取っ』
艦長の指示は、砲撃の続行。
『──地下───魔法陣の発動を──』
「「「!!」」」
一瞬。艦内が静止する。
聞こえた言葉は“魔方陣”。つまり魔法による逆転の奇策。
大地が泥で汚れていたのは魔方陣の露出を恐れてかとも勘ぐってしまう言葉。
「ブラフだ、うろたえるな」
「ですがブラフではなかった場合」
震える声で話す副長。
数秒目を閉じた艦長は、ゆっくりと問いかける。
「地面にはどれほどの大規模魔法が描ける?」
「低度のモノでしたら......ですが魔力が足りない......」
「十分だ。これだけ死人、魔力はこの戦場で足りている」
大規模魔法。
おとぎ話のような魔法を再現するため、人類が生み出した負の遺産。
一撃で国を焼くものもあれば、生命全てを凍らす程度の威力。
大規模な陣が必要となる為、時代の海に沈んでいる遺物。
そもそも本来は自国で使う用途のモノではないが、
ソブエトには過去にやらかした前例がある。
「殴州《ナーロッパ》の二の舞はごめんだな」
「あのレベルで考えますと、半径5kmは消し飛びます」
大規模魔法の発動。それは艦隊の消滅を意味していた。
「魔力砲を使う、全艦に伝えろ」
「あれは窮地の切り札ではないのですか」
「今が“窮地”だ。副艦長。
我々が安全に勝つには、先制攻撃しかないのだ。
敵には未知数の魔法があり、我々には既存の武器しかない」
「昔の戦場では数秒判断を誤っただけで、呪い殺された」
「条約以前の話ですか」
「全く魔法は本当に馬鹿げているよ」
帽子から滴る汗を隠し、艦長は言葉をつづけた。
「殺れる時に殺らねば、死ぬのは我々だ」
数分後、
魔力砲は、砦を、兵士を、大地を、無慈悲にも焼き切きるのであった。
◇◆◇
【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-7/艦橋 [12:50]】
戦場を眺めるは、七番艦の艦長と副官。
「予想通りの圧勝ですな」
「弾の消費量で上層部に怒られそうですよ」
「その時はひいきの工場に頼むまでですな」
「確かに、使ってやらねば向こうも困るわけで、はっは」
彼らの視線は戦場から、向こう、ソブエト首都の方向に変わる。
「あと一週間もかからないでしょうな」
「全くです。ウジのような大虫と相手していたのが過去のようだ」
「どちらが大虫を持っているかなど、くだらん戦争ですよ」
「これからは戦艦が海も陸も蹂躙しますな」
「はっはっは、その通りです」
既に彼らは事後処理に頭を巡らせていた。
如何に自分たちの派閥を大きくするか、如何に自分たちが儲けるか、そんな軍人よりも商人に近い考え。
そんな思考を遮る声が一つ。
「艦長、魔力系統が不調で」
「予備の魔力に切り替えて、点検をさせなさい」
「ですが戦場の真ん中では」
「まさか、もう
艦長は笑顔で答えた。
「そうですとも、なにも恐れ「ドンッ」────へっ?」
艦橋を突き抜けるは、大型弾。
艦長と副官が間抜けな顔を晒した後、
「────あっ」
罅割れるガラス、
無数の弾痕が入る甲板、
血液が、内臓が、肉片が、
一瞬で一つの空間に凝縮される。
「弾薬庫に着弾ッ」
「マズイ、爆発するぞッ」
陸上戦艦は吹き飛んだ。
◇◆◇
【ソブエト南部・ダリネレチンスク/BBL(陸上戦艦)-1/艦橋 [13:00]】
同時刻、一番艦。
「「ギュイーーーーーン」────なんの音だッ」
音に疑問を思ったのは艦長の耳。
明らかに戦場には似つかわしくない音が響いていた。
「7時方向、黒点多数ありッ」
「大鳥か?」
「いいえ、速度は大鳥の3倍ほどッ」
「ならば砲弾か」
「黒点針路を変え、こちらに進行中ッ」
「落ち着け、情報を正確に伝えれていない」
艦長はゆっくりと話しかけた。
「────何を心配する必要があるんですか」
副長が口を挟んだ。
「どうせ砲弾程度では装甲は「五番艦大破ッ」────はっ?」
「状況を伝えろッ」
「艦長っ、黒点、こちらにも来ます」
障壁を震わすほどの振動。
揺れと共に、アメリア兵士の悲鳴も伝わる。
『弾が、弾が当たりませんッ』
『機械に追わせるな、手動でやれッ』
『総員退艦し、うわああああああああ』
「さらに、こちらの戦艦3隻、進行停止」
乗務員の報告と同時。
艦橋のガラスにひびが入る、
「一体何が────」
ガラスの向こうには“真紅の瞳”、
縦に割れた瞳から本能が感じる“圧倒的恐怖”、
魔力を帯びた緑鱗をたずさえ“空の王者”がそこにはいた。
「────竜、か」
この日、アメリアは敗北を知ることになる。
その敗北は戦争の行方を決めつけるほどの決定打。
誰もが新しい時代を実感することとなる幕開けであった。
だが、少女が“ソレ”を知るのは少し後のお話。
同時刻────少女もまた、戦場の空を飛んでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。