竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑦ 現実を打ち破る

[司令官]

諸君、聞きたまえ。

 

[Briefing]────────

ソブエト連邦所属の大鳥が領域を侵犯。

数度にわたる偵察により、こちらの基地情報は知られている。

侵犯したソブエト機の狙いは 西ノ島にある対空砲陣地だと予想される。

 

敵航空部隊を撃墜し、対空砲陣地が破壊されることを阻止せよ。

────────────

 

大鳥は飛び立つ。

 

翼格納から皆が飛びだすのは、もはや見慣れた光景になっていた。

 

「おっさんは飛ばねーのか?」

 

最近、何かと俺を見てくるトリノ大尉。

 

彼は騒ぎの後3日ほど謹慎となり、気づけば以前の苛烈さは消えていた。

 

「いや、飛ぶ」

 

おっさんは慣れた手つきで操縦席を調べる。

 

(だが妙だぜ。いつもの2倍もかかってやがる)

 

よく見れば大鳥の背中に、複座の操縦席。

 

「珍しい座席だな、おっさん」

「おかげでチェックに手間取る始末だ」

 

おっさんの大鳥である、大鷲。

 

歴戦の大鷲も慣れないのか、体を少しもぞもぞと動かしている。

 

おっさんは、それに気づかずチェックを進める。

 

(見てられねーな)

 

「ちょっと右にズレてんぞ」

「座席の調整は夜に済ましたが」

「目腐ってんのか、どう見ても10mmぐらいズレてんだろ」

 

前世から養ったチャリ屋の勘。

 

大鳥に近づいて、複座の固定具を調整する。

 

固定具は金属のベルト式だ。

 

触れる手は、ぬめる。

鼻をつく匂いは、柑橘油の香り。

値段は高いが質が良い大鳥用の油。

 

(大鳥特有の獣臭さが全くしねーし、大したもんだぜ)

 

「手入れスキルだけは文句がいえねぇな」

 

ベルトを調整し、

変化した重心も補正する。

 

しかし応急感が溢れる複座だ。

 

(この大きさで大人が座れんのか)

 

まあ、後ろには荷物でも載せるといった感じか。

 

「ほら、調整できたぜ」

 

オル爺に聞いた感じでやったが意外と上手くできた気がする。

 

よく見れば、大鷲も違和感が消えて満足そうだ。

 

「おっさん、どうした」

「......あの爺の目は確かということか」

 

何かブツブツ言っているが、俺の整備技術に感動したと言うことでいいのだろうか。

 

「ガキ.......いや、」

 

───スカイ・レコード。

 

おっさんは俺の名を呼ぶ。

 

(久しぶりに名を呼ばれたな)

 

いつもはみんな俺の身長と恰好を馬鹿にして“レコ助”と呼ぶが、

 

おっさんの眼は馬鹿にしているモノではない。

ナニカを決心した眼である。

 

「いや、きゅ、急に改まるなよ、怖いだろ」

 

トリノ大尉は俺の前に、整然として立つ。

 

「俺は空を飛ばなくてはならん。だが俺の眼は腐りすぎた」

「な、何が言いたいんだ......」

大きな深呼吸が聞こえ、言葉は紡がれる。

 

「新しい眼が必要だ───乗れ」

 

渡されるは、フライトジャケット。

 

無理やり丈を縫われた、

ふかふかのフードが付いた、

ぶかぶかの緑のジャケットだ。

 

ワッペンには【PACAF(太平洋空軍)】

 

「───ほへっ?」

 

ぷつっと、暫しの間、頭が真っ白になった。

 

 

 

◇◆◇

【隠岐基地・仮設食事場所】

 

時刻は3日前の夜に遡る。

 

食事場所という名の野外のテントには2人。

 

おっさんと太っちょ爺。

つまり。トリノ大尉とオル爺だ。

 

「人を乗せろだとッ───酔ってんのかジジイッ」

 

トリノ大尉のコップが叩きつけられる。

 

「まったく、若者は声がでけぇなぁ」

 

オル爺はジョッキ片手に、やれやれといった感じだ。

 

「眼の代わりを用意するのは俺でも考えたさッ」

 

大尉の激昂は収まらない。

 

「ジジイ、何故大鳥の二人乗りが禁止されているかは知っているだろッ」

「魔力が混合して事故を起こすからじゃろ」

 

魔力の混合。

 

3種類以上の魔力が混ざり合うと、魔力の波形が不安定になり、魔法が上手く使えなくなるという現象。

 

どの程度の近距離で、どの程度の魔力量で、起こるのかは厳密には分かっておらず、“魔力は波である派”の研究対象になっている。

 

「そりゃあ、相方が魔力を持っていればの話だ」

「馬鹿が、ただの人間が空に耐えれるわけがないだろッ」

 

「大鳥には自動で操縦者を守る魔法があるじゃろ」

「あんなもん最低限にすぎんッ」

 

「だが──その最低限で耐えたヤツがいるとすれば?」

 

オル爺はジョッキを傾ける。

 

「そんなヤツ、軍では聞いたことがないが」

「当然、軍人じゃないからの」

「ジジイッ」

 

戦争での民間人の介入はご法度だ。

 

これは国際法で定められた規定だ。

 

「国際戦争法第15条の項7───大鳥に異常がある場合、獣医の随伴は認められる」

「緊急での話だろ」

「別に緊急時とは書いておらん」

 

国際戦争法はの18世紀に設立されたモノであり、時代の移り変わりについて行けない条文も多く残っていた。

 

今回の様に、見方や解釈によって条文の内容が変わる、いわば形骸しつつある法であった。

 

「......解釈ギリギリだな」

「だが筋は通っておるじゃろ」

 

トリノ大尉は額に手を当てた状態で、オル爺を見る。

 

「もしもだ......魔力を持たず、飛べる民間人がいたとして───」

 

問う質問は一つ。

 

「そいつは空で戦えるのか?」

 

返すオル爺の言葉は簡潔。

 

「それなら問題ない」

 

ジョッキを置いて答える。

 

「すでに勝手に空を飛んで、 爆弾虫を落とすぐらいのじゃじゃ馬じゃ」

「大丈夫なのか、それ......」

 

トリノ大尉は別の意味で頭を抑えることになった。

 

◇◆◇

 

時間は、再び現在に戻る。

 

俺の頭が回り始めるまで3分間。

 

気付けば手にかかる重量は増えていた。

 

「あと、これも持っとけ」

「えっと、これはゴーグルと帽子?」

 

黒の飛行機帽、

ゴーグルは防寒用にしっかりとした作りだ。

帽子のたれにはゴーグルのバンドが引っ掛かっている。

 

「複座は応急的なものだ。基本は俺の背中にでも掴まっとけ」

 

ボルトとナットで無理に接合された複座。

 

誰が作ったのかは知らないが、古臭い応急的な作りを感じる。

 

えっと、あの

 

言葉に詰まる。

 

喉で止まった感情は限界である。

 

どうした

「いいのか......」

「“何が”だ」

 

握る力は強くなる。

 

「俺は兵士でもないし、魔力だって持ってない」

 

ゴーグルには水滴が落ちる。

 

「そんな俺が──空を飛んでもいいのかッ」

 

涙、鼻水を垂らして聞いた問いに。

 

「知るか───お前が飛ぶ理由はお前が見つけやがれ」

 

返された回答は解答ではなかった。

代わりにトリノ大尉は俺に差し出す。

 

「最終確認だ。こいつを受け取れば逃げることは出来んぞ」

 

目の前には、万物時計。

 

択は『受け取る』か『受け取らない』か。

 

受け取れば2度と平穏な暮らしには戻ってこれない、そんな確証がある。

 

(今の暮らしが嫌いな訳では無い)

 

皆の帰りを待ち、鳥と戯れ、清掃をする。

前世と同じぐらいは充実した生活だ。

 

(だが、それで......)

 

「一歩を、一歩を踏み出せ、か」

 

あの日、肩にかかった熱は、ほんのりと体に伝わる。

 

俺は......万物時計を受け取る。

 

 

少女は決断した。

 

歴史にも載らない時刻、

ちっぽけな辺境の基地にて、

ちっぽけな前世を引きずった少女は、

 

「スカイ・レコード──お前は、今この瞬間からパイロットだ」

 

飛行士になった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

以下を修正
・ローシア連邦→ソブエト連邦

・主人公をあだ名をレコ助に。

・細目少尉の喋り方をエセ方言に。

他になんかガバってたらお手数ですが報告を貰えると嬉しいです。
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