竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
保管庫から運び出されるのは、銃。
銃身は全体の半分近くあり、見るだけで威圧的だ。
「重そうな銃担いでんな」
「12.7mm機関銃のことか」
「安心しろ重さはお前と変わらん」
トリノ大尉は弾薬箱から、弾を取り出していく。
「それは俺が重いってことか?」
「いや、コイツが重すぎるってことだ」
「機関銃が28kg、さらに弾倉、そのた諸々合わせて40kg」
一発、持ってみろとばかりに銃弾を渡される。
手にはずっしりとした重み。
「こんな重い弾、撃つのか」
「大鳥の魔法障壁を抜くにはコレぐらいがいるって話だ」
魔法障壁。
イメージは、透明な装甲が、大鳥の周囲に展開されるモノだ。
魔法障壁は7mmの銃弾でも抜くことはできるが、口径が大きくなると弾頭の安定性が上がるといわれているため、アメリアでは12.7mmが使われている。
「子供に持たせて危なくねーのかよ」
「安心しろ、銃があってもその弾は撃てはせん」
「銃ってトリガー引いたら誰でも撃てるんじゃないの?」
なんなら銃弾のケツを叩くだけで弾は撃てそうだが。
「一般的にはそうかもしれんが、空軍の銃は別だ」
「こいつは魔力撃針だ」
「魔力、撃針? なんだそりゃ」
「要は撃つためには魔力で弾を叩く必要がある」
つまるところ魔力無しには使えないという事。
「なんでそんなメンドクサイことを」
「その方が安いからとは聞いたことはあるが、詳しくは知らん」
最後のチェックを終えたトリノ大尉は、ふうっと一息をつく。
「余談はこんなところだ」
そう、言い切ると銃弾は取り上げられる。
「今回の飛行は訓練だ。
レコ、お前が使えるのか。
そしてお前を乗せて俺が飛べるのか」
大鳥の背中にのせられる。
同じ種類のピィー助より、
背中は一回り大きく、乗り心地がしっかりしている。
「ベルトはきちんと巻いとけ」
「でも、コレ、ぶかぶかだぜ」
「無理やりにでも閉めてろ、パラシュートが開かんぞ」
ということで限界までベルトを締めるが、それでも隙間は残っている。
(仕方ないので適当な布を詰めてもらうか)
と、思う頃には、トリノ大尉は発進の準備に入っていた。
前からは独り言のように、始動手順が聞こえる。
「足止め良し」
「魔力注入量全開」
「魔力点火、閉から両へ」
「【風魔法】発動」
ぐおーんという低い音がひびく。
足元の敷料が煽られて飛んでいき、
建物の壁がガンガンと音をたてる。
(すごいな、上から見るとこんなに迫力が)
「魔力計、良し」
「魔力圧は2.5を維持」
「【風魔法】動作、良し」
「動いて大丈夫だ」
トリノ大尉が大鳥を撫でると、
ゆっくりと風景は動き出し、
翼納庫の外に着く。
日差しが眩しい。
視界がじわじわと焼かれる中、
『──z──聞こえますz』
ノイズ交じりの声がとどく。
発信源は“万能時計”からだ。
『トリノ機。タワーに、124.35MHzでコンタクトしてください』
「タワー。こちらトリノ。現在滑走路前にいる」
おっさんは万能時計に呼びかける。
『トリノ機、滑走路に向かい出発してください』
「タワー。了解した」
大鳥は足を動かし始め、
滑走路がどんどんと短くなり、
極彩色を纏って風魔法が起動する。
ふわり、そう思ったときには俺たちは空を飛んでいた。
◇◆◇
横を流れるのはふわふわの雲。
そんな中を俺達は風を受けて飛ぶ。
ゴーグルからはみ出た冷たさが、空を実感させてくれる。
「で、どうするんだ」
「本当にけろっとしてやがる」
おっさんは、体調は、気分は? と頻りに聞いてくるが、特に違和感はない。
(何なら前回より呼吸しやすいし)
前回はもう少し上を飛んでいた気もする。
現在の高度は3000m。
「.....なら今日は島巡りだ」
少しずつ高度が落ちていく。
「えっ、急旋回とかしたりしないのか」
「倒れられたら困る。まずは空に慣れろ」
空の訓練は、地上での勉強から始まる。
体が、技能が、ある程度育ってから飛行技術を学ぶのが基本なのだが。
そんなことを知らない俺は、少し物足りなさを感じるのであった。
「慣れたら、そのカメラで遊んどけ」
「げっ、なんで知ってんだよ」
「あそこまで念入りに準備していたら誰でもわかる」
どうやらカメラの整備をしているところを見られていたようだ。
工具が揃っているからと、コッソリと翼納庫でやっていたのだがバレバレだったらしい。
大鳥はゆっくりと島を廻り始める。
◇◆◇
「
「なんだ、その酷い曲は」
「じ、自作した歌だけど」
前世の黒歴史の1つ。
墓まで持っていくつもりだったが、
いい景色に、気持ちいい風とくれば、つい歌いたくなるのが人の性だ。
「作曲家には向いてないな」
「うっ」
「音程も微妙だが」
「ぐっ」
「曲の歌詞が意味不明だ」
「ぐはっ」
評価は散々。
飛ぶ言葉は矢の如く、
俺の心に致命傷である。
(今まで誰にも聞かせたことなかったしなぁ)
自分のミスとはいえ、作ったものを、批評されるとは。
「空はここまで息苦しい場所だったのか......」
「なに黄昏てんだ、馬鹿か」
結局、この後は写真を撮ることにした。
そうして2枚、3枚と取っている内に日は傾いていき、
気づけば周囲は夕暮れ。
赤みが天を支配する時間だ。
再び、高度は3000m。
「お前にはこの空はどう見える」
おっさんは、ふと呟く。
向こうからの質問とは珍しい。
(だからって、気の利いた返しができるわけじゃないけど)
ということで、見たままを返す。
「綺麗な夕暮れだが」
「そうか、俺には───歪んだ灰色に見える」
トリノ大尉は何かを悔やむように、懐かしむように、高度を下げる指示をするのであった。
◇◆◇
夕暮れとともに初訓練も終わりというところ。
俺の視界は違和感をとらえる。
「おっさん、今日飛んでいるのは俺たちだけか」
「そうだ、訓練飛行の名目で飛んでいるからな」
視界の端に小さな黒点。
「基地に戻ってきた鳥かな」
「任務が始まって2時間、被弾したなら有りうる話だ」
その間にも黒点は大きくなる。
「なら、あの黒点は問題ないか」
「場所はどこだ、方角を言え」
「えっと」
万能時計を見るが映る計器は様々。
どれを見ればいいのか分からない。
(こんなことなら、勉強しとくんだった)
「......翼には何色の布が巻いてある」
「赤っぽい、布が、巻いてあるけど」
「......いい目だ」
夕日よりも真紅の赤。
その布は確かに大鳥の翼に巻かれていた。
「レコ、落ちるなよ」
「おわわっ、動く前に言ってくれッ」
こちらの翼もはためく。
翼に巻かれているは、緑色の布。
アメリア軍の識別布は──緑色だ。
「上はこっちが取っているが、敵の位置は.....無理だな」
おっさんは諦め、
俺に指示をとばす。
「レコ、背中を叩いて方向を示せ」
「上なら肩、右なら右腕の近くを叩けッ」
「あと、今の状態を0として、黒点の大きさを伝えろッ」
「や、やることが多い」
「出来なけりゃ、明日には帰る家が消えているだけだ」
トリノ大尉の言葉は脅しではない。
実際、対空砲陣地が壊されれば敵はすぐにでも基地に殺到するだろう。
「────ッ」
現在の敵の位置は右下。
俺はおっさんの右腰を叩く。
「現在、大きさは2ッ」
「上出来だ」
こちらの大鳥は右に角度をとる。
雲を引いて、体は右に旋回する。
日が落ちるまで数刻、
夕日が照らす二人と一匹は、
一体の影を雲に走らし駆けだしていく。
「さーて、空戦の始まりだ」
トリノ大尉はニヤリと笑う。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。