竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

8 / 44
記録⑧ 全てが初めて

 保管庫から運び出されるのは、銃。

 

 銃身は全体の半分近くあり、見るだけで威圧的だ。

 

 「重そうな銃担いでんな」

 「12.7mm機関銃のことか」

 「安心しろ重さはお前と変わらん」

 

 トリノ大尉は弾薬箱から、弾を取り出していく。

 

 「それは俺が重いってことか?」

 「いや、コイツが重すぎるってことだ」

 「機関銃が28kg、さらに弾倉、そのた諸々合わせて40kg」

 

 一発、持ってみろとばかりに銃弾を渡される。

 

 手にはずっしりとした重み。

 

 「こんな重い弾、撃つのか」

 「大鳥の魔法障壁を抜くにはコレぐらいがいるって話だ」

 

 魔法障壁。

 

 イメージは、透明な装甲が、大鳥の周囲に展開されるモノだ。

 

 魔法障壁は7mmの銃弾でも抜くことはできるが、口径が大きくなると弾頭の安定性が上がるといわれているため、アメリアでは12.7mmが使われている。

 

 「子供に持たせて危なくねーのかよ」

 「安心しろ、銃があってもその弾は撃てはせん」

 「銃ってトリガー引いたら誰でも撃てるんじゃないの?」

 

 なんなら銃弾のケツを叩くだけで弾は撃てそうだが。

 

 「一般的にはそうかもしれんが、空軍の銃は別だ」

 

 「こいつは魔力撃針だ」

 「魔力、撃針? なんだそりゃ」

 「要は撃つためには魔力で弾を叩く必要がある」

 

 つまるところ魔力無しには使えないという事。

 

 「なんでそんなメンドクサイことを」

 「その方が安いからとは聞いたことはあるが、詳しくは知らん」

 

 最後のチェックを終えたトリノ大尉は、ふうっと一息をつく。

 

 「余談はこんなところだ」

 

 そう、言い切ると銃弾は取り上げられる。

 

 「今回の飛行は訓練だ。

  レコ、お前が使えるのか。

  そしてお前を乗せて俺が飛べるのか」

 

 大鳥の背中にのせられる。

 

 同じ種類のピィー助より、

 

 背中は一回り大きく、乗り心地がしっかりしている。

 

 「ベルトはきちんと巻いとけ」

 「でも、コレ、ぶかぶかだぜ」

 「無理やりにでも閉めてろ、パラシュートが開かんぞ」

 

 ということで限界までベルトを締めるが、それでも隙間は残っている。

 

 (仕方ないので適当な布を詰めてもらうか)

 

 と、思う頃には、トリノ大尉は発進の準備に入っていた。

 

 前からは独り言のように、始動手順が聞こえる。

 

 「足止め良し」

 「魔力注入量全開」

 「魔力点火、閉から両へ」

 

 「【風魔法】発動」 

 

 ぐおーんという低い音がひびく。

 

 足元の敷料が煽られて飛んでいき、

 

 建物の壁がガンガンと音をたてる。

 

 (すごいな、上から見るとこんなに迫力が)

 

 「魔力計、良し」

 「魔力圧は2.5を維持」

 「【風魔法】動作、良し」

 

 「動いて大丈夫だ」

 

 トリノ大尉が大鳥を撫でると、

 ゆっくりと風景は動き出し、

 翼納庫の外に着く。

 

 日差しが眩しい。

 

 視界がじわじわと焼かれる中、

 

 『──z──聞こえますz』

 

 ノイズ交じりの声がとどく。

 

 発信源は“万能時計”からだ。

 

 『トリノ機。タワーに、124.35MHzでコンタクトしてください』

 「タワー。こちらトリノ。現在滑走路前にいる」

 

 おっさんは万能時計に呼びかける。

 

 『トリノ機、滑走路に向かい出発してください』

 「タワー。了解した」

 

 大鳥は足を動かし始め、

 滑走路がどんどんと短くなり、

 極彩色を纏って風魔法が起動する。

 

 ふわり、そう思ったときには俺たちは空を飛んでいた。

 

 ◇◆◇

 

 横を流れるのはふわふわの雲。

 

 そんな中を俺達は風を受けて飛ぶ。

 

 ゴーグルからはみ出た冷たさが、空を実感させてくれる。

 

 「で、どうするんだ」

 「本当にけろっとしてやがる」

 

 おっさんは、体調は、気分は? と頻りに聞いてくるが、特に違和感はない。

 

 (何なら前回より呼吸しやすいし)

 

 前回はもう少し上を飛んでいた気もする。

 

 現在の高度は3000m。

 

 「.....なら今日は島巡りだ」

 

 少しずつ高度が落ちていく。

 

 「えっ、急旋回とかしたりしないのか」

 「倒れられたら困る。まずは空に慣れろ」

 

 空の訓練は、地上での勉強から始まる。

 

 体が、技能が、ある程度育ってから飛行技術を学ぶのが基本なのだが。

 

 そんなことを知らない俺は、少し物足りなさを感じるのであった。

 

 「慣れたら、そのカメラで遊んどけ」

 「げっ、なんで知ってんだよ」

 「あそこまで念入りに準備していたら誰でもわかる」

 

 どうやらカメラの整備をしているところを見られていたようだ。

 

 工具が揃っているからと、コッソリと翼納庫でやっていたのだがバレバレだったらしい。

 

 大鳥はゆっくりと島を廻り始める。

 

 ◇◆◇

 

 「空を切り裂く駆動音(Drive sound ripping through the sky♪)

 

  回転数は限界だ(Engine is at its limit)

 

  風防なんて関係ねェ(Don't care what hits the windshield)

 

  俺は嵐と闘い 空を手にする(I'm gonna fight the storm , own the sky♪)

 

 「なんだ、その酷い曲は」

 「じ、自作した歌だけど」

 

 前世の黒歴史の1つ。

 

 墓まで持っていくつもりだったが、

 

 いい景色に、気持ちいい風とくれば、つい歌いたくなるのが人の性だ。

 

 「作曲家には向いてないな」

 「うっ」

 「音程も微妙だが」

 「ぐっ」

 「曲の歌詞が意味不明だ」

 「ぐはっ」

 

 評価は散々。

 飛ぶ言葉は矢の如く、

 俺の心に致命傷である。

 

 (今まで誰にも聞かせたことなかったしなぁ)

 

 自分のミスとはいえ、作ったものを、批評されるとは。

 

 「空はここまで息苦しい場所だったのか......」

 「なに黄昏てんだ、馬鹿か」

 

 結局、この後は写真を撮ることにした。

 

 そうして2枚、3枚と取っている内に日は傾いていき、

 

 気づけば周囲は夕暮れ。

 赤みが天を支配する時間だ。

 

 再び、高度は3000m。

 

 「お前にはこの空はどう見える」

 

 おっさんは、ふと呟く。

 

 向こうからの質問とは珍しい。

 

 (だからって、気の利いた返しができるわけじゃないけど)

 

 ということで、見たままを返す。

 

 「綺麗な夕暮れだが」

 

 「そうか、俺には───歪んだ灰色に見える」

 

 トリノ大尉は何かを悔やむように、懐かしむように、高度を下げる指示をするのであった。

 

 ◇◆◇

 

 夕暮れとともに初訓練も終わりというところ。

 

 俺の視界は違和感をとらえる。

 

 「おっさん、今日飛んでいるのは俺たちだけか」

 「そうだ、訓練飛行の名目で飛んでいるからな」

 

 視界の端に小さな黒点。

 

 「基地に戻ってきた鳥かな」

 「任務が始まって2時間、被弾したなら有りうる話だ」

 

 その間にも黒点は大きくなる。

 

 「なら、あの黒点は問題ないか」

 「場所はどこだ、方角を言え」

 「えっと」

 

 万能時計を見るが映る計器は様々。

 

 どれを見ればいいのか分からない。

 

 (こんなことなら、勉強しとくんだった)

 

 「......翼には何色の布が巻いてある」

 「赤っぽい、布が、巻いてあるけど」

 「......いい目だ」

 

 夕日よりも真紅の赤。

 

 その布は確かに大鳥の翼に巻かれていた。

 

 「レコ、落ちるなよ」

 「おわわっ、動く前に言ってくれッ」

 

 こちらの翼もはためく。

 翼に巻かれているは、緑色の布。

 

 アメリア軍の識別布は──緑色だ。

 

 「上はこっちが取っているが、敵の位置は.....無理だな」

 

 おっさんは諦め、

 俺に指示をとばす。

 

 「レコ、背中を叩いて方向を示せ」

 「上なら肩、右なら右腕の近くを叩けッ」

 「あと、今の状態を0として、黒点の大きさを伝えろッ」

 

 「や、やることが多い」

 「出来なけりゃ、明日には帰る家が消えているだけだ」

 

 トリノ大尉の言葉は脅しではない。

 

 実際、対空砲陣地が壊されれば敵はすぐにでも基地に殺到するだろう。

 

 「────ッ」

 

 現在の敵の位置は右下。

 

 俺はおっさんの右腰を叩く。

 

 「現在、大きさは2ッ」

 「上出来だ」

 

 こちらの大鳥は右に角度をとる。

 雲を引いて、体は右に旋回する。

 

 日が落ちるまで数刻、

 夕日が照らす二人と一匹は、

 一体の影を雲に走らし駆けだしていく。

 

 「さーて、空戦の始まりだ」

 

 トリノ大尉はニヤリと笑う。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。