竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑨ おっさんと鳥と少女

∞ともとれる雲は続く。

 

空戦軌道の一つである“シザース”。

 

お互いの背後を取ろうとして蛇行、急旋回を繰り返すことで描かれる鋏のような軌道。

 

「ちっ、思った以上に魔力の消費が激しいな」

 

残存魔力量は30%。

 

トリノ大尉の万能時計は[注意]の報を飛ばす。

 

(訓練だからと言って魔力タンクを積んでこなかったのが裏目に出たか)

 

「だが、落とせん相手ではない」

 

爆撃に来たせいか武器が弱い。

持ってた爆弾は既に海に捨てられ、

残った武器は護身用の機関銃だけとは。

 

──背中がぎゅっと握られる。

 

(いや、俺もレコを乗せてるから条件は五分か)

 

「上等だ」

 

再びの急旋回。

 

俺達は左に、相手は右に、

 

双方が相手の背中を取ろうと躍起になる中、

 

この物語の主人公であるレコ/俺は───

 

「(むりむりむりいいいい)」

 

絶賛、吐きそうになっていた。

 

◇◆◇

 

旋回すると人はGを受ける。

 

大きさは角度によって変わるが約2G。

 

たかが一桁と思うかもしれないが、2Gが人にかかると、体重は2倍になったと錯覚する。

 

「(うッ、重いッ)」

 

手すら動かせねェ。

もはや胃の中身どころか、

臓器そのものが飛び出しそう、だ。

 

(なのに、おっさんはピンピンしてやがるッ)

 

トリノ大尉は先と変わらず大鳥を操る。

 

いや、先よりもキレは上がっている。

 

「(マジで、どんな体してんだよッ)」

 

双方未だに譲らず。

 

背中の取り合いを、

混じり合う白雲とともに、

数秒、数分、数時間と繰り返す。

 

ピンと張りつめた均衡が破れたのは、経験か、偶然か、

 

「焦ったな、馬鹿がッ」

 

敵が俺達より、前に飛びだす。

 

敵のしまったという顔と同時に、

 

コチラの機関銃が動き出す。

 

射線は光り、

曲線を描いて、

敵機に衝突する。

 

「やったかッ」

「まだに決まっている」

 

銃弾が当たったにも関わらず敵は健在。

 

「い、一回で落ちないのかよッ」

「無茶いうな、すぐに落ちたら苦労はせん」

 

急旋回、再び。

体にかかる膨大なG。

内心にはナンデという気持ち。

 

多くの魔法障壁を貫いた弾丸は、貫いただけで“弾の役割”を終える。

空戦では障壁を貫いた上で、大鳥か操縦者を仕留める必要があるのだ。

 

それには、数度、数回におよぶ直撃が必要となる。

 

「ちっ、意外といい腕してやがる」

 

シザース軌道は続く。

 

お互いが背後を取り合い躍起になる。

 

傍目から見ても、

トリノ大尉の操縦は上手い。

このまま行けば勝てるだろう、

 

そう、このままいけば、だ。

 

(万が一、後ろを取られたら......)

 

絶望に近い考えが、俺の脳をよぎる。

 

手には無意識に力が籠もる。

 

「安心しろ、こっちの背中は取らせん」

「いや、でも......」

「なら居眠りでもしてろ、起きたら地上だ」

 

トリノ大尉の視線は揺るがない。

 

場所が雲海となり、

空が白を覆おうと、

両機は飛び続ける。

 

次で決めさして貰う

 

再三度、敵と──

 

激烈な夕日の差し込み。

 

雲で隠れていた日差しが、光線の如く視界を焼く。

 

ちいっ、どこに行った

 

一般人には眩しい程度、

 

だが、

 

トリノ大尉には赤色の区別がつかない。

 

おっさん、右横ッ

 

言葉とともに背中を蹴るが、時すでに遅し。

 

敵に食いつかれた──

 

思わず目をつむる。

聞こえるのは風を切る音と、

いつもと変わらぬおっさんの声。

 

「仕方ねえ、捻るか」

 

数秒後、銃撃は来なかった。

 

◇◆◇

 

理解不能。

 

そう表すのが適切だろう。

 

いや、目を開けた世界はそう表現するしかなかったのだ。

 

たった数秒、

絶望で目を閉じた数秒に、

世界がガラリと入れ替わった。

 

敵に食いつかれたのは、俺達だ。

 

だが、

 

今、敵の背中を取っているのは、俺達だ。

 

(下手な魔法より奇跡を見てる気分だ......)

 

俺が唖然としている間に、

トリノ大尉の機関銃は火を噴き、

敵の障壁をこれでもかと砕いて着弾する。

 

そうして、ある程度、撃ち込んだ後、俺たちの大鳥は反転する。

 

「まだ、飛んでんぞ」

「もう、必要ない」

 

おっさんの眼には、少しの哀愁が漂う。

 

「飛んでるだけだ───いずれ、落ちる」

 

糸が切れた人形ように、

 

ピクリとも動かない大鳥。

 

操縦者は血に濡れた手で頑張るが、動かない。

 

「魔力の線が切れてんだ、もう曲がることすらできん」

 

魔力の線。

 

それは魔力を供給する心臓と魔法をつなぐ線。

 

常時発動する魔法は、魔力の供給があってこそ成り立つ。

 

逆にソレが無くては、大鳥は飛ぶことすらできない。

 

 

「どうだ初めての、本物の空戦は────」

 

そう言って、

振り返るおっさんは、

げっ、マジかよ、という顔をする。

 

俺はきっと、世にも酷い青い顔をしているに違いない。

 

(まさか安心した途端、気分が悪くなるとは)

 

この俺の目を以てしても見抜けなかった。

 

「おまっ、吐くなら海に吐けッ」

「(ふるふるふる)」

「背中は持っててやるから、頼むから────オイッ」

 

青い空、青い海、光り輝くは、

 

「げろげろげろ......」

 

この後、無事に基地に付き、

 

一週間、トリノ大尉の大鳥清掃指示がくだされるのであった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

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