週刊エンジョイポケモン放送局   作:魔女っ子アルト姫

115 / 691
エンジョイ:モイスチャーボイスアシレーヌ

イクハ。カントー地方で共に旅をしていた仲間……というには難色を示すだろう。理由を述べるとするならばイクハの人格的な影響によって生じる問題に晒される事が多かったからである。まず、彼女は見た目が良かった。そして大人っぽかった。幼い印象を受けるラビとは対照的だったからか姉弟扱いされる事が圧倒的に多かった。それも大きな要因なのだったが―――

 

『……なぁっ早く行かねぇ?』

『もう少し待ってくれよ、ボクを放してくれなくてさ』

『……俺だけ先に行っても良いんだぞ』

『つれないな、ほら、僕と君とのスリーショットをご所望だそうだよ』

『はぁ……』

 

余りにも王子様的なルックスとそれに相応しい上に自分の魅力を熟知していたからだろう。新たな街に行けば人混みの中心にいる、そして人混みが出来れば自分が弟という事にされて玩具にされて迷惑を被る。その事が好い加減に嫌になったというのが仲間を解消した大きな要因だった。

 

「そんなアイツが今更手紙ねぇ……ダイケンキは如何思う?」

「……ケッ」

 

相棒はイクハに対していい感情は全く抱いていない。何故ならば彼にとっては相棒を面倒事に巻き込んで溜息を吐かせる元凶でしかない、故にダイケンキ的にはイクハの事は良く思っていないし、再びあれと一緒に旅をしろと言われたら絶対に嫌だ。

 

「そ、それで手紙には何が書いてあったの?」

 

そんなイクハの手紙に内心穏やかではないのはサザレだった。彼女からすれば知らない間の彼と旅をしていた女からの手紙なのだ、致し方ない心情。ラビは丁寧に便箋を開いて中身を確認する。読み流している訳でもないだろうがそれでも目の移動するスピードは速い。

 

「……要約するとお元気ですか、最近ラビの事をよく見かけて、君と旅をした頃を思い出して懐かしい気分になりました。貴方さえよければ会いませんか、連絡もらえたら嬉しいです。だな、面倒な言い回しやら意味のない言葉が大量に付随してたのを除去するとこんな感じだな」

「なんというか、凄い無難な感じ、だね……?」

「要約すりゃどんな文章でもこの位にはなるだろ。ほれ」

 

テーブルの上に広げられたそれをサザレも見る。ラビの言う通りにそのような事が書かれている……だが確かに凄い文章が壮大というか、なんというか……王子様だと評されるのも理解出来てしまう自分がいた。

 

「今更何を話すつもりなんだろうな」

「……会うの?」

「俺から会いに行く気はねぇな。向こうが尋ねてきたら対応する位はするさ、あいつとの旅は確かに楽しい事はあったがそれ以上に嫌な思い出ばっかりだ」

 

今更顔を合わせたとしても、話に花を咲かせる事は無いだろうし寧ろお互いに重苦しい空気を味わうだけだろう。仮に向こうが楽しい思い出ばかりだと語ろうものならそれは見解の相違に過ぎない、自分達の別れの舞台は―――

 

「……だけどこのまましつこくされたらいやだな……ロトム、この番号に電話を掛けてくれ」

『いいんロト?』

「いいんロトよ、ケジメを付けるには丁度いい機会かもしれんしな」

 

ラビからすれば消し去りたい過去の清算、イクハからすればきっと再起への切っ掛けと捉えるかもしれない通話。それは直ぐに繋がった。

 

『も、もしもし……その、ラビかい……?』

「―――随分と大人しい口調になったな、少しは女らしくなったかイクハ」

『ひ、久しぶりだねぇ。如何だい僕と別れてからもう10年は経つかな、寂しかっただろう!?』

「つまらん事を駄弁るつもりはない。お前の事だ、どうせパルデアに来てるんだろ」

『……ああいるよ、君を追ってね』

 

そのまま話をつづけるラビをサザレは何処か不安そうな顔で見ていた、先程から情けないが胸が痛い程に心臓を打ち付けるのだ。何でもない筈の笑いさえも心臓を抉るようだった。

 

『それじゃあ待ってるよ』

「大人しく待ってろよ……はぁっやっぱり疲れる」

 

意識を取り戻したサザレが見たのは牛乳瓶を鷲掴みにして一気飲みしているラビだった。ストレスには牛乳というには聞いた事があるがそれを実戦しているのだろうか。

 

「ど、どうなったの?」

「……1週間後、ボウルタウンの一角であいつと会う。そこで決着付けて来るわ」

「そ、そうなんだ……えっとふわっ!?」

 

実はまた写真を撮りに行こうと思ってるから、なんて言いたくもない言葉を言おうとした自分を抱きしめるようにして止められた。

 

「気にするなよ、此処はお前の家だから」

「―――うん」

 

愚かな考えを捨てて、少しだけ抱きしめられる時の喜びに溺れる事にした。

 

 

「皆さんこんにちは、今日もポケモン育ててますか?まだまだな貴方もこれからの貴方も、此処をきっかけに一歩踏み出して行きましょう。本日ご紹介するポケモンさんは此方」

「きゅううううんぬ」

「アシレーヌです」

 

・おおっ人魚!?

・あれぞ姫だ!!抱きしめたいなぁ!!

・キモいぞ。

・結婚したい。

・おい重婚は犯罪やぞ

・地味にまたさん付けなし……。

 

「アシレーヌは水とフェアリーの複合タイプです。アシレーヌはそれこそ海辺にいたら人間に見紛ってしまう程ですね、髪などは人間が羨む程にサラサラで美しいですし泡の髪留めにヒトデのような髪飾りまでつけている。これを見紛うなというのも酷な話です。一部では一目惚れしてプロポーズしたらポケモンだったことに気づいて大玉砕した方もいるそうです」

 

・あ~……まあ確かに後姿だけ見たら完全に人だしな。

・無理もない

・その人、大丈夫?

・色々歪んでそう。

・すでに歪んでたからこそプロポーズしたのでは?

 

「大海原のシンガーという二つ名を持っており、その歌声で音波を操って戦う姿は幻想的で歌姫とも称されます。故かアシレーヌにとって喉はとても大切な場所なので乾燥地帯でのバトルは不向きな上に連戦での酷使も厳禁。しかし、その一方でバトルも舞台の一つと捉えているのか水のバルーンも活用しながら舞うように戦います」

 

・あ~んじゃのどスプレーとかでケアしてあげる訳だ。

・してあげたい、喉のケア

・お前それ絶対劣情から出た言葉だろ。

・ドドドドドドドドドドっ童貞ちゃうわ!!

・まだ何も言ってない。

 

「そんな私のアシレーヌは夢特性です、通常はお馴染みの激流ですが夢特性は潤いボイスという物です」

「きゅんぬ」

 

・なんか胸に手を当てつつもポーズ取ってる

・強気なお嬢様かな?

・……組み伏せられたい。

・おい誰か通報しろ。

・んで潤いボイス?全然聞かねぇ特性だな。

 

「潤いボイスは音系の技を水タイプに変える特性です。ハイパーボイスやサイコノイズ、魅惑のボイスといった他のタイプを水タイプへと変換します」

 

・へ~面白いな。

・って事はタイプ一致が乗る技が増えるって訳か

・でもそれって他のタイプへの対応力が減るって事でもあるんだろ?

・あっそっか。

・それはちょっと微妙……?

 

「でもありません。サイコノイズはサイコキネシス、魅惑のボイスはムーンフォースでの代用が利きますのでそこまで気になりません。音系という事で滅びの歌も水タイプに変換されますが、貯水、呼び水、乾燥肌の特性持ちには無効化されるのでダブルバトルではそれを活かして味方には滅びの歌の影響を与えないという芸当も可能になります」

 

・あ~成程!!

・そっかタイプ変わっちゃうからそういう使い道あるのか。

・珍しくダブルバトルでの活用を、教えている……。

・なんか最近は増えて来てる傾向な気もするけどな。

・それでも面白い。

 

「そもそもがアシレーヌは技範囲が広いので音技が水技に変換されてもそこまで気になりません。エナジーボールで同じ水タイプの対応も出来ますし、アクアジェットで先制、クイックターンで交代、瞑想とど忘れで自己強化、甘えるにつぶらな瞳と内緒話で弱体化、アクアリングと命の雫で回復、黒い霧と身代わりなども覚えるので出来る事が素直に多いので気になりません」

 

・こりゃまたシンプルに多い……。

・水タイプだけど同じ水タイプに打点あるのはいいな。

・水相手に水って結構詰まりがちだもんな。

・これで声系の追加効果も踏まえると相当に強いな

・欲しい

・シンプルに形にしやがった

 

「優雅にバトルを自らのライブステージに変える歌姫のアシレーヌ、如何でしょうか?」

 

 

アシレーヌ、そう言えばイクハはアローラの出身だったなと配信を切りながら思う。向こうも向こうで故郷以外の初めての旅という事でカントー地方へと向かったのだったな……そう思っているとアシレーヌが何やら顔を覗き込みながら手で胸をちょんちょんと押しながらも、得意げな顔をした。ダイケンキの影響もあるのか、水タイプの言いたい事は大体わかる。

 

「有難う、もっとしっかりしなくちゃな」

「きゅうんぬ」

 

そう、貴方にはそういう顔が一番似合っている。何よりこの自分のトレーナーなのだからもっとしっかりして貰わなければ困るのだと言わんばかりに高飛車な態度をとるアシレーヌ。だが彼女は求めてばかりではなく自らを高める為の研鑽を怠る事をしない努力家。自分は強くなる、だからトレーナーにもそれを要求してくる。ラビはそれに応え続けてきた故にアシレーヌはラビの事を全面的に信頼している。

 

「ケェン……?」

「きゅうん?きゅうう~きゅきゅんぬ」

 

ダイケンキの気にならないのか、という問いにもする必要もないと返す。何故ならば自分のトレーナーなのだから、一方的な信頼ではなくお互いに通じ合った本物の信頼をアシレーヌはラビと持っていると胸を張っている。だからイクハの事だって気にする必要はない。さあ、今日も日課を始めよう、と言わんばかりにダイケンキにある事を聞き出すと其方へと向かって行くのであった。

 

「ケェン……」

 

信頼するのは良いのだが……お前歌姫だろと言いたげな目線をやるダイケンキ。何故ならば自分に聞いてきたのはラグラージの居場所、アシレーヌは歌声には絶対の自信があるがそれだけで勝てるとは思わずに純粋な力も鍛え続けている、その相手がラグラージ。いや被害者と言ってもいい。今日も今日とて腕力自慢というだけで絡まれるラグラージに同情するダイケンキであった。




アシレーヌはジェンティルドンナ、トゲキッスはカワカミプリンセスだと思って貰えれば色々と楽だと思われ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。