週刊エンジョイポケモン放送局   作:魔女っ子アルト姫

117 / 691
リスタート:エンジョイ

「もう旅をする気はない」

 

イクハからの懇願にも似たそれを一蹴する。続けざまに言葉を放つ。

 

「誘ってくれるのは嬉しいが、生憎俺は既に手に職を付けてるんでな。それをほっぽり出して放浪するのは世話になってる人に申し訳が立たないし行くにしても旅行程度だろうな」

「あっえっあっぁ……」

 

言葉にならない声で呻くイクハ、恐らく想定自体はしていたのだろうが考えたくもなかった最悪の答えを引いてしまった事で頭が真っ白になっているような狼狽え方をラビはただ見つめるだけ。しかし、直ぐに思考を切り替えたのか、咳ばらいをしつつもイクハはやや顔を赤くしながらも自分の手を取った。

 

「ご、ごめん遠回しな言葉で困惑させてしまって……僕は今、アローラでファッションモデルをしてるんだ。アローラの中でだけど、それなりに売れている自負はあるしこっちでも少し位は名前が出る程度にはなれているんだ」

「はぁ~ん……ファッションか、生憎そっちは疎くてな……ンで?」

「ぼ、僕と一緒に、いっ!一緒に人生を歩んでくれませんか……!!?」

 

その言葉に流石のラビも思考が凍った。旅の誘いかと思ったが、そういう事だったの?というかこれ自分はプロポーズされているのだろうか……いやなんで?という疑問が脳内を巡り続けている。イクハがそのまま続ける。

 

「あの日、君は僕と別れた。別々の道を歩んでいこうって……そして僕は一人で旅を続けて、もう一度アローラに帰ってもう一度島巡りに挑戦したんだ、そして……今度は達成したんだ。それで直ぐに君の下に行こうと思ったんだけど、もっと立派にならないといけないと思って……それで僕はモデルになって色々頑張ったんだ、ルリナさんとも一緒に仕事をした事もあるんだ」

 

イクハは一人で旅をしながらもずっとラビに助けられていた事に気づいた、ラビに依存しきっていた事に気づいた、そしてラビに多大な迷惑を掛けていた事にも気づいた。

 

「僕は君に本当に迷惑を掛けていたことが分かったんだ……好き勝手に君を弄んで、まるで自分の物だって言ってるみたいに……本当に、本当にごめんなさい……愚かな僕を許して欲しいなんて言わない、でも僕はだからこそ言わないとって思ったんだ!!僕は、ラビの事が大好きだって事を!!」

 

イクハの言葉に恐らく嘘はないし、様々な事を経験して彼女なりに成長して過去を顧みて省みる事が出来たのだろう。出来る事ならば当時から好い加減にやめてくれと言った時から分かって欲しかったなぁ……と思う一方で自分ってそんなに思われていたのかと驚いてしまう。

 

「……相変わらず分かり難い言い回しをする奴だ、全く変わってねぇなお前」

「うっ……」

「まあ俺も変わってるとは言い切れないけどな―――悪いな、俺はもう心に決めてる人がいるんだよ、もう決めてる」

 

目を見てハッキリと告げてやる、此処で少しでも背ければそれは届かない。それを受け取るイクハは先程とは違って真っ直ぐに此方を見返しながらも、クスリと笑った。

 

「そっか、そうだよね……なんせ僕が好きになった君だ、君を口説き落とす星があっても可笑しくない。そして地上へと流れ星へとなって共になるか……ははっ応援させて貰うさ!!」

「シンプルにおめでとうとか言えんの?」

「こっちの方が楽しいだろう?」

「翻訳解釈するこっちの身にもなれ、エリカさんなんてガチ困惑してたじゃねぇか。マジ顔で俺に、申し訳ありませんが此方の方は何と仰っておられるのでしょうか……?って言われた時の腹筋はやばかったんだぞ」

「あ、あれはボクのボキャブラリーが貧弱だったが故で……!!」

「ビジネス用語覚えたての学生みてぇだったもんな」

 

イクハの旅の全てが嫌だったわけではない、ラビもそれは認めている。

 

「お前との旅が全部嫌だったわけじゃねぇよ。バカみたいな事で笑って話に花咲かせて、偶に感動して泣きそうになったりもすれば、お前に嘘吹き込んで悪いなぁって思ったりもしたさ―――その事には感謝してるよイクハ」

「……僕の方こそ、色々とメンタルブレイクしてた僕を慰めて一緒に旅をしてくれてありがとう。面倒臭かったでしょ?」

「うん」

「僕も楽しかったよ、ラビ。今度会う時はそうだね、アローラに来た時にしてくれ」

「応そうするわ」

 

そんなやり取りをした後、握手を結んだ。こうして握手をするのは思えば一緒に旅をする事を決めた時以来かも知れないな……と思いながらも別れる。イクハはラビの背中を見送りながらも少しだけ息を吐く。こうなる事は分かっていたような気がする、でもケジメは必要だしずっと謝りたかった、最初に謝るべきだったのに言い出せなかった自分が憎らしい……。

 

「―――さてと、僕も僕でアローラに帰るかな……ラビが後悔する位のスーパーモデルになるぞ!!ハァッハッハハハハハ!!」

 

声を張り上げるイクハだが、その瞳からは一滴の涙が流れるのだが、それは誰にも見られる事なく散っていくのであった。

 

 

「あっお帰りラビ」

「応、帰ったよ」

 

家に着くとサザレが出迎えてくれた、珍しく足元にはダイケンキがいた。相棒は自分を見つけると駆け寄ってきて心配そうな顔をするが自分の顔を見ると直ぐに胸を撫で下ろすのであった。

 

「何だよ心配してくれてるのか?」

「……ケン」

「悪い悪い、心配かけたな……さてとサザレ配信するから手伝ってくれないか」

「うん、カメラワークは任せて。あっそうだサトシさん戻って来てるけど如何する?」

「あ~……今回のポケモンだと面倒起きそうだからやめとく」

「なに紹介するのよ」

 

こんな日常をずっと繰り返していくのだろう、だがそれで良いと思っている。そんな日常が良いのだ。自分はそれを望んでいる。そして―――

 

「サザレ」

「んっ?」

「いやなんでもない、カメラ頼むぞ」

 

 

「皆さんこんにちは、今日もポケモン育ててますか?まだまだな貴方もこれからの貴方も、此処をきっかけに一歩踏み出して行きましょう。今回紹介するのは此方」

「キュッ!!」

「ミミッキュさんです」

 

もう一歩を踏み出す時も近いのだ。




次回はミミッキュさんのエンジョイをやっていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。