「―――あ~あ……遂に帰って来ちゃったよ」
「それが本当に故郷に来た人間から出る台詞?」
「個人的にはもう帰りたくないとは思ってた」
素直なことを言えば本当に帰って来たくはなかった、正確に言うのであればイッシュ地方には帰って来たかったがそれ以上に今回の目的地に行きたくないと全身が叫んでいる。
「ほら、私の家は上手くいったんだからラビの家だってきっと―――」
「あれとは別の意味で確実に苦労するから覚悟してくれ」
「はい」
もう慰めなんて意味がない事は分かり切っていた、それでも言わない訳にはいかない。正直な話、サザレだって色んな意味で怖いのだ。ラビだけではなく、ラバイもレビもレベもロルも皆揃って自分の両親の事をバカ夫婦と呼んでいるという異常事態が自分達を待ち受けていると思うと……折角やってきたイッシュ地方の事も霞んでしまう。
「アララギ博士に話とかしたい所だけど……もう一度でも厄介事を後回しにしたら真面目に行く気無くすから早くいこう、早く行って終わらせて二人で早めの新婚旅行擬きでもしよう」
「それはシンプルに素敵なんだけど……凄い理由が……」
先を歩くラビは普段と同じように見えるが酷く足取りが重くなっているように見える、この先に彼の実家がある筈なのに……向かう度にラビのテンションが下がっていくような気がしてならない……というか実際にそうなのだろうが……
「ほれ、見えて来たぞあれが俺の実家」
カナコタウンからやや離れた位置にある大きめの家、ラビの家と同じくかなり大きな庭がある事以外は普通の家に見える……が、そんな家の玄関近くには何やらポケモンが立っていた。そのポケモンは更に身体を伸ばして此方を見ると目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「ホグ~!!」
「ミルホッグっ久しぶり~!!元気だったか?」
「ホッグッ!!」
やってきたのは警戒ポケモンのミルホッグ。如何やら家族同然のポケモンらしく、ミルホッグは久しく見るラビの姿に嬉しさを爆発させながらもまるで久しぶりに会う叔父か何かのようにラビの頭に手を当てるのだが―――何かを謝るように優しく肩を叩いてきた。
「煩いよ、あ~……親父と母さんは中か?」
「ホグ?ホグリャミ~ルミル」
「……応、有難う」
感謝しつつもミルホッグが合鍵を渡してきた、如何やら鍵を変えたらしい。まあこの家も長い事住んでいるし鍵穴が壊れていたとしても可笑しくはない……ミルホッグのボディランゲージを見る限り、鍵の方が折れて鍵穴ごと鍵を交換したらしいが。
「ホグ?」
「ああこっちはサザレって言ってな、俺の連れ」
「よ、宜しくね」
「ホグ……ホッ!!?」
「流石、察しが良いな」
ラビの言葉を受けてミルホッグは満面の笑みになりながらもサザレの手を取ってブンブンと振り始めた。そして徐々に涙を浮かべながらもサザレの手を力強く握ってくる、言葉は分からないけどラビの事を宜しくお願いね、的な意味合いだと思う……のでサザレは確りと頷いておく。そのままミルホッグは見張りへと戻った。
「な、なんというかガードマンなのあの子」
「まあそんな所だな、取り合えず……鍵貰っちゃったし行くしかねぇな……あいつ鍵番兼業してるし顔に泥塗る訳にも行かない」
「あっうん、いこっか」
近くを通り過ぎるとミルホッグは一層嬉しそうな顔をしている、この場にゾロアークが居たら人間に化けて通訳をしてくれた事だろう。まあそんな事は如何でもいい、家の中へと入る事にする。鍵を開けて入ると懐かしい光景が広がる、だがそれに気を取られる前にする事がある。
「ただいま~」
「お邪魔~……します。でいいんだよね」
「うんいい筈、だけどあ~これは……予測可能回避不可か」
溜息交じりに靴を脱いで奥へと行くラビに続いていくサザレ、初めてお邪魔する家だからかラビの傍を離れたくないという思いがあるのだろう。何があっても驚かないと思っていたサザレだったが前言撤回するほかなかった。そこには―――
「「~♡」」
双子をその腕の中に抱きながらもリビング全体を包み込むようなピンク色の領域を展開しながらハートを無限生成、その中心部でキスをしている父であるハルと母であるリムがそこにいた。更にそれはサザレが顔を真っ赤にする程に酷く深いもので水音が聞こえてくる。
「言ったろ、こういうバカップルだって」
「いやその……想像以上すぎるんだけど……ああいやでも此処は家の中だしだからかも―――」
「買出し先のショッピングモールでも平気で腕組んでキスするぞ」
「Oh……」
これを何年も見せ付けられたらそりゃ嫌にもなるしバカ夫婦なんていいようになるのも頷ける……そんな様子にラビは息を吸い込んでから言った。
「好い加減に盛るんじゃねぇよバカ夫婦、新しい弟と妹に悪影響なんだよだからあいつらも帰りたくねぇつってるんだよ」
「―――ラ、ラビいつの間に!!?」
「か、帰って来てたの!?それならただいまぐらい―――」
「言ったわ、それに気づかない位にラブってたんだろ」
「あらっヤダラブってるなんてそんな♪」
「そうだぞそこまでの事なんてしてないじゃないか……唯父さんと母さんは」
「「キスしたくなったからしてただけ♡」」
「それで玄関開いたのと帰ってきた挨拶に気づかないとか色々とアウト過ぎるわ」
ハルとリムはラビからのツッコミを受けて尚、桃色のオーラを出す事を止めない。それどころかまたキスをする始末、此処まで来ると昔は殺意が剥き出しになるレベルの関係だったというラビの話を疑いたくなって来てしまうサザレであった。
「つうかよ、アンタらマジでいい加減にしろよ。その年で何双子こさえてる訳?また言われるよ、あそこの家またご家族増えたらしいわよって」
「あらっお祝いならもうして貰ったわ♪皆さん喜んでくださったわ♪」
「ハ~ハハハハハハッ!!リムとの愛と絆の末に生まれた結晶なんてどれだけあっても良いからな、それに―――」
「それに?」
「「我慢、出来なくてね♡」」
本気で頭が痛くなってきた、いやこれでも大分落ち着いた方ではあって内心少しほっとしている面がある。矢張り50近くにもなって漸く落ち着きを持ち始めて来たらしい、イチャつきも大分マシになっているようで安心出来るレベルにはなっていると胸を撫でおろしているとサザレに本気で?という顔をされる。
「所でラビ、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、俺の婚約者のサザレだ」
「サっサザレと言います!!ホ、本日はそのえっと……ラ、ラビとの結婚を認めて頂きたくお邪魔しました!!」
「あら、あらあらあらあらあらら!!」「まあ、まあまあまあまあまあ!!」
そんな言葉を口にしながらもハルとリムは酷く嬉しそうにしていた。
「聞いたかいリムさん」「聞きましたよハルさん」
「「ラビの結婚相手ですって!!遂に私達にも孫が出来ますよ!!」」
「何言ってんだその双子がもう孫みてぇなもんだろ」
「「それはそれ、これはこれ」」
「面倒くせぇよこの夫婦、変な所で理性ありやがる……」
「ア、アハハハ……何というか、私の実家とも似てる感じ、するね」
正直なところ、サザレは自分の家と違って反対されるのでは……という不安を抱えていた。それだけ仲が良い両親ならばラビの事も大切に思っていたとしても可笑しくはない……だから安心している自分がいる。
「ラビ、生意気な口は変わらないな!!ならば、竜の里の男としてお前がどれだけ強くなりそして妻を娶るだけの資格があるかどうか確かめてやろう!!」
「別に認められなくても俺はサザレと一緒になるぞ、それでもだめって言うなら絶縁するだけ」
「何ぃ!?お前も父さんがリムと一緒になる為ならば絶縁するとまでいう覚悟があるのか!!ならばそれすらもポケモンバトルで見るのみぃ!!」
「……母さん、そんな事になってたの?」
「いやほら、母さん昔はバリバリのドラゴンスレイヤーだったからね……竜の里の皆さんからは敬遠されるような存在ではあったから……」
「アッ思い出した!!バスタードラゴンスレイヤーのリムさん!!?」
「アハッこれがThe黒歴史って奴ね!!」