「……メイ、ヒオウギシティ出身のメイ?えっマジであの子?」
「何だ知ってる顔なの」
「まあ、母さん経由でな……あの子が……」
10年前、ブルーベリー学園を卒業しいよいよイッシュ地方の旅をスタート。飛び級までしてやりたかった旅にダイケンキと共に挑んだ。その最中にヒオウギシティに立ち寄ったそこで出会ったのが当時はまだ幼かったメイだ。
「しっかしトレーナー目指すとは言ってたけど女優になってるとは……」
「ラビお兄ちゃんとしては複雑?」
「茶化すなよサザレ。あの子の道だ、自由に選べばいい」
ナツメの女優業はジムリーダー業の片手間……時間と余裕が出来た時にのみする物だが、それでも演技力や本物のサイキッカーというのもあって絶大な人気がある。そんなナツメと同列に語られるという事は相当に有望株という事になる。
「出演作見たけどなかなかいい演技してたよ、うちの親父とは雲泥の差過ぎて笑えたね。ありゃいい女優になるんじゃないかな、顔馴染みだってんなら会いに行って激励する位はしてもいいんじゃない?アンタなら顔パスで行けるだろうし」
「それはねぇだろ幾らなんでっ―――」
「「えっ?」」
刹那、ラビの姿がブレた。思わず二人が口を揃えて困惑したほどだった、ブレた方向へと目を向けると奇妙な体勢と角度で固まっているラビと抱き着いている少女、そして呆れたような顔をしている女性の姿があった。
「全く危ないわよメイ」
「―――っだってだって、またやっと会えたんだもん……んもうまた会いに来るって行った癖に10年も待たせるなんてどういうつもりですか!?」
また会いに来る、そんな約束をしておきながら自分はそれを完全に忘れていた……最悪の男だと罵られても反論出来ない、だが自分の胸に飛び込んできた少女の瞳には自分を責める色はなく単純な再会を喜ぶ色があった……ならば自分が言うべきことは。
「いやそれは悪かった……久しぶり、元気そうだねメイ」
「全く―――全くもうですよ全くもう、お久しぶりです!!」
再会の挨拶しかないだろう。そして自分を持ち前のサイキックパワーで支えてくれているナツメへの感謝を忘れてはいけないだろう、立ち直りながらもナツメに頭を下げる。
「有難う御座いますナツメさん、ご迷惑をお掛けしました」
「迷惑を掛けたのはメイの方よ……全くいきなり飛びつくんだもの焦ったわ」
「だって、だってぇ……」
「分かったから泣かないの……全く初主演の撮影してるんだから気を強く持つ」
その言葉で瞬時にメイは涙を消して凛とした表情になりつつもその手にボールを取り、ポーズをとってみせた。先程まで涙を見せていたとは思えぬ程の豹変、氷のように冷たくありながらもその瞳には迸る熱い闘志を燃やす、そして威圧感とカリスマ性に溢れていた。それを見てナツメはよし、と頷くと直ぐに破顔しラビへと顔を向けた。
「如何ですか私の今の演技!!?ハチクさんとかナツメさんに色々指導して貰ってるんです!!」
「いや……二重人格か何かかと思った」
「お、同じく……」
「ガチの女優の演技力って凄いねぇ」
ラビとサザレは思わずそれに圧倒されたが、ミュージシャンとしてステージの上で切り替えをするホミカはそれに感心したような笑みを浮かべていた。マグレで主演を手に入れた訳ではない、自らの努力によって身に着けた技術で主演を勝ち取ったのが一瞬で良く分かった。
「だけどどうして女優の道に?」
「う~んと……実は―――」
『ジャローダ戦闘不能!!オノノクスの勝ち!!よって勝者―――アイリス!!』
イッシュ地方の現チャンピオンはアイリス、その決定の瞬間まで争っていたのがメイ。後一歩の所で敗北してしまったメイ、これから自分は如何するべきかと悩んでいた時にライモンシティのジムリーダーであるカミツレから女優やモデルに向いているからやってみないか?という誘いを受けたのが切っ掛けだった。
「それで最初はモデルやってたんですけど、なんか性に合わなくて女優に転向したらなんかあれよあれよとこんな感じになっちゃって」
「天賦の才って奴があったのよメイには、人を惹き付ける魅力と心から演技に没頭する才能がね」
「や、やめてくださいよナツメさんに比べたら私なんてまだまだですよ~」
照れてこそいるが自分の演技力には絶対の自信はあるのか、少し胸を張っている。謙遜しているのか自慢しているのかどっちなんだと言いたくなったナツメだが、可愛い後輩なのだからこの位にしておいてやろう。
「そうだ、配信しましょうよ配信!!私達ゲストで出ますから!!」
「ええっ……また荒れそうだから勘弁してほしいんだけど」
「お願いしますぅぅぅぅ~!!!」
「分かった分かったから泣くなって直ぐに泣き止むなぁ!!演技かよ今の!?」
「やった~配信に出れる~!!」
飛び跳ねて喜ぶ姿は年相応の少女にしか見えない、此処だけを切り抜いたとしても彼女が女優だとは思われないだろう。思わずシャッターを切ってしまったのだが、その瞬間には確りと此方に目線を送った上でいい表情をしていた。完全な不意打ちな筈だったのに……
「メイっぱいに最高の瞬間を届ける、それが私の女優としての矜持ですので。どんな不意打ちにも私は負けません、という訳ですので配信しましょ!!」
「如何いう訳なんだ……まあいいけど」
「皆さんこんにちは、今日もポケモン育ててますか?まだまだな貴方もこれからの貴方も、此処をきっかけに一歩踏み出して行きましょう」
「皆元気メイっぱいポケモンバトル楽しんでる?メイだよ、知ってる人いるかな?知らなかったら此処で知ってね~♪」
「ザ・ドガースのリーダー、ホミカッ!!アンタらの理性ブッとばしに来たよ!!」
「やれやれ賑やかね、どうも皆、ナツメよ」
「本日はこのメンバーでいきます、そしてご紹介するポケモンさんは此方」
「チュラ」
「デンチュラです」