「(ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ!!)」
「どうだ美味いだろ?近所のリンゴ農家さんが最近栽培に成功した新しい品種のリンゴ*1なんだ」
「ギアアッギャアアア!!」
「ほれ、追加だ」
配信は継続しているが、ファイヤーの傷の手当てをした後に食事を取らせる事にした。ダツラは目の前であのファイヤーがポケモンフーズと木の実、そしてリンゴのブレンドした食事にガッツいている光景が俄かには信じられなかった。そして大人しく身体を撫でられる事すらも許容している……。
「そんなに食わなかったのか?」
「ああ、俺の出す食事には全くだ。近場の木の実とかで飢えを凌いでたって感じだ」
「凌ぐって……まさか食うにしても量が少なかったのか?あいつ結構でかいぞ」
「そのまさかだ、食ってもオレンの実数個とかだった。自分は負けてない、屈していないって意思表示だったんじゃねぇかな……」
ガラルファイヤーは傲岸不遜で本能のままに悠然とした振る舞いをするという。だがあのファイヤーは理性的なのが特徴、自分が強い事を理解しそれを高める。だからこそ戦いもせずにゲットされた自分を許せずにいたのだろう。
「ギャアアッ……」
「満足したか」
「ギャアアアッ!!」
「なら良かった、このぐらいなんだなお前は」
ラビは手帳に何かを書き込む、それは今回ファイヤーが食べた食事量。毎回これだけという事はないだろうが、これを最大値の目安としていいだろう。
「しっかし……ガラル三鳥のお前に大怪我させるなんて、一体どんな奴なんだ?」
「ガラル三鳥、ってなんだラビ?」
しまった……と言いそうになるのを抑える。今もカメラは回していることを完全に忘れていた……一先ず出してしまったのは引っ込められないので差し当たりのない事を言う事にしよう。
「ガラル地方における伝説の鳥ポケモンのリージョンフォーム、即ちガラルサンダー、ガラルフリーザー、ガラルファイヤーの事を総称してガラル三鳥と呼んでるだけです」
「んじゃこいつみたいなのが二体いるのか……」
それはそうだが……ラビとしては思うところがあった。ガラルファイヤーはファイヤーの近縁種であるがファイヤーとは別種、とみられる事が多いが原種?のファイヤーと総合的な能力差はない。そんなファイヤーが大怪我を負う……その事が如何しても気になった。
「一先ず、今回の配信は此処までにしましょうか。ファイヤーを休ませる必要もありますし、彼についての紹介はまだ後日に行いますのでどうかご理解ください」
頭を下げて配信を終了する、それを確認してからダツラに尋ねた。
「このファイヤーを保護したのはガラル?」
「違うぜ、ファクトリーの近くだ」
「そうなると……カントー地方……ん?ガラルのリージョンがカントーで?本家がいるのにか?」
「住処を追いやられたか……それともガラルに戻る途中で襲われたか……」
ガラル三鳥は数十年に一度、ガラル地方のカンムリ雪原に姿を見せると言われている渡り鳥。カンムリ雪原に向かう過程でこの怪我を負ったのか、それとも怪我を負わされて逃げて来たのか……何方かで大きく状況は変わって来る事になる。
「ファイヤー、何があったか話せる?」
「ギャァッ……ギャァァァァッ……」
ラビの言葉に答えようとするが、途端に声が小さくなって顔を背けてしまうファイヤー。話したいのは山々だが彼にとっても恥であり、出来る事であれば話したくないという感じだろうか……彼の誇りにも関わる事だろうから踏み入る事はしない。
「大丈夫だ、ガラルで何かが起きているのかカントーで何かがあるのかは分からない……だけど何かが起きてるのかもしれない。ダツラさん、カントーで情報を集めてみてくれませんか。もしかしたら他の二鳥も同じ目にあっている可能性があります」
「分かった、そっちは任せてくれ。他のブレーンにも話を通して探す、イッシュの方は俺から先輩に声掛けとく。お前は話したくないだろ?」
「勿論です、息子ですから」
なんだそりゃ、と笑いながらも早速ダツラは飛行機の手配をし始めた。流石に此処まで自前の飛行機で来るなんてことはしなかったかと少しだけ安心した。
「んじゃシンオウは俺が―――あっそうだジンダイさんの方は俺が声掛けるぜ」
「そうか、キッサキ神殿にいるんだったな。んじゃそっちは任せるぜ」
「任された」
それでは肝心のガラルは―――また配信に出せとか言いそうだから余り掛けたくはないが、こればかりはしょうがない。トレーナーとしての責任だ。
『応ラビ、初めて掛けて来やがってこの野郎。さっきのファイヤーの事いつ配信でやるんだよ?』
「そんな事よりも頼みたい事があるんですよキバナさん」
『オレ様に頼み?』
こういう時には自分の人脈という物は有効活用しなければ……ガラルで最もパイプが太いと言えば色んな意味で接点が多くなっているキバナだ。と言ってもキバナ自身はジムリーダーなので直接調査をお願いすることは難しい、なのでお願いしたいのは―――
『なぁるほどな……そりゃ確かに気になるな』
「という訳で実力確かなトレーナーに調査を依頼してほしいんです、なんでしたらご紹介だけして頂ければ私自身で交渉しますので」
『……よし分かった、オレ様の方から話してやるよ。その代わりまたそっち行くからそん時は色々絡ませろよ?お前の庭をとことん見聞してやる』
「高い貸しになりそうだ……それじゃあお願いします」
ガラルの方はこれでいい、あとはホウエンとアローラとカロス辺りか……我ながら如何して此処までやるのかと一瞬思うが自分のポケモンの為だからなと一瞬でその疑問が消える。ダツラはファイヤーのボールを投げて寄越す、ラビはそれをファイヤーに向けて、青い光線を打った。
「お、おい」
オーバが思わず声を出した、それはゲットしたポケモンを逃がす為の光線。それを受けてファイヤーは完全に野生の状態へと戻った。ファイヤーもそれは分かっているのか吃驚していたが、ラビはそんな彼の前に立つ。
「ファイヤー、俺はお前をゲットしたいとは思ってる。だけど思ってるだけだ、お前は自由な空を飛びたいならそれを尊重する、お前は―――どうしたい」
ファイヤーは素直に驚いている。自分を見た人間は必ず自分を捕まえようと戦いを挑んできたり、道具や機械を使って自分を追い詰めて来た、それらを一蹴し自分の力を見せつけて来た。だがこの男は自分よりもずっと強く高みにいる、自分は既に負けている。それならば敗者を使う権利があるのに……この男は自分を自由にした、信じられない。今なら自分は自由を取り戻せる―――だが敗北を無かった事には出来ない。
「ギャァァ」
何より、自分を識っているこの男の事を知りたい。自分について何を知っているのか、この男と共にいれば自分はもっと強くなれるのではないか、そんな期待が胸を高鳴らせるのだ。ならば答えは決まっている、勝者の下に就こう。
ファイヤーは自らの意思で、頭を下げた。今日から我が主としてラビを認めると。
「分かった。宜しくなファイヤー」
「ギャアアアッ」
そしてモンスターボールを突いて自らボールの中へと入っていった。甲高い音と共にゲットが完了した。
「ガラルファイヤー……仲良くしような」