「はぁっ……」
自分でももう聞き飽きて聞きたくないと思っている筈の溜息をつく、素直な事を言えば此処は酷く落ち着く場所で溜息なんかとは無縁だと思っていた。それなのに溜息はあふれ出るのだ。
「なぁんか……このまま、此処で過ごすのも悪くないって思えるなぁ……」
ワイルドエリアは人の手が入っている部分もあるが基本的に野生のポケモン達の世界、強いポケモンが覇権を握って弱いポケモンは隠れながらも力を蓄えるか、その覇権の庇護下で過ごすかの選択も見れる世界。そんな世界は自分にとっては酷く心地よいし偶に自分の実力を見抜いてバトルを挑んでくるポケモン達にもトレーナーとのバトルでは見られない戦術がそこにあってとても楽しい。たとえ敗北したとしても、次こそは勝ってみせるぞ!!という気概を見せてくるのが良い。
「……なんで、私チャンピオンになったんだっけ……」
ワイルドエリアでも屈指のポケモンのレベルを誇る逆鱗の湖。その畔でキャンプを張っているのはガラル地方現チャンピオン、ダンデから無敗を継承した天才少女、ユウリ。
「……バトルが、楽しくないなんて思ったことなかったのに」
「はぁっ」
「おいおいおいなんだよ折角ガラルに来たってのに溜息つきやがって」
「誰のせいだと思ってるんですかキバナこの野郎」
「お前ホント遠慮なくなってきたな」
シュートシティへとやって来たラビは思わずひときわ巨大な溜息をワザとらしくついた。キバナのせいでいきなりガラルに来る羽目になるし、家の留守を任せる為に信頼のおける人に連絡を取ったり、色々やる事があった。サザレには本当に申し訳ないと思っている、連絡はしてちゃんと許可は取ったが……お土産にガラルの名産とか流行りの服とかを買って帰ろうと誓うラビであった。
「到着早々あんな大騒ぎ……しかも」
『ああこいつ?オレ様のダチの甥だ、ガラル観光に来たいっつうから連れて来た』
『―――……え、えとはい、宜しくお願いします』
いきなりすぎるそれに一瞬思考が凍ったが、カントー時代のあれこれを思い出しつつもスグリの思考と行動をシミュレートして実行してキバナの知り合いの甥を演じきった。本当にカントー時代を思い出して鬱になりそうだ。
「にしてもお前マジで子供としか見られてなかったな、見てみろよこのネットニュース」
「ゲッ……」
もう既にネットニュースとして流れているのか、しかも……キバナの隠し子!?というふざけたタイトルになっていてもう頭が痛い……がこれに関してはキバナも厳しい顔をしている。
「……あんの時のあいつだな、オレ様だけなら許してやったけどな、こんなふざけた見出しを付けるなんてやってくれるじゃねぇか……悪いラビ、こいつの始末はオレ様が付ける」
「キッチリとやってくれるなら文句はない、徹底的に頼む」
「分かってる―――ちと甘い顔しすぎたな」
そう言いながら顧問弁護士へと連絡を取るキバナ、インフルエンサーとして活動し炎上も多いキバナだがこういう事へのあれこれはかなりきっちりするタイプなのだ。
「悪いラビ、オレ様はこっち回っちまうからよ、ユウリの方任せていいか?あいつ逆鱗の湖の畔に居るはずだからよ」
「全く少しは休ませろよ……お土産代はそっち持ちだからな」
「任せとけ」
一先ずワイルドエリアへと向かう事にする、途中この先は危険だと忠告を受けたのだがキバナから言われて他地方のバッジ詰め合わせを見せつけたらし、失礼いたしました!!と敬礼付きで謝罪された。
「―――久しぶりだなこの解放感」
ワイルドエリアは広大なエリア、ワイルドの名の通りに野生のままにポケモン達が過ごす場所。これまでの旅でも原生林やら草原やらを腐るほど回ってきたが、やはりここは独特の雰囲気がある。複数のエリアに細分化され、そこを縄張りとする主もいる。それでいて破綻しないのだから不思議な力関係がバランスを取っているのだと思う。
「お~お~色々レアなポケモンが相変わらず居やがる」
他地方だとレア扱いで滅多にお目に掛かれないポケモンもいる、本当に面白い所だ……と思いながらも歩き出す。ナックルシティ側からなら逆鱗の湖は歩いて行ける。問題なのはその周辺に生息しているポケモンのレベルぐらいだが……自分にとっては問題ではない。
「さてと……」
件のチャンピオンユウリ殿はどんな感じなのだろうか……と様々な事を考えながら行くといよいよ逆鱗の湖が見えた。その畔に建てられたテント、周囲にはそのテントの主のポケモン……畔近くに置かれた椅子に腰を落ち着けながらも湖を見ながらも何も見ていない虚空の目をして、ただそこにいるだけの少女がいた。
「……」
本当にそこにいるだけ、何も思考せず何も行動せず。電池の切れた機械のように微動だにもしない少女の姿があった。確かにこれはキバナも不安を覚えて焦って行動するのも分かる……そんな自分に気づいたのか、彼女の相棒だと思われるポケモン、エースバーンがユウリの肩を叩いた。
「―――……ほぇ、如何したのエースバーン」
「バァン」
「お客さん?またキバナさんとかじゃないの?」
以前にも来たであろうキバナじゃないかな、とユウリはどこか疲れたような呆れたようなそんな事を口にしながら振り向いた。そして自分を見た、サングラスを外してどうも、と挨拶をする。が、彼女の時は止まった。そして暫くして―――再起動した。
「ほえええええええええっ!⁉ラララッ!!?」
「ラビフット?」
「そうラビフットっじゃない!!?あ、ああのラビさんじゃないですか!?週刊エンジョイポケモン放送局の!!?」
「ええそうですね、週刊と付いてる癖に週1で配信しない事とゲストが可笑しい事に定評がある放送局の配信者ラビです」
「ああああああああの、配信いつも見てます!!本当に、本当にいつも参考にしてて!!」
椅子から転げ落ちそうになったのをエースバーンに助けられつつも近寄って来て必死に言葉を紡ごうとしている先ほどとは別人だが、これこそが彼女の素なのだろう。だがまずは―――
「ポケモントレーナーが目を合わせたらやる事は一つ」
その言葉に、ユウリは一際瞳を輝かせた。いいの、本当にいいの?いいんだね、やるよ全力でやるよ⁉と言いたげなそれを微笑みと共に肯定する。
「目と目があったらそれは、ポケモンバトルの合図!!」
「名刺交換替わりの一勝負!!行きますよ、ネンドールさん!!」
「行くよっアーマーガア!!」
その胸の高鳴りは何時振りだろうか……本気で、本気で戦えるかもしれない、そんな高揚感が全身から溢れ出ている。やっぱり、バトルはこうじゃないと!!