「まあボタちゃんの事は置いとくとして―――いい加減にしねぇと大声、出しちまうぞ?」
「ゲッ、それは勘弁……というかここで下手にバカでかい声出したら雪崩起きるかもしれんし……」
「ダ~ッハッハッハ!!かもしれんなぁ!!!さあどうするぅシャクちゃぁん?」
「ラビさん、あれなんでしょうか……?」
「俺に言われてもな」
駅を出てこれからマックスダイ巣穴へと向かおうとした時だった、突如として少女が声を上げながら此方を見た。
「あっ!!?もしかして、ラビじゃね!?」
「あっ?」
「何忘れたん!?ほら、ボタンが大好きだって言ってた配信者ぁ!!」
「んわぁにぃぃぃっ!!!?それはボタちゃんへの土産話にピッタリじゃねぇかぁ!!何処だ何処だ⁉」
少女、シャクヤは此方を指さして叫び、男、ピオニーはそれに引かれて此方へと振り向いて目を見開いた。そしてシャクヤはピオニーの視線が外れた隙に手を合わせながらマジゴメンね!!と言いながらその場から駆け出して行った。
「って俺まだその配信見た事なかったじゃねぇか!?おいシャクヤちゃんあそこにいる二人のどっちが―――ってうおおおおおっシャクちゃんがいねぇ!!?どこに行っちまったんだぁ!!?」
「あらぁ……見事な逃げ足、特性早足かな」
それを聞いてピオニーはガックリと項垂れてしまった。
「はぁぁぁぁっ……シャクちゃん、折角の親子水入らずの旅行だってのにまさか見ず知らずのトレーナーを囮にするたぁ―――中々に強かじゃねぇか!!さっすが我が娘、パパへの愛情の裏返しってやつだな、ダ~ッハッハッハ!!」
「いや絶対に違うと思う……」
「同じく……というか、もしかして元ガラルのジムリーダー、鋼の大将のピオニーさんでは?」
「えっチャンピオンにもなったっていう!?」
その言葉にピオニーは何処か嬉しそうな顔をして近づいて自分たちの肩をバンバンと叩いてきた。
「おおっなんだ若ぇのに俺の事を知ってるたぁ中々見込みのある若僧達だな!!あっ知らざあ言って聞かせやしょう、あっこれでも昔は名の知れたトレーナー、鋼タイプの使い手にしてカチコチカチカチ、折れない曲がらない歪まない、三拍子揃った鋼軍団ことピオニー軍団率いる大将、即ち鋼の大将ピオニーたぁ俺の事よぉ~……!!!」
見事な見得を切りつつもノリノリでポーズを決めて名乗りを上げるピオニー、もしかしたら現役時代はこれが定番のパフォーマンスだったのかもしれない。彼のスマホロトムがいいタイミングでカンカンという甲高い音といよっ~……ポン、という音声を流したのでユウリとラビは思わずおおっ~と拍手をしてしまった。
「久々にやったが鈍っちゃいねぇな!!」
「で、え~っと……ピオニーさんは娘のシャクヤちゃん?とご旅行に?」
「応っ!!今バカンス中でな、親子水入らずの二人旅だ!!もう一人可愛い可愛いボタちゃんって娘もいんだけどな、今学校がド・超楽しくて友達との予定がいっぱいなんだと!!ダ~ッハッハッハ!!流石俺の娘、友達いっぱい夢いっぱいで楽しい学校生活送ってるようで何よりだぁ!!」
それに関してラビは特に何か言えなくなった、確かに今はスター団とアカデミーの関係は良好になっていてボタン自体も友達と仲良くやれている。そして彼氏だっているのだから……まあそれを言うほど野暮ではない。
「おっといけねぇ、シャクちゃんを探さねぇと……確かダイマックス巣穴に行くとかって言ってたな。成程成程パパに追いかけて欲しいって事だな!!今行くぞシャクちゃぁぁぁあああん!!!」
大声を出しながらも駆け出していくピオニー、本当に賑やかで熱い人だ。これは確かにボタンからもぼろくそに言われるのも致し方ないとも思う。
「行っちゃいましたね……悪い人ではないと思いますけど、あれは娘さんに避けられるのもちょっと納得しちゃいましたね」
「だな。息子ならまだしも娘にあのテンションと圧はキッツいだろうなぁ……一先ず、俺達も行くとしようか」
「はい」
またあの親子に出くわす事は確定的ではあるのだろうが……調査地点なのだから行かない訳にもいかない。そう思う一方でもしかして冠の雪原編が今始まっているのだろうか……と思いながらも歩みを進めていく。雪道を雪原というだけあって氷タイプのポケモンも多いが、中にはアマルスという化石ポケモンとして知られるポケモンまでいるこのような環境は博士連中からするとどんな感想が出てくるのだろう……そんな事を思いながらも進んでいく。そして到達した巨大な洞穴に作られた施設へと足を踏み入れていく。
「ここがダイマックス巣穴……確かに不思議な空気を感じます」
内部は普通の洞穴と言った様子だが、それはあくまで見た目だけ。空気感は全く異なる物があった。ダイマックスのエネルギーに満ち溢れているのがよく分かる感じがする。
「さてと、まずはどっから調査をっ―――んっ?」
「で、ですから今現状を確認中ですので、今しばらくお待ち下さい!!」
「だったら尚の事、シャクちゃんを放っていく事なんて出来ねぇだろって言ってんだよ!!うおおおおおシャクちゃあああああんっ!!!」
そこには研究員と思われる女性に止められるのを強行突破して奥へと走っていくピオニーの姿があった。女性は如何したら……と困っているので話を聞いてみる事にした。
「何かあったんですか?」
「ああええっと……ダイマックスアドベンチャーの一部ルートにダイマックスエネルギーが集積しているという通達があったんです。それ自体はこのダイマックス巣穴ではよくある事なんですけど……アドベンチャーを体験中の方々には安全の為にもその場で一時待機をお願いしているんです。先程の方の娘さんが今、アドベンチャー中なんですが……」
「ピオニーさんはシャクヤちゃんに危険があると思って、走って行っちゃったんですか……?」
「はい、アドベンチャーには野生のポケモンがダイマックス状態で出現しますので危険自体はあるのですが……説明を確りと聞いてさえいれば安全の確保は出来るとお話ししたのですが……」
娘に万が一の事があるかもしれない、と思ったらピオニーも居ても立っても居られなかったという事だろう。子供思いな良い父親だ、人の話を聞かないのは減点だが……。
「それでは私と彼女で彼を連れ戻しに行きましょう」
「そうして頂けると助かります……最低でも様子だけでもご連絡いただければ此方で回収班を出して此方までお連れする事は可能ですので……」
「よっしゃぁっ!!それじゃあ行こうラビさん!!」
「ああ、行こう!!」
駆け出していく二人に女性は宜しくお願いしますと言いながら見送った。本来ならば此処では手持ちのポケモンを使う事は出来ないのだが……今回は自分の手持ちで挑んでいい事になったので存分にやる事になった。そのまま進んでいくと―――
「あんれ、さっきに会ったよね?何ダイマックスアドベンチャーしに来たの?え~ヤダ!!超気が合うじゃん!!アタシはシャクヤ、宜しくね!!」
早々にシャクヤと会う事が出来た。彼女も入ってそこまで時間が経っていない筈だからだろうか、一先ず無事に合流出来て良かった。
「というかさっきは親父の囮に使ってごめんね~超しつこくてさ、あの後大丈夫だった?」
「全然気にしてないから大丈夫!!あっ私はユウリ!!」
「私はラビです」
「ユウリにラビさんね、あはっいい名前だね親に感謝じゃん―――ってラビ?あれ、あらららあれれれ!?えええっ!!!?ちょっマジで!?ガチの週刊エンジョイポケモン放送局のラビさんじゃん!!?えっ咄嗟に言ったのマジだったの⁉ええっと、取り敢えず―――サインと写真お願いしていい!?」
どうやらあの時は咄嗟に適当に言っただけらしい、兎も角サインと写真撮影に応じるラビ。それをシャクヤは嬉しそうに胸に抱いた。
「んもうここで大スターと会えるとか超ツイてる!!」
「そうだね、それとシャクヤちゃん」
「ああ名前とかいいよ、シャクで。そっちの方が慣れてるし可愛いじゃん?」
「うん分かった、それでシャクちゃんはピオニーさんと会ったの?あの人、私達より先に此処に入って来たんだけど」
「オヤジ?ううん全然、アタシはダイマックスエネルギーが集積してるから、ちょっと待機してって言われたから大人しくしてるだけだけど、迷ってんじゃない?」
「それはそれで探しに来た私達からすると困るというかなんというか―――」
そんな言葉を口にした途端、その場に巨大な雷が如くダイマックスエネルギーが落ちた。頭上には青白い光の穴のようなものが開かれていて、その真下には何やらエネルギーを纏っている何かが姿を見せていた。咄嗟にラビは二人を庇うように前に出る。
「な、なんだし!?」
「何この気配……今まで感じた事もないような……」
「こいつは……いやあれは……!!」
頭上に開かれたそれをラビは知っていた。ダイマックスエネルギーが引き起こしてしまったのだろうか、いやこのダイマックス巣穴ならば十二分にあり得る事なのだろうか……開かれたそれの名はウルトラホール、その先には異次元世界たるウルトラスペースが広がっている。そして、今その世界からこの世界へとやって来てしまったものこそが―――
「ババァルクゥ!!!マァァアブッシャァ!!!」
異形のポケモン、ウルトラビースト、UB02 EXPANSION―――マッシブーン。
一応ね、三回ぐらいダイス振って決めたんですよ。でも全部こいつの出目だったんすよ。
ぜってぇどっかの奴が圧力掛けて来てるって。