「うっしっ休んだら元気いっぱいなんとやらだぜ!!いやぁ研究員さん、さっきは突き飛ばしちまって悪かったな。シャクちゃんが危険かもって言われたら居ても立っても居られなくてよ……まあせっかちなのは直せって言われてるんだけどな、ダッハッハッハ!!」
「いえ、お気持ちはご理解出来ますのでご心配なく。しかし本当に元気ですね……仮にも失神していたのに」
応接室から出て外へと向かおうとしているとピオニーがサリへと頭を下げていた。もう医務室から起きたのかと呆れる反面、元気そうでよかったと胸をなでおろす。
「しっかしシャクちゃんはダイマックスアドベンチャーを遊び尽くすまで此処に居るって聞いてよ、如何したもんかと思ったけど娘のやりたい事に口出し過ぎるのも教育に悪いからなぁ……」
暑苦しさ全開な親父と思ってたユウリは思っていた以上に柔軟な思考に驚くのであった。良くも悪くも善意を押し付けてしまうのだろう、少し冷静になればピオニーも決して悪い人間などではない。うちの親もこの程度だったらなぁ……と少しだけ思うラビであった。
「だけど参っちまったなぁ、これじゃあ徹夜で考えたツアープランがおじゃんだな……おっそうだ、お前らさんこれから時間あるか?」
何やら思い立ったのか、ピオニーは此方を向いて言葉をかけて来た。
「まああると言えばある、のかな……?」
「さっきはシャクちゃんを守ってくれて有難うな!!その礼と言っちゃなんだが、このピオニー考案の伝説ツアーにご招待だ!!」
「ツ、ツアーですか?」
「そう、ピオニープレゼンツの伝説探検ツアーだ!!この先のフリーズ村で民宿を借りてる、そこで作戦会議を行う。遅刻厳禁!!なんつってな!!ダ~ッハッハッハ!!!」
待ってるぜ~と笑いながら駆け出していくピオニーに思わず呆気に取られてしまう。時間があるようで此方は此方で予定は埋まっているのだが……如何したものかとユウリはラビの顔を見るが、顔を竦めながら一先ずダイマックス巣穴を出て、フリーズ村へと向かう事にした。
「どうしますラビさん、断ります?」
「こっちもこっちで調査をしてる訳だからなぁ……だけどまあ多分だけど、ピオニーさんのツアープランに乗ってる所は多分、俺たちが調べようとしている所だろうからついで程度に付き合うのも悪くはないと思うよ」
「そういうもんですかねぇ……?」
兎も角こちらとしても活動の拠点は必要不可欠、そのフリーズ村とやらで民宿を借りるとしよう。ユウリはキャンプをすれば……とも思うのだが雪国でのキャンプは中々に過酷なのである、実際何回か死に掛けた事もある。
「というか、女の子が軽々と三十路のおっさんとキャンプをするとか言うんじゃない」
「だってラビさんなら変なことしないって分かりますし……」
「だとしても、だよ……全く信頼されているのか如何か微妙な所だぞそれ……」
ユウリとしては憧れの配信者とキャンプをしてみたいなぁという思いもあったのだが、残念ながらも断念。そして到着したフリーズ村、田舎にある村……というよりも集落に近いそれは人が極めて少なく活気がない。
「おや、ようこそお客様。これはこれは若い方が二人も……このフリーズ村にも若さが入り込んで何よりですな」
村を見ていると眼鏡を掛けた老人が声をかけて来た、この村の村長らしく外から若い人が来たことに喜びを感じているとの事。
「この村にあるものと言えば豊穣の王についての昔話程度でしてな……」
「豊穣の王、ですか?」
「ええ、ほらそこに像があるでしょう?」
指が指された先には雪に塗れた木像があった、馬に跨っているのがその豊穣の王だという。しげしげと其方を見ているとピオニーが声を上げて此方だと誘ってきた、村長に頭を下げてから其方へと駆けていく。
「ここがオレが借りてる民宿だ、二人も自由に使って構わねぇからな!!」
「ほわぁ~なんか冷気がないだけで暖かい気がする~」
「外は寒かったもんな」
「ダ~ッハッハッハそりゃあったけぇだろうな!!さてと、では改めて探検ツアーのプランを発表するぞ、参加するつもりで此処まで来てくれたんだろうからな!!」
ピオニーが考えたプランというのがこのカンムリ雪原に点在する様々な伝説、それらに関係している伝説のポケモンは間違いなくいると睨んでおり、今回はそのポケモンを見つけよう!!というプランを娘とやる事を考えていたのだが……まあこうなってしまった物はしょうがないとラビとユウリがその探検ツアーの探検隊長と副隊長に任命される事になった。
「って私たちが隊長で副隊長?ピオニーさんは隊員なんですか?」
「んっああいや違う、シャクちゃんはダイマックスアドベンチャーをしまくってる訳だろ?つってもずっとやってる訳でもねぇだろうし、フリーズ村に民宿借りてるってことは言ってあんだ。だから時が来たら流石に来るだろ?そんな時に出迎えなしってのは寂しいじゃねえか!!だから―――オレは留守番隊長だ!!」
「「え~……それでいいのかそれで」」
「おっ息ピッタリだな、良いんだよこの位で。ダ~ッハッハッハッ!!!ああそうだ、ツアーに関してオレが調べた伝説関連のメモだぞ」
ツアー考案者がそれでいいのだろうか……と思いながらもメモを受け取る。一先ずそれらに目を通しているとユウリは不意にテーブルの上に置いてある木彫りが気になった。
「もしかして……」
伝説のメモ1に掛かれている豊穣の王の像について、そこには冠がないと記載されていた。だがもしかして……
「ピオニーさん、これって……」
「んっそれかぁ?そりゃな……ズバリ、オレの枕だ!!」
「いや寝難いでしょうが……あるでしょ探せば」
「あったんだけどよ、先にこっち見付けたから使ってんだよ。頭さえのせられりゃ何でも枕みたいなもんだぞ」
ものぐさというか適当というか……ラビが反応に困っているとユウリがその冠を手に取ってみる。
「……ピオニーさん、これあの像の冠かもしれません。戻してみてもいいですか?」
「んっ~?まあ副隊長がお望みとならばしょうがねぇな、それとずっと気になってたんだけどよ―――」
木彫りを持っていく事は了承してくれたのだが、ピオニーは妙にユウリをジッと見始めた。思わずユウリは引き気味になりながらも身体を抱きしめるのだが……
「ええい我慢ならねぇ!!副隊長、今すぐその身体に合ってねぇ服を脱げ!!オレが合うように調整してやる!!」
「ええっなんですが突然……って服?」
「ああそうだ、オレは親として子供には合った服を着せたいと思ってる。だけど副隊長のそりゃどうしてもあってねぇ、ベルトで無理矢理合わせてるだけだろ?隊長の予備かい?」
「まあ、防寒着持ってなかったので予備を着せたんです」
「成程な、んじゃちょっと待ってな。副隊長ちょっと失礼」
徐にメジャーを取り出すと採寸を行っていく、テキパキとそれを終わらせてピオニーはユウリから服を預かると直ぐ裁縫セットを取り出すと素晴らしい手捌きで調整していく。しかもついでにユウリのサイズに合う靴や防寒セットまで取り揃えられていた。
「わ~凄いっ!!うちのお母さんよりもずっと早い!!」
「ダ~ッハッハッハッハッ!!伊達にじゃじゃ馬娘の服をお裁縫してねぇぜ!!ついでだ、隊長の分も仕立てておいてやったぜ。予備として使ってくれ」
「えっいつの間に」
「フン、これでも手先ぁ器用なんだぜぇ?」
妙に似合っているどや顔がむかつく……兎も角これでユウリも確りとした防寒着という名の探検着を手に入れる事が出来た。これで外に出る事が出来る、早速外の像に向かっていく。
「あ~あ、誰も雪とか払ってくれなかったのかなぁ」
「ここはずっと雪が降ってる訳だし、そのたびに払うのも大変だろうからなぁ……」
「取り敢えず、雪を確り払って……そして、このカンムリを―――これで良し!!」
木彫りの冠は像に確りと嵌った、矢張りこの状態が正しい像の形なのだろう。経年劣化か何かで大きくて重い冠の部分が取れてしまったのだろう。兎も角戻ってよかったと思った直後、像の背後に像によく似ている小さな影が見えた。
「ラ、ラビさんあれ!!」
「あれは……」
此方が気付くとまるで誘うかのように草むらの奥へと消えていく。その後を追いかけると……そこには恐らく像のモデルになったであろう大きな頭のポケモンがいた。
「カ カムゥ クラウ ブルム ムカィ カンリ、ム イル カブル ンンラウ クラウ」
「え、えっ?」
「ンム リ クラウカム ラウンン カッカム リカン ム カムゥ カーム リラウブ!!」
「全然分からん……マッシブーンの方がまだ分かるぞ……」
何か話しかけてきてくれているのは分かるのだが、理解が全く出来ない。此処まで理解できないのは初見のドータクン以来かもしれない……肝心のポケモンも困ったなぁ……と言いたげ。
「う~ん何かいい意思疎通の方法を―――」
とラビが呟きつつもさり気無く後ろを見てピオニーまだかなぁと思っていると……此方をジッと凝視しているのに気付く。そしてある事を理解した。
「えっちょっと、なんだよ、待ってスト―――」
「ンム ムイ カム カムゥ」
「てょわわわぁ~ん」
「えっええええっラビさん!⁉」
凝視されたラビは淡い青い光を纏って宙に浮き始めたのだ、突然すぎる事にユウリは驚いて叫んでしまうのだが……ラビはそのまま静かに言葉を語り出した。
「『フム……成程、良い身体をしておるな。何者かの加護のような物も感じる、何かを信仰しておるのかもしれぬな……すまぬが暫し借りさせてもらうぞ』」
「ラ、ラビさん大丈夫なんですか!?」
ユウリの心配をよそにラビとポケモンはユウリの方を向いて話し出す。
「『心配は要らぬ、少々身体を借りておるだけだ。こうでもしなければ言葉が通じぬ故な、先程は余の像を元に戻した事について至極感謝したい、お主らに礼を言いたくてこのような事をさせて貰った。余はバドレックス、豊穣の王と呼ばれし者だ』」
「バドレックス……豊穣の王ってピオニーさんが言ってた豊穣の王!?」
「『恐らくだが、余の事で間違いないであろう』」