「ぬめぁわぁぁぁぁぁ!!!!」「ブッサシィィィィッ!!!!」「ぐるぁぐるぁあっ!!!!」
爛々と瞳を赤く輝かせるヒスイのポケモンがそこにいた、これは自分のハガネールと同じ個体、即ち親分個体。しかも頭部にはテラスタルの結晶が付随している、ご丁寧にステラテラスタルで頭が痛くなってきた……本当に何なんだこの池は、厄ネタだらけじゃないか。普段ならばヒスイのポケモンと戦えることに喜ぶ所だが……
「サザレ絶対に俺の後ろから出るな」
「う、うんっ……!!」
守るべき人が後ろにいる状況、しかも相手はヒスイのポケモン……現代のポケモンは現代のトレーナーのやり方を理解しそれらに合わせている、性格的に悪くなければ禁じ手であるトレーナー狙いは滅多にしない。だが……相手はヒスイ、ポケモンバトルがスポーツとして体系化される以前の時代のポケモンとの戦闘……こうなったら……
「ヒスイダイケンキ、サザレの護衛を頼む」
「ケ、ケンッ!?」
ヒスイダイケンキは何を言っているんだお前は!?と言いたげな声を上げた、自分が戦うのが道理だろう!?と言いたげだ、確かに同じ故郷を持つポケモンならば互角以上にやりあえる、だがそれではだめだ。自分にとっての勝利とはサザレの安全とこの場を切り抜ける事、ただ相手を倒せば終わりじゃない。
「お前なら任せられる、不思議とな。それにお前、俺達の実力疑ってんだろ―――舐めんなお前、こちとら神と一戦交えてんだよ」
「ッ―――!?」
その瞳に思わず怯んでしまった、そしてその圧力に負けたかのようにサザレの隣に立つとラビは優しい声色で有難うといった。
「一応連れて来といて正解だったぜ……オーガポン、ガチグマァ!!!」
「ぽに!!」「ワギィィィィッ!!……ギィッ!!?」
繰り出されたオーガポンとガチグマ、此処ならばオーガポンは戦い慣れているから優位に立てる筈……と思ったがガチグマは驚いたように動きを止めた。
「ガチグマ、驚くのは分かるがあいつらは敵だ。戦うぞ」
「……ワギィ!!!」
これで三対三、これで互角だ。だが相手は親分個体な上にステラ、油断は出来ない……。
「ぐるるるぁぁぁぁぐるぁああああああっ!!!!」
鬼気迫る鬨の声を上げるはヒスイ地方の空の生態系の頂点に立っていたヒスイウォーグル、その声にサイコパワーが乗せられて衝撃波となって迫ってくるが、それをダイケンキが抜刀、シェルブレードで切り裂いた。
「ぬめぁあああああわぁぁぁぁぁ!!!!」
そんなこと知った事かと言わんばかりに頭上から降り注いでくるのは鋼の殻を纏うヒスイヌメルゴン、これはヘビーボンバー。前に出たのはオーガポン、被っているのは竈の面、故に炎を纏った蔦棍棒を思いっきり振り切って対抗する。
「ぽにぃぃぃぃぃ……お~ん!!!」
渾身の一振りはヒスイヌメルゴンを思いっきり打ち上げてしまった、かなりの体格差があるのにも関わらずの結果に流石だとラビは感心するが直後に油断している暇はないだろうと突撃してくる影があった。
「ブッサシィィィィィ!!!」
ヒスイの海において海の鬼と言われる毒の機雷、ハリーマン。それが一気に迫って来た、これは毒針千本だと直ぐに見抜くとガチグマが前に躍り出た。
「ワギィィィィィイッ!!!!」
ヒスイウォーグルを容易く上回る大音量の爆弾が放たれる。ハリーマンの得意技を足蹴にし、一気に押し戻して吹き飛ばしてしまった。が、驚くべき事に吹き飛んだハリーマンをヌメルゴンがアイアンテールで打ち出した。先程よりもずっと速い速度で迫ってくるそれは―――ラビを狙っていた。
「―――ケンッ!!!!」
刹那、ハリーマンはウォーグルの下に転がっていた。それにウォーグルは取り乱したが……ヌメルゴンと共にそれに恐怖を抱いていた。そこにいたのは……全身の鎧が漆黒に染まり、鮮血のような赤い罅にも見える線が走っているダイケンキの姿だった。地獄の悪鬼すら逃げ出すような殺気をむき出しにしながらアシガタナを構えていた。そして彼らは気付いた、自らの身体に破片のような物が食い込んでいる事に。
「――――ケンッ……!!」
秘剣・千重波が完全に成功している、それどころか咄嗟に力業も併用して繰り出している。その光景にヒスイダイケンキは言葉を失っていた、こいつは一度見た技を皆伝させたのか……!?そして変異しているあの姿……あれは……なぜ自分はあのダイケンキから目を放すことが出来ないのか分からない。
「オーガポン、力強く―――蔦棍棒!!ガチグマ、素早く―――ブラッドムーン!!」
「がおっぽにおーん!!!!」「ワギイイイイイイイイイ!!!!」
全力の一撃が、炸裂する、ヒスイヌメルゴンは殻に立てこもったがそれごと粉砕するかの如く、烈火の一撃が鉄壁の防御を真っ向から粉砕した。ヒスイウォーグルはガチグマのそれが危険なものだと理解したのか、サイコパワーを全身に纏いながら一気に突撃してきた。ガチグマよりも早く攻撃するしかないと思ったのだろう、だがそれよりもずっと早く、ガチグマは頭部の満月からありったけの気迫を発射した、それはまるで赤い光線、一瞬でヒスイウォーグルを飲み込んで吹き飛ばして見せた。
「ケ、ケンッ……」
あの親分達を倒した……ヒスイダイケンキは言葉を失っていた、自分から見てもあれらは一対一で戦ったとしても勝てる見込みは低かったはずなのに……それにあのガチグマ、何故こうも既視感があるのか……何故、と思った時、ヒスイダイケンキは全身に突き抜けるような寒気を感じ、サザレの後方へと斬撃を放った。手応えはなかったが、放たなければならない一撃だった。
―――良く、気付けましたね……流石はあいつのダイケンキだ。
何処か嬉しそうで、何処か憎らしそうで、何処かで愉快そうな声が聞こえて来た。咄嗟にサザレを抱き寄せるラビ、その周囲について守りを固めるダイケンキ達。
―――どこまでも、似ている……ぁぁ、思い出したくても思い出さなかったあれが、自然と湧き上がってくるとは……何処までも、本当に邪魔で必要な存在だ。
親分ポケモン達が、濃霧に飲まれて消えていく。それと入れ替わるようにそれはゆっくりと歩み寄って来た。何処か薄汚れているが、何処か神事を行う為の正装にも見える衣装を羽織った白と銀、そして金が混ざった髪をした長髪の男がそこにいた。
「何者だ」
「何者か、と問われると困るな。既に名など捨てた身、だがそうだな……敢て名乗るとするならば私は……パトソール、とでも名乗らせて貰おう」
何処か疲れ切ったような生気に溢れるような、矛盾が同居したような男が笑いかけていた。