それを見て、全身の震えを抑えられないサザレの手を強く握り返してやる。無理もない、その姿は冥界の王だと言われても違和感がないしそれだけの迫力と存在感を放っている。だがヒスイダイケンキの様子だけは全く違っている、アシガタナを抜刀していつでも戦えるような臨戦態勢を整えている。そうなると……やっぱりプレート云々が終わった後の時間軸から此方側へとやって来た事が明らかになった。
「ビシャアアアアアン!!」
「ギラ、ティ、ナ……」
反骨ポケモンとも言われる伝説のポケモン、第三の神とも呼ばれるポケモンの出現にウォロのポケモン達も警戒する……というよりも何処か敵視しているかのようにも映る。ヒスイの時代、ウォロはギラティナと共に戦ったが、最終的にギラティナはヒスイダイケンキの主に敗北、そのまま敗走してしまった。その事が気に入らないのかもしれない。
「よぉっギラティナ、邪神アルセウスに文句あるってんでこいつと共謀した叛逆龍、今更何の用があって姿を見せた、生憎俺はサトシさんみたいに優しくないんでね……邪魔するなら殴るぞ」
―――物怖じしないか、面白い人間だな。
低く、唸るような声が頭に響いてくる。同時に発せられる波動の影響か全身に重圧が襲い掛かって来てサザレは必死にラビの手を握り締めて耐えている。が、ラビはそんな事知らんと言いたげに、何処か面倒臭そう且つ呆れたような目で見つめ返す。
「伊達に時と空間の神とバトルしてねぇし、ガラルじゃ豊穣神と伝説の巨人、秩序の守り手と一緒にバトルしてねぇんだよ。ハッキリ言うけどお前が原因でもあんだぞ」
ウォロは言葉を失っていた、仮にもギラティナはディアルガとパルキアに並ぶ神と言われるポケモン。それ相手に全く動じる事もなく、寧ろ相手の責任を追及しようとする姿に言葉が出ない。
「アルセウスが気に食わねぇのは分かるが、その挙句がそのアルセウスを我が物にしたいあれと組むとか頭沸いてるのか。余計な厄ネタを自分で育てるんじゃねぇよ。だから、反転世界とかやぶれた世界に追放されんだよ」
―――……随分と事情を把握しているようだな。
「伊達に時の加護を持ってる訳じゃねぇんだよ。ンで何しに見てやがった、また邪神への叛逆でも企ててるのか?」
「じゃ、邪神ってラビ!?」
軽々とシンオウ様と崇めていたディアルガよりも格上の存在であるアルセウスを平然と邪神と呼ぶラビを何とか諫めようとするが、ギラティナの存在感もあって上手く舌が回らない。
―――……貴様、よくもまああれを邪神などと呼び捨てられるな……。
「人の運命を弄ぶ時点で人間からしたらどんなに高尚でご立派な存在だろうと邪神で充分だ」
―――あれも随分と反省したらしいがな。それよりその男の始末、それは我がすべきと思ってな。
そうして向けられた鎌首、ガブリアス達は最大限の警戒を展開しつつ此方を睨み付けてくる。その姿を見つつギラティナは嘗て共謀し、創造主たるアルセウスをその玉座より引き摺り下ろそうとした男の今の姿に憐みすら覚えてしまった。
―――一度は同じ目的を掲げた身だ、終わりも見届けるのが使命だろう。
「逃げ出した奴が偉そうに」
―――……お前も連れていくぞ人間。
「おうやってみろ、ディアルガに加護通して連絡して一緒にボコボコにしてやんぞ」
「ケンッ」
横でアシガタナをぶつけ合って威嚇するダイケンキ、如何やら完璧に千重波のコツを掴んでしまったのかぶつけ合う度に小さな破片が散っている。流石に大ダメージは負いたくないなぁと思っているとギラティナは闇の奥深くを見た。
―――……時の奴、要らん節介をやきおって……
そんな言葉の直後に闇の奥が白み始めていく。闇は先程と同じ霧へと変換されていく、その奥から誰かが歩いてくる。それは……白いバンダナを巻き、赤いマフラーを羽織り防寒具ながら忍者のように身軽そうな出で立ちをしている少女だった。その姿を見た途端にダイケンキは駆け出して飛び掛かる様にジャンプした。
「えっわぁっ!?何々ってダイケンキ!!んもう何処行ってたの探したんだから~!!!」
「ケンッ~!!!」
「もう心配、させないでよ~!!」
ダイケンキの事を認識すると破顔して全身で抱きしめて思いっきりの愛情を示した、それを受けて嬉しそうに声を上げながらも少女の頬を舐めている。あれこそがダイケンキのトレーナー、と思っていると少女は自分とサザレ、そしてギラティナを見た。
「えっえええっ!!?な、なんなのこの状況っ!!?だって、ギラティナは私が……ウ、ウォロさん!?一体何が……!?―――あれって、あのボールって……」
何もかもが混乱する中で少女はラビの持っているボールを見た、金属質で掌で包み込んでしまう程に小さくベルトにそのまま装着できるようになっているそれは専用のホルスターに納めている自分のそれと違う。あれは間違いなく……と思う中で少女は静かに深呼吸した。
「お二人とも初めまして、私はショウと言います。ヒスイ地方、コトブキ村の調査団、ギンガ団に所属している調査員です」
「ああ、イラストレーターのラビだ。こっちは俺の恋人のサザレ、カメラマンだ」
「ど、どうも……?」
「イラストレーターにカメラマン……って事はやっぱり……あ~あ、ずるいなぁずるいぞ」
唐突にそんな事を言いながらショウは座り込んでまるで拗ねるように言葉を連ねた。ラビは何がズルいのかと問いかけてみると怒ってますと言いたげに続ける。
「あたしは元々ヒスイの人間じゃないんですよ、アルセウスにヒスイに飛ばされてそこで色んな苦労がありました。まだ11なのに15歳だなとか言われるし、いきなり村から追放されるし、誰も助けてくれないし……」
「うわあ……苦労、したんだね」
「全くですよ全くもう!!これでも全部ウォロさんのせいです!!文句の一つでも言ってやりたかったのにいきなりいなくなるし……それなのに、凄い疲れちゃってるしで……本当にズルいです」
帰りたかった、家に帰りたかった。友達も、家族が待ってくれている所に帰りたかった。だが……彼女は決意した、自分はこの時代で生きていく事を、そう決めて毎日頑張っているのに……なんでこうもいきなりこういう事をするのか……余りにもひどいじゃないか。これだから神って奴は信じられないんだと愚痴る姿に、ギラティナは申し訳ないのか顔を背けている。
「なら、来るか?」
「いいえ、私の帰るべき家はヒスイです。自分勝手かもしれませんけど……あたしじゃなくて私がそう決めたんです。不便ではあるけど結構楽しいこともいっぱいあるんですよ」
そう言ってショウは笑った。本当に強い子だ、と思っているとショウは手をウォロへと差し出した。
「一緒に帰りましょ、ウォロさん」
「何、をっ……」
「ウォロさんへの恩返し、させてください。あっでも悪い事はもうダメですからね、一緒に―――ヒスイに帰りましょ」
その言葉にウォロは心の中で何かが壊れた音がした、そして手を伸ばした時に再び濃霧が二人を包み込んだ……そして、次の瞬間には二人はいなくなっていた。最後に見たのは此方を見て笑っていたヒスイダイケンキだった。
―――……時の奴、我のやるべきことを奪りおった……
「信頼無いんじゃない?」
「ちょっちょっとラビ!!」
心なしかションボリとしたギラティナは再び闇の扉を作り出すとそれを抉じ開けて姿を消していく、直後に濃霧は晴れ始めて薄っすらとてらす池が見えて来た。
「あっラ、ラビにサザレ君!!よ、よかった心配したんだぞ!?あの霧、リグレーの念力で空気を操って晴らそうとしても全く晴れなくて!!!」
視界が徐々にハッキリしていくと酷く焦った様子のブライアがリグレーと共に必死の捜索をしていた事を伝えて来るが、いまいち頭には入らなかった。
「凄い、体験だったぁ……」
「これでシンオウの神三体コンプかぁ……大して嬉しくないな」