「それで申し開きは?」
「聞かれませんでしたので」
「そうね確かにそうね……ああもうやめましょ、こんな事で険悪になって何がしたいのよ私は……もう何も言わないから研究させて頂戴」
「ちゃんと休暇申請出してきたんでしょうね」
「じゃないとそもそも来てないわよ」
ブルーベリー学園から急行してきたシロナは言いたい事があるけど何も言わないから、という空気を滲ませていた。そりゃそうだろう、彼女が研究している事にとってヒスイの時代のポケモンというのは当時を映す証人に等しい。そんなポケモン達は研究したいに決まっている。
「如何して教えてくれなかったのか、それだけは教えてくれない?」
「聞かれなかったから、それだけです」
「……そう、優しいわねやっぱり」
そう言ってシロナはゆっくりとヒスイヌメルゴンやハリーマンの元へと向かって行った。遠ざかる背中を見ながらも内心でラビは少しだけ胸を撫で下ろした。
「優しいか……偽善だな、いや口だけの正義の味方じゃないだけましか……」
こんな時、喫煙者ならタバコでも吸っているんだろうなぁ……と思っているとシロナから声を掛けられる。
「キバナ君とナナカマド博士はどうしたのかしら?」
「もう帰りましたよ、特に博士は貴方に見つかると色々小言を言われると言ってデータを持てるだけ持ってね」
「あら、じゃあ負けてられないわね。さあ持ってるだけのヒスイのデータを出して頂戴、こう言えば貴方は教えてくれるんでしょ?」
「やれやれ……」
結局、自分は自分が渡せるだけのヒスイの全てをシロナへと開示する事になってしまった。こうなると分かっていたら最初から教えていたんだけどなぁ……と小言を漏らしながらも興味深そうに、閲覧しているシロナの姿を見ながら飲むお茶の味は思ったよりも乙な物だと思う自分が実に度し難い。自分が本当にどうしようもない人間だという事がよく分かる。
「……ヒスイダイケンキ、そしてパトソール……いえウォロ、全て書き記されていた名前ね……そしてショウ……間違いないわ、此処に記されている名前と全く同じ」
「以前言っていた奴ですか」
「ええ、でも素直な事を言ってしまうと私はこれが本当に本当にヒスイの時代に書かれたものなのかってずっと疑っていたのよ」
考古学を研究している身としては、シロナの家系が継承してきたというヒスイの時代からの日誌には確かに様々な事が書かれていたのだが……明らかに妙な点があった。それは掛かれている文字や文体が明らかに自分達が生きている年代の物だからだ。
「例えばだけど、昔の文献とかって長ったらしかったり凄い読み難かったりとか言い回しが分かり難いってイメージない?」
「何処何処の何某様がうんたらかんたらでかしこみかしこみお願い申します的な」
「あっそれ私も思った」
「なんて雑なイメージ……いやまあ間違ってないけど、言うなれば私達が使う敬語をもっと硬くしたのがってので間違ってないわ、でもね……書かれてるのは私達が今こうして喋ってるような感じの言葉と文法なの」
―――今日は紅蓮の湿地での再調査。次元の裂け目が閉じて以降の生態調査を再開、相変わらずの所でゴローンに襲われるわ、グレッグルには毒攻撃されるわ、リングマには突撃されるわ……いや全く以て、本当にヒスイって修羅の国だなぁってなりましたけど此処で生きる私達は頑張るだけ。
「こんなのが書かれてたらどう思う?」
「いやぁ……ヒスイの資料を読んだ人がそれを題材にSS書きましたって文章ですね」
「確かにこれは本当にそうなのかって疑いますね」
確かにシロナからすれば本物なのかを疑っても可笑しくはなかった。だがしかし、内容は明らかにヒスイの物、各地に散逸していたヒスイの資料の物と同じだった。ならばこれはそれらを収集していた研究者の資料を読んだ何者かが書いたものなのかと思いながらも読み進めていた。そして、つい最近になってとあるページに辿り着いた時、それを見た。
『私の相棒、ダイケンキが居なくなって数日……私はずっと探していた。寝食を忘れて取り組んでいた為にテルに怒られる事もあった、だけど私にとってダイケンキは大切な存在。ラベン博士が譲ってくれたというだけではない、彼は私にとって……大切な相棒なのだ。コトブキ村を追放された時、如何したらいいのかわからなくなった時、彼は私の傍に居続けてくれた、励ましてくれた、失望の中に居た私を見捨てずに、剣として全てを払ってくれた。だから……彼が黙っていなくなる事はあり得ないと思って必死に探していた時―――テンガン山の頂上で笛が熱くなった、私が導かれるようにそれを吹いた時……それは起きた。
霧が立ち込めて私を何処かへと連れていくと共に、時の声が聞こえて、刻が見えた。そして、そこに私のダイケンキが居て、泣きそうになって、嬉しくなったと同時に―――その人がいた。私にとって因縁の人であるウォロさんと……その人達はラビさんとサザレさんと名乗った。そして私は理解した、彼らが私の故郷から来ていると。いやこの場合は私が戻ったんだと理解した―――そりゃないと素直に思った。あれだけ願っても帰れなくて、もう諦めて、飲み込んで、納得して、私が生きようと奮闘していたのにこれ?取り敢えず後でアルセウスをぶん殴る事を決めた。ほんの僅かだけど、私はラビさん達と話せてうれしかった……一生忘れない思い出が出来た。そして、私はウォロさんの手を握ると、テンガン山の麓にいた。全く以て……神は自分勝手だと思う』
読み切ったシロナはこれでいいかしら?と言わんばかりの顔をしていた、だがラビとサザレは素直に彼女が無事にヒスイに帰れた事に安堵した……きっと彼女は亡くなっていて、この時代ではもう彼女を、ヒスイを生きた彼女を知る者は居ない、筈だったのだが自分達がそれを知る事になった。
「最後にね、こう締めくくられてたわ。
ラビさんとサザレさん、ほんの僅かな時間だけどアタシを思い出してくれて有難う、でももうアタシは私だから。大丈夫ですよ私はこれからも沢山傷ついたり苦労するし嘆く事もあるだろうけどポケモンと、ダイケンキと一緒だから!!
ってね。どうかしら、ご感想は」
「……ええ、染みますね」
「ダイケンキと一緒、か……ラビと、一緒だね」
自分と彼女は繋がっていない、いや相棒のダイケンキを通じて繋がっていた。そう思うと不思議な気分になって来る。彼女のダイケンキの秘剣は自分のダイケンキが継承している、そしてヒスイの流れも……奇妙な縁もあったものだ。
「あっこのお礼にヒスイポケモンの紹介してくれたらこれまでの事全チャラにしてあげるわ」
「……それが狙いですか、ラバイと仲良くなっただけじゃ足りないって言うんですか」
「いや彼とは貴方との苦労話で意気投合しただけだからね!?」
「なんというかまた賑やかになるね」
「頭が痛い」
「皆さんこんにちは、今日もポケモン育ててますか?まだまだな貴方もこれからの貴方も、此処をきっかけに一歩踏み出して行きましょう。そして本日のゲストは此方」
「どうも皆さんこんにちは、シンオウリーグチャンピオンのシロナです、今日は宜しくね」
「本日はこのメンバーでいきます、そして本日ご紹介するポケモンさんは此方」
「ジュウウナァッ!!!」
「ジュナイパーです、と言ってもただのジュナイパーではありませんけどね」