ある者が言う、チャンピオンのマントとはその者の力と地位の証明である。それを羽織る事が出来るのは数多くのトレーナーの頂点に立つことが出来たごく一部の人間だけだと。それを身に纏えば名乗る意味がなくなり、それを見ても悟らなければ名乗る価値すらないという選ばれた者だけが羽織る事を許されたマントこそがチャンピオンマント。
『さあ皆さまお待たせいたしました。遂にこの時がやって参りました、PWCSガラルトーナメント決勝、チャンピオンユウリ対ラビをお送り致します。実況はこの私、ガラルバトルトーナメントの生き字引、ヒトシが、そして解説はなんとラビ選手のご厚意でのご紹介となります、シンオウ地方のチャンピオンをされておりますシロナさんでお送りいたします。どうぞ宜しくお願い致します』
『宜しくお願いします』
『遂にこの時がやって参りました、此処まで白熱のトーナメントが行われてきました。開始前は冷や冷やしましたが無事にここまでこぎつけただけでも本当に良かったと安堵しております』
『ラビ君は容赦がないからねぇ……』
今回の解説はラビが呼んだというが、そういう名目でやって来たシロナである。例のチャットを見たらしくあっズルい私もやりたい、というノリでやって来た。暇なのかチャンピオン……という視線をラビから向けられたが全力で目をそらしていた。
『さてシロナさん、同じチャンピオンとしてユウリ選手とラビ選手のバトルはどうなるとお考えですか?』
『何とも言えないというのが素直な本音ですね、これまでラビ君はその強さを示し続けて来た。だけどユウリちゃんもかなり腕前を上げてきている、特に変化技の使用とタイミングがかなり上がって来てる、これは油断が出来ないでしょうね』
相対するチャンピオン、向き直る先に居るのは自分が負け続けている相手、越えるべき壁……それがこの人なのだ。胸が高鳴る、心臓が早鐘を打つ、ワクワクとドキドキが抑えられない。お願い、もう私を―――待たせないで……!!
『スマホロトムより互いの情報を取得。このバトルはPWCSランクバトル、ハイパーボールクラス公式戦として承認されました。対戦ルールは3対3、メガシンカ、Zワザ、テラスタル、ダイマックスは各選手一度ずつのみ、ポケモンの交代は両者自由となります。ラビ選手 VS ユウリ選手。それでは両者、最初のポケモンをフィールドへ』
その言葉を皮切りに、ユウリは勢いよくチャンピオンマントを脱ぎ棄てた。彼女にとってチャンピオンなんて地位は執着の対象でも大切に守る宝物などでもない、自分が纏う衣の一つに過ぎない。それを今自分から脱ぎ捨てて一人のポケモントレーナーとして立ち直す。
「ポケモントレーナーが目を合わせたらやる事は一つ!!」
ユウリが、その言葉を投げかける。あの時、何よりもほしかった言葉を掛けて貰った、それを今度は自分が投げた。ラビは笑いながらもその手にボールを握り込み、言い返す。
「目と目があったらそれは、ポケモンバトルの合図!!」
「行くよ、リベンジと行こうよ―――レジアイス!!!」「レジアイ!!!」
「此方も行こうか、さあ再びガラルで暴れろ―――アーマーガア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
忘れもしない、この翼の羽ばたきの強さも歓喜に震える声も、此方を見据える赤い瞳も、全てが私にとって歓喜へと化ける甘美な福音だ。アーマーガアもまたお前か、と思いつつもその面構えを見ると即座に歓びの笑顔を浮かべて更に大きく吠える。ガラルを震わす狂乱の鋼鴉が歓喜している。見る者が見れば震えが止まらなくなるほどのそれを受けてユウリは同じぐらいの歓喜を浮かべながらも構えた。
『ユウリ選手の一番手は彼女のマスコット的な存在になりつつありますレジアイスで御座います!!ダンデ戦ではなんとレジアイス一匹で全てを倒すという偉業を果たしている伝説の氷の巨人に対してラビ選手はガラルを恐怖に陥れた狂乱の鋼烏ことアーマーガアであります!!私も冷や汗と鳥肌が止まりません!!!』
『一体何をやらかしたのよあの子……タイプ的な相性で言えばアーマーガアが有利だけど……さて、如何するのかしら』
『アーマーガア VS レジアイス!!3、2、1……BATTLE START!!』
「素早く―――挑発、そして素早く―――鉄壁!!」
「ガアアアアッガアアアアアア!!!」
「ゲッいきなりやって来るか!?だったら力強く―――電撃波!!!」
「レジジジイアアアアッ!!!」
素早く挑発を掛けながらも鉄壁をするアーマーガアに対してレジアイスは力業の電撃波を放つ、しかしアーマーガアが即座に地面へと降りて力強く地面を掴んだ。すると電撃波は地面へと流れていったのか、当人にはまるでダメージが無かった。
「素早く―――光の壁!!力強く―――ボディプレス!!!」
「ガアアイッガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「来た来たきたぁっ!!!レジアイス、地面に向って素早く―――冷凍ビーム!!そして回転しながら力強く―――気合パンチぃ!!!」
「ジジジザアアイッ!!!レジアイレジアイ~……レジァッ!!!」
『光の壁で特殊面の防御を固めつつも鉄壁を利用したボディプレス、対して地面を凍らせて冷凍ビームで機動力を確保しつつ回転で威力を倍増させてるのね、良い戦い方してるわ』
『狂乱の鋼鴉と氷の巨人の一撃が今激突―――な、なんとレジアイスが一方的に吹き飛ばされているぅ!!?』
「レジアイィィィィ~……レジアイ~♪」
ボディプレスをまともに受けてしまったが為に吹き飛ばされてこそいるが、地面を凍らせている為にまるでスケートをしているかのように滑って衝撃を逃がすレジアイス。まだまだ平気そうに見えるがユウリはこの戦術の弱点を発見した。攻撃に防御や回避に使えるがいざという時の技の衝突には幾ら氷タイプのレジアイスでも踏ん張りが効かないという事。
「さあ上げていくぞ、アーマーガア!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
一段と強く羽ばたき始めるアーマーガアは更に加速を開始する。レジアイスの周囲を飛び回りつつもそのまま無数の影分身を発生させていく、その光景に思わずユウリはギョッとした。
「嘘でしょ!?アーマーガアは覚えられない筈なのに!?」
「生憎、俺のバ鴉に不可能はない」
「くそぅそうだった!!」
思わずユウリは納得してしまった。が、そこから早業鉄壁からの再度のボディプレスが強襲し、レジアイスを吹き飛ばす。ならばと凍える風を指示する、影分身ごと消し去ってやろうとするのだが―――影分身が全く消えない光景がそこにある。
『これはどうなっているのでしょうか!?影分身が消えません!?そもそもアーマーガアは覚えられない筈の影分身をどうして……!?』
『あれは影分身ではないわよ、アイソレーションって知らない?』
『それは確か、ダンスなどで用いられる技術ですよね。身体の一部を独立させて別々に動かすという……あれですよね』
『そう、アーマーガアがやっているのは正しくそれよ。身体の一部を緩急を付けて動かす動作を極めて滑らかな動作で行っている。高速移動中にそれを行っているから、そのスピードに目が追い切れずに無数の分身が生まれているように見える。厳密にいえばあれは分身ではなく残像よ』
『そ、そのような事が出来るのですか!?』
『現に目の前で起きている、それが現実よ』
「意識の空白、思考の隙間、穿て素早く―――ビルドアップ!!力強く―――アイアンヘッド!!」
「ガアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
観客にもはっきりと見えるそれは無数のアーマーガアが向かって行くように見えた、だが本体は一つだけ。真正面からレジアイスの顔面へとアイアンヘッドがクリティカルヒットした時、光が走る。挑発が、解けた!!
「よし、それなら―――いやレジアイス自己暗示!!」
「レジッアアアアイッ!!!」
今から積み始める時間的な余裕なんてない、だったらアーマーガアが積み上げたそれを丸ごと頂いてやる!!攻撃防御素早さの上昇をレジアイスにも適応、特攻は残念だが上がらない、だが物理攻撃が主力であるアーマーガアには十分すぎる程の物だ。
「レジアイス、素早く―――ロックオン!!行くよ、力強く―――電磁砲七連!!」
「レジジジジジッ、アアアアアアアアアアアアアイッ!!!!」
レジアイスはアーマーガアをロックオンした、敗北を糧にして開発した電磁砲の応用技。勝つ為には容赦なく攻撃を撃ち続けなければならないのだと学んだ、そしてこの七連は通常の電磁砲よりも小さく生成されるはずだが……力業を併用している為か通常サイズの電磁砲を七連続で発射。それを見たアーマーガアは大声を笑いながらも高速移動をしながらも跳び回り始めた。
「ロックオンしてるんだ、無駄だよ!!」
「無駄かどうか……試してみるかぁぁっアーマーガア!!全力で飛ばせ!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
更に大声で方向を上げると更に加速していくアーマーガア、だがロックオンをしている限り、それは意味がないと分かっている、これは悪足掻きなのか?いやあのラビがそんな事をするとは……とアーマーガアがレジアイスへと突撃し始めた。あの時と同じ手で来るのかと、ユウリは思ったが、あと一歩でレジアイスの攻撃範囲に入ろうという所で急速に上昇、旋回をし始める。
「何を―――」
「成程な……アーマーガア、それは怖くないぞ、そのまま鋼の翼だ!!」
「ガアアアアアッッ!!!」
大きな声を上げて突撃するアーマーガアは今度は迷う事もなくレジアイスへと突撃する。レジアイスも回避するが、即座に旋回して再び襲い掛かって来る。超高速で転回して向きを変えて襲い掛かって来るのを繰り返すアーマーガアだが、ユウリは気付いた。電磁砲を、完璧に恐れていない。
「その程度のスピードでの完全誘導ならば恐れる意味はない、速度を上げても後を付いて来る。ならやりようは幾らでもある」
「ガアアアアアアアアッ!!!!」
全力で飛び始めたアーマーガアの速度は尋常ではない、徐々にレジアイスは疲れが見え始めて来たのか動きが鈍り始めて来た。アーマーガアが全開の力で飛んでいる風圧もレジアイスに襲い掛かる、明らかに攻守は交代している。そして鋼の翼はレジアイスの脚を掬った。
「ジアイッ!?」
「素早く―――鉄壁、からの力強く―――ボディプレス!!!!沈めぇ!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
頭上から降り注いでくるアーマーガア、自らの防御力とスピード、そして自身の体重を掛け合わせたボディプレスが迫る。ユウリは咄嗟に冷凍ビームを指示した、その冷凍ビームとボディプレスが激突するが―――頭上から更に電磁砲が迫って来る。
「ごめんレジアイス、素早く―――大爆発!!!」
「レジアイ~ジイイアアアア!!!!」
電磁砲が炸裂した瞬間、レジアイスは自らも大爆発を発動させた。電磁砲と融合したそれはスタジアム全体を揺るがし、軋ませる程破壊力を発揮した。爆風が周囲を飲み込む中でラビとユウリはその先を見据えているかのように視線を反らさなかった。そして爆風の先には……
「ガアアッ……ガアアアアッ……」
「レジアイッ……」
「ガ、アアアアッ……」
ゆっくりと、翼を折るように倒れ込むアーマーガアとそれを確認してから全身の力が抜けて崩れ落ちる様に倒れるレジアイスの姿があった。
『アーマーガア、レジアイス両者戦闘不能!!両者、新しいポケモンを同時に出してください!!』
『あ、相打ちですっ!!チャンピオンユウリ、土壇場での大爆発を指示して確実にアーマーガアを持って行きに掛かりました!!』
『前例もあるからアーマーガアが電磁砲だけで容易く沈んでくれるとも限らない、だから確実に倒しに行ったのね……きっと私でもそうするわ、あのアーマーガアを倒す為に道連れを確実に使うと思うわ。そうしないと全体の流れを崩壊させられる可能性が高い』
シロナもユウリの戦術を評価していた。それだけあのアーマーガアはやばいのだ、電磁砲七連に更に大爆発を加える事で威力を倍増させて倒す……それを咄嗟に決意したユウリの決断力は見事と言う他無い。
「有難うレジアイス、今度いっぱい遊ぼうね。ネズさんの戦いを参考にしたんです、時には思い切った決断と非情とも取れる合理的な選択を迫られる。なら私は……迷いなく選択します」
「休んでくれアーマーガア……良い顔になったな、ユウリ。これは油断出来ねぇな……さあ次と行こうか」
「ええ、次はこの子です、エースバーン!!!」
「バアアアアアアンッ!!!」
矢張りというべきか、エースバーンで来たか……ダイケンキを出すのもありだが……さっさと出せと要求し続けるボールが煩くて堪らない。そのボールを取る。
「勝てるんだな」
そう問いかければ当たり前だと震えて来る。
「だったら証明してみせろ……行けぇっ!!!」
投擲されたボール、そこから溢れ出した光、ボールから出て来たポケモンの威圧感にエースバーンは思わず喉を鳴らした。ゆっくりと身体を持ち上げたのは……全身に無数の傷跡を刻んだ古強者、純白の甲殻は何処か褪せており、赤い触角の一部は消失している。だがその瞳は何処までも冷たく鋭い光を宿している。
「ゥゥゥゥウウウグシャアアアアアアア!!!!!」
気性難四天王最後の一角、ラビのポケモンの中でも最大の気性難……グソクムシャ、登場。