「ソオオオッ……グァアアア!!!シャアゥゥシャァウグソオオオオオオオオオオオオオグガァ!!!」
ボールから出た途端、腕を無茶苦茶に動かしつつもまるで骨を鳴らすかのように首を回す武者がそこにいた。低く唸る声はまるで地獄の悪鬼の雄叫びのよう、聞く者を震わせ恐怖に陥れる深淵の呼び声、色褪せた純白の甲殻の上に、びっしりと付いた古傷は自らの戦いの歴史を語る目次のよう。
『グ、グソクムシャ、ラビ選手の2番手はグソクムシャです!!ここで繰り出すという事はラビ選手の自信の表れでしょうか。グソクムシャの特性は危機回避、これは体力が半分を切ると本能的に手持ちへと戻り、他のポケモンと交代してしまうという物。その為、グソクムシャを使用する場合には最後の一体などに用いるのが基本とされていますが……』
『敢て出して来た、ならばそれだけの実力があるという事ね……』
準備体操が終わったと言わんばかりに腕が全て、ダランと力なく下がる。そしてゆっくりとラビの方を見ると何処か虚ろな瞳で見つめて来る。今回の相手は?と言わんばかりのそれに対して彼方さんと指をさした。その先にいたエースバーンを見てゆっくりと腕に力を込めていく。それを見て、即座に飛び出しそうになるエースバーンをユウリが制止する。まだスタートは出されていない、だがユウリも分かった、あのグソクムシャそれも理解した上でやってるんだ……間違いなく、こいつは強い……とユウリの全てが危険信号を発していた。
『NEXT BATTLE グソクムシャ VS エースバーン!!』
アーマーガア以上に緊張している自分が居てユウリは驚いた、単純な威圧感という意味合いでは明らかにアーマーガアの方が勝っている。だけど……このグソクムシャから感じるのは―――まるで研ぎ澄まされた刀剣のような鋭い殺気だ。
『3、2、1……BATTLE START!!』
「エースバーン素早く―――」「猛々しく―――出会い頭!!」
「―――グッシャアアアアアア!!!!」
……えっ?」
指示を飛ばし切る前に、グソクムシャがエースバーンを殴り飛ばしていた。エースバーンも何が起きたのか理解出来ないまま転がっていた。思考が定まらないと言いたげなその表情を尻目に眼前にまで再びグソクムシャが迫っていた。
「エースバーン!!!」
「バ、バアアンッ!!」
咄嗟にバク転するように回避をするが、直後に叩き込まれた一撃はフィールドに深い深い亀裂を走らせていた。
「エースバーン、今度こそ素早く―――剣の舞!!力強く―――火炎ボール!!」
「エッサァァァァッ……バアアアアンッ!!!!」
空中で回転しながら舞を終わらせてからのその回転を使った火炎ボールが放たれる。全体重を乗せてのそれは回転しながらグソクムシャへと向かって行くが―――火炎ボールはグソクムシャの左右を通ってその背後で炸裂した。
『こ、これはっ火炎ボールが外れ、いえ二つに分かれています!!』
『これは……シェルブレード、いえだとしても火炎ボールを一瞬で切断したというの……?』
「ソォオオオッ……」
火炎ボールを切り裂いたシェルブレードをマジマジと観察するグソクムシャ、シェルブレードの一部が欠けている、火炎ボールの熱力と威力を殺し切れずに一部が壊れてしまっている。そして僅かに震える腕を見て―――グソクムシャは歓喜した。合格だ、と言わんばかりに。
「グソアァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」
雄叫びを上げて先程よりも更に、覇気が強くなる。そしてまるで獣のように身体を興奮で上下させながらもエースバーンを凝視する。その瞳はアーマーガアよりも強く、激しく、そして混濁した光を灯していた。
「飛び跳ねて!!」
「バアアアンッ!!!」
脚力を活かして跳躍を重ねていくエースバーン、素早く且つ身軽な動きは複雑な動きを行いながらも接近していくがグソクムシャはそれらに一切目を向けない。一撃を加えようと此方へと飛び出して来た時、迫って来た一瞬を見逃さず、エースバーンの脚を掴んだ。
「バァッ!?」
「グソァアアアアアアアアアアッ!!!!」
大声を上げながらもそのままエースバーンを滅茶苦茶に振り回しつつも地面へと叩きつけ、抉るようにふりまわし続けると空へと投げた。ラビからは早業剣の舞からの力業シェルブレードの指示が飛び、跳躍というエースバーンの領域に自ら飛び込みながらも水の刃を構えた。
「エレキボール!!」
「バアンッバンバンバアアアンッ!!!!」
電撃の球を作り出してそれを強く蹴り込む、だがグソクムシャは回避しない所かでそれを正面突破、身体に電気を纏ったままシェルブレードを振り抜いた。グソクムシャ最大の武器はその爪、その爪から生み出されたシェルブレードの威力はエースバーンの身体を切り裂かん破壊力を発揮しながらも地面に叩き付ける。
「バ、バァァァ――――バッ!!?」
叩き付けられ、必死に身体を起こそうとしているエースバーンへ無情の一打。横たわっているその顎へと痛烈な一撃が浴びせ掛けられて吹き飛ばされる。だが逆にそれを利用して体勢を立て直すが、立て続けに強力な攻撃を受けたために息が荒くなっている。
「素早く―――鉄壁、力強く―――アクアジェット!!」
「グソァ……ッシャァァァ!!!」
「来るよエースバーン!!こうなったら―――カウンター!!」
「バアアンッ!!!」
こうなったら相手の力を利用するしかない、カウンターを指示。腰を落として防御を固める、そこへアクアジェットが炸裂する。歯を食いしばってそれに耐えきったエースバーンは渾身のカウンターキックをグソクムシャへとぶつける―――だが、グソクムシャはそれを4本の小さな腕で完璧に受け止めていた。
「グアアアソァク、ムッシャアアアアアオアアアア!!!!」
そのカウンターを受けて更に笑い始めたグソクムシャはエースバーンへの攻撃のギアを上げ始めた。自慢の伸縮自在の2本の腕で滅茶苦茶にエースバーンを攻撃し始めた。最早立っている事すらままならなくなっても攻撃をやめない、その光景はアーマーガアとは別の恐怖を植え付けるような……だがユウリは目を背けない、エースバーンはまだ立っている。
「全身全霊で―――獄炎ボール!!!」
「エッスバアアアアアアアアアンッ!!!!」
エースバーンは嬲られていたのではない、この至近距離を保ち続けながらもパワーを溜め続けていたのだ。そして全身のエネルギーを収束させて生み出した煉獄のような火炎ボールを脚に纏わせるような勢いでグソクムシャへと蹴り込んだ。
「迅く―――シェルブレード!!!」
「グッソクァァァァ!!!!」
それよりもずっと早く、シェルブレードが叩き込まれる。だがエースバーンのそれは止まる事もなくグソクムシャの甲殻へと炸裂した。スタジアムが揺れる程の衝撃が生み出された、その揺れはキョダイマックスポケモン同士の激突でも起きない程に壮絶な物だった。だが……その先に立っていたのは……グソクムシャによって抱えられていたエースバーンが、そこにいた。ゆっくりとユウリの元へと歩みながらも優しく降ろされたエースバーンは満足しきった顔をしており、それを見たユウリも笑った。
「お疲れ様、エースバーン」
『エースバーン、戦闘不能!!グソクムシャの勝ち!!!』
「ソォックシャ」
静かに漏らしたグソクムシャの声、それはユウリは理解出来ない筈なのに何か何を言いたいのかを察することが出来た。素晴らしい戦いだったとエースバーンを褒めてくれている。だがどうして、あんなに残念そうな目をしているのかはユウリには分からなかった。エースバーンを戻し、最後のボールを手に取る。
「今日の為に色々やって来た、さあ行くよ、勝つよ―――ザシアン!!!」
「ウウルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオドッ!!!」
妖精王の剣、剣の王、ガラルを救った英雄の一柱たるザシアンがその姿を露にする。その姿にガラルの人々は目を奪われる、その美しさと強さを両立させるその姿を―――だが、唯一ラビとグソクムシャだけは別の物を送っていた。
「来たか……」
一つはそれを倒すという思いを秘めた挑戦者の瞳、そしてもう一つは……
「ソォォオクシャァァァ……!!!」
歓びを、自分が追い求め続けたモノを持っている存在を目の当たりにした歓びの瞳。