『遂に来たわねダイケンキ……』
『シロナさん、ラビ選手のダイケンキの強さというのはどの位で……』
『端的に言うとラビ君が持っているポケモンの中で最強最高のポケモン、ラビ君の庭は極めて広くてそこには多くのポケモンが暮らしている、それは配信を見ている人は知ってると思うけど……そこにはアーマーガアのようにバトルに楽しみを見出している子も多いけど、そんな彼らを統率管理統括しているのが彼、ダイケンキよ。アーマーガアだろうがシルヴァディだろうか、マルヤクデだろうがさっきのグソクムシャだろうが、彼には頭が上がらないのよ』
そう持ち上げてくれるな。俺はそこまでの存在じゃない、ただの相棒のパートナーなだけなんだから。とダイケンキは笑っていた、彼にとっての誇りとはラビの相棒であるという事のみ、何処のリーグで活躍したかとか、エンテイを倒したとか、伝説に勝ったとかとかとかそんなの興味はないしどうでもいい、相棒の相棒である、それだけが彼にとっての名誉なのだ。
「―――……ケンッ」
小さく呟かれた言葉にザシアンは耳を傾けた。
『"ウチの馬鹿が迷惑を掛けた"』
それはグソクムシャが無茶な要求を差し向けて来た事を理解している言葉だった、ラビの相棒としての謝罪の言葉だ。ザシアンは気にしていない、面は食らったがと返すとダイケンキは続ける。
『"あの馬鹿はバカで色々あったんだ、付き合ってくれて感謝する。そして―――手前勝手な考えで悪いが……その詫びに、敗北をやるよ。あいつらの分も含めて、な"』
顔を上げたダイケンキの瞳にザシアンは一瞬、寒気を覚えたのだ。剣の王たるザシアンが、それもユウリは感じ取った。あの時、ザシアンを出した最初の戦い、エキシビションの時も繰り出してはくれなかったダイケンキ。正真正銘、ラビの最強ポケモンとのバトル―――それにどうしようもなく興奮している自分が居て、願わくばエースバーンと挑みたかったという後悔もあるのに、高揚感が全てを上回っている。
『NEXT BATTLE ダイケンキ VS ザシアン!!3、2、1……BATTLE START!!』
「ザシアン、最初っから全力で行くよ!!素早く―――剣の舞!!力強く―――聖なる剣!!」
全力でという言葉に偽りなしと言わんばかりにザシアンで剣の舞を行ってからの力業聖なる剣とは、正しく本気だなと思いつつもラビは迫るザシアンを前にダイケンキと一瞬だけ目を合わせ、頷き合う。
「素早く―――剣の舞!!力強く―――メガホーン!!」
「ケエエエエエエエンッ!!!」
同じく剣の舞からのメガホーンが―――とユウリとザシアンが思った直後に先程のグソクムシャと同じように剣が弾かれた、それだけならいいのだが―――なんとダイケンキが繰り出したのはシェルブレード。メガホーンではない。
「えっシェルブレード!?」
「そのまま秘剣・千重波二連!!!」
「ケエエエンキァ!!!」
瞬時に甲殻を黒く染めると二重の抜刀術を発動する、ザシアンの身体に炸裂する秘剣は無数の破片をその身体に食い込ませ、顔を歪ませると今度はメガホーンが真下から炸裂してザシアンの身体を一気に持ち上げた。
「ムーンフォース!!!」
「スマートホーン!!!」
剣に力を集めながらもそれを振り抜き、ムーンフォースを斬撃として放った。それに対してダイケンキは真正面からムーンフォースへと鋼タイプのスマートホーンで対抗、それを貫くと再びアシガタナを構えようとする。
「秘剣・千重波!!」
「また秘剣、いや違うっ!!受け止めて!!」
今度は通常のシェルブレードが飛来するが、それを確りと受け止めるザシアン。味な真似を、とダイケンキを弾くが、着地されてダメージはゼロ。ユウリは笑いながら言う。
「味な真似をしてくれますねラビさん!!大人げないですよ」
「伝説のポケモンを二体も使ってるんだ、この位許してくれても良いと思うけどねぇ?」
「確かに!!ならこっちは正面から行くまで!!」
『シ、シロナさん今のは……』
『いやただ指示とは別の事をしただけよ』
『いやそれはダイケンキがラビ選手の指示を無視しているという事になるのでは』
『違うわよ?二人の中では既に出す技が決まっていて、それを相手に覚えられない為に別の技の名前を出したってだけの事、二人とも別に困惑もしてないでしょ?これに近い事は本家バトルフロンティアのタワータイクーンのリラさんがやっているわ』
そう、やった事は極めて単純なのだ。声に出した指示がデコイで本当は別の指示が真実なだけ。
『だけどこれは入念な練習と絆が必要になるわね、それに多用しすぎたら通常のポケモンの指示にも影響をきたすから乱用は危険よ』
「素早く――挑発!!そこから力強く―――影分身!!」
「ケンケンケ~―――キッ!!」
「変化技に力業って、何この数!?」
挑発で変化技を封じられたと思った直後、ザシアンの周囲を無数のダイケンキが取り囲んだ。ほんの一瞬でこれだけの数、最早軍勢ともいえる数の分身がフィールドを埋めていた。だがどうして力業で……と思った、早業ならば変化技のクォリティを落とさずに繰り出す事が出来るのに……落とさず……?
「迅く―――シェルブレード!!!」
「「「「「……ケンッ!!!」」」」」
「ザシアン気を付けて!!素早く―――「遅い!!」うっそっ!!?」
思わずユウリも声を上げてしまった、影分身はその分身も攻撃を行って来る。その場合は威力が低かったりするのが当たり前だが……この分身達は本物と変わらぬ威力でシェルブレードを放ってくるじゃないか、しかもどれもこれもが早業並の速度で襲い掛かってくる!!
「ネズさんが力業でブロッキングを使った事で閃いた、力業で変化技のクォリティを上げる……ハッ威力が上がるならこうも出来るってなんで思わなかったんだろうなァ!!!」
レジェアルでは意味のない行為だった故にそうだと思い込んでいた、変化技の効果を引き上げたとしても素早く連続で出せた方がメリットは圧倒的に高い。だからこそやらなかったのだが……こういう使い方も出来るのだ。影分身を、限りなく実体に近づける事だって、出来る。
「ザシアン、剣を力いっぱい振るって!!」
「ウルオオオオオオオオオオオオド!!!!」
その指示のもと、剣を力いっぱい振り抜く。それによって発生する爆風にも思える程の衝撃波と斬撃は周辺全てに拡散して分身を消し去っていく。だが、本体は振り抜いたザシアンの懐へと飛び込んでいた。ザシアンは思わず、やるなという笑いがこみあげてしまった。
「猛々しく―――シェルブレード!!!」
「ケエエエエエエエエエエエエエエダイッキッ!!!!」
振るわれた一撃は重々しくありながらも鋭利な一撃、振り抜かれたアシガタナを戻した時、ザシアンは思わず膝突きそうになった。急所を捉えただけではない、このダメージは……グソクムシャの最後の一撃と同じ部分を寸分違わずに狙われた……!!動きを止めてしまった、動かなければ……と思っていた時、全身が水浸しになった。そして力が変化した事も感じ取った。
「伝説を打倒する、ならこの位はする」
「水浸し……!!しまった、この一瞬を狙う為にあれだけの事を!?」
「策も業も出し惜しみはしない、それが伝説を倒す為の極意だ。姑息だの卑怯だの好きに言いやがれ―――さあ決めろダイケンキ……猛々しくそして鋭利に―――秘剣……シェルッブレェエエエエエエエエエエドッ!!!! 」
「―――……ダァイケエエン、キィィィッ!!!!」」
振り抜いた一撃はこれまでのそれよりも遥かに鋭く、力強い物だった。ダメージの積み重ねと的確なダメージ箇所で動きを止めていたザシアン、それでも身体を捻って剣を突き出してくるそれを弾いてアシガタナを確かに、その身体へと直撃された。通り過ぎたダイケンキは、静かに、ゆっくりとアシガタナを納めた。それと同時に、黒くなった鎧は元の色を取り戻し、ゆっくりとザシアンの身体が倒れ込んだ。
『―――ザシアン、戦闘不能!!ダイケンキの勝ち!!BATTLE OVER!!ラビ選手の勝利となります!!』
『け、決着ぅぅぅぅ!!!伝説のポケモンを相手に、一歩も引く所か真っ向から勇敢に戦い抜き、自分の全てを賭けて総力戦の末にその伝説を越えてみせましたぁぁぁ!!!PWCSガラルトーナメントを、その頂点に立ってみせたのは―――ラビ選手だあぁぁぁ!!!』
その実況と共に大歓声が上がった。最早ラビを非難する声は聞こえてこない、あったとしてもそれを覆いつくす程の歓声が全てを飲み込んでいた。スタジアムが揺れる程の大歓声の中でラビは静かに天を見上げていた、あのザシアンに勝てた……喜びよりもずっと……安堵が大きかった。ずっと詰まっていたと言わんばかりの息が溢れるとダイケンキも同じだったのか、ガックリと、身体から力を抜いていた。
「お疲れ相棒……疲れたなぁ……」
「ケェン……」
喜びもあるが、それ以上に疲労が大きかった。こんなに疲れたのは神二柱とのバトル以来かもしれない……出来る事ならばもうザシアンとは戦いたくない。戦うにしてもダイケンキじゃなくて有利なポケモンをぶつけてやりたい……。
「お疲れ様ザシアン、どうだった感想は」
「ウルォオオド……ウルォル」
「良いんだよ別に気にしないで、はぁっ……まだまだ先は長いなぁ……取り敢えず、重撃と瞬撃の練習しようか」
「ウルォル」
敗北したユウリだが、何処かすっきりした顔でザシアンを労う。リベンジには失敗したが念願だったラビとのバトルは出来たし、全力も出せた……満足だ。取り敢えず……この後のインタビューで何を言うかラビと打ち合わせでもするかな……と思ったけど、そんな時間もないらしい。
「ラビさん、インタビューしたいみたいですけど……どうします?」
「え~……疲れてんですけど、今インタビューされるとなると……俺、何口走るか責任一切取らないよ?ガラルリーグの問題点とか容赦なく指摘するよ、またガラル揺るがしておく?それとももういっその事もう引っ繰り返す?」
「う~んそれは確かに問題だなぁ……」
「冗談だよ、ある程度はまともにやってやるよ。3割ぐらいは」
「その位かぁ……まあいいか、私もその位でやろっと」