「ご機嫌だなアンシャちゃん」
「明日はお母様と一緒にムクロジに行く約束をしたんです♪」
「ほ~ムクロジに」
「あらあら、もう楽しみにしてるの?」
「だったら明日はカイリューで行ってください、あいつなら行き慣れてるしそろそろカイリュー用のスタンプカードも溜まってますから」
「あら、でもいいの?」
「勿論です。明日辺りは一雨来るってニュースで言ってましたから。お出かけが雨で濡れるのはちょっと嫌でしょうし」
トラブル体質と言われる事もあるが、ラビにだって何事も起こらない日だってある。フーパの異空間事件もあれから起きていないしアンシャも母と過ごせる事を楽しく思っている、子供らしく笑う事も増えて来た。早々子供とはこれでいいんだよと思えるほどには笑うようになって来た、これまでの如何にも賢くて聞き分けのいい子供ですと言うのが崩れてきている。
「キバナ、お前走る時間ズラしてくれね?」
「なんで」
「最近SNSで秘かに話題になってて張ってる連中がそろそろ出て来る、うぜぇだろうからコースと時間をズラした方がいい」
「マジか」
「ウチをゴールに変更したら多分OKだろ、飛行組の誰かを足に使っていいぞ」
「悪いなオレ様の事なのに」
「俺もその時間に散歩する時あるんだけど、キバナリスナーの殺意籠った目がいやなんだよなぁ」
「……すまん」
「何謝ってんだよお前何もしてねぇじゃん」
逆に、これはサザレ曰く本人が全く認識していないが……トラブルが起きていない時は当人は他人がトラブルに巻き込まれるのを未然に防いだりしている。別にそういうつもりはなく、こうした方が他人の為になるんじゃないか?という事を平然と言ったりやったりする。
「ねぇキバナ君、やっぱり思う?」
「ええ、思いますね」
「でしょ?」
翌日、サザレは再び撮影に出掛け、ラビはイラストレーターとしての仕事をしている時にキバナとカルネは話をしていた。今朝方キバナはピジョットを借りてスタート位置を変えてみるがてら、普段のコースを少し上空からなぞってみたら……自分目的と思われるファンが大勢いた。中にはポケモンまで使って自分を見つけようとしている古参ファンまでいた。
「今日も曇って来てるし……」
「こりゃ、一雨来るっすね……しかも帰りがけに良い感じに」
「分かるの?」
「これでもオレ様、天候使いですぜ?」
ドヤ顔で発揮される天候使いとしての感覚。当たるとは聞いた事はあるけどこれは信用してもいいだろう……そうなると、カイリューを借りられるのは大正解だったかもしれない。
「んじゃ早く行った方がいいっすよ」
「そうね、それじゃあアンシャ行きましょうか」
「はいお母様!」
カイリューに乗って出かけるカルネ親子を見送るキバナ、手を振り終わると如何にも身体に疲れがあるように感じられた。走りなれないコースを走ったからだろうか、眠気も少しばかり辛くなって来たので眠る事にした。心地よい浮遊感がベッドに入ると直ぐに巡って来て……
「ZZZ……」
いびきをかく事もなく、静かな眠りへと落ちて行った。
「んっ~……」
今日もVtuberの立ち絵の仕事。最近漸く増えてきたイラストレーターとしての仕事に手ごたえを感じつつも仕事も終えて身体を伸ばす……。
『あの、ラビさんってなんでこんなに仕事早いんですか?』
「早くはないですね、本当に早い人はこれ以上です。要望は全部聞いて細かな指定も把握した。それが薄れない間に出力しただけです」
仕事先にそんな事を言われたが、コルさんから言われた事でもある。ファーストインプレッションという物には鮮度がある。人間の印象というのは情報を得る度にアップデートされて、何処か手も届かないような所へと行ってしまうので逃がしてはならない。より正確に言えばそれが更新され切る前に出力して形に残せと。
『出来る人は違うなぁ……結婚願望あります!?』
「あります」
『それじゃあ今度食事―――』
「婚約者と式場相談中です」
『―――アッハイ、そう、です、か……すいません変な事言って』
そんなやり取りもあったが、あれは明らかに自分の資産的な物を狙っている。悪いが自分にはもうサザレがいるしこの庭の事を考えたら今更外部の人間と仲を深めようなんて気にはならない。自分の感情一つでこの庭が根底から覆されかねない、それは許されざる事だ。
「さて……今日は具沢山の豆乳スープを添えつつ、ミートローフと確か筍があったからそれの天ぷらも作るか、それと―――」
「きゅんっ!!きゅるうううんぬっ!!」
「アシレーヌ如何した!?」
そんな感じで夕食のメニューを考えているとアシレーヌが凄い声を上げながらも血相を変えて自分を呼んだ、大急ぎで外に出ると付いて来いと言わんばかりに先に行くので、その後を追う。するとダイケンキを筆頭にポケモン達が集まっているのだが、その先にはフーパが酷く慌てている顔をしている。
「なんだ何があった!?」
「ケェン、ケェエンキダアアアイッ!!!」
「んだとぉ!?」
曰く、今日はカルネとアンシャを親子水入らずで楽しませる為にフーパ、アシマリ、ラルトスの三匹は庭で一緒に遊んでいたのだが……突然生まれた空間の歪みにアシマリとラルトスが落ちてしまったという、フーパは慌てて追おうとしたのだが、誰かに伝えた方がいいのか!?と思ってダイケンキに相談したという。ちょうどバクフーンを交えてアシレーヌ、ラグラージと話していたので、歪みへと飛び込んで行こうとするアシレーヌを制しつつもラビを呼んで来るようにダイケンキは指示、そしてドータクンにこの空間について聞いていたとの事。
「きゅううん、きゅうううんんんぬっきゅうううん……!!」
「ラグ、ラァアアグラア」
見た事もないような不安げな顔で涙ぐみ、震えているアシレーヌを力強く抱きしめているラグラージだが、その腕は震えている。彼だって不安になっているがそれを必死に隠している。
「ナァァ……サアァ」
「レィ、レイドゥ」
エルレイドサーナイト夫婦も不安そうにしている。だが直ぐに自分を呼んでくれたのは本当に良かった、そしてダイケンキはドータクンから話を聞くと歪みはかなり不安定、以前ラビたちが飛び出して来たものよりもずっと揺らいでいるように感じられるとの事。飛び込むのは危険だと言うが……放っておけるわけもない。
「フーパ、力を貸してくれ。二人を助けに行く!!」
「ピィッ……ピヒャッ!!!」
直ぐにラビはカルネとアンシャが一緒に作ったドーナツの残りを取って来た、庭で取れた木の実をふんだんに使い、最高級のミルタンクバターで上げたドーナツを食べさせておく。その間にラビはメンバーを選抜する。
「ダイケンキ、ペンドラー、シンボラー、オーガポン、ポリゴンZ、デオキシス。来てくれ」
「ケェンッ!!」「ぺドォ!!」「ボララランボラ」「ぽにぃ!!」「リリリリリ」『了解した』
皆をボールに収めつつも、デオキシスには出て貰い、自分のサポートを頼んでおく。異空間での捜索にも役立って貰うつもりでいる。そしてフーパはドーナツを食べ終わったのか、リングを構えている。
「よしやってくれ!!」
「ピィ~ッヒャアア!!!」
リングを投げつけると空間の歪みは一気に収束しつつも揺らぎが無くなりながら広がっていく。フーパが頷くとラビはデオキシスと頷き合った。
「よしっ行くぞ!!!」
そのままラビは迷う事もなく、空間の歪みへと飛び込んでいった。その最中、まるで神に願うかのようにしているアシレーヌが見えた。普段の彼女を取り戻すためにも、必ず連れ戻すという覚悟を纏ったまま―――再び異空間の世界へと降り立った。