「にしても未来から来たポケモンか……とんでもなくスケールがデカい話って感じする」
「確かに、化石から蘇ったポケモンならば古来からのポケモンとも言えますが逆は普通あり得ませんからねぇ……」
「でもラビさんならそういうポケモンは知ってるんじゃない?」
「私をなんだと思ってるんですか」
「物知りな絵描き」
そのような会話をしながらも、いよいよパルデアの大穴、エリアゼロの更なる深みへと足を踏み入れていく。洞穴の内部は不思議と明るい、巨大な結晶が光源となっている為だろうか……兎に角、視界は良好なので洞窟で一番注意すべき暗闇からの奇襲は起きにくい事に安堵する。
「流石に未来からは分かりませんよ、それこそセレビィさんやディアルガさん位です。強いて言うならば……宇宙から来たぐらいですかね」
「ほら知ってるじゃん、てか宇宙?」
「宇宙からも割と来てるんですよポケモンって。代表例ではメテノさんとかですかね、ああいやあれは成層圏で生まれるから違うかな……?他にいると言えば……アレ位かな、言及はさけておきますね、ネモさんが戦いたいとか言い出すでしょうし」
「言えてる」
「何それ~まあ言うけど!!だったら代わりにミライドンと戦わせてよ!!」
ほら言ったじゃないか、と言わんばかりに周囲からの視線が注がれる中で巨大な空間へと足を踏み入れる。そこは極めて広く、地下とは思えぬ程に明るい。頭上の巨大な穴から太陽の光が入り込んでいるのもあるだろうが、其処らに露出している巨大な結晶が暗闇を払い、視界が万全に利く。
「あの結晶……テラスタルに似てない?」
「言われてみれば……キラフロルとかも妙に多いな……」
異様な程に巨大な結晶、建物よりも遥かに巨大な物から人間サイズのものすらある。どれもこれも普通では見られないものばかり……これらの先に、フトゥーとオーリムがいると思うとペパーは拳を握り込んだ。
「この先で博士が研究してるんだよな……」
「ペパーその」
「いや大丈夫だアオイ、さあ行こうぜ」
不安げなアオイのそれを吹き飛ばすかのように笑うと手を取って駆け出すペパーを追いかけていく、矢張り思わぬ方向性に吹っ切れているな……と思うラビもその後を追いかける。この辺りから土着し営みを行っているパラドックスポケモンが散見するようになっている、サケブシッポにテツノツツミ、イダイナキバとテツノワダチの争うような声が何処からか聞こえても来るしのんびりしている個体もある。
「ねっコライドンとミライドンの様子は如何?」
「変わらず、ボールに引きこもり中」
「なんかハルト、言い回しがボタンっぽくなった?」
「意識してないから分からない」
観測ユニットが見えてきた辺りでネモが未だ籠り続けているミラコラの事を心配した。このエリアゼロに到達したあたりからずっと姿を隠し続けている二匹、もしもここが二匹にとっての第二の故郷となるならば此処まで怯えるようにボールに入ったままになるだろうか。
「何か、嫌な事でもあったのかな?」
「それは、あると思う。ウチも学校で嫌な事あった時はあんな感じだったし……でもそうなるとさ、ミライドンとコライドンもパラドックスポケモンってやつなんだよね、あんだけ強い奴らと同じなら二匹も相当に強い筈だよね」
「うんそうだと思う!!」
「何で断言出来んだよ」
とペパーが呆れたような視線を向けるが、ネモには確信があった。それはアオイとハルトと会ったばかりでアカデミーへと向かう道中、二人が崖の下へと落ちてしまった際にコライドンとミライドンと出会い、ヘルガーが統率する群れに囲まれた時、二匹は相当な戦闘力を見せたからである。その時にはたった一撃で大岩をも粉砕する程だった。
「そなると……今はライドフォルムって奴なんでしょ、だったらバトルフォルムにならない理由があんじゃない?」
「マフィティフが此処で怪我したみたいに誰かとバトルして負けた、とか?」
「それが一番妥当な感じがするけど……てなると誰とって話になるけどさ」
「同族、かもしれませんね」
観測ユニットまであと一歩という所で皆の足取りがラビの言葉で止まった。同族にとってダメージを受けてそれが傷になっている、そう提言するラビに皆が注目した。
「でも同族ってもう一匹のコライドン、ミライドンですよね?それって家族じゃないんですか?」
「それは分かりませんよ?言ってしまえば私達だって同じ人間の同族ですが家族ではないでしょう、加えてポケモンの中にはかなり縄張り意識の強いものもいます」
「あっシザリガーも縄張り意識強いんですよね!!」
過去の配信から引用したアオイにラビは笑う。
「ええ、シザリガーさんの場合は同じシザリガーさんが来たら確実に喧嘩になり何方が主になるかで争います。そう考えると……コライドンさんとミライドンさんは縄張り争いに敗れている可能性がなくはないですね……」
「ええっ!?家族じゃないって事ですか!!?」
「あくまで可能性の話です、何方にしろこのエリアゼロにはお二人が恐れる何かがある……そういう事でしょう」
余りにも情報が無さすぎる為にこれ以上の考察は唯の推測にしかならない、だが二匹目の存在を考慮すればその可能性は高いだろう……様々な不安を抱きつつも観測ユニット内部へと入ると―――
「な、なにこれぇ!?凄いボロボロ!!」
内部は滅茶苦茶に荒れていた、何かが暴れたかのように壊れ方をした内部施設に結晶が壁や床を突き破っている有様。それらを観察しながらラビは思う。
「……ドラゴンタイプか何かが暴れましたかね」
「なんでドラゴンタイプなんだよラビさん」
「ポケモンさんの中でも最も気性が激しいのが多いから、というのは冗談ですが私にもそういうドラゴンタイプがいまして一時期手を焼いたものです」
「んじゃ経験談ちゃんって訳か」
頷きつつも周囲を見る、そして結晶が浸食している部分に何か赤黒い跡を見つけた。結晶に飲まれていてよく分からないがこれはもしかして……と思っている時にスピーカーから声がした。
『『ハロー子供達よ』』
「おっまた通信だ」
「というか私もナチュラルに子供たちに含まれました?」
「まあ見た目だけならウチ等と大差ないし」
ボタンの何気ない一言にやっぱりそうなのか……とショックを受ける、何も身分証明書を提示しなくても学割適用された時並にショックだ。
『『それはすまない子供達、ハローそしてグッドバイ』』
「……あ?」
思わずペパーが間抜けな声を上げてしまう程度には可笑しな言葉だった。が、その直後。
『『すすすまままっますないいいいますない、すますまないすまないままま、すまままままま―――子供達ハローハローハローすまないいいいいいい』』
「お、おいなんだこれ⁉なんか絶対にバグってないか!?」
「ちょっなんかキモい!?ハ、ハルト早くロック解除してこっから出よう!!」
「わ、分かった!!」
ボタンからの要望もあってハルトは手早くロックを解除すると観測ユニットから飛び出した、その時もずっとスピーカーからは狂ったような言葉にもならない羅列が続けられていた。
「ハァハァハァッい、いきなり何なんだし……ペパー、アンタの親そういう趣味あんの?だとしたら超悪趣味」
「いや知らねぇよ俺だってビックリちゃんだぞ!?」
「演出かな、ほら私達からしたら冒険に来てるもんだし」
「あれが演出だとしたら完全にホラー方向な気もするけど……」
「俺も勘弁だわ」
そんな時にラビのスマホロトムに連絡が入った、フトゥーとオーリムからだ。ラビは直ぐに繋げて文句を言う事にした。
「博士たち何のジョークか知りませんが勘弁してあげてください、子供たちが不安がってます」
『すまない……如何やらエリアゼロに軽度の電波障害が発生しているらしく通信設備にエラーが生じているらしい。既に再起動は済ませている』
『驚かせてしまって申し訳ない。兎も角これでロックはすべて解除されている、最奥部のラボへと来てくれ』
「……分かりました」
不安と猜疑心が揺れ動く中で後僅かまでとなった真相への道、待ち受けるものは一体何なのか……彼らの心中はパルデアの大穴を覆う雲のように不透明になっていた。
「(……この先、何かあるっていうのか……?)」