「ハァハァハァッ……な、なんとかセーフか……?」
現在午前4時54分、約束していた時間にはぎりぎりでセーフかというタイミング。ブリーダーはポケモンの世話をする事を生業とする為に世話をするポケモンによっては朝早くから夜遅くまでなる事は日常茶飯事だが……流石に5時に来る為には相当な早起きをしないといけないのでライナンは、目覚ましのアラームを大音量にして漸く起きれた……尚一緒に寝てたブリムオンにスマホをぶっ飛ばされかけた。
「だけどこんな朝早く―――って」
「よっ早いな」
「(へ、平然といる~……!?)」
約束である玄関先までやって来たライナンだが、そこに平然と軽く息を切らしているラビの姿があって言葉を失った。そして足元には満足気に水を飲んでいるヘルガーの姿……そう言えば毎朝、ヘルガーに起こされて散歩に出掛けていると何処かの配信で言っていたような気が……それでこんな朝早くなのか……。
「お、お早うございます」
「おうおはようさん、んじゃ早速やるか……朝飯は食って来たか?」
「い、いえオニギリを軽く摘まんだぐらいで……」
「んじゃ丁度いい、ヘルガーカモン」
「ルルガァッ!!」
あのヘルガーがまるでワンパチのように従っている……自分もヘルガーを何度か扱った事があるが、結局一時的な主とも見做される事はなかった。誇り高さと凶暴性から地獄からの使いと言われるダークポケモンが……目を輝かせながらもラビの隣にピッタリとくっついて途中で突然止まってもその通りに従っている……。
「凄い」
「何がぁ?」
そんな事もありつつもキッチンに通されるとまずやる事なのが―――……
「ポケモン達の朝ごはん、ですか」
「ああ。ウチは兎に角敷地が馬鹿広い、だから全員の食事を作る事はしないけど食事の度に選ばれた6匹の食事を作る」
「それじゃあ他のポケモン達は?」
「ポケモンフーズか庭になってる木の実を好きに食べて良い事にしてる、さてと今日は……ウインディにオノノクス、アシレーヌにゴウカザル、パチリスさんにブースターか、今日は炎に偏ったな……」
そう言いながらもエプロンを流れるように付けながらも手帳を見て確認しつつ、冷蔵庫を開けて中から番号の張られた瓶をいくつも出していく。それを10個近く出すと漸く木の実やらを出していくのを見つつも、ライアンはそっと瓶を手に持って少し開けて匂いを嗅ぐ。
「……これって炎タイプが好む木の実のペースト、ですか?」
「そ、俺特製の秘伝の木の実ブレンド。全部が全部完全に好みに合ってるって訳じゃないけど全体のアベレージ的には好みになるようにしている、後はこれをポケモンごとに調整しつつ作るだけ。んじゃやるか、ついでに言うと、朝飯はポケモン達の残りを人間向きにアレンジして作るぞ」
「はっはい」
「ついでに、今カルネさんとその娘さん、キバナが泊ってるから手を抜いたらやべぇぞ?」
「カ、カルネさんってあの大女優!?」
「そう、手厳しいから覚悟しとけぇ?」
「俺は、なんてところに来てしまったんだ……」
「取り敢えずお疲れさん」
「う、うっす……」
調理の間、常に動き回っていた為に少しぐったりしてしまっているライナン。複数の調理を同時に当たり前のようにこなしながらも一切手を抜かないそれらに言葉を失ってしまった、それでも何とか喰らい付いてやり遂げる事は出来てホッとしている。
「アシレーヌ如何だ?」
「きゅううん?きゅうううんぬ、きゅん」
「ああ、それは俺だけどソースはそいつが作ったんだ」
アシレーヌの食事の肝はソース、味わい、触感、滑らか、風味、後味、全てが高水準でないとアシレーヌは口にしない。ソースの微妙な味の変化を感じ取っているのか首を傾げていたが、視線を向けられてライナンは思わず身を正して真っ直ぐになってしまった。厳しい瞳を向けられて言葉が出ない中、アシレーヌはもう一口頬張り、咀嚼し飲み込むと……いつものドヤ顔を浮かべながらも笑った。
「きゅうううんぬ、きゅううん……きゅんぬ」
「だとさ」
「えっ……?」
「あっそっか分からないか。悪くないわね、だけど少々火加減を抑え過ぎ、でもこの風味も悪くないわね……精進なさい、いい腕をしていてよ、貴方。だって」
「あっそういう……いやなんで分かるんだ……?」
ライナンも相棒であるブリムオンの言葉ならばある程度理解は出来る、だがそれはブリムオンがエスパータイプだからというのも大きく関係しているからであって、ポケモンの声を聴いて意図を察すると言うのは人間にはかなり酷な作業なのである。
「アシレーヌはこの中だと一番煩い、そんなあいつから及第点を貰えた。中々ない事だぞ?」
「い、いやでもソースを言われたレシピ通りにやっただけで……」
「それで誰でも出来たらレシピだけで人類皆三ツ星シェフだ。あいつ、デントにですら4回はダメだしする程のグルメなんだぞ?」
「デ、デントさんが!?」
料理、素材、細かな成分表、それらが齎す身体への効能、風味、舌触り……全てが高くないと納得しない。旅の途中とかだったら流石にある程度は許容してくれるが、此処ではそんな物は一切無い。だから気に入らなければ自分とて容赦なく作り直させられるほどだ。
「さて言ってる暇はないぞ、俺達もさっさと飯にして次に掛かる」
「つ、次ですか」
「おう。ブラッシング希望ポケモン達が次々と来るからな、気位が高い奴が来ると大変だぞ~?」
「お、脅さないでくださいよ……」
ライナンはそう言いながらもアシレーヌの顔をもう一度見た、美味しそうに食事を味わいながらも笑顔を零しているアシレーヌ、だがそれはラビが作ったからではないか、自分はソースをやっただけで……と思っていると即座に目の前にイーブイが座り込んだ。
「エッブイ!!」
「お、おおっそうか、分かった……イーブイなら経験あるぞ」
「エブォ?エッブ!!!」
「ええっええっ!?」
「俺のイーブイは強めにブラッシングされるのが好きだからな」
「あっ……そうか、一匹一匹違うんだから見極めないと……」
「そう、一回する度に何処を気に入ってくれているのか、気に入らないかを見極める。下手打つと技ぶち込まれるから気を付けな」
こ、これは死ぬ気でやらなければ……!!