「……っ」
青ざめた表情で固まっているペパー、何とか膝から崩れ落ちそうな自分を支えているのはアオイと意地だろうか。だがそれすらも今は砕けそうになっている。ゼロラボへと入った彼らを待ち受けていたのは椅子に腰かけてはいたが、生命感なく、ただそこに座っているフトゥーとオーリム。そしてそれは声ではなく、明らかな機械音を立てながら立ち上がった。
『『ハロー子供達、よくぞ来てくれた』』
そして、その奥から出てきたコライドンとミライドンをマスターボールに戻し真実を語り始めた。自分達は本物のフトゥーとオーリムではなく、二人の知識と経験、記憶を基にして作られたAI、フトゥーAIとオーリムAIである、オリジナルである博士たちは第4観測ユニットでの事故によって亡くなっている事が明らかにされた。
「ペパーには、申し訳ないと思っている……私達は君を騙していたに等しい」
「だがこれだけは分かって欲しい。本当の博士は常に君の事を案じていたのだ、今わの際も君の事を思っていた」
「……だったら、偶には帰って来るのが親って、もんだろ……それが、たとえAIでもよ……」
精一杯に言葉を作るペパー、弱弱しいが何とか強い言葉を作り上げる。この二人に言った所で意味がない事までわかってしまう自分に嫌気が差す。AIは本当の人間のように沈んだ顔を作って言う。
「「……済まない、我々はこのラボから外に出ることが出来ない」」
「なんか問題があんの?」
「動力系の問題だ」
「そもそもこのラボから出る事を想定されていないのだ」
「じゃあ、難しいか……」
機械に強いボタンがその質問には納得する。それならば確かに難しいかもしれない……が、そんな時にラボが揺れた。
「な、何だぁ!!?」
「「ラボ外部からの衝撃と断定、外部センサーと接続……失敗」」
「ハッ何で失敗!?」
「「ラボの外では異常なまでの電波障害が起きている、空間が歪んでいると言っても良い」」
その言葉で全員が我に返った、今外ではラビが時空の歪みから来るであろう何かと戦っているのだと。それを思い出して真っ先に動いたのはペパー、AI達の顔を平手打ちした。
「ペ、ペパー!?」
酷く硬い鉄の質感、叩いた自分の方がいたくてしょうがない。だけど、今はこれで良いんだ、この痛みで自分は我に返れた。
「俺は親子喧嘩をする為に此処に来た、だけどもうそれが出来ねぇならこの位は許せよ。お前達、いやAIのお前達は何がしたいんだ、何のために俺達を此処に呼んだ」
鋭く強い視線、それを見たAI達は驚いていた。子供にとっての親が死に、今目の前に存在する親は親を模した偽物でしかない。子供にとって衝撃的すぎる話の連続であったのにも拘らず此処まで毅然とした態度を貫けることを……自分達は博士の息子の強さを見誤っていたのかもしれないと思いながらも子供達を奥のエレベーターへと案内した。
「あの博士!」
「博士ではなくフトゥーAIと呼んでくれ」
「私はオーリムAIだ、区別する為にも」
「え、え~っと……それじゃあAIさん!!今ラビさんが戦ってるのは一体何なんですか!?時空の歪みは時間を飛び越えるって言ってましたけどあれも太古と未来のポケモンなんですか!!?」
エレベーターが動く中でネモが気になっていた事を話した。ラビが今戦っているであろう存在、そして時空の歪みの事を。
「まず、私達が此処でしている事について話そう。まず、私達は博士の経験や思い出や知識をベースにコンピューターが計算しているAIだ」
「い、いやちょっと待つし。そんな技術聞いた事ないし、今あるAIだって出来る事は限られてる筈!!ウチが見ても外見的にも行動的にも人間としか見えない!?」
「それは正しい、現在の科学技術では不可能だ。だがこのラボに搭載されている結晶体がそれを可能としている、テラスタルの結晶が生物や機械に作用してその性能を引き上げる作用の応用だ」
それでも信じられないと言いたげなボタン、仮にこの技術が世界に広まったらどうなるだろうか……ブレイクスルーなんてレベルの話じゃない、技術的特異点が発生する程のとんでもない事になる……だからこそ自分達を呼んだのかもしれない、秘密裏に処理するために。
「そして私たち4人でタイムマシンを作り上げたのだ。異なる時間軸にモンスターボールを送り込み、そこのポケモンを捕獲し現代へと呼び出すことが出来る、オリジナルであるフトゥー博士は未来のポケモンに熱心だった」
「私のオリジナルであるオーリム博士は古代のポケモンに熱心だった」
「それでこのエリアゼロには二つの時代のポケモンが……」
二つの博士の思想の違い、未来と太古。それが入り乱れる現代、普通に考えてもやばいのだけは分かる。
「「現在も自動的に過去と未来からポケモンを呼び出し続けている」」
「自動的っていやいやいやそれじゃあ現代のポケモンからしたら大迷惑じゃないですか!?」
「ロースト砂漠でもそうだったけど、生態系が滅茶苦茶になる寸前だったぞ!!?」
「あっそうだよね、というか未来と過去のポケモンって全部相当に強いし、マズくない!?」
「今更か!!普通に、やばい、でしょうが!!生態系のバランスが崩れる所の話じゃないっしょ!?」
「父ちゃんと母ちゃんはマジで何でそこをしてたんだよ!!?」
それに対する回答は単純だった、未来と過去のポケモンが現在で仲良く暮らせる世界を夢見ていたという。確かに化石ポケモンを復活させて一部地域では根付いているという事例がない訳ではないが……それでもごく一部の地域だ。
「だが私達はそれは難しいと思っている」
「君達も知っている通りにパラドックスポケモン達の能力は危険だ、その生命力は生態系を脅かしてしまう程に強大だ。それも自然の形だと言っていたがね」
「いやなんでだよ!?外来種を持ち込んで在来種を危険にさらしてんじゃねぇよ!?自然に来るなら兎も角、父ちゃんと母ちゃんっていう人間の手によるものじゃねえか!!」
「「矢張りそう思うだろう、私達もだ」」
もう落ち込んでいた姿は無くなったペパーだが、それ以上に父と母が何かを考えていたのかが全く分からなくなってきた。本気で頭が痛くなってきた。
「ペパーのお父様とお母様、何ていうか……夢に正直だね!!」
「正直というか、何というか……」
「「だが問題もある、タイムマシンを長期間稼働させて分かった事だが―――時間への介入は危険を伴っていた。人間が容易く手を出してはいけない領域だ」」
AIは自らの手を見ながらも続ける。
「異なる時間軸への干渉は次第に時空間に罅を入れ始めてしまったのだ」
「それによって巻き起こったのは時空の歪みだ。あれは一種のタイムホール、その先には別の時間軸がありそれと繋がっている。そして……」
「「私達が想定していなかった存在を現代へと呼び寄せてしまった」」
オリジナルの博士達が手を伸ばす事もなく現れたそれら、その能力は他のパラドックスを超える程の物がある。一刻も早くタイムマシンを停止させなければ時空の歪みは更に巨大へとなって行き、最悪の場合はパルデアの大穴を飲み込む程の物になる可能性もある。
「時空の歪みによって太古から現れたポケモン達は極めて凶暴だ。このエリアゼロで私のコライドンと何度も激突しているが、倒しきれぬ程に」
「時空の歪みによって未来から現れたポケモン達は極めて冷徹だ。このエリアゼロで私のミライドンと何度も激突しているが、押しきれぬ程に」
それを聞いて一同の顔は益々青くなる。それじゃあ益々ラビ一人では危険ではないのかと。だがそれをAIが止める。
「私らがすべきは時空の歪みの原因でもあるタイムマシンを停止させることだ」
「それらを止めるのが先だろう」
「「心配いらないさ、彼は―――強いぞ」」