「……」
掌で縮小化したボールを転がしながらも瞳を閉じて思考に更ける。頭の中では既に幾重にも戦術が乱れ飛び、実行し、その結果をシミュレートし続ける。覚えている限りの技を引っ張り出し、それらの組み合わせ、順序を変え、あらゆるものを想定してぶつけてみる……結果はいつもと同じで
「面白い、だからこそ俺様は俺様なんだよ」
そう呟くのはグリーン、育てる者と呼ばれるカントー地方トキワジムの現ジムリーダーを務めている。PWCSランキングは17位と好成績、ジムのトレーナー達の育成と自分がいない間を任せる事が出来るポケモン達の育成が完了するまではPWCSには偶に顔を出す程度ではあったが、漸く安定が確認できたので満を持して全力で参加。そして第一回戦の相手が後輩でもあるサトシという巡り合わせにグリーンはなんて不幸なんだ、と言われる事があるのだが―――最高の幸運だと彼は笑う。
「最初から強い相手と戦えるなんて幸運はねぇ、しかも相手がサトシだぁ?だったらそれごとぶっ潰してレッドより俺様の方が強いって事を証明するだけの事だ」
レッドとグリーンのライバル関係は有名で、勝率こそ悪いがグリーンはレッドに勝った経験がある為にレッドの対抗馬として真っ先に名前がある稀有なトレーナーなのである。そんなグリーンが、今大会で最大の目標としていたことがある、それは自分が認めた最大のライバルと打倒した後輩に勝つ事。先輩としての威厳を見せつけてやる、という建前を目標にした。
「あのサトシがレッドに勝った、あん時は茫然としたなぁ……ンで腹抱えて笑ったもんだぜ」
トキワジムのジムリーダーとして忙しくしていた頃にやっていたPWCSの決勝戦、そこで見たのはサトシのピカチュウがレッドを越えて行った姿だった。自分とレッドの背中を見ていたあのサトシが、レッドさんやグリーンさんみたいなトレーナーになる!!と自分達に宣言していたあの子供が、可愛がっていた後輩が自分を追い抜いたと気付いた時には本当に笑った。
「レッド、後輩が強くなる様は嬉しいもんだな」
「同感」
何時の間にか控室に入って来て、スタッフが用意してくれていたお茶菓子を貪っているレッド。それに負けじにグリーンも貪りだす。思考し続けていた為か、糖分が欲しくなったようだ。
「サトシの対策は?」
「ンなもんある訳ねぇだろ、あいつはアドリブの大天才だぞ。どんな権謀術数を張り巡らせた所で突破してくるに決まってるんだよ、お前と同じでな」
「……そんなに?」
「まあお前の場合は生物の本能的な直観で突破方法を見つけるタイプで、サトシの場合はその場の閃き的な直感で突破する感じだけどな」
何方にしろ、改めて思うと自分にとっての天敵だ。相手の歩む道を幾ら想定した所で罠を踏む寸前にそれを突然看破して回避してきたり、道を歩きながらもそれらを理解し持ち前の発想で突破する二人には本気で参る事が多い。だからこそそれらを潰せる案を考えたくなる。
「今回もなんか考えてる?」
「考えこそしたが、ダメだな、頭の中だと全部突破されたわ」
育てる者としての自負として、そのポケモンに合った戦術を考案し、技のコンビネーションを研究し、力業を使った場合に変化技の強化の方向性なども研究してきたしそれらを投入した……だが、それらを用いてもあの後輩とあのピカチュウを抑え込める自信がない。
「ったくいつの間にかでっかくなりやがって……」
マサラタウンに帰ってくる度に話をせがんで来るシゲルの幼馴染のサトシ。聡いシゲルはいまいち可愛げなく、純粋に様々な疑問をぶつけて来るサトシの方が自分は相性がいいらしく、専らサトシと絡んでいた気がする。それが原因でシゲルがサトシへの態度が酷いと言う時が分かった時には素直に申し訳なくなったが……一方でシゲルはレッドと相性が良かったのか、一緒にいる事が多かった気がする。
「……フフッ」
「???どうしたの」
「いやな……なんか益々バトルが楽しみになって来ただけの事だ」
「良い事」
「ああ、実に良い事だな」
さてと……もう時間だ、立ち上がるとグリーンは最後にお茶を一気に飲み干した。
「んじゃ、行って来るぜ」
「ああ」
歩き出したグリーンの道の先には、レッドの帽子を被ったサトシがいる。自分のライバルが被っていた帽子を受け継ぎ、チャンピオンとなった後輩がそこに居ると思うと笑いそうになる。なんて面白い光景なのだろうか……本当に面白くてしょうがない。スモークを越えた先に彼はいない、そうだ今は自分が出迎えてやるんだ。
『彼に掛かればどんなポケモンでも屈強で素晴らしいポケモンへ大変身、それで居ながらも育て上げるのはポケモンだけにあらず。トレーナーへの指導もお手の物、カントー地方ではトキワシティ出身者のポケモンリーグ進出率がトップ3に入っている事がその手腕を物語っております!!さあこの舞台ではどのような戦いを見せてくれるのか!!?PWCSランキング17位!!!彼を形容する言葉は育てる者、トキワシティジムリーダー、グリーン選手!!!』
バトルフィールドに足を踏み入れると反対側から盛大なスモークと火花が散る。そしてその奥から二つの影が走り込んで来る。
『最早説明は不要、彼の伝説は伝説のポケモンにも引けを取りません!!ですが彼を突き動かすのはポケモンへの情熱!!赤いほっぺに黄色いシャツを纏った相棒を肩に乗せて、今日も彼はバトルへと挑みます!!PWCSランキング堂々の1位!!敢て、これで御呼びしましょうマサラタウンのサトシ選手!!!』
小さな黄色い電光と共に飛び越えるようなジャンプで飛び出して来たサトシはそのままバトルフィールドに着地した。そこに立ったのは同じマサラタウンの出身。
「俺様はトレーナーだからな、強いヤツがいたら戦いたくなっちまうんだ……さあ始めようじゃねぇかサトシ、この俺様とお前で、世界で一番強い奴を決めるようなバトルをな!!!」
「望む所です、グリーンさん!!!」
『対戦ルールは3対3、メガシンカ、Zワザ、テラスタル、ダイマックスは各選手一度ずつのみ、ポケモンの交代は両者自由となります。グリーン選手 VS サトシ選手。それでは両者、最初のポケモンをフィールドへ』
「行くぜ!!いけっバンギラス!!!」「バゴアアアアアッ!!!」
「ガケガニ、君に決めた!!!」「ガアアニィィッ!!!」