『NEXT BATTLE ゲンガー VS ケッキング!!3、2、1……BATTLE START!!』
握り締めたのは最後の切り札たるテラスタルオーブ、ガラルのダイマックスは使えない。それでもルール上の使用は許可されているが、それはあくまでルール上の話でガラル粒子がないので使用出来ない。故に自分の最後の切り札はこれだ。相手もテラスタルをしている、ならばという訳ではないが……
「全てを呪え、呪詛を纏い、王となれ!!!」
「来るぞケッキング、お前と同じ高みに!!」
オーブに光が集中する、ダイマックスとは違う力を感じる。それを思いっきりゲンガーへと投げつける。大地から結晶が現れるようにゲンガーを包み込むとその頭上にテラスタルが輝いた。ゲンガーのテラスタルは……毒。ゴーストではなかったときは少しだけう~んとなったが、今は心からそれに感謝したい気分だ。
『ゲンガーがテラスタル、テラスタイプは毒!!肝っ玉シュッキングに対しては極めて有効に働く事でしょう!!!』
『にしても毒なんだな、台詞からしてゴーストだと思ったわ』
やめろツッコむな、しょうがないだろ最初に試したのがシャンデラだったんだから……シャンデラはロルと一緒に捕まえたから試したかったんだよ……それで台詞考えて次にゲンガー試したら毒だったんだよ……と内心で赤くなりつつも咳払い、改めてシュッキングことケッキングへと目を向ける。
「行くぞゲンガー!!素早く―――挑発!!力強く―――アシッドボム!!!」
「ゲンゲロゲンゲロ~ゲヒャヒャゲンッガ~!!」
「駆け抜けろケッキング、当たるなよ!!」
センリは内心で舌打ちをしていた。置き土産によって下げられた攻撃をビルドアップによって補填する事を考えていた。だがこうなったらしょうがない、割り切って戦うしかない。
「凍える風!!」
「ゲンガァ~……!!」
「舐めるな、火炎放射だ!!」
幾ら特防が下がっているとはいえ、凍える風ならば打ち払えると火炎放射で凍える風を吹き飛ばすのだが―――直後、ゲンガーの姿が消えていた。
「潜ったか!?ケッキング、警戒を怠るな!!」
「キンッ!!」
『ゲンガーが消えました!!とうとうゴーストタイプが本気を出して来たぞ!!』
『ゴーストタイプが対策必須と言われてるのがこれですからね、透過による地面などに潜り込む。ただ地面を掘ってる訳じゃないから地震でも追撃は不可能……感覚的には私たちが行う無酸素運動に近いと聞いた事があるので常に潜り続けている事は出来ないのが救いですが……』
ケッキングは常に気を張っている、ゴーストタイプの神出鬼没さへの対応法として一番メジャー且つ確実なのが警戒を怠らないと言う事だからである。だが攻撃は来ない、背後、真下、真上と警戒しているのだが……
「ゲンガ~」
「ケッ?」
間の抜けたゲンガーの声が聞こえて来た、前を向くと全く移動せずに突っ立っていたゲンガーが、此方へと手を振っていた。それには思わず百錬錬磨の評価を受けるセンリも一瞬、思考の空白を相棒と共に生み出してしまった。
「ゲンガー!!素早く―――悪巧み!!力強く―――ヘドロウェーブ!!!」
「グゲゲゲゲゲッゲンガァ~!!!」
「ケッキイィィイングッ!!?」
悪巧みからのヘドロウェーブはケッキングを飲み込むとセンリの足元にまで押し流してしまった。シャンデラのオーバーヒートにすら立ち向かうケッキングだが、それはあくまで思考と身体の準備が出来ていたからにすぎない。
「ケッキング大丈夫か!?まさか何も移動していなかったのか……!?」
「ゴーストの本領、それは相手をおちょくる事……馬鹿にする事、悪戯好きなポケモンだからこそ出来るバトルだってある!!気合玉!!」
「ゲ~ンガァ!!ガァッ!!ガァアッ!!!」
次々と気合玉を投擲するゲンガー、ヘドロウェーブのダメージから立ち直り切っていないケッキングは防御を固めてそれを受けるが……効果抜群の技の連打にケッキングも流石に苦し気な声を漏らしている。
「まだまだぁっ!!敵討ちだぁ!!」
「キイイイケエエンッ!!!!」
「来たっゲンガーやるぞ!!!」
「ゲンッ!!!」
駆け出して来たケッキング、少しずつ気合が入って来たのか気合玉を無理矢理に突破してきた。ならばと奥の手を出す事にした。迫って来るケッキングに対して無数の鬼火を放つ、だがその鬼火はケッキングを捉える事がなくその周囲を取り囲んでいく。
「この程度でケッキングが止まるとでも!!」
「ラップ!!」
「ゲンガァ~!!」
共に指を鳴らすと一気に鬼火が爆ぜてフィールドの半分を飲み込むほどの巨大な大火と化した。紫色の炎がケッキングを飲み込んでその身を焼いていく。
『お、鬼火が巨大な火柱と化しました!!このような鬼火の使い方は初めて見ました!!』
煉獄にも引けを取らない巨大な火、だがセンリは落ち着いている。何故ならばこれは確実に火傷狙い、だがそれは望む所。ケッキング最強の技を繰り出す為のお膳立てをしてくれている―――いやこれ程の策を強いてくれる彼が自分の切り札を知らない?それはない、となると……
「ケッキングそこから出るんだ!!」
「もう遅い、ゲンガー……凍らせろ!!!」
「ゲエエエエンガァッ!!!」
拳を握りながらもまるで印を結ぶかのような動きをすると先程まで巨大な大火となっていた紫焔が―――一瞬で凍結し、ケッキングの身体を完全に捕縛した。
「キ、キンッ!!?」
「な、何っ!?」
「ゲ、ゲンガァッ~……!!」
息を荒くしながらもゲンガーはやってやったぜと言わんばかりにドヤ顔を浮かべている。オニオンも練習の成果が出ている事に笑いがこみあげてきてしまったが、その一方で会場は騒然としていた。
『こ、これは氷タイプ、いや明らかに鬼火が凍て付いております!!これは一体何が起きているのでしょうか、ラバイさん!?』
『……近年、ゴーストタイプの本領とは温度を変化させるという研究が注目を集めています。例を出すとゲンガーです。ゲンガーが潜む部屋の温度は5度も下がると言われていますが、これはゲンガーだけが持つ力ではなく、ゴーストタイプ全体が持つ力であり、ゲンガーはそれが顕著なのだと言うのです。事実としてゴーストタイプの霊気を用いて氷の冷気を扱うという例もあります……がこういう事も出来るなんて……温度そのものを変化させて炎を氷に変えてしまう、という事が可能とは思いませんでした』
「ケッキング、炎を出すんだ、それで溶かすんだ!!」
「させるな、ゲンガー、ヘドロウェーブ!!!」
なんとか炎で溶かそうとするケッキングへとヘドロウェーブを浴びせかけるゲンガー。確かにそう言う記事を読んだことはあるが、まさかここまでのレベルで行えるなんて……だが負ける訳にはいかない、まだ私もケッキングも諦めてはいないのだから!!!
「ケッキング、空元気だ!!!」
「ケエエエエエエキイイイインンッ!!!」
身体を大きく振るわせながらも雄叫びを上げたケッキング、無理矢理身体を動かして氷へと罅を入れて行くと、更に力を上げてそれを遂に粉砕した。あれだけ分厚い氷を壊す、なんて馬鹿力だ。
「よくやったぞケッキング、ケッキングッ?!」
「キ、ケエエッングッ……!!!」
ケッキングの様子が可笑しい、その全身が赤くなり激しい痛みに顔を歪めている。火傷ではない、氷による低温の火傷も合わさっている。
「今だゲンガー素早く―――悪巧み!!そこから力強く―――呪い!!!」
「ゲンゲロ~……ゲンガンガン!!!」
更にそこへ、追い打ちと言わんばかりの力業の呪いは放たれる。本来は毒テラスで難しいが、そこを力業と元々ゴーストタイプであるゲンガーは無理矢理に発動させる。無理矢理がために多くの体力を消費して膝を突いてしまうがケッキングは更なる苦しみのそこへと叩き落される事となってしまった。身体を覆う激痛と内部から抉るような呪いの痛みが襲い掛かって来る。ケッキングは膝を突かないようにするのが精一杯だった。
「ギガドレイン!!」
「ゲンガァ~!!!」
『ゲンガー、ギガドレインで体力を回復しつつダメージを与えていきます!!ケッキングは流石にもう動けないのか!?このまま終わってしまうのか!!?』
「ケッ……キンッグアアアアアアアアッ!!!!」
「ケッキングッ!!!」
激痛と苦しみの中で、ケッキングは軽くドラミングをした。痛みで意識をハッキリさせているのか、瞳を強く開きゲンガーへと突撃していった。センリは察した、次が最後の一撃だ、何を繰り出すべきだ、ギガインパクトか、敵討ちかそれとも―――いやケッキングの今の叫びに籠っていたのは自分を後押ししてくれという熱意、ならば放つ技はあれしかない!!
「これが最後の一撃だ、いっけえっケッキング!!お前の自慢の技、空元気だぁ!!!!」
「ケエエエエエエエエエエッ!!!!」
地響きをさせながら迫って来るケッキング、そっちがそう来るならば此方は―――
「ゲンガー」
「ゲンッ!!」
「ケエエエキイイイイイイイイイイイイインッ!!!!」
「全力で、テラ、バースト!!!」
「ゲエエエエエエンガアアアアア!!!!」
真っ向から猛毒の奔流を放つゲンガー、それはケッキングを飲み込むがその中をなおも進むケッキング。雄叫びが木霊する、その中を突き進み―――
「キイイイイイイイイイイイン!!!」
ゲンガーの眼前に飛び出した瞬間、ケッキングは笑った。そのまま拳を突き出したのだが―――それはゲンガーを捉える事無く、身体ごと地面へと倒れ込むとテラスタルが四散し、辺りにプリズムの輝きを放った。
『ケッキング、戦闘不能!!ゲンガーの勝ち!!BATTLE OVER!!よってこの試合、オニオン選手の勝利となります!!』
『け、けっ決着ぅぅぅ!!!大激戦の戦いを制したのはオニオン選手!!センリ選手のケッキングを打ち倒しましたぁぁ!!!ゴーストタイプを物ともしない驚異のケッキング!!!間違いなく、世界最強のケッキングをゲンガーが打ち破りましたぁ!!!!波乱だらけの第十二回戦を制したのは、ガラル四天王が一人、サイレントボーイ、オニオン選手!!!!』
「ゲンガー、本当に、本当に有難う―――!!!」
「ゲヒャヒャヒャゲンガアアアアァァァァァッ……ゲン~……」
「ちょっ大丈夫ゲンガー!?」
「ゲンゲロゲ~……」
勢いよく笑って自分に掛かれば楽勝と、言いたげだったゲンガーだったが徐々に語尾が沈んでいき、遂には立って入れられなくなって座り込んでしまった。最後の最後にケッキングがテラバーストを突破した時は相当に怖かったのか、ちょっと涙ぐんでいる。
「ケッキング、よく頑張ってくれたな。お前は私の誇りだ、流石は私の相棒だ、世界最強のケッキングだよお前は」
「ケ、ング~……」
「申し訳なく思う事などないさ、お前は最高の相棒だ」
言葉を掛けながらもセンリはケッキングをボールに戻す。ちゃんとジョーイさんの元に連れて行ってやらなければ……その前にやる事がある。
「最高のバトルを有難うオニオン君、こんなに熱くなったのはサトシ君以来かもしれんな。対策もバッチリしてきたはずだったが、流石に及ばなかったか……矢張りゴーストタイプは恐ろしいな」
「最高の褒め言葉です。でも、あのケッキングは色んな意味で反則だと思いましたよ」
「ハッハッハッハッ!!!それも私にとっては最高の褒め言葉だな!!!まあ私の言葉なんかより、あそこの可愛い彼女さんの言葉の方がいいかな?」
センリがさり気無く示す先には応援団の皆と一緒に喜びを分かち合いながらも満面の笑みで喜びの絶叫を上げているロルの姿があった。その姿だけで胸が温かくなる自分がいるが、見透かされている事に言葉が詰まった。
「フフフッ若いというのは良いなぁ、まあ私のような円満な家庭を作れるように頑張ってくれたまえオニオン君!!」
「ムゥッ……勝ったのになんて負けた気になるんだ」